学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第15回(月刊高校教育2026年6月号)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第15回(月刊高校教育2026年6月号)
金沢高等学校
森下広大(もりした こうだい)先生
「『総合的な探究の時間』の取組について」
≪金沢高等学校について≫
本校は、石川県金沢市泉本町に所在する私立高等学校です。校訓は「質実剛健」です。また、以下のスクールミッションを掲げています。
社会が急速に変化する現代においても,教師と生徒が共に学び人格を育む「共育」の理念を掲げ, 生徒一人ひとりの自己実現を支援していく。また,歴史と伝統ある「金沢」を冠する学校として, 知・徳・体の調和のとれた人材の育成を通し,地域社会に貢献していく。
本校では、文武両道を目指し、将来社会に大きく羽ばたくための「生きる力」を育む教育を行っております。3年間の学びを通じて、自らの未来を切り拓けるよう、それぞれの夢や目標に挑戦できる3つのコースを設置しています。Sコースでは難関国公立大学合格を目指した徹底した学習指導を行い、特進コースでは学力強化を重視し国公立・難関私立大学への進学を目指します。進学コースでは基礎力を養成し、大学進学に対応できる力を身につけるとともに、学習と部活動の両立を図り、多様な進路に対応しています。なお、1年次から2年次、2年次から3年次への進級時にはコース変更が可能です。Sコースや特進コースへの変更に際しては、学習到達度や学習意欲などを総合的に判断しています。
本校の生徒は、人として当たり前のことを当たり前に実践できることを大切にしています。明るく元気で礼儀正しく、さわやかな挨拶ができること、時間を守ること、周囲に配慮して行動することなど、落ち着いた学校生活を送る生徒が多く、何事にも素直に取り組む姿勢が本校の大きな特長です。
≪私のキャリアについて≫
高校1年生のときに受けた化学の授業が非常に印象的で、理科への興味を深めました。その経験から、自分も実験を通して理科の面白さを伝えられる教員になりたいと考え、化学の教員を志すようになりました。
その後、地元の国立大学である金沢大学理工学域自然システム学類に進学しました。当初は物質循環工学コースで専門性を高める予定でしたが、教員免許取得の条件を踏まえ、生物学コースへ進むことを決意しました。未経験の分野への挑戦ではありましたが、基礎から学び直し、生物の専門性を高めました。大学では「キャンベル生物学」を基盤とした授業に取り組み、研究室では神経に関わる遺伝子の研究に携わりました。遺伝子組換えやゲノム編集技術を扱いながら、大学院修了まで研究を継続しました。また、母校での教育実習では生物の授業を担当し、新たな環境の中で多くの学びを得ることができました。
現在は、自身の経験を踏まえ、生徒に対して「進路選択における情報収集の重要性」「未経験分野にも挑戦する意義」「今の学びが将来につながる可能性」を伝えることを大切に指導しています。
≪「総合的な探究の時間」について≫
○現在の「総合的な探究の時間」の取組
・提携3大学との連携
金沢工業大学、北陸大学、かなざわ食マネジメント専門職大学と連携し、2年生の総合的な探究の時間の授業を実施しています。各大学の学部から担当講師を決定していただき、それぞれの専門分野に基づいた探究テーマを設定していただいています。講師の先生方には年間少なくとも4回ご来校いただき、中間発表や最終発表を通して生徒へ助言をいただいています。中には毎週の授業に参加してくださる先生もおり、より質の高い指導が行われている分野・テーマもあります。
・テーマ設定
昨年度は、金沢工業大学から10分野、北陸大学から7分野、かなざわ食マネジメント専門職大学から4分野を提示していただきました。2年生はその中から自らの関心に応じて分野・テーマを選択しています。幅広い分野を用意できたことで、全員が第一希望の分野に所属することができました。希望者の多い分野には教員を複数配置し、1人あたりの担当生徒数が15~20名となるよう調整しています。
・自分でテーマを設定する生徒について
大学講師が設定したテーマに取り組む生徒が約半数、自らテーマを設定して取り組む生徒が約半数となりました。一昨年度までは前者のみでしたが、「自分でやりたいこと」を持つ生徒の可能性を広げるため、昨年度から後者の仕組みを導入しました。その結果、多くの生徒が主体的にテーマ設定に取り組むようになりました。一方で、すべての生徒がゼロからテーマを生み出せるわけではないことも実感しています。大学の提示するテーマを参考にしながら、自身のテーマを具体化していく生徒も多いと考えられます。今後はアンケート調査を通して、テーマ設定の実態をさらに把握していきたいと考えています。現時点では、このような二つの選択肢を併存させた授業設計が有効であったと捉えています。
・発表会および1年生とのつながり
昨年度は7月15日と12月16日に中間発表、2月17日に最終発表を実施しました。最終発表では各分野から優秀グループを1組選出し、3月10日の代表発表会で発表を行いました。全140グループの中から20グループが選ばれ、コンテスト形式で競いました。薬学分野「一人暮らしの高齢者の薬の飲み忘れを防ぐには?」のグループが優勝、経済分野「商店街をどうしよう!(新竪町商店街の活性化)」のグループが準優勝となりました。これらの発表は1年生にも公開しており、次年度の学びを考える機会となっています。また、2年生の研究内容を次年度へ継承する仕組みづくりも検討しています。
・フィールドワークについて
本校ではフィールドワークを重視しており、4年前から専用の授業枠を設けています。6・7限を活用し、校外での調査活動を推奨しています。従来は自主性に委ねていたため実施が進みにくい状況がありましたが、授業内に位置づけることで活動が活性化しました。昨年度は3回実施し、延べ150グループが参加しました。フィールドワークでは、外部の方々との関わりを通して、計画力や調整力、発信力が育まれます。また、理科分野の実験や商品開発における調理実習など、校内での実践的な活動にも活用されています。
○動画の作成
1年生の振り返りや優秀チームの発表、2年生への説明などには、自作動画を活用しています。
・動画活用の理由
第一に、教員の負担軽減です。探究は多くの教員にとって新しい分野であり、準備の負担が大きくなりがちです。動画化することで負担を軽減し、生徒と向き合う時間の確保につなげています。第二に、内容を正確に伝えるためです。動画であれば全クラスに同じ内容を確実に届けることができ、必要に応じて繰り返し視聴することも可能です。また、各教員が補足を加えることで、柔軟な指導にもつながります。
・機械音声の活用
動画作成にはAIによる音声も活用しています。原稿をもとに自動音声を用いることで、言い間違いがなくなり、作成時間の短縮につながりました。今後は複数の音声を使い分けることで、より分かりやすく魅力的な動画づくりを目指していきます。
○探究の成果と課題
成果としては、総合型選抜や学校推薦型選抜において、探究活動の経験を活かす生徒が増えている点が挙げられます。高校生活で力を入れたこととして探究を語る生徒が増え、学習の幅を広げる機会となっています。また、発表会を通じて生徒の取り組みを外部に発信する機会も増えてきました。
一方で課題は、「調べ学習からの脱却」です。情報をまとめるだけで終わってしまうケースも依然として見られます。理想とする探究の姿を教員・大学講師・生徒で共有することが重要であり、そのためにはモデルの提示や指導の工夫が必要です。今後は研究授業の実施などを通して、指導の在り方を検討していきたいと考えています。
また、教員も生徒と同じ目線で探究に関わることが重要だと考えています。問いかけや提案を通して思考を促し、生徒自身が選択する機会を大切にすることが主体性の育成につながります。実際に、「次に何をすればよいか分からない」ことを理由に活動が停滞したと回答した生徒が約半数にのぼっており、適切な支援の必要性が示されています。今後も、生徒の主体性を尊重しながら支援の在り方を工夫していきます。
≪私の授業改善について≫
○アクティブラーニングの実践……小林昭文先生の授業の型をベースに試行錯誤
小林昭文先生の授業については、著書『アクティブラーニング入門』を通して以前から参考にしておりましたが、ご縁があり講演会にも参加いたしました。当時は教員になりたてであり、高校時代に生物を履修していなかったこともあって、自身の授業の柱が確立されていない状況でした。そうした中で、小林先生の主体性を引き出す授業設計に強い感銘を受け、自身の授業にも取り入れました。
当初は「なぜ従来型の授業をしないのですか」という生徒の声もありましたが、個別対応で補いながら実践を継続しました。研究授業でもこの型を用いたところ、大きな議論を呼びましたが、生徒が主体的に課題に向き合う姿は評価していただけたと感じています。この授業の型により、生徒一人ひとりの状況を把握しやすくなり、コミュニケーションも増え、アダプティブラーニングにつなげることができると考えています。現在は、生徒の状況や単元の特性に応じて使い分けながら実践しています。
○反転授業形式の実践(コロナ禍を契機に開始)
コロナ禍でオンライン授業が求められたことをきっかけに、動画配信のスキルを活用した反転授業に取り組みました。学習目標と課題を提示する基本方針は維持しつつ、課題解決の手がかりとなる内容を事前に動画で配信しています。意欲の高い生徒は予習として視聴し、理解を深めています。また、個別対応が必要な生徒にとっても復習教材として有効に機能しています。
動画視聴を強制するのではなく、「より主体的に学びたい」という意欲を引き出すことが重要であり、そのためには魅力ある課題設定が不可欠であると考えています。
○新学習指導要領「見出す」授業の研究
新学習指導要領における「見出す」という考え方に当初は戸惑いがありましたが、解説資料の精読や分析を重ね、「観察・実験や資料から得た気づきを関連付け、新たな知識へと結び付けること」と捉えました。
実際に、先に教えずに生徒自身に概念を見出させる授業を試みたところ、小林先生の授業の型と通じる点が多いことに気づきました。一方で、生徒の気づきを待つ時間が必要となるため、授業進度とのバランスが課題であることも実感しました。
○単元・生徒状況に応じた授業展開
以上の実践を踏まえ、生徒のコースや単元の特性に応じて授業方法を使い分けています。Sコースや特進コースでは、共通テストや二次試験対策の時間確保を重視し、反転授業を軸に効率的に進めています。一方、進学コースでは理科への興味・関心を重視し、適度に説明を加えながらアクティブラーニング型の授業を展開しています。
≪大学入学共通テストの生物について≫
○センター試験との違い
大学入学共通テストの生物は、センター試験と比べて文章量が大幅に増えています。複数の実験データをもとに考察させる問題や、仮説を検証させる問題も多く見られるようになりました。そのため、問題のパターンに慣れるための専用の訓練が必要になってきていると感じています。
センター試験の時代は、知識の習得を中心とした学習でも8割以上の得点を比較的取りやすく、各単元でどの知識が重要かをランキング化して生徒に提示していました。また、毎年センター試験後には、そのランキング表のどこから出題されたかを確認することがルーティンになっていました。しかし、現在はそのような知識確認は行っていません。
○共通テスト対策として実施していること
日頃の課題では、仮説を立てる課題や、その仮説を検証するためにはどのような方法が考えられるかを問う課題を提示するようにしています。また、前述の通り、共通テスト形式の問題演習も繰り返し行っています。
その際、生徒の解答はすべてGoogleフォームやスプレッドシートを用いて回収し、クラス全体の正答率を確認しながら解説しています。正答率が9割を超える問題については、必ずしも詳しく扱う必要はないと考えています。むしろ、その場で生徒の伸びしろのある部分を見極めながら解説することが重要だと考えています。また、共通テスト直前には、過去に正答率の低かった内容を再提示し、生徒が復習できるようにしています。
≪私の日々の学び・研鑽について≫
金沢工業大学基礎教育部の木村竜也教授と、週1回の勉強会をZoomで実施しています。木村先生には、本校の発表をご覧いただきながら、本校における探究の運営の在り方について共に検討していただいています。木村先生は「探究(PBL)をどのように組織に普及させていくか」を研究テーマの一つとされており、その一環として、本校の探究活動における生徒の振り返りの分析にも携わっていただきました。現在は、その分析結果をもとに、本校の生徒に必要な力について一緒に考えていただいています。
また、探究の評価方法についても多くのご助言をいただいています。今年度は探究の授業におけるルーブリックを作成しましたが、その際には、基本的な考え方や作成時の留意点について、部署メンバー向けに勉強会形式でご指導いただきました。
さらに、木村先生は工業系の学校を中心に全国各地で探究の授業に関する助言を行っておられるため、他校の先進的な取組について学べる貴重な機会にもなっています。加えて、本校の探究の取組を広く発信してくださっており、そのつながりを通して、本校の探究を見学に来てくださる学校も年々増えています。
≪教育の未来について≫
情報化がさらに進むこれからの時代においては、生徒にとっても教師にとっても、必要以上に多くの情報にさらされやすくなると考えられます。だからこそ、教育は生徒一人ひとりが「自分のやりたいこと」を見つけられるものであってほしいと考えています。
一方で、教育現場がフィルタリングバブルのような状況になることには懸念もあります。アダプティブラーニングの重要性が高まる中で、その場で必要とされる情報や学びだけが提供されるようになると、生徒の可能性や視野を狭めてしまうおそれがあるためです。
科学分野の基礎研究のように、その時点では価値が分からないことであっても、後に大きな意味を持つことがあります。情報化が進む社会だからこそ、興味のあることにもないことにも幅広く挑戦できる生徒を育てていきたいと考えています。そのためには、そうした挑戦を支える教育環境の整備が不可欠です。
(余談)卒業式で生徒に伝えたこと
余談ですが、卒業式では生徒に「生物進化は結果論、ヒトの挑戦は選択」という言葉を伝えました。
生物の進化は、「こうなろう」という意志によって起こるものではなく、環境の変化に適応した個体が結果として生き残り、その形質が受け継がれてきたものです。つまり、進化は結果論です。一方で、人間は自らの行動を選択し、「こうなりたい」という意志をもって挑戦できる存在です。
この話から、二つのことを伝えました。一つ目は、これからの人生において多くの選択を重ねていく中で、自分がやりたいと思うことには迷わず挑戦してほしいということです。挑戦する人は周囲から魅力的に映り、自然と支えられる存在になります。周囲を巻き込みながら挑戦し続ける大人になってほしいと願っています。二つ目は、「生物進化は結果論」という考え方の大切さです。人生の中では、「何の役に立つのか分からない」と感じる経験にも必ず出会います。しかし、そのときには価値が見えなくても、後になって「あの経験が生きた」と実感する場面が訪れるものです。これはまさに結果論です。
だからこそ、自分の興味の有無にかかわらず、少しでもアンテナを広げて生きてほしいと伝えました。特に、家族や友人など大切な人の言葉には耳を傾けてほしいと思います。一見自分に関係のないことでも、将来どこかで役に立つ可能性があり、その姿勢自体が周囲からの支えにもつながっていくはずです。



