学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第12回(月刊高校教育2026年3月号)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第13回(月刊高校教育2026年4月号)
賢明学院中学高等学校
大前智宏(おおまえ ともひろ)先生
「地域課題解決型の探究学習について」
≪賢明学院中学高等学校について≫
本校は大阪市の南、大和川を越えた堺市堺区にあります。JR阪和線上野芝駅を最寄り駅とし、閑静な住宅地にある霞ヶ丘に位置しています。フランスにある聖母奉献修道会を母体とし、1952年に賢明学院の前身であるアベノ・カトリック幼稚園が開園します。1954年に堺の地に移り賢明学院幼稚園(前身は霞ヶ丘カトリック幼稚園)創立、その後1960年に賢明学院小学校、1966年に女子校として賢明学院中学校、1969年に賢明学院高等学校が設立されました。
2010年、カトリック校としては大阪初の中学校・高等学校の男女共学化を開始し、2016年には大阪で唯一の全日制課程に併設する高等学校普通科通信制課程を設立しました。2019年に中学校・高等学校が関西学院大学系属校となる高大接続協定を締結しました。2024年、 賢明学院は創立70周年を迎え、現在に至ります。
本校はカトリック・ミッションスクールであり、建学の精神として「祈る」(静寂の中で自分自身と向き合い他者を想う)「学ぶ」(個の可能性を追求し磨き続ける)「奉仕する」(他者を尊び他者のために自分の力を尽くす)を掲げています。また、生徒たちの目指すべき姿として女子校時代から長年使われ、生徒たちも日々言葉にするモットーとして「The Best ~すべてにおいて、最上を目指して最善の努力を尽くす」があり、学院生活の大きな柱となっています。
高等学校は、3つのコースからなっています。
関西学院大学特進サイエンスコースは、関西学院大学理系4学部(理学部・工学部・生命環境学部・建築学部)への進学を目指すコースです。1年次は全教科をバランスよく履修し、基礎学力を確立させます。英語の授業では4技能を伸ばし、英検2級取得に向けての準備を始めます。2年次からはより専門的な学びが始まります。発展的な理系教科の学習のみならず、関西学院大学での学びの素地を育成するための特別な学習であるAP科目を履修します。AP科目とは生徒自身が見つけたテーマに関して仲間と協働しながら研究を行う探究活動です。その活動をさらに充実させるため、2年次では物理、化学、生物、数学に関わる全ての実験・実習を行います。3年次では自ら課題を見つけて研究し、内容をまとめ、成果発表会でプレゼンテーションを行います。
特進エグゼコースでは、国公立、難関私立大学の進学に対応する授業を展開しています。大学入試に必要な主要5教科の学習計画の作成を徹底し、主体的に学ぶ姿勢を身につけます。セルフラーニングの強化が学力、精神力を育てます。少人数クラス編成で応用的・発展的な学習から実践力の育成へとつなげるために必要となる指導をより細かく行います。各教科担当との面談や個別指導を繰り返すことで、個々の生徒の力を引き出し、希望する進路実現へと導きます。また、探究活動や特別活動を通じてあらゆる大学入試に対応できる力を育成します。
特進コースは、多彩な進路希望に対応したコースで、得意科目の学習強化とクラブ活動・課外活動との両立を目指しています。高校生活におけるさまざまな体験や経験を通じ、自分自身の得意なことを見つけ、より一層の伸長を図ります。2年次より必要な科目を選択し学習することで、より的を絞って学力を向上させていきます。「誰かを笑顔にする体験型学習」を通して自己肯定感を高め、他者のために自分の力を活かす喜びを経験します。幼稚園での自作の音楽劇や楽器演奏の発表、交流授業など、保育や幼児教育を志す生徒にも貴重な経験となります。
本校の生徒は、とても素直で穏やかな生徒が多いと思います。カトリック・ミッションスクールの雰囲気や、女子校時代に培われた丁寧さに共感してくださる保護者の方々が本校を選んでいただいているように思います。そこに共学化したことで活発さが加わりました。多くの生徒が運動部・文化部問わずクラブ活動に参加しています。さまざまな学校行事にも積極的に取り組んでいます。学校説明会などでも「学校の自慢は生徒です」と話しています。
ただ穏やかな反面、あと一押しが足りないと感じることもあり、もう少し頑張れるのにという場面が見受けられます。私たちは決まったことをしっかりとできる生徒からさらに発展して、自分で考え正しく行動できる生徒を育てるように、教育活動のバージョンアップを図っているところです。
≪私のキャリアについて≫
私は、中学から大阪星光学院に進学し、カトリック・ミッションスクールの雰囲気には親しんできました。教員志望を明確にしたのは高校2年生の頃で、もともと「学校」という場所が好きで、小学校時代からあまり欠席もしませんでした。自分が知ったことを誰かに話したいという思いが強く、また、高校時代、硬式テニス部では選手と同時にマネージャー的な役割も担っていて、人と関わってまとめていくという気質は持っていたように思います。
人と話すという観点から、中学・高校の教員を目標とし、科目的には社会科が最も好きで、物事が変化していくということにも興味があり、日本史を専攻したいと考えました。単位修得で中学・高校の教員免許状も取得可能であることから、当時教員養成系であった神戸大学教育学部初等教育科に進学しました。教育実習は附属小学校と大阪星光学院で行い、小学生と中高生の違いを知ることができました。
その後、神戸大学大学院教育学研究科に進学しました。中高生を指導するにはより高い専門知識を備える必要があると思い、大学進学時から大学院への進学は考えていました。修士論文のテーマは「鉄道の発達と都市化」でした。出身地の東大阪市には花園ラグビー場がありますが、なぜこんなところに「ラグビーの聖地」があるのか、なぜ鉄道会社とスポーツとが結びついているのかという疑問を子ども心に抱いていました。関西私鉄の経営については既に研究されている部分がありましたが、指導教官のお力添えで大阪市立図書館にある明治末期の新聞記事を閲覧させていただき、新しい材料による研究ということで、当時の世相や風俗について触れることができました。大学院での修士論文作成の過程、自分なりの疑問点を見つけ、過去のデータや情報からある程度の道筋を考え、新しい視点を取り入れてまとめるというものが、現在の自分の教育活動につながっているように思います。
大学卒業を控えた1995年1月17日に阪神・淡路大震災を経験しました。自宅や大学自体はほぼ被害はなかったのですが、大学生活を楽しんだ神戸の街の崩壊には大きなショックを受けました。大学院の2年間は神戸の復興の様子を日々見ながら過ごしました。交通網が寸断されて路線から路線と徒歩で渡りながら通学する時期がありましたが、被災者や自衛隊の方々だけでなく、普段はそれほど挨拶を交わさない学生同士も声を掛け合う場面が多くあり、人と人のつながりの心地よさを改めて実感しました。
大学院を修了し、小学校・中学社会科・高校地理歴史科の専修免許をもって賢明学院に奉職しました。この4月で29年目に入ります。授業としては中学社会科で歴史分野・公民分野、高校地理歴史科で日本史を担当しました。現在は高校1年・2年の総合探究を担当しています。副担任を経て、3年目から高校の担任をさせていただき、1年だけ中学3年の担任をはさみ、主に1年から3年という形で17年連続務めました。その間には学年主任も兼任し、女子校から共学校への過渡期には共学2期生の学年主任も担当しました。
クラブ活動の顧問は、自分自身も取り組んだ硬式テニス部を現在も担当しています。校務分掌としては、小規模校ということもあって、若い段階から宗教部長・進路指導部長・生徒指導部長と経験させていただき、広報募集関係はまだ分掌として組織される以前から説明会等での説明担当をさせていただき、現在は広報募集部と兼ねる形で、中学・高校の入試や中学プレテストを統括する入試部長をさせていただいています。
≪「河南町プロジェクト」について≫
「河南町プロジェクト」は、「SDGsへの理解を深めること」と「地域社会の活性化に貢献すること」をテーマとし、「知識力」だけではなく、「生きる力」や「活きる力」の育成を目指しています。「探究学習」は自分という存在について考え、答えのない問題をさまざまな視点から解決に導く力を身に付けることを目的としています。
本校ではその目的の達成に向けて、より具体的なテーマ、実社会に直接つながる内容を課題に挙げています。この学習を通して、今後予期せぬことが待ち受ける社会でもたくましく、かつ、カトリックの教えにある「地の塩・世の光」として活躍できる人となれるよう、幅広い知識と経験が習得できる活動を展開していきたいと考えます。
「河南町プロジェクト」では、大阪府南河内郡河南町をフィールドに、農地でのコメやサツマイモにハウスでのイチゴ栽培の実習を通して、食糧生産の重要性や食品ロスの問題を理解し、自分たちに関わる課題として捉えていきたいと考えています。現地実習を実施することにより、日々の生活では感じにくい地域社会の実情を理解してもらいたいと思います。同じ大阪府下でも都市部と周辺部とでは大きく異なります。河南町を実際に訪れて感じたことをもとに、地域社会が抱える問題を知り、どんな貢献ができるのかをさまざまなアプローチで考えていきます。現地の一般社団法人との連携により、河南町役場とのつながりを持たせていただき、農地の使用や種苗の調達、地域の方々とのコラボレーションなどに便宜を図っていただいています。
高校1年では、農業実習を中心として、「日本の農業の実情」「SDGsへの理解」「地域社会への理解」に関する内容を行います。レポート作成や調べ学習にITツールを活用し、資料活用の手段の1つとして図書館オリエンテーションも行っています。高校在学中に18歳成人を迎えることを意識して、現代社会にあるさまざまな事象への興味・関心を持たせるようなテーマも取り扱います。グループワークを多く取り入れ、積極的なディスカッションを行うことにより将来社会で必要とされる「互いの意見を聞き、議論をつくして答えを導き出す」力を養うことも目指しています。
高校2年では、「地域社会の活性化に貢献すること」に向けて、まずはビジネスモデルの作成プロセスを、実在の企業の取り組みを参考に学習していきます。その実践的活動として、生徒たちが考案したビジネスプランを河南町へプレゼンテーションしたり、家庭科との連携で収穫物を食材として調理実習を行ったりしています。
実践例:
<農業実習>
5月 高校2年 サツマイモの植え付け、田んぼの整備 他
6月 高校1年 コメの田植え
9月 高校1年 サツマイモの収穫
10月 高校1年 イチゴの植え付け 他
1月 高校1年 イチゴの育成・収穫、農地整備 他
<授業内(総合的な探究の時間)での取り組み>
◆高校1年
「日本の農業」…日本の農業の実態について知る。農業実習についての説明を行う。
「食品ロス」…「恵方巻」の大量廃棄問題から食品ロスについて考え、『SDGs』の意味を理解する。
「地元紹介レポート」…地域貢献を考える契機として各自の地元についての紹介レポートを作成する。情報を得るために検索エンジンなどの利用に慣れる。
「マネープランゲーム」…社会生活を送るにあたってどれだけの資金が必要かをゲーム形式で学び、生涯設計について考える機会とする。
「旅行プラン計画」…日本への渡航者が急増していることから、渡航者に観光地を紹介しようというコンセプトで旅行プランを計画し、その内容をパワーポイントでプレゼンテーションする。将来海外で活躍するためにはまずは自国のことを知ろうということも目的にある。
◆高校2年
「ビジネスプランの作成」…ビジネスプランの作り方を学び、具体例として「スターバックス」や「マクドナルド」のビジネスモデルを探究する。
「『河南町』活性化プロジェクト」…河南町への地域貢献に向けて、ビジネスプランの作成に取り組む。河南町民のアンケートをもとに河南町で求められているものを提案する、河南町内の公共施設や資源の有効活用するプランを考える、ふるさと納税返礼品として生徒が植えたイチゴを利用するためネーミングやPR方法を考える、など。
「河南町ビジネスプラン発表会」…クラス内で予選プレゼンテーションを行い、各クラスから選ばれた代表が、河南町町長をご招待しての発表会にてプレゼンテーションを行う。
◆学年を問わず
時事問題をテーマに、各自の意見をまとめたり議論したりする。テーマは「救急車は有料化すべきか?」「キャッシュレスor現金?」「投票率を上げるには?」など。
≪地域課題解決型の探究学習について≫
「河南町プロジェクト」の実施にあたって苦労したことをお話しします。私自身も生徒と同じで、ずっと大阪府に在住していながら河南町の場所もきちんと知らず、取り組みが決まってから初めて現地に赴き、農地の場所も知ったくらいでした。
学年全員に実習体験をさせる際、学校がある堺市からも交通の便は決してよくなく、生徒の自宅からとなればなおのこと大変なのですが、周辺部が都市部といかに違うかを体感するには、観光バスで遠足のようにするにではなく、現地集合で実施したいと考えました。当然、路線バスの本数は少なく、交通系ICカードも使えないという状況でした。実習2年目には、地域路線バス会社が解散するとニュースで知り大慌てしました。現在は私鉄バスと自治体運営バスになりましたが、ますます本数が減りました。
授業の一環ですが、先述したように遠足ではないので、制服等ではなく服装・持ち物は自由にしました。「農業体験」ではなく「農業」をしに行くと考えています。あとは、まさに自然相手ですので、天候の問題や一昨年はサツマイモがイノシシにやられるということがありました。ただ、こういったアクシデントこそが農業であり、大変さを実感できるのではと思います。
実は、生徒たちがどう感じてくれるのかが一番の心配点でした。「面倒だ」とか「邪魔くさい」と思うのだろうか、授業の反応もどうなのかなという感じでしたが、まずは校外に行けることのうれしさや、友人同士で準備物を買いに行く話や待ち合わせ時間を決めている話が聞こえてきましたので、興味は持ってくれているのかなと思います。
実際、農作業は大変ですので「疲れた」「きつい」という感想が多いです。でもそれを知ってもらうことがねらいなので、体験の後は「食事に対する考えが変わった」という意見も聞かれました。進路への影響とすれば、大学入試の志望理由書などを書く際に高校時代の取り組み・体験としてこの総合探究でのことを挙げていたり、プレゼンテーションに対する抵抗感が少なかったりという効果がみられ、高校3年の学年団からもその点の評価は聞かれました。
このプロジェクトの課題もあります。本校の生徒の特徴でもありますが、決まったことや決められたことはきちんとやります。ただ、自分たちの興味・関心がわかないものに対してはなかなか乗ってきません。時事問題も全く知らないわけではないのでしょうが、彼ら彼女らの関心事ではないようです。そこでこちらから課題を出すのですが、私が伝えたいこと・知ってほしいことと彼ら彼女らの興味との乖離が大きくなると授業が停滞してしまいます。また、本来探究学習とはテーマを考えるところから始まるものではないかとも考えるので、教師側からの押し付けになっているのかもしれないとの反省もあります。
今後の展望についてお話しします。令和7年度にも「マネープランゲーム」を実施しましたが、前年度の反省のもとに生徒たちに任せる時間を多くしました。こちらがすべてを仕切らなくてもいいと考えたからです。グループ分けも自由にする回数を増やし、「旅行プラン計画」のようにコンセプトはしっかりあるけれどもより楽しく、自由度を持った取り組みを考えていきたいです。また、ビジネスコンテストへの参加など、生徒たちにもその成果や手ごたえを感じることのできるような機会を増やせればと思っています。
≪教育の未来について≫
今は教育の転換期なのかもしれないと思います。私はいわゆる第2次ベビーブームの世代ですので、常に競争・競争の世代です。「勉強」もそれなりにやってきたと思います。その時得た知識が今の自分の支えになっているのは間違いないので、やはり「勉強」はしっかりするべきでしょう。ただ、幸いなことに「地の塩・世の光」ではありませんが、自分の持っている力を他者のために役立てるということを学べたことが今にもつながり、とてもよかったと思っています。それは私に関わってくださった多くの先生方のお言葉やお姿から学んだことです。
教育のIT化は進み、知識を得ることのみに限定すれば私たちが授業するよりもはるかに効率的かもしれません。AIに取って代わられ将来消えていく職業というものが話題になりますが、教師という職業は当てはまらないだろうと思います。コロナ禍の際、本校はいち早くオンライン授業を実施しました。内容的にも進度的にも十分機能しましたが、通常登校が再開されて生徒たちの多くが「やっぱり教室の授業がいい」と言っていました。教師や友人の顔が見えて、一緒に勉強しているという空気感とともに教科内容が生徒たちの頭や心の中に入ってくるのではないでしょうか。技術がいくら進んだとしても、人間が直接関わることこそが大切だと思います。同窓会などで旧友と集うとすぐさまその当時の様子が思い出されるのはその表れのような気がします。
上手く表現できませんが、「血の通う教育」を実践し続けていきたいと思いますし、これからの教育もそうあってほしいと願います。高等学校の教育という観点からは大学を卒業した後のこと、社会人として活躍できることを見据えた教育をしていきたいと思います。自らが得た知識を社会に還元していく。己の能力や技能を人々のために役立てていく。それは決して独りよがりなものではなく、他者のことを理解し尊重し、よりふさわしい選択ができるということだと考えます。やっぱり「学校」という様々な個性が集まった1つの社会で学ぶことが最善の方法になるのでしょう。アップデートしつつ、これまで培われたものも継承した教育を行っていきたいと思います。



