アクティブティーチャーの挑戦 第四十六回(月刊高校教育1月号)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第四十六回(月刊高校教育1月号)
常総学院高等学校
六渡佳織(ろくど かおり) 先生
「図書館や新聞を活用した探究学習について」
≪常総学院高等学校について≫
本校は、地域教育の発展をめざして1983年に創立いたしました。1905(明治38)年10月に創設され、38年間にわたり有為な人材を社会に送り出した「常総学院中学校(戦況の悪化に伴い閉鎖)」の校名を継承しています。本校の教育目標は、「社会に貢献するリーダーの育成」にあります。常総生には、将来、社会に必要とされる人間として、豊かで幸せな人生を築いてほしいというのが、本校教職員全員の願いです。
リーダーとして社会に貢献していくためには、それに見合う能力が必要です。本校では、次代のリーダーに不可欠な能力として、特に次の3つを重視しています。一つ目は、「自己肯定力」です。これは、自分自身や自分の置かれた状況をポジティブに受け止めることのできる能力であり、明るい希望を持って意欲的・積極的に物事に取り組むための土台となる能力です。二つ目は、「学力」です。これは、単なる知識・技能だけではなく、思考力・判断力・発信力など、多様な人々と協働して新たな価値を生み出すための知的能力のことです。三つ目は「タフネス」です。これは、体の強さや健康はもちろんですが、それだけではなく心の強さを意味します。人生に困難はつきものです。一度や二度の失敗や挫折に負けることのない強さを持って、その困難を乗り越えたところに未来は開かれていきます。
本校では、以上3つの能力を合わせて「JOSO Core Skill」と呼んでいます。これは、社会がどのように変わろうともリーダーとして核となるskillであり、常総生は、まず、この3つのskillを身に付けることを目標に、学習活動や部活動など、日々の学校生活に励んでいます。
創立以来、工夫されたカリキュラム・熱意を持ったスタッフの充実により、本校の教育活動は各方面から注目を集めており、四年制大学への現役合格率は例年9割近くに達します。熱心で親身な進路指導・効率と量のいずれも妥協を許さない学習指導、何よりも生徒たち自身が持つ自己実現に向けた強い意思が、このような実績を支え続けています。
部活動に関しても、開校後間もないころから数多くの部が全国大会に歩を進める目覚しい活躍を見せたことから、「常総学院」の名は全国に知られることになりました。1987年、創立4年にして甲子園夏の大会で初出場準優勝を飾った硬式野球部は、木内幸男監督のもとで2001年春・2003年夏に全国制覇を成し遂げています。その他にも吹奏楽部、男女バドミントン部、水泳部など多くの団体が、日本のみならず世界にフィールドを広げて活躍しています。
私が担任をしている特進選抜コースでは、知識の習得にとどまらず、問題発見力や論理的思考力を育成する特別授業・特別講座を展開しています。学習もさる事ながら、探究活動や学校行事を通じて問題発見力やプレゼン力を育てています。私から見て、特進選抜コースの生徒たちは、頭を使うことが好きな生徒が多いという印象です。生徒たちの知的好奇心を満たせるように、私自身も学ぶ姿勢を忘れないようにしないといけないな……と思っています。
≪私の学びの変遷について≫
私は、常総学院に勤めて15年目になります。担当は、古典です。思い返してみると特進選抜コースの担任を受け持つことが多かった15年間でした。特進選抜コースの前身であるαコースも含めて、3周目になります(現在、高校3年担任)。趣味は「世界一かわいい教材」を作ることです!コロナで対面授業が難しかった時に、古典の物語や登場人物のデジタル教材作成にハマりました。せっかく作るのなら、生徒たちに喜んでもらえるような「世界一かわいい教材」を作ろうと思いました。アニメーショで動く教材もあります。その教材作成は、私の趣味となり、今も続いています。一部お見せしますね。
◆六渡先生の「世界一かわいい教材」例
私自身、まだまだ知らないことが多いのですが、知らなければならないことも多いと思っているので、外部で勉強させていただく機会も大切にしています。授業見学で他校の事例を見て、良いものは取り入れさせていただいています。良い意味でこだわりは持っていますが、自分のやり方に固執も執着もしないので、常に前よりも良くなるように授業も自分もバージョンアップするように心掛けています。
学年のコースでは、探究を担当していることもあり、情報を交換できる場に足を運びたいと考えています。最近では、担任している生徒が茨城県のNIEセミナーでパネルディスカッションのパネラーを務めることとなり、良い機会なので私も講演会から参加させていただきました。新聞を使った事例は参考になることも多く、学んできたことを来年度からの探究の中で活かす方法を考えて、今からワクワクしています。
また、校務分掌では図書館課を担当しているため、図書館関係の講演会にも参加させていただく機会があります。教科以上に知らないことが多いので、勉強になります。著作権の講演を受けた際には、内容面でも学びがあり、講師の方が使用なさっていたツールにも興味が湧き、校内で使用可能なものの中でも実施できるように準備をしています。新しいことを知り、そこから考えるきっかけを得られるので、今後も大事にしていきたいです。
≪図書館や新聞を活用した探究学習について≫
○図書館課長として実施した図書室の改装
私が図書館課に配置された当初は、自習室として利用されることがほとんどで、とにかく重い机に埋め尽くされた場所でした。図書館課長として、思い切った全面改装を学校に提案し、その改装が完了したのは3年前です。
改装するにあたって考えたことは、①1人1台端末を持つ環境に対応すること、②アクティブ・ラーニングに対応すること、③探究の拠点にすることです。机や椅子はすべてキャスター付き、キャスター付きの大型ディスプレイモニター(BIG PAD)も含めレイアウトも自由に変更可能、カーペット敷きでスリッパをオフして入室する清潔な環境、床や壁から電源を取ることができるコンセントジャックをいろんなところに設置して、モニターもPCもどこででも使えるように……と設備面でこだわった所を挙げるときりがありません。カーペット、机、椅子、ブラインドの色まで徹底的に拘りました。ちなみに、カーペットは濃い青系、机の天板は白、椅子はスクールカラーのえんじ色、ブラインドは明るい青系にしました。明るく素敵な図書館に生まれ変わった結果、多くの生徒が利用するようになりました。
また、学年1コース分の生徒なら余裕を持って集まることができ、レイアウトは変えやすく、講演会でも使用できる設備を備えているため、総合的な探究の時間では多くの学年クラスが利用しています。個人探究を行うにあたっても、常時閲覧可能な4社の新聞(茨城・読売・朝日・毎日)も毎日きちんと更新されています。生徒の端末では全国紙2社のデータベース(読売・朝日)も閲覧可能です。
本校には専任の司書がいないので、専門の方が見ると展示の仕方も配架の仕方も間違っているかもしれません。でも、「素人」だからこそ「正しいやり方」に拘らず「使いやすい」を追求できているに違いないと開き直りながら、事務職員の方々とともに最新の情報にアクセスできる場にできていると思っています。
そして、大切なのは、名称です。本校の図書館は「Discover Commons」という名前にしました。さらに、図書館付近にある学習スペースと学習室と合わせて「IDEAスクエア」と命名しました。せっかく改装した図書館なので、素敵な名前を付けたいと思い、周りの学習スペースと合わせた名前を考えました。(それぞれの部屋・スペースの名前がInnovation Commons、Discover Commons、Education Commons、Active Commonsと頭文字を取るとIDEAになるようにしました)。ネーミングって大切ですよね!
○探究はテーマ設定が8割
探究はテーマ設定が8割だと思っています。大人だって何かを考えるときに全く知らないことから考えることはありません。地歴公民科の教員が1シートに新聞記事をまとめた「朝新聞」を毎日配布し、新聞に触れる機会を毎日設けています。じっくり読むということを意識させていません。私自身が毎日すべての記事に対して意見を持つという読み方をしないのに、生徒にそうしなさいというのはあまりにも横暴だなと思っているので、ざっくり目を通して目の端っこに自分の興味分野の言葉が入ってくれていたら良いな……くらいの気持ちで配布しています。
このような積み重ねから「知っていること」が増えていけば、テーマ設定の段階での引き出しも増えます。データベースも使えますが、紙媒体を利用することで、目の端っこに記事が飛び込む可能性が増えると思っているので、ペーパーレスにはせずに、敢えて新聞を「紙で読む」ことを推奨しています。
○日本新聞協会主催「いっしょに読もう!新聞コンクール」について
このコンクールを利用することで、少なくとも2つの記事をじっくり読む機会を作ることができます。昨年まではクラスの中で、自己紹介も兼ねて行っていたのですが、今年は学年のコース所属の生徒をランダムにグループ分けして、クラスを解体したグループで実施しました。同じコースに所属していても約120名全員が言葉を交わしているとは限りません。普段関わるメンバーではない相手に伝えるための機会になったと思います。来年は異学年の生徒でグループを組んで取り組むのも面白いと思い、他学年の教員と計画を話しています。
◆第15回いっしょに読もう!新聞コンクール(令和6年度)ホームページ
≪個人探究の流れ≫
本校の特進選抜コースの探究は、3年生が後輩相手に1人1ブースを持ち、個人探究の成果発表を行う「Academic Day」をゴールとして行っています(今年度は、7月と9月に実施)。1年生から2年生の2学期頃までは、フィールドワークや、ジャンル問わず様々な講演会やプログラム、新聞記事などを使用して知識を吸収することを重視しています。1年生のうちにテーマ設定はしません。確かに1年次の早期に設定した方が、長期間に渡って充実した探究活動が行えるかもしれません。しかし、テーマ設定のヒントはその時点で知っているものの中からしか生まれません。だからこそ、インプットの機会や経験を積むことを大切にし、自分が本当に興味のあることは何なのか考える機会を多く設けています。テーマ設定に際して、選択肢の幅を広げていきたいと思い、流れを作っています。
高校2年次の2学期まで様々なものに触れた後、個人探究のテーマ設定を行います。個人探究はテーマ設定の仕方が8割だと考えているので、テーマ設定に関してはきちんと教員が確認を行います。そのために、作成した個人探究テーマ設定シートを利用しています。ただし、この個人探究テーマ設定シートは1つのプログラムとして作成しているので、その前段階で、簡易版のテーマ設定演習を行います。この学年は沖縄の修学旅行を2年生の3学期に控えていたので、修学旅行を利用して2コマ(100分)で「沖縄の〇〇」というテーマ設定から資料作成まで練習しました。個人探究テーマ設定シートと同じチェック項目を用い、自分の設定したテーマが時間内に終わるものかどうかチェックしながら進めていくと、コツを掴めるようで、その後実際に個人探究に移行してもテーマ設定から資料作成まできちんとできるようになります。つまり、修学旅行を、個人探究のシミュレーションとして活用したのです。
≪これからの探究活動について≫
探究の評価については、テーマ設定シートの中に書かれているチェック項目が、そのままルーブリックに近いものだと思っています。例えば、このような項目があります。(1、理由と根拠を挙げて説明できるか 2、調べたらすぐ答えが出そうな「問い」になっていないか 3、大きすぎず、具体的・限定的な「問い」であるか、 4、探究の期間・時期に対して「問い」の大きさは適当か)。その他、成果発表を行う「Academic Day」で、発表を聞いた後輩たちからのリフレクションも回収して、評価の観点としています。
私は、知識をインプットするパターン以外に、探究型でも授業を実施しています。私の担当科目は、古典(古文・漢文)です。今まで行った探究型の授業としては、「源氏物語の各帖と古典常識データベース作り」、「伊勢物語『筒井筒』PBL授業」、「漢詩の風景」等々、生徒が自分で調べて深掘りして協働して解決していくものを取り入れてきました。たとえば、「漢詩の風景」という授業では、指定された漢詩をグループで探究し、生徒たちにスライドを使って授業を実施してもらいました。生徒たちの豊かな感性を垣間見ることができて、とても楽しい授業になりました。もちろん、古典では、文法や読解の仕方など基本的なことは、しっかり教えます。探究を行うに当たって、文法や単語は読むためのツールだと考えて学ぶと、習得への意識も変わってくるように感じています。
≪先生方へのメッセージ≫
探究の主役は生徒です。生徒が見つけたワクワクの種がどんどん育っていくように見守り、枯らさないようにすることが教員に求められていることだと考えています。知らないことは「知らない」だけで終わらせず、生徒と一緒に考える。生徒よりも考える引き出しが多い場合には、先に考えて生徒のことを待つ。同僚に教えてもらう。生徒が先に答えに到達した場合には、最大限の敬意を払って生徒から教えてもらう……。様々な方法で解決することができると思います。いつでもどんな問いが来ても打ち返せるように自分自身も学び、楽しむことが大事だと思っています。