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学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第4回(月刊高校教育2025年7月号)

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。

学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第4回(月刊高校教育2025年7月号)

茨城県立並木中等教育学校
細井ひろみ(ほそい ひろみ)先生

「並木中等教育学校の学習進路指」

≪茨城県立並木中等教育学校について≫

本校は、昭和59年(1984年)に開校した茨城県立並木高等学校を前身とした中高一貫校です。平成20年(2008年)に茨城県初の公立中高一貫校として開校し、令和7年度に開校18年目を迎えました。高校からの途中募集のない、1学年4クラス160名の中等教育学校です。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)とユネスコスクールの認定を受けています。

学校として力を入れていることは次の3点です。

  • ・イノベーション人材の育成
  • ・弁証法的対話から新しい発見を導く教育
  • ・小さな失敗を乗り越えることによる柔軟な心の育成

 

校歌や校訓(自律、自制、自尊)は前身の並木高校からのものを引き継いでいます。校是の「Be a top leader!」(高き学習者たれ!)は、学習する姿勢として、「学ぼうとする気持ちをいつも持っている人であってほしい」という初代校長の思いが込められています。校歌の作詞は谷川俊太郎さん、作曲は小室等さんです。よろしければ、フォーク調の素敵な校歌をお聴きください。

校章、校訓、校歌 - 茨城県立並木中等教育学校

本校では、学習はもちろん、体験や思考する機会も重視しています。授業やキャリア教育、学校行事、様々な活動は、6年間のつながりを意識して実施しています。このように中等教育学校ならではの特徴をいかして、6年間を体系的に見通して「先取り学習」や「じっくり学習(復習)」を行っています。

探究についてですが、本校では、学年が中心となって進めるキャリア学習等の内容と、企画研究部が中心となって進める探究の2本立てで行っています。前期課程では「問いの立て方」「データの集め方」などの探究の基礎的な内容を学習しています。例えば、3年次(中3)ではグループでつくば市の社会問題について探究し、市役所の方にプレゼンをするなど、探究の基礎作りを行っています。

後期課程では、「理数探究」という授業で一人1テーマの探究を行います。生徒は3学年が縦割りになり、26のゼミに分かれます。1つのゼミには4~6年生(高1~高3)の生徒が、それぞれ5,6名ずつ、教員も2,3名が所属します。各自の設定したテーマについての検討を行いますが、先輩が後輩にアドバイスをするのが特徴です。教員も伴走者として一緒に考えます。本校ではアカデミックな内容を探究するよりも、試行錯誤することや探究の過程を重視しています。発表を行う場や見る場が多く用意されているため、話し合いや調べこと、まとめること、正解がないものに向かうことに対して抵抗感が少なくなります。探究で培った力は、受験時の面接や小論文、大学での学びにいかされています。

本校の教育の3つの柱である「人間教育・国際教育・科学教育」のうち、人間教育と国際教育は連動しています。宿泊を伴う行事は、「世界の日本を感じる」をテーマにして、6年間を見通した行事を行っています。1年次ではクラス作り合宿でカッター訓練を行うことで集団を意識し、2年次では国内施設でAll English体験、3年次では広島で平和研修、京都で日本の文化を体験し、4年次では希望制で(9割以上の生徒が参加)ニュージーランド語学研修を実施して異文化体験、5年次ではアジア方面への修学旅行(令和元年度からベトナム方面で平和研修と異文化体験)を行っています。また、本校の三大行事の「ウォークラリー(1泊2日の歩く会)」「スポーツデイ」「かえで祭(文化祭)」は体力や精神力を鍛えたり、一体感を感じたり、生徒実行委員が企画運営に携わったりする場となっています。

科学教育については、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けており、全員が参加するSSH講演会に加え、理科の授業でSSH出前授業、希望制(年間35回程度)でSSH講座(研究所などを訪問。本物に触れる)、SSHサイエンスカフェ(学校に研究者や企業の方を招いて講演してもらう。質疑応答を50分設けているのも特徴)等を行っています。希望生徒が集まる講座が多くあるので、縦割りの異年次学習にもなっています。

本校では「論理的であること」「知的好奇心をもつこと」「多様な分野がつながっていくこと」を大切にしており、SSHの行事の中にも文系的・キャリア学習的なものも用意されています。一部の生徒ではなく、生徒も教員も全員が「自分の学校はSSHの取り組みをしている」と感じることを目指しており、達成できていると思います。

本校には、知的好奇心の旺盛な生徒が多いと感じます。まずは失敗してもよいからやってみようと思っている生徒も多く、授業でも間違えることを恐れず、得手不得手にかかわらず様々なことに挑戦する気質があります。これは、様々な体験の機会が用意されていることや、校是の「Be a top learner!」が影響していると考えます。学校行事や学年行事、進路行事、宿泊を伴う行事が連動していることもあり、文系・理系といった枠を超えて興味をもち、様々な学問がリンクしていることを面白がる生徒も多いと感じます。本校の校歌は並木高校から引き継いだもので、谷川俊太郎さんが本校を訪れて作詞してくださったものですが、「せめぎあう夢をはぐくみ」で始まるように、生徒同士が切磋琢磨している様子も見られます。

≪私のキャリアについて≫

私は、国語科の教員です。国語に興味をもったきっかけは、「言葉のアクセント」でした。中学生の時に静岡県から茨城県に引越し、地域によって話し言葉のアクセントやイントネーションが違うことに興味を持ちました。そのことが県民性などの気質に影響しているのではないか等にも興味がありました。しかし、私自身は数学の問題を解く時の論理的な筋の通った思考が好きでした。国語、主に現代文の学習で、なぜその解答にたどりつくのかを、数学のエレガントな解答のように説明できれば、もっと多くの生徒が国語に興味をもつのに、とも思っていました。感覚で考えずに論理的に考えることを提示したいと思ったのが国語を選んだ理由です。

大学では漢語学で卒業論文を作成しましたが、品詞のデータをとって主な用法を決定していく手法をとりました。これは、本校で行っている「文系分野でもオリジナルデータをとって数値的に結論づけていく」ことに通じるものがあります。

教員歴は28年目です。そのうち19年が並木高等学校・並木中等教育学校での勤務になります。並木中等が開校する1年前に並木高校に赴任し、開校準備にも携わりました。教員となって10年目~28年目(今年度)まで、30,40代をずっと並木で過ごしています。

並木高校では、24回生・27回生の1~3年次担任をしました。並木高校の最後の卒業生の代の担任でした。並木中等では、1回生・2回生の6年次(後期課程高校3年生)の副担任を2年間、3回生(理系クラス)4回生(文系クラス)の6年次担任を2年間、8回生の3年次(前期課程中学生)担任を1年間つとめたあと、8回生の4~6年次(後期課程高校生)学年主任を3年間つとめました。学年主任として卒業生を出したのち、学習進路部長(進路指導主事)を4年間つとめ、今年度から教頭になりました。勤務校の教頭を命ぜられ、本年4月1日に着任しました。公立では珍しく、19年連続して同一校で勤務しています。

≪学習進路部の取り組み≫

学習と生徒の進路は連動しているということから、本校では進路指導部ではなく、学習進路部という名称にしています。開校6年目の2013年に「学びのロードマップ」を作成する取り組みが行われました。しかし、実際の運用に至るまでにはいきませんでした。2020年に、学校の10年後を考える目的で、未来構想委員会が立ち上がりました。「学びのロードマップ」の再作成を行い、最終的に各教科の具体的な学習進度表を作成するに至りました。毎年約20名の異動があることに加え、試行錯誤して最善の先取り学習を行うに至ったことを継承するためにも、学習進度の目安を共有しています。

あわせて、学習進路部でも「キャリア学習指針表」を生徒向けと職員向けを作成しました。教員用では2か月ごとにテーマを立て、行事やテストとつながりをもたせながら、進路目標や生徒への支援や留意する点を具体化することで、6年間の流れを意識して運用できるものとなっています。

私自身も学年主任の時には、この指針をよりどころにして学年運営をしていました。校内でも「進路だより」や進路室前のデジタル掲示板に時期にあわせた「キャリア学習目標」を提示して生徒に周知しています。

本校では、お互いの授業を参観する習慣は元々ありましたが、組織的に行うことを教務部と学習進路部が連携して提案し、「授業ちょっと見週間」と名づけました。毎月1週間の互見授業週間を年間計画の中に入れています。授業内容や方法だけでなく、生徒の様子を年次や教科を越えて少しでも多くの職員に共有してもらうため、「ちょっと見」るだけでもよい、参観後はできるだけお互いに声かけをするなど、気軽に参観できるルールを設けて実施しています。

声かけにより年々参加者は増えています。コロナ禍の休校時にオンライン授業を配信し、動画授業の参観も「ちょっと見」としたこともあり、参加者数は急増しました。年間のべ参観数1000を目標にしています。動画授業は、校内でリスト化しており、職員は授業の参考とすることができます。

さらに、授業改善の取り組みとして、「授業の並木3days(スリーデイズ)」(互見授業)を5年前から実施しています。それ以前は、学習進路部が「アクティブ・ラーニング授業公開」を実施していました。月1回各教科1名がアクティブ・ラーニングの授業公開を行っていましたが、もっと様々な授業に挑戦していこうという目的で、学習進路部、校務運営部(教務部)、企画研究部(課題探究やSSH等)、PC部が連携してプロジェクトチームを作って実施することになりました。この企画により、新しい授業のあり方の模索を学校全体で組織的に取り組むことができるようになりました。

「3days」は年間3回、各3日間を授業公開日とし、年間で一人2回授業を公開し、各回一人2回以上参観することを原則としています。チームからは多様な授業方法を提示し、授業のブラッシュアップを図るために、先生方が新しい授業に挑戦したり参観したりするきっかけとしています。参観シートを教室後方に貼り、参観者は成果や改善などの感想や質問を付箋に書いて貼ります。振り返り研修会を行って情報共有したり、職員間の関係性の質を向上させたりするのも目的です。参観期間に、学習塾対象の説明会や校外の先生方への授業公開を重ねることで、校外の先生方からの意見もいただく機会にしています。

≪共通テスト分析会、東大入試問題分析プロジェクト≫

多くの生徒が国公立大学を目指している学校ですので、大学入学共通テストの分析会を教科会で実施しています。教科会は2週間に1コマを時間割に入れています。本校は中高一貫校なので義務教育籍と高校籍の教員がいますが、全員が問題を解いて、傾向や分析、対策を検討します。中学校の学習でも取り組めそうなことも共有します。

また、本校では東京大学を志望する生徒も多いことや、良問と言われる東大の問題を解くことで教員自身の授業やテスト作成力が向上することも目的とし、東大入試問題分析プロジェクトと称して「東大プロジェクト冊子」を作成しています。教員が問題を分析して教科会で検討した内容と、学習進路部で様々な情報をまとめた冊子を作成し、6年次の東大志望生徒に配付しています。これは本校で作成している「進学要覧」とあわせて、生徒・教員ともに参考にしているものです。

≪学習指導面で実践していること≫

①授業ただ教科書を説明しても生徒の心に残らないので、「なぜ?」「どういうこと?」を考える習慣をつけさせる。
本校では授業を参観できる機会が多いので、私もたくさんの授業を参観しています。生徒が夢中になっている授業やわかりやすい授業だと感じる先生方は、「なぜ?」と問いかける場面が多いです。この問いかけにより、生徒は自分事として捉えるようになるのだと思います。

②何を理解してほしいのかポイントを明確にする。
目的意識をもって学習に取り組むことで頭の中も整理できます。

③R80(アールエイティ)も活用して学んだことの振り返りをする。
R80とは、本校元校長の中島博司先生が考案した振り返り方法です。授業や行事の終わりに、振り返り文を80字以内、2文で書くのがR80です。文章を書くことへの抵抗感を軽減するだけでなく、2文目の最初に必ず接続詞を使うことによって、論理性も磨くことをねらいとしています。特に前期生は習慣化することで効果が期待できます。書く前に、ペアワークで学んだことの振り返りをすることでまとめるスピードが速くなります。後期生でも実施していますが、慣れてくると「R80」で話している生徒もいて、簡潔に話す、論理的に話す力も磨かれます。

④大切なことは何度でも言う。次の授業でも繰り返す。
⑤授業はライブ。教室は発問・意見交換の出来る空間。堂々と間違えてもよい雰囲気作りをする。
⑥入試問題研究が授業を劇的に変える秘訣。
⑦板書の工夫、プロジェクター、ICTの視覚効果は絶大。必要に応じて効果的に使う。

≪生活指導全般で実践していること≫

①「この生徒たちはやれば出来る」と信じてやらせてみる。→具体的な目標・場をあたえる

②学習面・部活や行事において、いつまでにどうしてほしいのかを生徒に具体的に示す。→達成基準を示す

③皆で(複数の生徒)で協働して考え、実行させる。→チームとしての力をつける

④成功したら具体的に褒め、失敗しても個人を責めずにチームとして修正する課題を提示する。→肯定感・ポジティブ思考

⑤教員(大人)から「ここまででいい」と基準を下げない。並木中等生の可能性は無限だと信じる

⑥個々の生徒(保護者)に寄り添う
後期生は面談を担任だけでなく、副担任や学年主任とも行い、場合によっては教科担任にも相談できる環境を目指しています。1学年4クラスの少人数だからこそできることです。
前期生は面談だけでなく、フォーサイト手帳(FCE製)も使って、担任とつながりをもちます。毎日、帰りの会で手帳に予定や計画を書き、朝の会で記録や思ったこと等を書いた手帳を担任に提出します。時間管理意識や行動計画力の向上はもちろん、教員とのコミュニケーションツールとしても有効です。この積み重ねは成長につながっています。

≪私の日々の学び・研鑽について≫

学習進路部長(進路指導主事)として生徒や先生方だけでなく、外部の方の前で話をする機会を多くいただきました。どのように話せば伝わりやすいか、どのような内容や順番にすれば興味をもってもらえるか等を意識するようになり、書籍を読んで参考にしたり、時には自分のプレゼンの様子を録画して検証したりするようにもなりました。「~分で話す」という条件も意識するようになったことは、結果として授業にもいかされました。

多くの先生方の授業を参観し、みていただいてきました。昨年度は3days時に、6年生の生徒から「日本史と古典のクロスカリキュラム授業がしたい。5年生とTO学習(Teaching others 異学年学習)してみたい」という声が出て、生徒と一緒に授業を作る経験ができました。低学年の時から様々な授業形態を経験し、「理数探究」で物事を深掘りする体験をしている生徒たちだからこそのアイデアだったと思います。

≪教育の未来について≫

私自身は、同じ学校で19年間を過ごすという珍しい経験をしています。学校の開校準備、開校、もう一つの学校の閉校、学校の転換期や発展期の時期に立ち会えています。また中高両方の校種の先生方との化学反応、発達段階の異なる生徒たちとの授業や部活動、学校行事の運営を、担任や副担任、学年主任、進路部長、そして教頭と立場や視点を変えながら経験しています。

試行錯誤しながらの勤務でしたが、先生方や生徒、保護者の方や地域の方など、多くの方の協力のもと、「チーム学校」の一員として勤務できていることに感謝しています。私自身が「こんなことをやってみたい」と企画したことを管理職や主任部長にいつも後押ししてもらえたように、生徒がいろいろなことを「やってみたい」という声があがりやすい環境を作りたいと思ってきました。これからも、前例にとらわれずに柔軟な発想で本質を大事にする本校の風土を継承し、「不易と流行」を見極め、生徒の進路実現につながる努力を学校全体で実践していきたいと思います。

私は楽器を演奏するのが趣味で、部活動では吹奏楽部の顧問をしていました。個人練習はもちろん大切ですが、アンサンブルをする時には自分の音だけでなく他の楽器の音もよく聴くことでお互いの音を調和させ、それぞれの楽器の特性をいかしながら楽譜に書いてある役割を意識すると、聴くお客さんが楽しんでくれ、演奏する人も楽しめる音楽になります。全員が指揮者でもトランペットでも打楽器だけでも成り立たないので、どの楽器もなくてはならないパートとしてお互いにリスペクトしています。

同じように、学校も「アンサンブル」をするつもりで、「生徒の成長のために何が必要か」ということを軸に、お互いの特性をいかし、どうしたらよいかを探っていきたいと思っています。生徒同士、教職員同士、教職員と生徒も「リスペクト」しあい、保護者や地域の方など関わる人すべてがお互いを尊重しながら、大きな可能性のある生徒たちが多くの経験を通して、人として成長するための仕掛けや仕組み作りをしていきたいと思っています。学校にはそれぞれのグランドデザインがあり、地域における求められている役割や育てたい生徒像がありますが、その学校に必要なことを、勤務することを楽しみながら実践していきましょう!

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