学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第16回(月刊高校教育2026年7月号)

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学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第15回(月刊高校教育2026年6月号)

サレジオ学院中学校・高等学校
染谷 諒(そめや りょう)先生

「『総合的な探究の時間』のプログラムについて」

≪サレジオ学院中学校・高等学校について≫

神奈川県横浜市に位置するサレジオ学院中学校・高等学校は、1960年に創立されたカトリックのサレジオ会を母体とする中高一貫の男子校です。長い歴史の中で培われてきた教育は、単なる進学校の枠にとどまらず、人間形成を軸とした独自の理念に貫かれています。
 
その象徴が「25歳の男づくり」という教育方針です。大学合格を最終目標とせず、社会に出たときに自らの役割――いわゆる「召命」を自覚し、周囲に貢献できる人材を育てる。この理念のもと、「奉仕する心を持つリーダー」の育成を目指しています。
 
校風の特徴は、教員と生徒の距離の近さにあります。日常的な対話の中で信頼関係が築かれ、生徒一人ひとりが安心して自分の考えを表現できる環境が整っています。そうした土壌の中で育つ生徒たちは、他者への「隣人愛」を自然に身につけ、互いの個性や興味を尊重し合う柔和で温かな雰囲気を醸成しています。

≪私のキャリアについて≫

私が数学教員の道を志したのは、決して一直線ではありませんでした。高校時代には別の進路を思い描いていたものの、大学入試で理学部に合格した際、当時の担任からかけられた「同級生に数学を教えるのが好きなら、その道が向いているのではないか」という一言が転機となります。この言葉が、自身の適性と向き合うきっかけとなり、教育の道へと進む決意を固めました。
 
大学・大学院では教育工学を専攻し、数学教育におけるICT教材の開発に取り組みました。単なる知識伝達ではなく、「どのようにすれば理解が深まるのか」という視点から指導法を探究し続けてきました。
 
その後、2010年から大学院に在籍しながら、他校で非常勤講師として現場経験を積み、2012年にサレジオ学院に着任。2021年度には総合探究の責任者として学校改革の一翼を担い、2025年度からは組織体制の見直しに伴い役割を教務・進路部長へと引き継ぎました。現在は、中学2年生の学年主任として、生徒の成長を最前線で支えています。

≪現在の探究カリキュラムに至るまでの過程≫

サレジオ学院の探究は、決して一朝一夕に形づくられたものではありません。その出発点は、2016年に発足した「総合学習を考える会」にあります。「総合的な探究の時間」に対応するため、有志の教員が集まり、学年ごとの負担軽減とカリキュラムの統一を目指して動き出しました。
 
その際に軸となったのが、「25歳の男づくり」という教育目標からの逆算です。理想像を描き、そこから今何をすべきかを考える――この発想により、校内課題の解決や論文作成といった具体的な取り組みが積み重ねられていきました。
 
2021年に私が責任者に就任すると、改革はさらに加速します。コロナ禍で急増したオンラインセミナーを活用し、他校の先進事例を積極的に収集。その知見を教員間で共有するために、「総合的な探究の時間 教員向け情報サイト」を立ち上げたり、授業実践や資料、生徒の成果物を共有したりして「目線合わせ」に力を注ぎました。また、スタートアップミーティングを実施するなどして「不安の共有」にも務めました。その結果、属人的な運営から脱却し、持続可能な体制を構築するための土台が築かれていきました。コロナ禍という制約の中でも、オンラインによる論文発表会を実施するなど、外部の知見を柔軟に取り入れながら探究活動を進化させてきました。
 
さらに2022年度からは、CS(Christian Spirit)が本格導入されました。これは建学の精神に基づく価値観教育であり、高校2年生では週2時間に拡充。全教員が7つのテーマに分かれて指導する、全校的な取り組みへと発展しています。
 
私は、入試広報委員長と協力し、サレジオ学院のユニークな探究の取り組みを外部へ積極的に発信しました。例えば、2023年5月に「ドン・ボスコシアター」で開催した論文発表会は、読売新聞に取材をしていただき、大きな記事になりました。

≪「総合的な探究の時間」の探究活動について≫

サレジオ学院の探究活動の目的は明確です。論理的思考力、分析力、表現力を養いながら、生徒自身の「好き」を学問へと昇華させることにあります。
 
その中核を担うのが、「論文2000」と「論文8000」というプログラムです。中学3年から高校1年にかけて取り組む「論文2000」では、教員との対話を重ねながら2000字程度の論文を作成し、論文執筆の基礎を徹底的に学びます。論文執筆の教材として、玉川大学出版部の『改訂版 学びの技 14歳からの探究・論文・プレゼンテーション』を参考として、生徒用に「論文2000 ワークブック」を作成しました。また、「発表・討論型授業のハンドブック」も作成しました。
 
そして高校2年から3年では、その集大成として「論文8000」に挑戦します。テーマは完全自由。自らの興味関心と向き合い、客観的データや学術文献を活用しながら論を構築していきます。さらに教員による口頭試問を経て、論理の精度と深度を高めていくプロセスは、まさに「学問する力」を養う場となっています。
 
毎年5月に行われる最終発表会では、高校3年生が後輩に向けて成果を発信します。この場は単なる発表の機会ではなく、後輩にとっては「自分が到達すべきゴール」を具体的にイメージする貴重な機会となっています。
 
こうした取り組みの成果として、生徒の論述力は飛躍的に向上し、大学入試においても確かな実績へと結びついています。一方で、受験勉強との両立や教員間の指導のばらつき、負担感といった課題も依然として残されており、さらなる改善が求められています。

≪CS(Christian Spirit)について≫

CSとは、Christian Spiritの略です。キリスト教的価値観を基盤としながら、現代社会の諸課題に向き合うための価値観教育です。テーマは、ボランティア、環境、国際、AI、情報、出会いの文化、精神と健康という7つのテーマにわたり、生徒は多角的な視点から社会を見つめ直します。CSは、選択制ではなく、この7つのテーマすべてを学ぶプログラムです。
 
授業では、全教員が関わり、外部講師やOBを招いた講義、パネルディスカッション、グループでのまとめ活動など、多様な学びの形が展開されます。特に印象的なのは、ハンセン病を扱った「出会いの文化」の授業において、生徒が見せた深い共感と理解です。教員の想定を超える「心の成長」が見られ、知識を超えた学びの可能性が示されました。
 
一方で、特定の教員(コアメンバー)への負担集中や、テーマの多さゆえの消化不良といった課題も浮き彫りになっています。

≪探究の今後の改善点≫

現在、サレジオ学院では探究活動の持続可能性を高めるための改革が進められています。コアメンバーの複数人体制化や、学年任せにしない教務部主導の組織運営への移行など、安定した体制づくりが模索されています。
 
さらに3年後である2029年度を見据え、探究カリキュラムの進化も構想されています。より明確なメッセージ性とストーリー性を持たせるとともに、教科としての位置づけを強化。加えて、研修旅行との連動など、体験と学びを結びつける新たな展開も視野に入っています。

≪私の日々の学び・研鑽について≫

校外においても、サレジオ学院の実践は高く評価されています。2025年10月には全国私学教育研究集会神奈川大会にて、本校の探究プログラムについて、私から実践報告を行い、その知見を広く共有しました。発表後に名刺交換をした先生方からは、「論文2000」と「論文8000」に関する質問を多数いただきました。
 
また、私の専門である数学教育においては、共通テストの特徴を踏まえ、「問いを深める授業」の重要性を強く意識しています。日常的な文脈の中で思考を促す問題に対応するため、生徒に対して常に「別の解法はないか」と問いかけ、探究的な姿勢を育てています。

≪教育の未来について≫

生成AIの進化により、「それらしい答え」を容易に得られる時代が到来しました。だからこそ今、求められているのは「物事に対して問いを立てる力」と「論理的に考える力」です。より深い思考力が重要になっているように感じます。
 
さらに重要なのは、AIに左右されない自分自身の価値観を持つことです。キリスト教的な奉仕の精神や、弱者の立場に立つ視点といった内面的な軸があってこそ、AIを適切に活用することができます。
 
サレジオ学院のCSに代表される価値観教育は、まさにこの時代において大きな意味を持っています。知識やスキルだけではなく、「どう生きるか」を問い続ける教育――その実践が、これからの社会を担う人材を育てていくのです。

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