アクティブティーチャーの挑戦 第二十回(月刊高校教育11月号掲載)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第二十回(月刊高校教育11月号)
大宮開成中学・高等学校(一貫部)
越阪部 晋 先生
「手帳の活用」
≪大宮開成中学・高等学校(一貫部)について≫
本校は、埼玉県さいたま市大宮区にある、中高一貫教育を提供する私立中学校・高等学校です。昭和34年に大宮開成高等学校(普通科・商業科・家庭科)が創立され、平成17年に中高一貫部が開設されました。大宮駅の近くにありながら、緑豊かで広大な敷地を擁し、学校付近にある大宮第3公園では自然観察をすることができます。
校訓には、「愛・知・和」を掲げています。自分だけでなく他者も幸せにする行動(愛)。豊かな知識・知性に基づく的確な判断(知)。この能力をバランスさせ、70億の他者を認める(和)。これらを本校の人間教育の目標にすえ、国際感覚豊かな高い志を持った21世紀のリーダーを育成します。そのために必要な、「豊かな教養」「確かな発信力」を、後述のプレゼンテーション教育、フィールドワーク、「図書館」活動、学習活動を中心に育てていきます。
また人間教育に関する具体的な取り組みとして、中高6年間を通じた「モデルチャート」を作成し指導を行っています。2年ごとにステージを分け、例えば中学1~2年生の第1ステージでは「自分を知る。」、第2ステージ(中学3年~高校1年)では「他者との協働を考える。」、第3ステージ(高校2~3年生)では「社会貢献を考え、進路を切り拓く。」というテーマを設定し、生徒が自立・自律できるよう、計画的に教育活動を行っています。
大学進学率もほぼ100%で、毎年、上位国公立や早慶上智といった有名私大への合格者を数多く輩出しています。また、志願者のいる年には医学部にも合格者を出し、令和3年度卒業生の中にも、見事医学部合格を勝ち取った生徒がいました。
≪手帳の活用について≫
○手帳導入の経緯
現在、中学3年生~高校2年生で自己管理ツールとして手帳を活用しています。導入した目的は、主に「悩みの共有」「生徒の自己管理」「PDCAサイクル」の3つです。
まず「悩みの共有」は、多感な時期の生徒たちが、いつでも悩みを発信できるようにと考え設定しました。特に、勉強だけでなく人間関係においても悩みを抱えた際に、直接言ってくれる生徒もいますが、なかなか言葉にできない生徒もいます。そんなときに、手帳を通じて文字で伝えることもできるようにと考えています。
「生徒の自己管理」は、翌日の持ち物や宿題をきちんと管理させるためで、これは基本的な使い方を想定しています。
そして、3つ目の「PDCAサイクル」は、本校の人間教育の柱でもある「自立」と「自律」に関わってきます。生徒たちが自分で立ち、自分を律して行動できるようになるためには、ただ「自分で立って、律してください」と言うだけでは不十分です。どうすべきかを考えた際に、翌日の持ち物管理はもちろん、それに加え、自分の意志ですべきことを考え、自分事として決めて行動することが重要だと感じました。要するに、PDCAサイクルを回すことであり、そのためのツールとして手帳が使えるのではと考え、導入しました。
また、現在導入しているフォーサイト手帳を選んだ1番の理由は、生徒たちの「現在早急に為す必要はないものの、将来必ず達成したいもの」「将来のために、短期的に達成させたいこと」を書き留め、PDCAサイクルに落とし込めるスペースがあるからです。
例えば、生徒が医療系の大学を志望した際、入試に向けて必要な知識や心構えについて学ぶ必要があります。また、手先が不器用であればトレーニングを積むことなど、今すぐ必要ではないものの、いつかやっておきたいということが出てきます。それを「自分でやっておいてね」と言うだけでは、やらなくなってしまうのですが、フォーサイト手帳であればそれを書き留めて計画に落とし込めます。その他にも、部活の大会で勝ちたいと思った際、2~3か月後の大会に向けて、今すぐ勝てる力をつける必要はありませんが、毎日コツコツ筋トレをしたり、健康面(睡眠時間など)をチェックしておくことは必要です。そうしたことを日々の予定とは別に記録していけることが、フォーサイト手帳を採用した最大の理由です。
参考:生徒・学生向けビジネス手帳「フォーサイト」
https://foresight-planner.jp/
〇紙の手帳を使う意義
生徒が手帳に書き込んだ手書きの文字からは、その内容以上に多くの情報を受け取れると感じています。例えば、生徒本人がその時々で思っていることや感情など、口にはせずとも文字から伝わってくるときがあり、気になった場合は声をかけたりします。また、担当教諭から手書きでコメントを返すことで生徒自身も喜んでおり、多感な時期の生徒に寄り添い関係性を作っていく上で、紙の手帳が効果的だと考えています。
他のケースでは、いつも手帳にコメントを書いてくれていた子が忘れてしまったと急に書かなくなったことがありました。よくよく話を聞いてみると、親と喧嘩をして少し不安定な状態であったと打ち明けてくれて、そうした普段とは違う状況に気づけるのは、日頃から手帳のコメントを通じてコミュニケーションをとっているからだと考えます。
○手帳の活用方法
手帳の活用は中学3年生から始まりますが、中学2年生の1~2月頃に学年集会を行い、事前に手帳の意義や使い方について全体共有を行います。そこでは基本的な使い方として、1週間の目標設定や1日ごとの計画立て、それに沿って日々実行できたか確認するといった基本的な使い方を提示します。
ただ実際に活用を始めると、その通りに進めていくことが難しい場合もあります。その際は無理にそう使わせるのではなく、学年やクラスの状況に応じて使い方を変えて取り組むようにしています。
実際に一部のクラスでは、目標設定や細かい計画立ては行わず、あくまで日々の記録ノートとして利用しています。例えば、帰りのホームルームで翌日の持ち物や宿題を全体共有する時間があるので、その際にフォーサイト手帳を全員に開かせ記入させます。また、放課後に宿題をこなした際には、ただやったことを記入するのではなく、どの教科をどの時間帯にどれくらいかけてやったかまできちんと記録させます。
そうすることで、振り返りを行った際に、やったやらないだけでなく時間の使い方や物事の進め方について気づきを得られることもあります。
そして、次の日の朝に担任が回収し、前日の取り組みに対して一言コメントをして返却する流れで現状は運用しています。ただ、どうしても慣れずに記録することができない生徒がいた場合、2回連続で提出できなかった際は課題を課すなどして、少しずつ習慣化させていきました。
その他、生徒のコメントに対しては注意をしたり茶々を入れたりしないことや、コメントを書くのが難しい場合、昨日の晩御飯だけでもよいので書かせるなど、状況によって工夫をしながら、取り組ませるようにしていきました。
○活用した上での効果(生徒の変容)
自己の生活を振り返り、次の活動に活かす仕組みとして、大きな効果があると考えています。特に、これまでがむしゃらな学習を続けてきた生徒にとっては、自分の学習状況を振り返ることが、時間を最大限有効に活用するために必要なプロセスであることに気づく大切なツールになっています。
特に、生徒との二者面談ではフォーサイト手帳を持参させ、それをもとに振り返りを行っています。その際に生徒から「ここでもっとこれをしておけばよかった」などの発言も聞かれ、自分がどんな時間の使い方をしているのか、自分自身を知ることで次につながるきっかけになっています。
〇今後の手帳の活用について
現状は紙ベースの手帳を利用していますが、学年に応じて電子媒体のツール(アプリなど)にシフト、もしくは併用していってもよいと感じています。特に進路を考えていく上で、模試のデータや成績などを分析する際は、デジタルの方が管理しやすいという側面はあるので、数値管理はデジタル、日々の行動管理は紙の手帳で行うなど考えています。
また、後述の「プレゼンテーション教育」とも関係しますが、探究活動(特に調べ学習の段階)において、フォーサイト手帳に記録を残させても良いと考えています。現状、プレゼンテーション教育では、各回、ワークシートを主に紙媒体で配付し、提出されたものを学年の探究担当者がチェックするという流れがほとんどです。ただ紙で配られた資料は、どんなに丁寧な生徒であってもきちんと保管しておくことに限界があり、時間を空けてその資料に目を通し、過去を振り返ったり、原点に立ち戻ったりするタイミングはほとんど取れていません。そんなときにフォーサイト手帳に記録したものであれば、少なくとも1年間は手元に残るので、これまでと比較すれば、振り返りの時間が取りやすくなると考えています。
≪プレゼンテーション教育について≫
〇プレゼンテーション教育の狙いと活動内容
プレゼンテーション教育は、開校以来、独自に取り組んできた活動です。チームワークによる協働性の獲得や、思考力・判断力・表現力や発信力の涵養はもちろん、特に活動を通じて芽生える「社会貢献への意欲」を究極の目的としています。
具体的な活動は、中学1年生~高校1年生の全生徒が、年度末(2月)の「開成文化週間」というプレゼン大会に向けて、1年間をかけて探究活動を行います。毎年10月の文化祭では、全生徒が中間発表を行い、学年によってパワーポイントを作成したり、ポスター発表を行うケースもあります。それを踏まえ探究活動を続け、結論まで出した状態で各学年でもう一度発表を行い、最終的な代表者を決めた上で本番の「開成文化週間」に臨むという流れです。
また、取り組むテーマは、SDGsを切り口として、各学年で決まっているテーマ(例:中学1年生「身近な環境」)から、さらに個々人やグループで関心のあるテーマに掘り下げて取り組んでいきます。生徒それぞれの興味・関心を促し、普段の学習に対する動機付けや将来の進路にもつながる意義深い活動となっています。
◆ 中学1年生「身近な環境」テーマ例
・海面上昇について
・私たちが汚す環境 ~家庭排水~
・危険!! 外来種
参考:令和3年度学校案内(電子パンフレット)
http://www.omiyakaisei.jp/dp/jshs/html5.html#page=7
〇本取り組みの経緯と体制
本活動は、以前は、理科や社会の授業を中心に取り組んでいました。当該の授業内で、調べ学習、議論、クラス内発表などを行い、年度末に最終発表を行うという流れで実施されてきたものです。
ただ、生徒の積極性が年々増していき、たとえば中学1年生の「環境問題」というテーマにおいても、より広範なテーマを扱うようになり、理科の枠を大きく超えるようになりました。また、担任の先生方からも生徒たちの発表に携わりたいという意見があがり、現在では教科から離れ、探究活動の一環としてプレゼンテーション教育を実施しています(中学校では特別活動、高校では総合的な探究の時間で実施)。
その際、総合的探究開発という部署(原則、中学1年生から高校2年生までの学年担当とPJTリーダーを含めた計6名で構成)が立ち上がり、プレゼンテーション教育に関する指針やゴールが教員と生徒向けて発信されるようになりました。
各教員に対しては、指導の内容や方向性にズレが生じぬよう学年ごとのゴールや発表方法などが統一され、生徒に向けては、発表時の注意点や資料作成のポイントなどが伝えられます。いずれもルーブリック形式で作成していますが、評価をすることが目的ではなく、あくまで指導や取り組みの方向性をきちんと揃えた上で活動していくことを目的としています。
最近では、集会などでプレゼン指導の時間が設けられる場合に、どのような指導を、どのタイミングで生徒に実施したかを、各学年で記録・共有し、翌年の学年にも活かせるような仕組みづくりも行っています。また、ルーブリック自体も、解釈の仕方によって、様々な指導が可能なように作られているため、実際に運用する教員によって多少指導に差が生じるという状況があります。今後、何年か繰り返し運用していく中で、我々の指導も、それを受ける生徒も少しずつレベルアップしていきたいと考えています。
≪教務部長の先生へのメッセージ≫
教務業務をなすことによって、生徒、先生方、学校は円滑に動きます。本校は生徒一人一人を大切にする指導に力を注ぎます。生徒の気持ち、先生方の想いが実現できるような提案(フォーサイト手帳もその一つです)を心がけています。
また、昨今はICTツールを利用しつつも、安易に便利なツールやシステムに流れることなく、生徒との関りにスポットが当たるように心がけています。特にコロナ禍で、ICTツールを活用した効果的な授業の実施などは確かに進みました。しかし、学校は単に成績を上げる場所ではないと改めて感じ、生徒の人間としての成長につながることは何かを考えたときに、当校、松崎校長が言う「人を育てるのは人」という言葉に非常に共感しました。
もちろんこの「人」には、私たち教員だけでなく、保護者や周りの友人たちも含めてということは言うまでもありません。電子機器や素晴らしい教材だけで人は育ちませんし、勝手に成長してほしいという考えもありません。子どもたちを育てるのは、私たち「人」であるということを肝に銘じ、今後も取り組んでいきます。