アクティブティーチャーの挑戦 第十三回(月刊高校教育4月号掲載)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第十三回(月刊高校教育4月号)
熊本県立八代清流高等学校
豊田拓也先生
「観点別学習状況の評価の取組について」
≪国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業について≫
○研究指定校になる経緯
本校は、県内唯一の進学重視型単位制高校として、多様な学校設定科目を設定しており、個々の進路目標に応じた学びの環境づくりを目指してきました。素直で心優しい生徒が多く、落ち着いた雰囲気の学校です。しかし、学習活動面、特に、自ら意欲的に学ぼうとする姿勢を育むことが学校全体の課題の一つでした。
令和4年度から始まる高等学校学習指導要領では、学習状況を3つの観点で評価を行うことが示されました。これは、指導と評価の一体化という視点で、高校における学習活動全体について、生徒の学び方、そして私たち教師の指導について、改めて見直す好機である、だから、国研の研究指定校事業の取組は本校の更なる教育の質の向上につながると考え、申請の運びとなりました。
○研究の内容について
研究指定は、令和2年度と3年度の2年間であり、研究の内容は主に次の3点でした。
◆指導と評価の計画(単元シラバス)作成とそれに基づいた授業の実践
1年目:数学Ⅰおよび数学Aの全単元を試験的に作成
2年目:数学Ⅱ、B、Ⅲ(C)の作成。加えて、数学科の取組を参考に
令和4年度1年次生の開講全科目の単元シラバスの作成(全教科)
◆思考力・判断力・表現力等を育むための数学的活動を含む授業の開発と実践
授業での学習教材、レポート課題、単元テスト、定期考査において思考力・判断力・表現力等を育むことを目指した授業・教材を作成し実践
◆観点別学習状況の評価および評価の総括について具体的な方法の検証
3つの観点をどのように評価し、それをどう蓄積し、観点別の評価や評定をどのように算出していくかの研究
○研究の成果について
◆学習目標を明示しながらの授業実践の継続
以前、ある研修において「先生方は授業の目標を『何ページまで進む、この問題まで進む』としていませんか?」と問われたことがあり、はっとした経験があります。進度重視の授業計画から「この学習活動を通してこのことを生徒たちができるようになってほしい」という学習目標を明確にした授業実践を行うようになり、よりよい授業デザインを考えることにつながっています。
また、「目標」があってこそ「評価」ができる。目の前の生徒たちが「おおむね達成できてほしいこと」とは何か(これをB評価とする)がその授業での学習目標となり、さらにもっとどんなことができるようになってほしいか(これをA評価とする)を考える。それらの評価項目を生徒たちに事前に示し、学習後には自己評価をさせることで、生徒が自らの学びについて振り返ることができる。同時に、私たち教師も指導過程を振り返り、指導の改善につながるということに気づかされました。
◆観点別学習状況の評価(以下「観点別評価」と略記)及び評価の総括の課題整理
実践の現場で具体的にどのように評価をしていくかについて、試行錯誤しながら、ある程度の具体的な形を作ることができました。ただ、実際に行うなかで、こちらの想定する評価の結果とは異なることが多いのも実情です。実際に実践を続け、修正しながら取り組んでいくことが大切であると考えています。
各校で取り組む際にも、実践の過程では、解決すべき課題がいろいろと出てくると思います。本研究を通して、観点別評価及び評価の総括には、ICTをうまく活用することは、その課題解決の一助となるということも分かりました。
◆「主体的に学習に取り組む態度」の評価の具体的方法(案)の提示
皆さんが一番悩んでおられるのが、この評価だと思います。ポイントとなるのは生徒自身が自分の学びを振り返ること。そのためにどんなツールを活用するか、その「たたき台」を今回の研究報告では提案できたのではないかと考えています。ただ、「学習活動ポートフォリオ」については、もっと素晴らしい実践をされている方も多いでしょう。あとは、それを「どう評価するのか」を具体化すること。ただ、初めからうまくいくわけではなく、実践を重ねながら修正・改善を行い、より良いものを考えていくことが重要です。
◆学校全体での「観点別評価」「総括」実践への動き
研究の目的の一つは「数学科の取組を他教科の実践に活かしていく」こと。難しいと思われている「パフォーマンス課題」や「レポート課題」、「ポートフォリオ」の具体的な評価方法、主体的に学習に取り組む態度の評価方法については、外部指導者を招き職員研修を実施。その研修での学びを基に、すべての教科担当で観点別目標の設定とそれを見取るための具体的な取組と評価について考えてもいました。
また、令和2年度から定期考査の中に、思考力問題を組み込みました。令和3年度には、これまでも実技科目における「パフォーマンス評価」の実際を全体共有する機会を設けたり、令和4年度の1年次生開講科目の単元シラバスを作成していただいたり、3観点の割合と具体的な取組を設定し、試験的に観点別評価をやってみて課題を洗い出してほしいと依頼したりと、少しずつ、学校全体としての準備を進めてきました。管理職の先生方もこの研究の必要性・重要性について、折に触れてお話してくださったこと、先生方もそのことを理解し、研究に関する様々な取組にとても協力的であったことで、学校全体を大きく進めることができました。
★国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業の研究成果については、
熊本県立八代清流高等学校のホームページに掲載してあります。
https://sh.higo.ed.jp/yatsusei/
≪思考力・判断力・表現力を育む教材や授業の開発≫
○学習目標の明示
指導と評価の計画(単元シラバス)を作る過程がとても重要。学習指導要領を基に、目の前の生徒たちを思い浮かべながら、その学校独自の3観点の目標の設定と、それらをどのタイミングでどのように実践評価するのかを考え、形にすることが大切です。
各授業の目標を明確にすれば、B評価の目標とする。さらに、もう少しここまでできてほしいという目標をA評価の目標とし、B評価の目標が達成できていなければC評価とする。毎時間の評価は現実的ではないので、小単元ごとにポイントとなる授業や学習活動について評価をし、それらを蓄積していくことになります。
○教材の開発について
これまでは知識・技能の習得を目指した指導観に偏重していたと反省しました。観点別に評価するためにも、まずは学習内容について観点別に分類するということから始めました。これからは、各学校・各教科において、何が身に付けさせたい知識・技能なのか、何が身に付けさせたい思考力・判断力・表現力等なのかをより具体的に考えておくことが大切になります。
生徒の実情に合わせて単元シラバスを作成することで、それらが整理されていきます。単元シラバスができれば、授業担当者間での指導観の目線合わせになるし、生徒もこの課題はこの観点で評価されるのだと明確に分かるため、学習の改善や指導の改善にもつながっていきます。新しい学校に異動や赴任した際にもその学校の指導方針を理解するのにとても有効なものとなります。
数学科としての実践では「複数の解法を考える」ことや「学習(習得)内容を他の課題解決につなげる」ことが「思考力・判断力・表現力等」の育成につながると考えたため、それらを意識した学習課題の1つとして「レポート課題」を考え取り組ませました。
○考査問題の工夫
考査問題の作成では、その考査で問いたい内容を整理し「これは知識・技能、これは思考・判断・表現」と分類する。「知識・技能」の確認は従来までの問題に近い形で問うことができるでしょう。一方「思考・判断・表現」を問う問題は、素材を決め、どうすれば生徒が思考し、判断できるかについて問い方を考えて出題してきました。
具体的には、複数の学習内容を組み合わせた問題、課題解決の過程を問う問題、日常や社会の事象に関わる問題、複数の視点で課題を捉える問題など、生徒の思考する力を問う問題を出題。
基本的な問題でも、「判断力」を必要とする問題で難易度を調整することも可能(正しいのはどれかなど)ですし、記述式での解答は「表現力」も求められます。根拠や理由が明確に表現できているかということでも評価が可能です。
これまでは、難易度だけを意識して問題を並べていましたが、2つの観点を問うことを考えながら配問。問いたい「知識・技能」の問題を先に並べ、同じ題材で問い方を変えて「思考・判断・表現」の問題を作問するのも一つの手。特に「知識・技能→簡単、思考・判断・表現→難しい」とならないように出題することを目指しています。
○「主体的・対話的で深い学び」の実践
学習目標を明確にした授業実践を行うと、次は「どのように学ぶか」という視点で授業をどう構成するかを必然的に考えることになります。講義説明をするのか、資料を見て理解を促すのか、課題に向き合い個人思考するのか、他者と意見を交換しながら考えるのか、グループで協働して課題を解決するのかなどです。
教材と指導目標によって、より生徒自身が考えて理解し、知識や技能を習得し、より深く思考できる学習活動を考えることにつながります。学びの主体は生徒であり、そのためにどのような学習活動(授業)を展開するのかを、常に考えています。
よく行うのがペアでの言語活動です。数学の課題を「概念・解法・計算」に分解し、特に「解法」については、隣同士で「どうやるの? 何をつかうの? なぜ?」と問い合うことで、より解法の理解と習得につながると考えています。また、個人でじっくりと課題と向き合う時間も数学では大切です。それも「思考力」を育む活動の一つです。
学習プリントの工夫やデジタル教科書の電子黒板表示を活用して、説明をコンパクトにして、生徒が課題に取り組む時間を増やす工夫も積極的に行っています。
≪観点別評価について≫
○まず出来ることは何か
観点別評価でまず出来ることは、考査問題にタグ付けをしてみることです。考査問題は、先生方が生徒たちに「これはできてほしい」という思いがいっぱいに詰まったお手紙と、その返事のようなものです。それらが、知識・技能を問う問題なのか、思考・判断・表現を問う問題なのかを考えてみて、タグ付けをしてみてください。
そして、「〇〇を教える」という授業目標をもう一歩だけ考えて、「〇〇を教えることで、生徒が◇◇ができる(説明できる)ようになる」という目標にしてみることが大切です。さらに、それはどの観点につながるのかを考えるのです。
○観点別評価の準備
観点別評価の準備として、年度当初に出される、または、学校経営案に掲載される「学校の教育目標」や教科の指導目標も確認しましょう。教科の目標の設定がない場合や、その目標が観点別になっていない場合は、教科会等で整理していきましょう。
次に、単元の学習に入る前に、学習指導要領の観点目標を確認することです。簡単な授業計画表(できるだけ指導と評価の計画)を作成し、各授業(各セクション)の目標を決めていきましょう。これが、観点別評価の準備となります。
○観点別評価の計画
学習活動の前に、評価の計画を立ててください。つまり「何で見取るか」を定めておくのです。学習のまとまりごとに、できれば3つの観点を評価する場面とその方法をあらかじめ計画しておくことが大切です。そして、ICTも活用しながら、評価のデータを蓄積してください。
○思考力・判断力・表現力の評価
思考・判断・表現の評価については、学習してきた知識や技能を用いて、課題を解決する学習活動を設定し、その成果物を見取るようにしました。例えば、小単元テスト内で思考・判断・表現を問う問題を設定して評価したり、時間をかけて取り組む「レポート課題」で評価したり、定期考査の問題で評価したりしています。
○主体的に学習に取り組む態度の評価
体的に学習に取り組む態度の評価
新しい学習指導要領では、3つ目の観点である「学びに向かう力・人間性等」については、「主体的に学習に取り組む態度」として評価することが示されています。「主体的に学習に取り組む態度」は「粘り強い取組を行おうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」の2つの軸で評価を考えるとより具体的となりわかりやすくなると思います。
「学習課題への取組」は、「粘り強い取組を行おうとする側面」で見取ります。例えば、授業中に見取る場合、概ねできていればB、発展的課題まで取り組んでいる姿勢が見えればAと評価する方法があります。「レポート課題」も「粘り強い取組を行おうとする側面」で見取るとよいでしょう。
「自己の学習活動の振り返り」については、「自らの学習を調整しようとする側面」で見取ります。例えば、自分の課題点(分かっている・分かっていない)を明確化できたらB、その課題点を解決するための行動ができていたらAと評価することができます。具体的な取組としては「学習活動ポートフォリオ」や「自己評価アンケート」「定期考査・模試・単元テストなどのやり直し」を利用しています。学習の振り返りや自己評価についてはWEBアンケートを活用しデータを蓄積しています。
○評価へのICTの活用について
特に「評価の蓄積」に関しては、ぜひICTを活用してほしいと思います。GoogleのClassroomを活用すれば、簡単にルーブリックで評価し、各評価の総点をデータとして自動的に保存できます。ルーブリックのICT化が進めば、使い回しや改善が容易にでき、ポートフォリオとしての活用も可能になります。
また、課題や成果物をデジタルで回収すれば、現物は生徒の手元に残り、回収や返却の作業も減ります。もちろんペーパーで書いて学び、提出することも大事な教育活動の一つです。しかし、提出された課題の出来具合を確認しながら評価し、教務手帳に記録し、それをデータベースに打ち込むという作業を無くすことができ、業務改善にもつながります。
★国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業での「観点別評価」の研究成果については、熊本県立八代清流高等学校のホームページに掲載してあります。
詳しくは、令和3年度の発表スライド資料をご覧ください。
https://sh.higo.ed.jp/yatsusei/
≪ミドルリーダーの先生方へのメッセージ≫
アラフォー世代の私たちは、経験豊富なベテランの先生方とエネルギーやアイデア溢れる若手の先生方の「架け橋」となれる世代。高校教育の現場がスムーズに回るための潤滑油となれる世代ではないでしょうか。これからの新たな学校づくり、教育づくりの名ファシリテーターとして学校現場を支えていきたいものです。
これまで、先輩の先生方からは「教師として大切なことは何か」について多くを学んできました。一方、これからの新たな教育の形を大学で学び、自ら経験もしてこられた若い先生方の教育観と実践力を目の当たりにすると、自分たちのこれまでの取組を改めて見直すきっかけになるものです。私たちの世代は特に教育の「不易と流行」とは何かについて考えることが大切であり、学校・職場の抱える課題もより感じやすいものです。目の前の生徒たちにとって、何が大切で重要なのか、どうすれば課題を解決し、先に進めるのかを提案し実現していくことが、私たちミドルリーダーと言われる世代の役目ではないでしょうか。
それぞれ、主任主事や管理職への登用など、学校の全体運営に関わる機会も増えてくると思います。これまで学んできたこと、積み重ねてきた知識や経験を活かし、これからの新しい教育の形を創造できる大きな力を持っている。それぞれの立場で、未来を担う子供たちが力強く育つような、ステキな教育現場を皆で一緒に作りましょう。