アクティブティーチャーの挑戦 第九回(月刊高校教育12月号) 

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
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アクティブティーチャーの挑戦 第九回(月刊高校教育12月号)

駒場学園高等学校(東京都世田谷区)
長田一郎先生

教育推進部の仕事について≫
 
○教育推進部創設の経緯
 私は、2014年から教育推進部の部長をつとめています。引き継ぎの際、前部長から「何をしていいか分からない部署だから」と言われて、困惑していると、「新しいことをやる部署だから考えていこう」と言われました。「新しいことって何ですか?」と質問すると、「正解のない問いを生徒が考えていく教育だ」と言われて、当時は何のことかさっぱりわかりませんでした。
 
 それまで本校は、進学実績の維持・向上に専念していました。勢い知識重視型の授業になっていました。授業は主に知識伝授の場であり、合間に雑談や脱線話をいかにうまく挟むかが授業者の腕の見せどころで、実際それによって生徒の授業への集中度も大きく変わりました。教育推進部の仕事は、そうした旧来の授業のあり方を否定するのではなく、ヴァージョンアップすることでした。

 ○タブレットの導入開始
生徒1人1台のタブレット本格導入に向けて、まず2015年にとりあえず96台トライアルとして入れ、貸出制としました。予算のこともあって、一気に全教員に配布することはできなかったので、主要5科目の中でも、特に ICTに興味や理解を示したり、日頃の授業でさまざまな工夫を厭わない先生方に第1期配布をしました(たしか30台だったと思います)。管理職も後回しにしました。当然さまざまな所で物議を醸しましたが、なりふり構っていられなかったので、押し通しました。また、配布した先生方には、必ずタブレットを活用した研究授業をすることをお願いしました。
 
○アクティブ・ラーニングの導入
アクティブ・ラーニングは、従来の講義型授業から、生徒の主体的な思考を促し、考え発言・発信することが前提となります。タブレットがあるだけでは無理なので96台試験導入の際に、ロイロノートも入れました。アクティブ・ラーニングの有用性を先生方に説明して、ロイロノートの勉強会を何度か行いました。実践報告会も行いました。ただ、教員も生徒もまだ全員が持っていたわけではないので、先生方の間に不公平感があったと思います。
 
○1人1台タブレットの導入
2017年度の新入生から1人1台タブレットを購入してもらいました。同時に1学年担任全員にタブレットを配布し、まずは気軽に HR で活用することからお願いしました。そのため、Classi もこの年導入しました。導入に際してはかなり議論になりました。あわせて手帳も導入しました。これもかなり苦労しました。
 
○教育推進部長として苦労した点
一番きつい時は上記の教育コンテンツを導入する時でした。2014年に現在の部署を拝命してから、教員研修、互見授業、ICT 教育、アクティブ・ラーニング、手帳と、立て続けに、しかもこれまで本校の誰一人として実践したことのないものばかり導入したため、現場の先生方の混乱と反発、不満は常に MAX 状態であることを毎日肌で感じていました。「教育推進部は負担増を強いる部署」「減らすべきものを考えもせず、足してばかりじゃないか」といった批判やお叱りをたくさんいただきました。それらのひとつひとつは正しいことなので、全てこうべを垂れて甘受しました。そして、何を減らしていいか教えてほしいとお願いすると、みんな口をつぐんでしまいました。私も含めて誰も、何を減らしていいか、何を減らすべきか分からなかったのです。導入定着のためにさまざまな勉強会、研修会、実践報告会を行いました。特効薬のような効果はありませんが、必須だと思います。
 
○教育推進部長として良かった点
導入時期に研修会、勉強会を数回やったことは、教員側の動機づけや、教育や授業が本当に変わっていくのだというリアル感をもたらしたという点で、やって良かった、必要だったと思います。アクティブ・ラーニングや ICT を活用した授業に対して是非論から方法論まで大さわぎするのは私たち教員ばかりで、当の生徒はすんなり、しかも的確に実践・活用していました。はからずも、生徒への教育効果の前に、私たち教員の、変化に対する柔軟さの学びの機会になったと思います。
 
生徒への教育効果はたくさんあります。現象面では、授業中居眠りしなくなった、問いに対して全員考えるようになった、タイムマネジメントができるようになった、考えたことを言葉にする、伝える、傾聴する、という、常に他者を意識できるようになった、などです。本質面では、これはなかなか目に見えるものではないので難しいですが、短絡的でなくなった、さまざまなことに積極性が出てきた、自己実現しようと努力するようになった、という点です。
 
 
 手帳の活用について≫
○手帳導入の経緯
2014年に今の部署についてから、必ず実現しようと思っていました。そして、タブレット1人1台導入を機に、手帳を一斉導入することを決めていました。なぜこのタイミン
グかというと、まさにデジタルデバイスを学校として一斉導入するからこそ、アナログツールも、一斉導入することが必要だと考えたからです。現場の先生方は大変困惑しました。当然のことだと思います。先生方の疑問は主に次の2点に集約できました。
・デジタルデバイスで全てまかなえるのに、今さらなぜ紙手帳が必要なのか?
・使い分けの指導がわからない。
 
○手帳とタブレットについて
 そこで導入前年には学年会議に出向いたり、導入年には学年集会で直接生徒に手帳とタブレットの違いについて説明しました。それが手帳を導入した理由でもあります。紙の手帳とタブレットの主な違いは次のような点です。
◆紙の手帳の特長◆
・とにかく手軽
・紙は一覧性がある
・他のところも自然と目に入る
・手書きなので創造的な思考に向いている
・いつも何となく見返す
・メモする癖がつく
・デザイン思考を促す
・能動的な営みである などです。
 
そしてもう一点、重要だと思うことは、タブレットは「機能」でしかありませんが、紙の手帳は「物」なので、愛着が湧きます。アプリに愛着は湧きません。アナログにしかない、大切な学習効果のひとつだと思います。かつて、英和辞典、国語辞典は学習の重要なツールでした。ところが次第に電子辞書へと移行しました。電子辞書は日本史世界史の一問一答や英単語集などをはじめとした数十種類のコンテンツが入っていて、しかもかさばらず、これは便利でいいじゃないか、ということで、紙辞書は使われなくなりました。ところが生徒たちは電子辞書もほとんど使わなくなり、紙の英単語集と紙の古文単語集に赤線やマーカーを引いたり付箋紙を貼ったり折り目をつけたり、ぼろぼろにしながら使うようになりました。そしてぼろぼろに使い込む生徒ほど、その本を大切そうにしていましたし、学力が向上しました。
 
◆タブレットの特長◆
・莫大なデータを集積・検索・抽出できる
・情報やデータを共有できる
・便利で効率的
・リマインダーが地味に便利(タイムマネジメントに向いている)
 
手帳を見返す人は多くても、スマホの手帳機能を見返す人は少ないと思います。スマホは実務的なスケジュールが得意です。手帳は過去を何となくふりかえり、遠い未来をぼんやり考えるのに向いています。それは当時の感情やセンスなどが、字の形、大きさ、色などに反映されているからだろうと思います。スマホの中身は個人的なダイアリーでさえも、「データ」になりがちです。このように考えると、スマホは「情報化、データ化するもの、入力抽出するもの」で、手帳は「読むもの、ふりかえるもの」ではないでしょうか?ただ、厳密な使い分けは必要ないと思います。個人によってはデジタルデバイスに書きつけた毎日のダイアリーを電車の中で読み返す生徒もいると思います。ただ、両方使いこなせるようになってほしいと思っています。
 
〇フォーサイト手帳を採用した理由


生徒の手帳活用
 
 
 
 一番の理由は、キャリア学習の教材になり得ると考えたからです。探究学習は新しいキャリア学習と位置づけています。探究を通してのキャリアプランは、「大学がゴール」ではなく、「生涯(定年後のことまで。セカンドキャリア。)の夢を持つことができるものだと思います。当時、高校生向け、学校向けに発売されている手帳はほとんど取り寄せました。個人的に、とてもおもしろく楽しそうだと思えるような、タブ形式のものもありました。その中で、フォーサイト手帳は、「7つの習慣」を踏まえてPDCAサイクルを考えてデザインされていました。そのポリシーをメインに掲げて作られているので選定しました。
 
本校では手帳を「ふりかえりの教材」と位置づけています。1日をふりかえる、1週間をふりかえる、その上で今日という未来を考える、今週という未来を考える、ということを毎日実践することで、キャリアプランにつなげることが狙いです。


探究カリキュラムについて≫
○探究カリキュラム導入の経緯
2018年度の新入生対象に開始しました。ICT 教育、アクティブ・ラーニングの実践は、「正解のない問いを考え続けることのできる生徒を育てる」ことを目標として始めました。その中核となる学習時間が「総合的な探究の時間(当時は「総合的な学習の時間」)」です。これが導入の一番の理由です。
 
そもそも探究学習の本質は哲学だと思っています。そして哲学は、人間が自由であるため、人間が倖せであるため、どういう生きざま(死にざまも)を送るのかを追究する学問だと思います。生徒が、どんな時代、社会にあっても、現象面や、表面的な言説・出来事に振り回されず、いつも本質を見極めていくように、その時代時代の「常識」を疑い、でも決して人や周りのせいにしたり、毎日を嘆いたり責めたりすることなく、苦難を乗り切るために工夫し、それをむしろ楽しめるぐらい自由な魂を獲得し続ける大人になってほしいと思っています。
 
進学コースの統一テーマを「NEO TOKYO」、国際コースは「正義」、特進コースは「共生」としました。進学コースの「NEO TOKYO」は、3年後2020年の東京オリンピックに向けて、新しい都市のあり方を提案しようと企図したものです。国際コースの「正義」は、グローバリズムとファシズム、民主主義を考えていく際に、考える入り口として最適だと判断したからです。特進コースの「共生」は、国際コースが言わば能動的に国際社会に出て行くことを踏まえているのに対し、いかに他者を受け容れるかを考えさせたいと思ったからです。「正義」は西欧的な発想ですが、「共生」は東洋的です。

○体験旅行について


体験旅行の事前学習①


2019年、体験旅行(修学旅行)は、従来の「体験する」旅行からさらに踏み込んで、「探究する」旅行へと切り替える準備を始めました。その枠組みとして SDGs を設定しました。複数の旅行業者さんにコンセプトを詳しく伝え、管理職や学年主任、コース主任の先生方に集まってもらい、業者さんにプレゼンしてもらいました。PBL型の体験旅行にしたいと考え、課題発見から課題解決案の提案まで、生徒に考えさせていくことにしました。探究活動や PBL を形だけ謳い、結局は旅行業者の提案したコース巡りをするのではなく、本物の PBL 型探究旅行をしようということで、2020年度入学生徒を第一期として、コース選定から中身についての議論を行いました。ミーティングの中核は教頭、学年主任、私、旅行業者です。どこに行くのか、なぜその場所か、そこでどのような探究活動が想定できるか、ということに始まり、業者の用意した旅程は参考程度で、ひたすらどのように探究活動をさせるか話し合いました。週1回ペースで、現在も継続中です。

○探究カリキュラムでの生徒たちの変容について

体験旅行の事前学習②


生徒たちが変わったのか、元から持っていたポテンシャルが顕在化したのか、生徒たちは明らかに積極性、主体性が出ました。何より嬉しいのは、探究活動に楽しんで取り組んでいる生徒がほとんどだということです。正直驚いています。これは、担任の先生方の努力の賜物としか言いようがありません。探究はファシリテイターの技量がそのまま出ると言われており、その通りだと思っています。ただその「技量」はほんの少しの部分で、成否を左右する主な原因は、ファシリテイトする担任や担当の教員自身がどれだけ楽しんでいるか、モチベーションが高いか、だと思います。過重負担の中にあっても、現場の先生方がやっぱり生徒を大好きで、悩み苦しみながら探究を探究してくださっているからうまくいっていると思います。
 
最初の一歩を踏み出す勇気、自分を変えたい思いを行動に移す勇気、いろんなことをポジティブに捉えて取り組む姿勢、そういうものを生徒全体の雰囲気として感じます。生徒が変われば教員も変わり、学校も変わるのだと思います。
 
新しいことに取り組んでいる先生方へのメッセージ≫
僭越ながら。新しいことでも、昔ながらのことでも、生徒が将来幸福に暮らせるようになる可能性を秘めたコンテンツがあるならば、迷わずに導入し進むべきです。もし、私たち教員が、生徒に対してファーストペンギンになることを厭わない大人になってほしい、利己的ではない大人になってほしい、と願っているとするならば、私たち自身も、学校組織の中でファーストペンギンになることを厭うてはならないと思います。
 
そして、もし、生徒に対して、どんな状況でも希望を棄てず、諦めないで前に進んでほしいと願うなら、私たちも決して諦めてはならないと思います。それが生徒にとってためになることなら、大体5年から6年先には必ず正しさが証明されると思います。そして少しだけですが理解者が増えると思います。上滑りでない本当の変化・変革は、短期間で劇的に行われるものではなく、何年もかかってやっとほんの少しだけ実現できるものではないでしょうか。
 

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