アクティブティーチャーの挑戦 第二十一回(月刊高校教育12月号)

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アクティブティーチャーの挑戦 第二十一回(月刊高校教育12月号)

熊本県立東稜高等学校
竹中京一先生

「ICTの積極的活用について」

≪熊本県立東稜高等学校について≫

本校は、1988(昭和63)年に開校した、熊本県では一番若い県立高校です。熊本市の東に位置し、校舎からは、美しい阿蘇の山々の稜線を望むことができます。これが校名(東稜)の由来となっています。朝、阿蘇の山々の稜線から昇る朝日は絶景です。

私は、東稜高校に赴任して8年になりますが、赴任したころ先生方はよく「本校は『個性ある進学校』『行事で人を育てる学校』である」と言われていました。校舎は、熊本県アートポリス構想の一環として建てられており、たいへん個性的です。天井から青空を望むことができる教室があったり、いわゆる廊下といわれる部分がなく、教室の窓の向こうはすぐ外です。教室は、生徒たちが四季を感じながら学校生活を送ることができるような、開放的なつくりになっています。

1学年は9クラス(普通科7クラス、理数コース、国際コース各1クラス)です。計27クラスで、生徒数は1000名を超えています。国際コースは、英語に加えて、第2外国語として韓国語か中国語を選択して学ぶことができます。また海外の学校との交流も盛んです。

生徒は、校訓「自律自興」「一点突破」のもと、「国家社会の有為な形成者となる」ために、日々、学業や部活動に励んでいます。穏やかで心優しく、とても礼儀正しい生徒たちです。教室によっては、黒板を美しく磨き、チョークを立ててそろえて、教師を待っています。

≪学校としてのICTの取り組み≫

○ICTに関する組織について

ICT活用については、研究企画兼情報管理部の5名とアドバイザーとしてシステム管理者の先生にも協力いただき、計6名で担当しています。全体にかかわる案件については、管理職の入ったICT活用委員会を通して処理しています。また外部からシステムエンジニアのICT支援員様に月4日間来校いただいており、案件処理を助けていただいています。さらに新たなソフト導入時などは、ICTスキルに長けた先生をアドバイザーに指名して、スムースな導入に努めています。

○一人一台端末の導入について

一人一台端末については、令和3年度にChromebookが導入されました。普通教室には同時期にWi-Fiとプロジェクターが設置されました。丁度、導入時期に、コロナ禍による休校や分散登校となりましたので、先生方には、急遽端末使用のための研修を重ねていただきました。その結果、リモート授業等を実施して、学びを止めることなく、学びの質を保障し、学びの進度を確保できました。また課題の配信、提出なども行いました。

現在、通常の授業でも、説明の視覚的補助や小テスト、課題の配信・回収などに端末を活用しています。また授業以外でも、朝の出欠確認や健康観察、連絡、行事などの配信や、家庭学習時間、生徒授業評価、学校評価などの調査等にも端末を活用しています。

○常設スタジオの設置について

配信の機会が増えたこともあり、手軽に配信ができるように、カメラやスイッチャーなどを購入し、視聴覚準備室の中に常設のスタジオを作りました。これにより複数のカメラを用いての配信が可能となりました。また字幕も入れることが可能となり、生徒への一層の配慮ができる可能性が広がりました。

今後は、現在生徒が音声のみの放送で行っているものの中で、映像もあったほうが良いものに関しては、映像付きで放送ができるようになればと思っています。

○生徒掲示板の設置について

現在、Miroを用いた生徒掲示板の設置を目指しており、この運用が開始されると、これまで教室にあふれていた多くの掲示物がある程度整理され、また掲示物を見るために生徒が集まるような密を避けられると考えられます。また遅刻した生徒や欠席の生徒も端末から閲覧するだけで、その日の連絡事項が正確に取得できるようになると考えています。

さらに先生方の連絡用紙の印刷や配布の時間が削減できることも期待しています。しかし扱うソフトがまた一つ増えるため、先生方にMiroの操作をマスターしていただくための時間的負担が増えてしまうことになります。

○学校行事の保護者配信について

大きな学校行事開催時期とコロナ感染者数のピークが重なり、保護者の観覧がかなわない時などには、動画の配信を行っています。常設スタジオの機材を使って複数台のカメラをスイッチングしながら、webexやYouTubeなどのプラットフォームを用いて行っています。

≪スマホダイエット≫

○「スマホダイエット」とは何か

「スマホダイエット」と名付けた取り組みを実施しています。目標は、生徒がスマホの適切な利活用を身に着けること。コンセプトは、生徒が自分たちで、自分たちのために、自分で主体的に取り組むということです。これからの生徒は好むと好まざるとにかかわらず、端末と、どのライフステージにおいても付き合っていかなければならないので、「スマホダイエット」の建て付けを、スマホ使用を一禁止するもの、否定するようなものにはしませんでした。ですから、ダイエットなのです。

具体的な取り組みは、定期考査前に、風紀委員が、適正利用について、全校放送や教室での終礼時に呼びかけたり、保健委員が保健の観点からスマホ利用に関するポスターを作成し、生徒昇降口などに設置したり、図書委員がスマホの不適切使用に関連する本をコーナーとして設置するというものです。また教師側は、生徒の活動を援護する形で、「スマホ考」というスマホ通信を発行しています。

○「スマホダイエット」の成果

「スマホダイエット」の期間の後に生徒にアンケート調査を行います。調査には、感想を書く欄もあるのですが、その中に「自宅学習時間中にLINEが来たりすると返さなければならず集中を切らすことがあったが、期間中はそのような着信がなくなって助かった。」や「スマホの使用時間が減った分学習時間が増えた。」などの取り組みに関して肯定的な意見が多くみられました。

私自身も生徒によく「夜中に送信してきてすぐに返さないことが失礼なのではなく、夜中に送信することが失礼なのです。社会人としては非常識。親しき中にも礼儀は必要。」と話しますが、情報モラルをダイエット期間中に感じたり考えたりしてもらえることを望んでいます。相手のコンディションを考え、感じることができる人になってほしいのです。

また学年が上がるにつれて、当たり前かもしれませんがスマホの使用時間が減少する傾向がみられます。3年生に上がると、スマホをいわゆるガラケーに変えたり、スマホを親に預ける生徒も毎年散見されます。

ただこの「スマホダイエット」の取り組みに対しては、極少数ではありますが否定的な生徒がいることも事実です。このような生徒にどのように対応していくか、また学力向上にこの取り組みをいかに結び付けていくかが、この取り組みが定着しつつある今、課題となっています。

生徒が生徒自身で、生徒のために取り組まなければ意味をなさないので、今後は、これらの取り組みを統括するような生徒ICT活用委員会(仮称)を設置して、生徒たちが考えた、生徒たちの身の丈に合った発展的取り組みが、ゆっくりでよいのでできればと個人的には考えています。

スマホを適切に扱う能力は、生涯にわたって必要な能力であり、私の年代とは違う時代を生きていく生徒たちですので、是非これから先のことも生徒自身に考えさせたいと思います。

≪先生のICT活用について≫

○家庭学習時間調査の実施

以前、家庭学習時間調査は、生徒に用紙に記録して提出させ、担任の先生がチェック・集計して返すという形で行われていました。その後、Classiを用いて調査を行うようになりました。しかし、昨年度いっぱいでClassiの利用を本校はやめて、Chromebook端末に一本化したため、現在は、Googleフォームを用いて日々行っています。家庭学習時間の他に、読書時間やスマホ利用時間も調査しています。紙の時代に比べると、アッという間に集計ができてしまうので驚いています。

○自動採点システムの導入

自動採点システムについては、昨年度中盤より、「デジらく採点2」を導入し、採点業務にかかる労力の省力化を図るようにしています。特に観点別評価が導入された学年においては、採点が完了した時点で観点別評価項目の採点・集計も完了し、観点別評価の集計作業にかかる時間短縮とミス防止につながっています。

また一文字の記号やアルファベットは自動で採点できるため、その分、記述部分に時間をかけることができるようになりました。記述の同一問題を並べて採点できるのが良いという意見もあります。さらに問題別の正解率を出すことができ、答案がPDFで残るので、事後の分析・検証がたやすくなり、次年度の作問の改善にもつながります。

「デジらく採点2」については、昨年度より研修を重ねてきました。本年度から本格導入になり、必要性を感じられた先生、有益であると感じられた先生から徐々に浸透していけばと考えていたのですが、おかげさまで、すでに多くの教科で使用していただいています。

○複合機の導入

「デジらく採点2」の導入に伴い、大量の答案をPDF化するために、新たな機器の導入に迫られました。検討の結果、カラー複合機を導入しました。答案のPDF化のほかに、副産物として、印刷物のカラー化が可能となり、生徒にはより分かりやすく見やすいプリントが配布できるようになりました。

またこれまで試験問題の印刷の際には、輪転機で印刷して、それを帳合し、織り込んで、点検することが必要で相当時間がかかりました。しかし、この複合機は、データを送信するだけで、短時間で帳合までされた形で出てくるため、試験問題の印刷時間が大幅に短縮されました。

≪2つの表彰について≫

○文部科学大臣賞

昨年度、「スマホダイエット」などICT化の取り組みを評価していただき、IPA情報処理推進機構主催 第17回「広げよう情報モラルセキュリティーコンテスト」2021 学校活動事例部門「スマホ利用適正化の関する校内啓発活用」において、文部科学大臣賞をいただきました。

表彰式の際は、理事長の富田様より講話をしていただき、それをまとめたものを、新聞にして全校生徒、保護者に配布しました。また今年度の入学生にも配布し、情報モラルについて勉強してもらっています。

○教育の情報化優良校認定

本年度、日本教育工学協会より、先生方のICTの利用状況とスキルの向上が評価され、教育の情報化優良校の認定を受けました。学校のICT導入は、一斉に一括でやらないと中途半端では余計負担が増えるだけだと実感することもありました。やはり一人の百歩より、百人の一歩が大切なようです。急速に進んだICT利活用促進に協力していただいた本校の先生方の熱意とスキル取得能力に感服し、感謝するばかりです。

また先日は、読売新聞全国版でも、本校の取り組みを取材いただき、「教育ルネサンス」に掲載していただきました。

≪ICTに関して東稜高校が目指すもの≫

今後のICTの積極活用については、暗中模索の状態です。目の前の課題に対応することで精一杯であるというところが正直な気持ちです。ようやく今年の6月に、ICTの3か年計画を考えてみましょうかと部会で提案したところです。

今も他校を訪問し勉強させていただいている状態です。またIPA様をはじめ多くの方々からアドバイスをいただき、ICTの利活用を推進しています。管理職の強力なリーダーシップのもと、コロナ禍で見通しがきかない状況の中、生徒の学力保障、進路を実現したいという先生方の生徒への熱い思いで、急速にICTの利活用が進んできました。生徒もよくついてきたと思います。

実現可能かどうかは別として、個人的には、授業や長期休業中の課外のオンライン化・オンデマンド化、保護者の希望によっては三者面談のオンライン化、通知表の電子化、ソフトを使ったキータッチ時間の徹底した短縮、二重業務の削減、ルーチンワークのICT化、不登校生徒へのICTを用いた補助的支援、部活動のICTの利活用による強化、近隣の大学とのICTを活用した連携など、考えていることは多々あります。

企業や大学との連携の拠点となるICTマルチルームの設置なども計画しておりますが、資金もないので、できるところから少しずつでも進めていければと思います。

ICTの利活用によってもたらされる恩恵を生徒に還元し、同時に業務改善が進められればと考えます。特に今年度は、ペーパーレス化を進めたり、自動採点システムの本格導入など業務改善を試みたり、先進県の取り組みを勉強させていただいています。

全体像としては、ICTの利活用の発展が新たな東稜高校のセールスポイント、魅力化につながればと考えています。ICTの利活用による学力向上、進路実現その延長線上にある、地域からの信頼の獲得が安定した生徒募集につながると思います。ただICTの取り組みも、開校の精神である、国家社会の有為な形成者の輩出につながる取り組みの一つであるとする、この原点を忘れないようにしたいと思っています。

≪情報管理関係の先生方へのメッセージ≫

私自身は、ICTに関しては、まったく詳しくもなくスキルもありません。簡単なことしかできません。研究企画兼情報管理部の先生方に、研修の際には、私が分かるように詳しくゆっくりと丁寧にお願いしますと言っています。

やっとガラケーからスマホに変えました。しかし研究企画兼情報管理部、システム管理者の先生方が、高いICTスキルとそれぞれネットワークや端末、情報モラルなど各分野の高い専門性を持ち合わせておられて、非常に優秀ですので、助けていただき、何とかやっています。またアイデアを出すと素早く実現していただけます。

研究企画兼情報管理部長となりましたが、何のスキルも経験もなく、PCは苦手でした。本校や他校の先生方や外部の業者様など多くの方々に助けられてきました。県で行われる研修会もたいへん役立っています。ICTスキルは必要に迫られたことを学んでいます。しかしよく忘れます。なかなか身につきません。3歩進んで2歩下がるような状態です。

また、私自身ICT化には常に懐疑的で、今でもそうです。ICT化にアクセルを踏む立場ですが、ブレーキを考えてしまいます。ICTは、距離と時間を超えるという長所を持って海外の学校との交流などができる反面、簡単に内面やプライベートを超えてきます。高校生である生徒には、孤独と向き合う、自分と向き合う時間も大切ではないかと思います。

あるアンケートの調査結果で「SNSはいつでもどこでもつながりあえて、悩んだ時もすぐに誰にでも相談できる」とありましたが、他者が自己の内面に介在しなければ、精神的安定を保つことできなくなることにつながるのではないか心配です。基本は、自助・共助・公助ではないかと思います。

またICTの利活用により不登校生徒に対応できる可能性がある一方で、スマホ依存で学校から足が遠のく生徒も出てくる可能性があると考えます。このことについて勉強するために、スマホ依存防止学会(PISA)認定の「スマホ依存防止アドバイザー」の資格を取得し勉強しています。実際に私もスマホ依存が疑われる生徒とかかわったことがあります。スマホ依存は、病識がなく、その気になればいつでもスマホから離れられると思われている点が大変厄介であると思います。私が生徒のスマホ使用に関していかに懐疑的かわかっていただけると思います。

ICTの利活用能力が乏しい私が言うのは憚られますが、光と影を意識しながら、ICTの利活用を進めなければならないと常に考えています。生徒が端末の扱いに長けることが目標ではないし、教師のICTの利活用能力は、教育技術の一部分であると思います。他にも大切なことがたくさんあるような気がしてなりません。ICT化していいものと、ICT化してはいけないもの。ICT利活用の哲学が必要ではないかと思います。

端末が導入されて、管理・運用・生徒への指導・研修・諸調査それに付随した業務が大量に発生しましたが、それを処理するための人や時間は圧倒的に不足していると思われます。増えた業務の分、何か業務が引き算されているといったことも見当たらないように思います。

そのような中で、生徒のために、日々、様々な工夫を重ねて、献身的に情熱をもって教育に取り組まれている全国の先生方に、是非、ご指導、ご鞭撻を賜ることができれば幸いです。

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