アクティブティーチャーの挑戦 第三十八回(月刊高校教育5月号掲載)

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アクティブティーチャーの挑戦 第三十八回(月刊高校教育5月号)

福岡県立八女農業高等学校
平川裕美子 先生

「授業デザインとキャリア教育の接続」

≪福岡県立八女農業高等学校について≫

本校は、創立121年目を迎える伝統校で、1学年4クラス(4学科)からなる県立の農業高校です。本校がある福岡県南部に位置する八女市は、全国的に有名な八女茶をはじめ、キウイフルーツ・ミカン等の果樹や電照菊などの花卉、野菜の生産も盛んに行われています。本校は、その恵まれた豊かな環境の中で地域との連携を積極的に行い、実践的・革新的な農業教育を目指しています。

本校には4つの学科(生産技術科、システム園芸科、動物ペット科、食品開発科)があり、さらに各学科2つの専攻に分かれて専門的な内容を学習することができます。特に、県内唯一の学科である動物ペット科を始め、令和4年度に2学科(もう1学科は食品開発科)を新設し、人気が高まっています。1年次では学科に分かれず、全ての学科の基礎的な内容を学んだ上で、2年次から自らの興味・関心や将来の夢に合った学科を4学科8専攻から選択します。各専攻では、発展的な内容を学習し、プロジェクト学習などを通して、地域課題に自ら取り組める力を身に付けます。

生徒は、明るく素直で学校行事などにも前向きに参加します。ただし、入学時には、人とのコミュニケーションに苦手意識をもつ生徒も多く、思考力・表現力や主体性等を育むために、様々な学校行事や学習活動に取り組んでいます。特に、「八女農祭(豊咲祭)」では、日頃の学習成果を存分に発揮するため、展示・模擬店・参加体験の各部門において創意工夫をして取り組んでいます。当日は、オープン前から、500名以上の方が列を成し、4時間半の公開時間内に全校生徒数の7倍を超える2300名以上の来場者があり、全校生徒にとって最大の発表の場となり、成長の機会となります。

また、プロジェクト学習や商品開発(課題研究)、地域連携にも大変積極的に取り組んでいます。プロジェクト発表や農業鑑定競技・家畜審査競技では、毎年、県代表として九州大会や全国大会への出場を果たしています。さらに、地元八女市の提案事業に生徒が応募し、土曜日にホリデーハッピースクールを開催しています。生徒たちが講師となる社会人講座で、「おいしいお茶の入れ方」「ジャムの作り方」「クリスマスリースづくり」など、学びを社会につなげる活動になっています。

進路については、5割が就職し、5割が進学しています。全国和牛オリンピック大会に出場した生徒が、鹿児島大学獣医学部に合格を果たすなど、探究的な学びを進路に密接に結びつけています。

≪教員を目指したきっかけと教員としてのキャリア≫

私は、幼い頃から読書が好きで、学校図書館に毎日通い続けるうちに、小学校・中学校ともに生徒会の図書委員長を務めました。生徒会役員として学校行事の運営に携わる体験の中で、学校をつくることの楽しさややり甲斐を感じました。

読書や表現活動を重ねるうちに、文章を読んだり書いたりといった言葉による深い思考や表現の魅力を強く感じ、国語の教師を目指すようになりました。また、両親も学校に勤めており、間近で働く姿を見て、仕事に対する思いを聞く日々の中で自己の将来像を思い描きました。大学生の頃に教育について関心が高まり、学習塾を開き自ら運営した体験からも、子どもたちの成長や教えることに喜びを感じ、教師を目指す気持ちが固まりました。

最初の赴任校である福岡県立山門高等学校は、9割以上が進学する全日制普通科高校でした。長年、文系特進クラスの担任を務め、進路指導部副主任として総合的な学習の時間の企画・運営を担当しました。また、国語の授業における言語活動に力を入れ、福岡県代表として、平成27年度第59回九州地区高等学校国語教育研究大会で「思考力・判断力・表現力を伸ばすための『話す・聞く』指導~アクティブ・ラーニング試案~」として実践発表を行いました。

次に赴任した、福岡県立八女工業高等学校は、毎年、公務員合格者が40名程度、優良企業への就職率も高く、ものづくりコンテストやロボットコンテスト等で全国大会出場を果たし、大学進学者もいる学校でした。研修主任・図書主任・進路指導部進学担当を兼務し、特に、アクティブ・ラーニングの導入期であったため、職員研修や授業改善に力を入れました。県教育センターにおける研修で、国語や生徒指導に係る実践発表も複数回担当し、県内の先生方への発信にも努めました。

平成29年度には、福岡県教育センター長期派遣研修員として、1年間学びました。教育経営部教育相談班で、生徒指導・教育相談について学び、主に自己肯定感や自己効力感などの非認知能力の育成に関する研究に取り組みました。

次に赴任した福岡県立大牟田北高等学校では、全日制普通科で第1学年主任を務め、キャリア・パスポートの学年導入初年度、総合的な探究の時間初年度の学年として、地域と連携したカリキュラム開発を行いました。赴任2年目に主幹教諭に昇任し、進路指導部長を3年間務めました。進路指導部をキャリア教育部に名称変更し、キャリア・パスポートの全学年での導入や学校行事の改革など、キャリア教育を核とした学校教育の取組に努めました。

また、主幹教諭昇任と同時に、全日制の進路指導部長に加え、高校教育課指導主事の兼務が付き、福岡県筑後地区定時制単位制高校設立準備室員として、大牟田北高校が新たにフレックス型の定時制単位制高校としてスタートするための準備に携わりました。そして新設高校がスタートしてからは、全日制キャリア教育部長と兼務しながら、フレックス型の定時制単位制高校の運営に携わりました。

さらに、独立行政法人教職員支援機構主催「キャリア教育指導者養成研修」の講師、文部科学省『中学校・高等学校キャリア教育の手引き』改訂に関する調査研究協力者会議委員、文部科学省「大学入学者選抜における好事例」選定委員会委員を務めるなど、校内だけでなく多くの仕事の機会をいただきました。そして、令和4年度には、「生徒指導・進路指導」分野において文部科学大臣優秀教職員表彰を受けました。教育センターでの研修や主幹教諭としてのキャリア教育に係る取組を評価いただきました。さらに、その年、福岡県公立学校優秀教職員表彰も受けました。今後もさらに学び続け、学校教育に貢献できるよう努めていきたいと考えています。

令和5年度に赴任した、福岡県立八女農業高等学校では、主幹教諭として生徒指導部長を務めています。生徒を指導するというより支援するという思いで、生徒理解を深めるための面談体制の充実や、学びを見通し、振り返り、自己の将来と学びを接続するキャリア・パスポートの導入を行いました。自己実現に必要な生徒の資質・能力を育むために、生徒に身に付けさせたい力を明確にした学校行事やホームルーム活動等、特別活動の運営に取り組んでいます。

≪授業をデザインする上で大切にしていること≫

私は、授業デザインについて、長年追究してきました。私が授業をデザインする上で大切にしているのは、次のようなことです。なお、この項目については、『シリーズ 学びのビーイング 2.授業づくり、授業デザインとの対話』(りょうゆう出版 2023) に執筆した内容を一部引用しています。
引用元(詳しくはこちらにも掲載されています):シリーズ 学びとビーイング 2.授業づくり、授業デザインとの対話 | 河口 竜行, 木村 剛, 法貴 孝哲, 皆川 雅樹, 米元 洋次, 河口 竜行, 木村 剛, 法貴 孝哲, 皆川 雅樹, 米元 洋次 |本 | 通販 | Amazon

○単元のまとまりを見通してデザインする

単元を通してどのような資質・能力を育むのか、その力がこれから生きる上でどう役立つのか、そのためにどのような学習活動に取り組めばいいのか。生徒自身が見通せる授業を模索するようになりました。特に、学習の過程で生徒自身が「自分の考えをもつ」ことを重視しています。まず、単元の初めに生徒は文章を読み、「なぜ筆者は○○と考えたのか」「○○と表現した意図は何か」など、自分なりの「問い」を立てます。そして、私は「皆さんが立てた『問い』について、自分なりの考えをまとめて単元最後に発表しよう」とアウトプットを予告します。すると、以後の文章読解では生徒各自が自身の「問い」を常に念頭に置き、その答えを自分の頭で考え、根拠を探しながら主体的に文章を読み始めるのです。

○「言語活動」を大切にする

「陸上競技の走り方やハードルの跳び方を学ぶとき、教科書で読んで理解するだけで、速く走ったり高く跳んだりできるようになるでしょうか。」これは、生徒たちが言語活動にまだ慣れず積極的に取り組めないときに、いつも話すたとえ話です。実際に走ってみて初めて「できる」ようになり、走るための知識や技能の「理解」もより深まるはずです。話し合い、教え合いや発表などの言語活動は、生徒が「わかる」と「できる」を往還する重要な機会だと私は考えています。その際、単元の初めにルーブリックの評価基準を提示しておくと目標が明確になり、より効果的な活動につながっていきます。

○「相互評価・自己評価」の場面をつくる

スピーチは、まずルーブリックを使ってペアで相互評価に取り組みます。伝える活動は他者を強く意識して文章を書くため、客観的で論理的な思考力や表現力の育成につながります。「評価シート」はルーブリックだけでなく、話し手の主張を要約して書く欄や、話し手へのメッセージを書く欄を設けることで聞く力の向上も図っています。その後の自己評価では、他者の考えを知ることで自分の考えを広げ深め、新たな気付きにつながった記述が多いです(最後に原稿を修正し提出したものを教師が評価)。自己評価で自分ができたことや学んだことを確認し、小さな成功体験を積み重ねることが自信につながり、学ぶ楽しさにつながっていきます。

ICTの利活用は授業や学びの形を大きく変えました。例えば、生徒が発表するスピーチの資料は授業前にクラウドに提出し、作品の理解を深める問いなどについてはアンケートフォームに事前回答し、共有しています。自分の考えをもって臨むため、授業は生徒の工夫に満ちた発表や意見交流の場となりました。学びが、より主体的になり教室から時間や空間を超えて広がっていくのを感じています。

また、授業づくりにおいては生徒の意思決定の場を作ることも大切にしています。そのため授業アンケートが欠かせないのです。生徒にとって学びの振り返りになり、私自身にとっても生徒の声を聴き、自分の授業を見つめ直す貴重な振り返りの場となっています。「もっと和歌について話し合いたい、好きな和歌を解説する活動をしたい」など、学ぶ意欲が授業に命を吹き込んでくれます。

生徒主体の授業を目指し、生徒が作品を解説する場づくり等を行っていますが、生徒のアンケートを読んでいて、たまに目にするのが「私(生徒)が授業をしていて……」という表現です。生徒が主語の文なので「授業を受けて」ではないのかと思いつつ、いや、受け身ではなく生徒が主体の授業を目指しているのだから、生徒が「私が授業をする」と表現するのは正しいのかと、ひとり微笑んでしまうことがあります。

教師を目指していた大学生の頃に聞いた、教育実習先の指導教諭の言葉が今も私の胸の中にあります。「教師は大変な仕事だと思う。仕事をしていて9割は大変だな、きついなと思うこと。でも、1割は嬉しいことがある。そしてそれは、たぶん他の仕事では経験できない、ものすごく嬉しいことだ。だから、教師はやめられない。」と。この言葉を聞いたとき、私の中にひとつの覚悟ができました。生徒の授業中の姿、振り返りやアンケートに綴られた言葉を見るたびに、大きな喜びと背筋が伸びる思いを感じます。生徒が「わかった」「できた」を楽しめる授業を目指して、これからも授業づくりを楽しんでいきたいと思います。

≪授業とキャリア教育の接続≫

新学習指導要領を受け、文部科学省の「キャリア教育の手引き」が12年ぶりに改訂され、令和5年3月に「中学校・高等学校キャリア教育の手引き」が発行されました(中学校・高等学校キャリア教育の手引き(2023年3月):文部科学省 (mext.go.jp))。キャリア教育とは何か、キャリア教育を推進するにはどうしたらよいか、どんな実践例があるか、教科ではどのように取り組むか、などが丁寧にまとめられています。
私は、この改訂で、特に高等学校におけるキャリア教育の実践(国語)を担当させていただきました。国語科は言語能力育成の要の教科であり、言葉による見方・考え方を働かせ、様々な言語活動を通して、人間や社会の在るべき姿について考えを深め、今後の自己の在り方・生き方を前向きに考えようとすることにつながるため、キャリア教育と深く結びついています。

生徒は、文章を読んだとき、どこか他人事として捉えたり、作者の表現意図について深く考えず表面的な理解に終わったりすることがあります。そのため、学習を通して自分の考えを形成し表現することで、主体的に深く読み取り、自分と関わらせて考えることを通して、今後の在り方・生き方を意思決定する場面をつくり、学んだことが将来とどうつながるかを自分事として実感することが大切です。 また、他者との関わりの中で、言葉を通して伝え合い、自分の思いや考えを広げ深めることが、「自己理解・自己管理能力」や「人間関係形成・社会形成能力」等の基礎的・汎用的能力の育成につながります。

キャリア教育を通して育成すべき「基礎的・汎用的能力」
・「人間関係形成・社会形成能力」
・「自己理解・自己管理能力」
・「課題対応能力」
・「キャリアプランニング能力」

地域コミュニティの希薄化など社会の変化の中で、子どもたちが学校生活で学んだことを生かして社会で行動できる場面が少なくなっています。そのため、地域と学校が連携することで、学んだことを実生活の中で活用する地域に開かれた教育活動を行うことや、キャリア教育や高大接続により自己と学びをつなぎ、社会と学びをつなぐ教育活動が一層重要になってきています。

≪体験こそ学びの原動力≫

コロナ禍において学校行事等の重要性を改めて強く実感しました。学校の教育活動全体において、体験活動は「学びの原動力」を育む大切な場です。数年前、県教育センターの長期派遣研修員として「自己効力感(Self-Efficacy)」について学ぶ機会がありました。自己効力感とは、行動する前に自分のもつ力を信じ、実行できるという見通しをもつことです。この力は、生徒が自らの行動を決定する上で重要であり、新たな課題に向き合い激動の社会を生きるために大切な力です。自己効力感の信念の源には「4つのソース(source/情報源)」(Albert Bandura,1977)が必要とされますが、その「4つのソース」を授業に組み込むことが、生徒の「学びに向かう力」を育むのに大変有効であると感じています。

○自己効力感を高める4つのソース

(1)「達成体験」…自分でやってみてできた体験
(2)「代理体験」…他者ができた状態を見る体験(ペアや全体での発表など)
(3)「承認体験」…他者から励まされたり、自分を認めて褒めたりする体験
(4)「情動的安定」…共感的人間関係の中での安心・安全の場の認知体験

※(1)~(4)の各ソース(情報源)のラベリングや定義は、授業に合わせた私の解釈です

自分がやってできた(1)「達成体験」はもちろんですが、他者ができた状態を見る(2)「代理体験」も大切であり、級友や先輩、教師、地域の大人などたくさんの人との関わりやつながりの中で、ロールモデルと出逢うことの価値もここにあります。また、相互評価で他者から褒められたり、自己評価で自分ができたことを振り返り認めたりすることも重要な(3)「承認体験」であり、それらの体験活動は(4)「情動的安定」(安心・安全)の場で行われることが不可欠なのです。

≪先生方へのメッセージ≫

激動の社会の中で、教員の仕事は多岐にわたり忙しい日々に翻弄されてしまいますが、それを乗り越えるには、私たち自身が「学び続けること」だと思います。主体的な学びの場では、学ぶことで視野が広がるだけでなく、たくさんの素晴らしい出会いがあります。私は、学びの場に参加することで、次の仕事への気づきをもらい、元気をもらい、刺激を受け、日々の仕事への活力となっています。

教育センターの長期派遣研修員として、1年間現場を離れたときに、生徒と毎日顔を合わせ、生徒とともに学べること、日々の成長を感じられることが、教師としてどんなに幸せなことなのかを痛感しました。そして、私たち教師は、いかに生徒から元気をもらっているのかも。激動の社会ですが、この時代だからこそ、学びから広がる可能性は未知数だとも思えます。ともに楽しみながら学び続けていきましょう。

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