アクティブティーチャーの挑戦 第二十三回(月刊高校教育2月号掲載)

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
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アクティブティーチャーの挑戦 第二十三回(月刊高校教育2月号)

昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校
杉山拓也先生

「チームで進める授業改善」

≪昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校について≫

本校は、1920(大正9)年に創立、本年度102周年を迎えました。こども園から大学院まで、園児・児童・生徒・学生が、ワンキャンパスで学んでいます。昭和学園の建学の精神は「世の光となろう」-Be a Light to the World-。一貫した全人格的な人間像を掲げて教育しています。また、米国州立テンプル大学ジャパンキャンパスの学生やThe British school in Tokyo SHOWAの生徒たちも同じ敷地で学んでおり、国や文化、年齢・性別を超えて日常的に多様性とつながっています。

中高一貫の女子校で、生徒一人ひとりの希望の進路を実現するために入学時からコース制を取っています。グローバル留学コース、スーパーサイエンスコース、本科コースの3つのコースを設定。それぞれ段階的成長を考えてきめ細かく工夫されたカリキュラムを実践し、一人ひとりの適性を伸ばします。

和やか且つ活気に満ちた雰囲気の中、生徒たちは6年間、学業だけでなく、学校行事、クラブ活動、委員会活動、朋友班活動(縦割り班)や国内外での宿泊研修にも積極的に取り組んでいます。下級生は、上級生の溌剌と活動する姿や真剣に学ぶ姿を身近にして、自分のロールモデルをみつけて将来を思い描いています。

≪自立した学習者の育成について≫

本校では、以前より、学校単位で「主体的・対話的で深い学び」について実践し、その取り組みを行ってきました。ここ2、3年は、教科単位で具体的なアクションを起こしていくという学校の方針もあり、具体的に授業で何ができるのかを検討したり、公開授業という形で授業を公開して、その後外部の方も参加されての授業検討会を行ったりと、この取り組みが活発化しています。

「主体的に学ぶ」には、「自立した学習者」になる必要があると考え、各教科における「自立した学習者像」を設定し、日々の授業に取り組んでいます。数学科では、「自立した学習者」を「課題を自ら設定できる人」と定めました。

上記の「課題を自ら設定できる人」を育てるために、授業内で何ができるのか教科で検討した結果、受け身の授業にならないよう、教員からの問いかけを増やすという1つの結論に至りました。教員からの一方向の授業では、生徒が受け身となり、「考える」ことをやめてしまう恐れもあったため、意図的に「どうして」や「なぜ」という問いかけを授業で行うようになりました。

問いかけの内容は、簡単なものから、定理の本質に迫る難しいものまでさまざまです。生徒の様子や問いかけの間を考えながら問いかける回数や内容を毎回変えて変化をつけています。その結果、受け身の授業からの脱却にはつながっていると思います。反面、授業のスピードが落ちており、シラバス通りに進まないこともあるのは事実です。しかし、教科書の内容を終わらせることが目的なのか、と言われると、それは違うと思いますので、ゴールから逆算し、今目の前にいる生徒に対して行うべき内容は何なのかを教科として考えています。

≪数学科の授業改善の研究会について≫

数学科では、以前より、不定期で大学入試の問題研究を行っていました(参加自由)。入試問題などの教材研究は主に個人で行ってきましたが、他の先生はどう考えているのかという疑問をもつようになり、それでは、定期的に開いてはどうかと考え、昨年度より週1回、曜日を決めて研究会を実施するようにしています。

具体的な研究会の進め方ですが、生徒が学校に滞在している時間ではなかなか集まれないこともあり、生徒が下校した後の1時間で行っています。今年度は、毎週水曜日の17時30分~18時30分の1時間で実施しています。場所は基本的に教室です。内容は、日によって異なりますが、入試問題を解きその検討会を行う、授業において不安に思うことや悩んでいることなどを持ち寄り、解決策を話し合うなどがメインになります。

研究会の効果として、入試問題の検討会では、新たな視点で問題を見ることができたり、新たな解法に触れたりすることができるなど、知識の幅が広がっています。授業研究では、各先生方の日々の工夫を聞くことで、翌日の授業ですぐに取り入れることができるものや、答えのない問題に対して1人で悩まない環境づくりができていると思います。

課題は、時間的な制約もあり、全員が参加できないことや、学校行事などと重なると開催が困難になることです。なお、学校行事等で水曜日の放課後がなくなる時は中止とし、曜日を変えては実施していません。また、時間は1時間と決め、延長はしないことにしています。参加者は、その日によってメンバーが替わりますが、毎回7~8名くらいです。今、数学科のチームで勉強合宿を企画しています。神奈川県にある学園の施設に泊まり、入試問題検討や授業研究を実施したいと考えています。

≪オリジナル教材の開発について≫

私は、1コマの授業でやる内容をまとめたプリントを作成し、1コマの授業で扱う内容(授業のゴール)を明確にしながら授業を行ってきました。最近では、B4サイズ1枚で、左側には定理や公式などの新出事項の確認と例題、右側には練習問題と発展問題を配置させています。教科書は、公式の証明や例題の解説が書いてある状態になっています。私は「考えさせる授業」を心がけているので、公式や証明のすぐそばに解答が書いてあると、その「考えること」の邪魔になると考えました。そこで、プリントには、最小限のものを書き記し、授業でそれを補うように問いかけ、生徒自身にテキストを完成させるように伝えています。

<プリント参考>
プリント参考

・三平方の定理
https://find-activelearning.com/uploads/files/images/gakuji/gakuji_2302_01.pdf
・三平方の定理の逆
https://find-activelearning.com/uploads/files/images/gakuji/gakuji_2302_02.pdf

個人で、数学科の全科目のオリジナル教材を作っていては、時間と労力がかかりすぎてしまい、すぐに生徒に還元できないと考え、各学年の担当の先生に依頼し、チームで作成することになりました。今年度だけでなく、次年度は、前年度に使用した教材をブラッシュアップし、よりよいものを生徒に還元する。これを繰り返すことで、さらによいものが出来上がります。また、他の先生方の指導方法を学ぶ機会にもなり、各先生方の授業力向上にもつながると考えています。

現在、中学3年~高校3年の4つの学年で、このオリジナル教材の開発に取り組んでいます。将来的には、中学1年~高校3年までの全学年のものを作成し、全学年の数学の授業で「自ら考えることのできる授業」の実践に取り組みたいと考えています。

≪ICTの利活用について≫

私は、ICTは、黒板ではできなかった、図形を移動させることを中心に使用しています。最近では、欠席者がオンライン授業を希望した場合にも使います。また、問題文や問題に記載してある図形を黒板に直接投影することで、黒板に書く時間を削減する目的でも使用しています。

個人的には、数学の問題は、紙と鉛筆を使って解くように指導しています。iPadのように、紙と鉛筆に近い形での使用については問題ないと考えますが、ノートの代わりに、黒板を写真で撮って終わりにするなど、最近では、効率化ばかりを考え、手段と目的が入れ替わっている生徒がいると感じています。

板書事項を、ノートに記録するのはあくまでも「手段」であって「目的」ではありません。ノートを書くことが目的であれば、写真で撮ったほうが早いですし、効率的です。しかし、ノートを書くことはあくまでも学習の1つの手段にすぎません。目的を知識の定着にするのであれば、手書きの方が効果的であると考えます。また、大学や高校入試をはじめとする数学のテスト形式は、「紙と鉛筆」を使用したものが中心です。学習のゴールの1つでもある入試がこの形式である以上、日ごろの学習においても、同じ方法で行う方がよいと考えます。

≪学校としてのその他の取組について≫

小学生向けSTEAM体験ワークショップを実施しました。実際に手を動かし、経験・体験し、それを活かして自分で考えて問題を解決することをテーマとし、小学生を対象に行いました。STEAM教育の中の6科目(算数、化学、物理、生物、電子工作、プログラミング)の体験授業では、スーパーサイエンスコースの生徒もティーチングアシスタントとして参加し、小学生とコミュニケーションを取りながら、実験や製作などに取り組んでいました。

算数では「ハノイの塔」を行いました。3個の場合、4個の場合、5個の場合と数を増やしていき、受験生(小学生)と在校生(中学のスーパーサイエンスコースの生徒)が2人1組となり、相談しながら最短での移動方法を楽しそうに考えていました。

また、高校1年で数学アートコンテストを実施しました。主に「Desmos」というグラフアプリケーションを用いて、生徒にグラフを描かせました。関数を入力するだけで、簡単にグラフを描くことができるので、知らない関数でもグラフの形を調べることができます。また、係数の変更や媒介変数の設定もすぐにできるので、感覚で数式を扱うことができ、数式とグラフの関係性を体感してもらうことができました。

生徒たちは今までに学んだことのある関数だけではなく、中には「こんな絵をかいてみたい」という気持ちから大学で学ぶ関数を自主的に調べ、取り入れている生徒もいました。担当教員は「こんなにレベルの高い作品を作ってくれるとは思っていませんでした。」と生徒たちの様子に感動していました。

≪若手の先生へのメッセージ≫

私の感覚では、先生という人は、授業準備や教材研究などは個人でやらないといけないと考え、時間が膨大にかかっている現状があるように感じます。最近、個人ではなく、チームで取り組むことにより、新たな発想を得たり、仕事のスピードが速くなったりしていると実感することが多く、また、刺激を受けています。

先生方の周りには、経験豊富な先生、自分にはない能力をもった先生などたくさんいると思います。その先生方と知恵を出し合うことで、今以上のいい授業や生徒とのかかわりを持つことができます。

「分からなくて恥ずかしいから聞かない」や「他の先生は忙しそうだから聞かない」と躊躇するのではなく、勇気をもって一歩を踏み出し、教科や学年単位でチームとして協力してやってみてはいかがでしょうか。その一歩が、周りの環境を変え、より良い方向に進むかもしれませんので、身近な先生に相談してみてください。

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