アクティブティーチャーの挑戦 第十回(月刊高校教育1月号掲載)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第十回(月刊高校教育1月号)
静岡サレジオ中学校・高等学校(静岡県静岡市清水区)
山田邦彦先生
≪観点別評価について≫
○ミッションステートメントの作成
(ミッションステートメント)
新学習指導要領の告示を受け、2018年に数学科の教員全員で、育成したい生徒像について議論しました。カトリックミッション校である静岡サレジオの数学科のミッションステートメントを作成するために、アイデアを出しグルーピングし、さらに構造化し、次のように完成しました。「数理的思考を用いて、真理を探究し、他者との関わりの中で生きる喜びや自信を共有できる生徒を育てる。」です。前半部分に知識・技能、思考力・判断力・表現力に関する事柄を表現し、後半部分に学びに向かう力、人間性等に関する事柄を表現しています。
私たち数学科は、このミッションステートメントにしたがって、授業改善を行うことを決めました。私たちの授業改善により、生徒が育てたい生徒像に近づいているかどうかを見取る必要があります。また、生徒が私たちの期待する行動をとっているかどうかを見取ることも必要です。この見取ることが私たちの考える評価です。知識・技能の評価は、主にペーパーテストで行うことができます。小テスト、単元テスト、定期考査で評価することができます。机間巡視でも見取ることはできます。
思考力・判断力・表現力は、知識・技能と同様にペーパーテストで評価することができます。授業改善の一つとして、コーネル演習という独自の演習方法を導入しました。後に詳しくお話ししたいと思います。コーネル演習は、独自の書式の用紙に問題を記述するだけでなく、生徒が問題と向き合った思考の様子を視覚化するエリアを設けています。
○「主体的に学習に取り組む態度」(学びに向かう力、人間性等)の評価方法
コーネル演習では、記述内容だけでなく視覚化された思考を見取ることができます。さらに、コーネル演習にはR80※を記述するエリアを設けています。R80から学びに向かう力、人間性等を評価することができます。コーネル演習を継続的に行うことにより、R80から生徒の変容を見取ることができます。さらに、生徒に自己評価をさせるために、授業後に毎回グーグルフォームを配信し回答させています。
現在、高校では、観点別評価の「主体的に学習に取り組む態度」(学びに向かう力、人間性等)をどうやって評価するか、ご苦労されていると思います。私は、この評価については、「瞬間」ではなく「変容」をキーワードとしています。そのため、その「変容」を見取る工夫をしています。その一つがR80の活用になります。
静岡サレジオは中学3年次より、3つのコースに分かれます。コースの特性にあわせて、コーネル演習に取り組む頻度、グーグルフォームの内容を若干変えています。例えば、エグゼコースでは、コーネル演習をグーグルクラスルームから課題として配信し、生徒は取り組んだ画像を提出します。それに対してルーブリックによる評価をして生徒に返却しています。また、ソフィアコースでは、エグゼコースほどコーネル演習の頻度が多くないので、グーグルフォームにR80を記入させています。このような継続的な評価をもとに評定をつけています。
※R80(アールエイティー)は、2016年に中島博司氏((株)FCEエデュケーション参与、前茨城県立並木中等教育学校校長)が考案した学びのアイテムです。詳しくは、こちらをご覧ください。
≪コーネル演習について≫
○コーネル演習とはどのようなものか
(生徒記載のコーネル大学式ノート)
コーネル大学式ノート術、コーネルメソッドとして広く知られているノートの取り方を参考にして作った書式を使って数学の問題を解くことをコーネル演習と呼び、活用しています。ノートにTの字の逆を書き、3分割します。右のエリアは、数学の解答を記述するエリアです。指定された問題について、答案を意識して解きます。そして、左のエリアは思考を視覚化するエリアです。ここには、問題を解くための考え方、ポイント、イメージ、発想、手順、アドバイスなどを書きます。ある生徒はこのエリアを「私の脳内」と名付けて自分の頭の中の様子を見事に表現しています。最後に下部には、R80を記入するエリアを設けています。
授業の振り返りとしてR80を活用し、その効果を認識していたので数学の問題を解いた振り返りとして、R80を記入させたいと思いました。もともと自分自身がコーネル大学式ノートを使っていて、生徒に活用方法を紹介していました。数学の共通テストに記述式問題が導入されることになり、その対策として先ほどの書式にたどり着きました。1枚の用紙に、数学の答案、思考の様子、振り返りを記入できます。授業改善の一つとして、授業では問題の解き方を教えるよりも問題に対する立ち向かい方、数学的な見方・考え方を強調することに変えました。
○コーネル演習の成果
生徒に一段高い所から数学を眺めてもらいたいという思いと、高い所から数学を眺めることにより、メタ認知を働かせることができ、他の問題への転移を期待しました。結果として、生徒は数学の問題ときちんと向き合うことができ、自分自身の答案を記述できるようになっています。生徒は、問題集の解答がすべてではなく、それを意味もなく真似するよりも自分自身の答案を作成することの方が意味のあることであると認識しているようです。
コーネル演習が、生徒の資質・能力の育成に効果的なものになるように、コーネル演習に対するルーブリックを生徒に提示しています。また、取り組んだコーネル演習を友達同士見せ合い、友達の取り組みにフィードバックを与えることもしています。継続的な取り組みが生徒の資質・能力の育成に良い影響を与えていると実感しています。
≪SSPについて≫
○SSPとはどのような取組か
(サレジオ・スタートアップ・プログラム)
SSPは「サレジオ・スタートアップ・プログラム」の略です。中学3年生の「総合的な学習の時間」に行っています。中3なのになぜスタートアップなのかというと、静岡サレジオは4-4-4制をとっている小中高の一貫校です。小1から小4までをプライマリーステージ、小5から中2までをミドルステージ、中3から高3までをカレッジステージと呼び、12年一貫教育を行っています。したがって、中3はカレッジステージの始まりの学年であり、生徒のグロースマインドセットを高めるためにSSPを行っています。
具体的な内容は、生徒がクラスの枠を超えてプロジェクトチームを結成し、自分の学校を自ら改革するために各チームが個性的なプロジェクトに取り組む活動です。プロデュース事業や教育人材事業を手掛ける、株式会社AOBEAT(静岡市葵区)さんの企画・運営の下、生徒は熱心に取り組んでいます。
○オリジナル演習ノート制作チームについて
この活動の重要なポイントは、生徒が実際に企業様と連絡を取り合い、オンラインインタビューをしたり、情報提供などの協力を得て、実際にプロダクトを製作する所までを目指したりしている所です。少しでも、自分たちで社会を変えられるという、生徒のエージェンシーを育成できるといいと思っています。
あるチームは、私の実施しているコーネル演習の良さに気付き、コーネル演習を改良したオリジナル演習ノートを製作しています。R80の考案者である中島博司先生からは、オンラインインタビューで貴重なアドバイスをいただきました。これ以外にも素敵なプロジェクトが多くあり、今後の展開をとても楽しみにしています。
≪これからの教師像について≫
私がこのような活動をするきっかけは、積極的に勉強会に参加したことです。私が参加した勉強会は、対面でもオンラインでも、いわゆるアクティブ・ラーニングを行うものが多く、とても刺激を受けました。また、同じグループになった全国の先生方とSNSで繋がり、様々な情報交換を行うことができました。そして、現在もその繋がりを活用させていただいています。中島博司先生とも、Facebook友達となり、メッセンジャーでやりとりさせていただいています。
生徒がアクティブになるためには、まず教師がアクティブになり、積極的に社会に飛び出すことが大切であると実感しています。教師は自分のため、他者のため、そして社会のために学び続けられる素敵な職業です。教育は学校だけで完結するものではありません。多くの方々と協働し、日本の教育を盛り上げていきたいです。