学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第1回(月刊高校教育2025年4月号)

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
学びのリレー 未来に向けて学び続ける先生たち 第1回(月刊高校教育2025年4月号)
西武学園文理中学・高等学校
四十万俊幸(しじま としゆき)先生
「学びを深めるためのハイブリッド型研修」
西武学園文理中学・高等学校について
本校は、1981年創立の男女共学の中高一貫校です。所在地は、埼玉県狭山市です。本校の建学の精神は「学識と技術の錬磨」「報恩の精神」「不撓不屈の精神」、教育方針は「すべてに誠をつくし最後までやり抜く強い意志を養う」です。
本校には、アカデミックチャレンジクラス、アカデミックマルチパスクラス、デュアルクラス、クリエイティブクラス、スポーツクラス、先端サイエンスクラスと、令和7年度開設のアートクラスがあります。このように、多岐に渡るクラスの設置によって、生徒の目指す進路実現をサポートしています。
また、豊かな国際感覚を涵養し異文化理解の態度を育む国際教育、課題の設定や計画の立て方を学ぶ探究学習、生徒主体の実践型教育に力を入れ、非認知能力の育成も兼ね備えた「新しい進学校」を目指しています。生徒の多くはクラブ活動に所属しており、積極的に物事に取り組む様子が見られます。多くの生徒が大学進学を希望しており、学習とクラブの両立に取り組んでいます。
≪ガチ・プロジェクトについて≫
令和6年度から課外活動として生徒が主体的にリアルな社会とつながる実学教育 Practical Education「ガチ・プロジェクト」を導入しました。令和6年度は、アントレプレナーやハロウィンイベントなど10のプロジェクトを用意し、希望者を対象にして土曜日を中心に実施しました。どのプロジェクトも生徒自身が中心になってカリキュラムを構築し、社会の第一線で活躍するプロフェッショナルを講師として迎えるなどしています。教員は、メンターとして生徒の活動をサポートしています。
この活動は、「課題を調べ、プレゼンすること」だけにとどまらず、チームで問題を解決するために、プランからアクションへと実際にやりきるものです。生徒は実際に社会人とともにプロジェクトの運営をガチで担い、それを実現していく、まさに本物の実践的な教育プログラムなのです。
活動の中で、学校カリキュラムの正規科目の中だけでは身に付けることが難しい、非認知能力と呼ばれるグリット(粘り強くやり抜く力)、レジリエンス(困難をしなやかに乗り越える力)、責任力など社会で活躍するために役立つ力を身に付けることができます。また、プロジェクトの中で、「失敗」も肯定的にとらえ、「振り返り」を十分に行うことで、次なる挑戦へとつなげていくサイクルへと進めています。このプロセスを通して、生徒は「自信」や「主体性」を身に付け、大人からの指示を待つことなく、自分の意思で判断し、行動に移すことができるようなってきました。
例えば、アントレプレナーでは、学校内のカフェテリアの開業や、大学受験に向けた学習サポートセンターの企画・運営を計画しながら、学校内における会社設立を目指しています。実際に融資を集めるために、企業の社長たちを前にプレゼンを行ったり、学園の理事とも交渉したりしています。
ハロウィンイベントでは、市の商工会議所と連携し、実際の企画・運営に携わり、約3,000名の来校者を迎えるイベントを成功させました。イベントは大成功に終えることはできましたが、待ち時間をどのように解消すべきかなど、課題も発見することができたようです。
ドラマ・映画収録プロジェクトでは、ドラマやCM収録を誘致し、制作会社と連携しながらスタッフサポートからエキストラ出演に至るまで、真の作品制作を体験しています。また、校則改正プロジェクトにいたっては、生徒・教員だけでなく、保護者も巻き込んで様々な視点から考えながら、一緒に作成を手がけています。
このような活動を通して、「行動すれば実現できる」ことを実感し、自分自身で新たなプロジェクトを発想し、活動を始める生徒があちこちで出始めることを期待しています。
≪学びを深めるためのハイブリッド型研修について≫
私立校には教育委員会等が主催する定期的な研修会に参加する機会がほとんど存在しません。また、公立校のように定期的な転勤もないため、新卒から定年まで同一校にて勤務することは、それほど珍しいことではありません。
そして、教員の一日はとにかく忙しく、自分から「学び」を深めようとしても、授業やクラス、校務、会議、クラブ活動、保護者対応など、多岐にわたる業務があり、外部へ出て研修を受けることは、たやすいことではありません。
そこで本校では、株式会社FCEのFind!アクティブラーナーの動画研修を校内研修として取り入れています。教科に関することだけではなく、コーチングや生徒指導、保護者対応、コンプライアンスなど、組織の中で教育活動に従事するために必要な知識やスキルを体系的に身に付けることを期待して導入することにしました。勤務年数によって、適切な研修内容をプログラムとして組み入れ、教員としてのキャリアをスムーズに築くために、段階的な研修内容を検討し、実施しています。
教育活動の中において、各学校の伝統や習わしによる慣例や、各々の教員による経験や感覚を頼りに生徒・保護者への対応に当たったり、指導に当たったりしてしまうケースが少なくないと思います。また、職員会議などで教員同士が協議する中においても、互いの教育観や信念、前例という凝り固まった決まりが妨げになり、「生徒への向き合い方」において適切な判断にたどり着かないことも、残念ながら珍しいことではありません。
研修の目的は、教育活動に必要な様々なトピックに焦点を当て、その分野の知識を深めるとともに、そのテーマを基にした「知識の共有」や「異なる視点や発想への気づき」を促し、それを基に意見交換をするためのコミュニケーションにあると考えています。
研修の年間計画では、年間を前期・後期に分け、さらに前後期を2回ずつ分割することにより、大きな負荷をかけずに継続的に研修に取り組めるようにしています。個人としては、動画を視聴し、そこから学んだ内容をリフレクションシートにまとめ、提出します。単に視聴するだけでなく、リフレクションシートに入力することで、学んだことを言語化し、知識として定着する効果が期待できます。
その後、対面研修としてグループを作り、「学び」を共有します。そのコミュニケーションの中で、自分の視点や価値観になかったことに気づけるなど、新たな発見をすることができます。最後にグループの代表が全体に話し合ったことを発表することで、さらに共有を広げることができています。
また、動画の内容をどのように「現場の業務」で活用することができるか、まで徹底的に議論することで、学んだ内容を「自分事」として実際に役立つものへと変容させることができます。このように、トピックを基に協議することで、自分の感情や経験ではなく、スキルをベースにした「客観的な質の高いコミュニケーション」を生み出すことができています。
実際の教育現場での課題について、スキルや知識をどのように活用することができるか、仲間の知恵や視点を加えながらさらに良いものへと工夫できるか、この「オーセンティックなコミュニケーション」こそが、教員研修の真の目的だと思います。そのコミュニケーションの中で、「悩んでいること」や「先進的な取り組み」を共有することによって、チームとしての仲間意識を醸成することも狙いの一つなのです。
年間2回実施するグループディスカッションのグループ作成においても工夫をしています。前期は、同世代のグループを組み、相似性のある関係性の中で、チーム意識を高めています。一方、後期はグループを世代でミックスした形態に変えています。その意図は、「横の関係」だけでなく「縦の関係」もより連携を強めたいという思いにあります。若手からベテラン教員では「情熱・経験・知識・技量」など、様々な観点で違いがあります。ベテランにおいても経験が十分にあるが故に、「教員を志した時の情熱」などが薄くなってしまうシチュエーションもないとは言えません。この世代ミックスのグループディスカッションを行うことで、「多様の中でこその気づき」や「世代を超えた組織力の構築」を目指すことができると期待しています。
このように「目的を設定したコミュニケーション環境」を創出し、「チーム一丸となった教員集団」を構築するために、動画視聴研修と対面型コミュニケーション研修によるハイドブリッド型研修を実施することにしました。
研修を終えた後、教員からは以下のような肯定的なメッセージが届いています。
・今まで気づかなかった知識や考え方を身につけることができた!
・グループディスカッションの中で、様々な視点・価値観に気付けた!
・先生たちとまとまって話す機会を持つことができて、楽しかった!
・他のトピックにも興味を持つことができた!
・学校の文脈での効果的な活用を意識することができた!
≪私の日々の学び・研鑽について≫
私は業務の傍ら、大学院で英語科教育法TESOL(第2言語習得)の研究をしており、その中でもTask-Based Language Teachingの効果的な活用をテーマとして取り組んでいます。これはタスクを通して、知識や思考力を深めながら、英語の言語活用能力を自然な流れで身に付けていくというアプローチです。
タスクの中では、コラボレーション(協働的な学び)を通して、グループで言語を活用しながら内容を伝え合わなければならないコンテクスト(文脈)を用意することで、タスクを完成させる必要があります。また、アセスメント(評価)を互いにする中で、「自分の達成できたこと」と「不足していること」を把握し、次の学びへとモチベーションを上げていくことへとつなげます。
この研究を通して、英語教育だけではなく、教員研修に応用できるのではないかと考え、今回紹介した研修構築のヒントになりました。いかにしてスキルを高めながら、意欲的にコミュニケーションに取り組む環境を作ることができるかは、やはり目的を備えたタスクを準備していくことが効果的であると考えています。
また、私は埼玉県私学英語研究会で幹事として活動を広げたり、様々な研修の中において情報交換をしたりしながら、様々な情報や新たな視点、考え方を吸収することを意識して行動しています。元々、日本史にも深い興味があったことから、歴史小説や自伝書、NHKの大河ドラマなどを中心に視聴する中で、様々な気づきを得ているようにも感じています。特にお勧めの本は、司馬遼太郎氏の『龍馬がゆく』や『坂の上の雲』、稲森和夫氏の著書です。その中で「どうしてその志を持つようになったのか」や「どのようにして目的を達成したのか」に着目し、自分の置かれた状況での活用の仕方を考えるようにしています。学校外の研修会への参加や、歴史や書籍から学ぶことで、日々の仕事に関する大きなヒントを得ています。
≪教育の未来について≫
VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と呼ばれ、何が正しくて自分にふさわしいのかを判断することが非常に難しい時代になりました。その中で、生徒が自分らしい人生を実現するためには、「自分の信念」を持ち、「多種多様なものの見方」や「多様な価値観への受容性」、「ホスピタリティ(寛容性)」を身に付けていくことがとても大切です。
教科教育の中で学ぶ知識を始めとした「認知能力」と、様々な体験や感動を通して得られる「非認知能力」を有機的に結びつけたハイブリッド型の教育が、これからの日本の社会を支え、世界に貢献していく若者を育てるために不可欠です。また、自分の人生にウェルビーイングを感じることができ、社会にそれを普及させていきたいと思えるような、ホスピタリティあふれるタフな人材を輩出していくことが、これからの学校の大切な役目となるでしょう。
未来の社会を担っていく若者を育成していく「教師としての仕事」は、たいへんやりがいのある、意義のある仕事だと思います。教育のアプローチは、時代によって変化することもありますが、「教育の本質」は変わらないはずです。「生徒を幸せに」、そして「育った生徒が社会を幸せに」、そのサイクルを支えていくことが、教育そのものだと考えています。
教師自身が学び続け、知識や考えを常にアップデートし、チャレンジし続ける姿によって、生徒に良い影響を与えることができます。そして、教師が楽しんで、幸せな状態でいることで、生徒に「大切なこと」を伝えられます。そのためには、教師自身が職場の中で安心して学び合い、様々な意見を共有し合える、そのような環境を整えていくことが大切です。教員同士がお互いに信頼し合い、安心して意見を言い合える関係性を構築することで、生徒や保護者にも安心感を与え、生徒もより活き活きとした学校生活を送る風土を醸成できると確信しています。
大きな変革を迎えている教育の中で、教師自身も新たなチャレンジをし、仲間とともに、これからの未来を創っていく生徒を育成していきましょう。