アクティブティーチャーの挑戦 第十一回(月刊高校教育2月号掲載)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第十一回(月刊高校教育2月号)
私立 鳥取城北高等学校(鳥取県鳥取市)
田中将省先生
「ICT活用授業と学校説明会」
≪ICT活用授業について≫
○小林昭文先生から学んだこと
私の授業改善の原点は、小林昭文先生です。2012年に埼玉県立越ケ谷高校で小林先生の物理の授業を参観し、授業イメージがガラリと変わりました。その後、すぐに授業改善に乗り出した私は、小林先生が講師をつとめるセミナーで、何度か模擬授業をさせていただきました。小林先生に教員研修会の講師として、本校に来ていただいたこともあります。
小林先生から学んだことは多すぎてとてもすべてをお話できないのですが、強いてあげるなら、下の5つです。
① 授業のゴールを明確にすること。
② タイムマネジメントの大切さ。
③ 質問(問い)による気づきの大切さ。答えをすぐには与えない。
④ 学びの選択肢を与えること。一人でもいい、友達とでもいい、教科書を読んでもいい。
⑤ 学びを授業の中で完結させないこと。興味をもったり気になったりしたことは、きっと調べる。
以上の点は、ICT活用が注目される現在も変わらないと思います。10年近く前に、そこまで考えて授業づくりをしていた小林先生は、凄いと思います。
○ICT活用授業の方法について
それでは、私が実施している、物理のICT活用授業の方法について述べさせていただきます。
ベースは、今でも小林昭文先生の授業スタイルになります。授業の資料は、基本的にGoogle Classroomで共有しています。問題演習の時間は、生徒が学び方を選べるようにしています。また、自作の動画教材も積極的に活用します。その動画教材は、Googleドライブに保存しておき、生徒が自由に視聴できるようにしています。そのことで、欠席者も自宅で視聴できます。
確認テストは、Googleフォームとアドオン「Email Notifications for Forms」と連携させて、自動採点+解答解説の自動返信ができる仕組みをつくりました。リフレクションは、Googleフォームを活用しています。時には、質問づくりの授業や単元まとめの授業で、Jam boardを使うこともあります。
○動画教材の作り方について
コロナ禍で動画教材づくりを始めた先生が、全国にはたくさんいらっしゃると思います。
私は、無理をしない動画づくりを心がけており、基本的に一発撮りです。なぜ、一発撮りにこだわっているのか。動画は、凝り出すときりがありません。編集に凝ると、もの凄く時間がかかります。
私の動画は、主に手元を写す解説動画と画面キャプチャの解説動画の2種類です。具体的にいうと、レベル1は、Google MeetやYouTube Liveで解説動画、レベル2は、YouTube LiveとストリーミングソフトOBS Studioを使って、一発撮りなのにこだわった解説動画づくりとなります。
現在は3~5分の動画を量産しており、Googleドライブのフォルダに保存して、生徒が視聴できるようにしています。
○ICT活用で大切にしていること
ICTの活用で、私が大切にしていることは、「学びの選択肢」を増やすことです。保育園に通う長女が、一人でYouTubeを観ながら折り紙や綾取りの勉強をしていました。折り紙や綾取りに興味をもったきっかけは保育園でしたが、自分でさらに学びを深めていました。
今や、興味やきっかけがあれば、自分自身で学べる時代になりました。ICTは、「学びの選択肢」を与えるもの、時間的・空間的な制約を超えた学びを可能にするものです。ICTの活用を目的するのではなく、「これまでやりたくてもできなかったこと」に目を向けることが大切です。便利さや効率だけのICT活用では、もったいないと思います。
○ICTの授業以外の活用について
私は、現在、第2学年の学年主任をしています。担任の先生には、とにかく生徒たちと話をしてほしい、関わってほしいと思っています。
担任の先生たちが生徒と向き合う時間を増やすために、ICT活用によって担任業務を減らすことを心がけています。そのために、あらゆる情報を統合し、ワークシートや資料をオープンソース化しています。また、こまめな情報共有によって、会議を減らす工夫もしています。
≪学校説明会について≫
○中学校での高校説明会について
以前の鳥取城北高校は、公立高校の補完的な役割があり、生徒のほとんどが併願で入学していました。しかし、7年前から、県立高校の倍率が落ち着き、併願での入学者が激減しました。定員割れによる危機感から、授業改善や広報など、学校の魅力化に学校全体で取り組み、V字回復を達成しました。
近年、魅力的なコンテンツが増えて、鳥取城北高校は、第1志望に選ばれる学校になりました。現在では、生徒の大多数が専願で入学しており、生徒数は県内最多の1150名になりました。
学校の魅力を発信するための広報活動を本格化した時、プレゼンに力を入れていた私が広報担当に抜擢されました。はじめての高校説明会で、大きな反響がありました。鳥取県中部から東部、さらに兵庫県但馬地区のほぼすべての中学校でプレゼンをしました。
現在では、鳥取城北高校のプレゼンが有名になり、他校の先生から動画を撮らせてほしい、プレゼンについて教えてほしいと言われるまでになりました。他校の先生からは「説明会で城北の後はイヤだ」と言われます(笑)。
○吃音について
私は、幼少期から吃音があり、人前で話すことは恐怖で、夜眠れないこともありました。しかし、うまく話せないからこそ「伝えたい」気持ちは誰にも負けないと考え、何度もプレゼンの動画を撮って練習しました。プレゼン内容のまとめ方、相手が聞き取りやすい話し方、特殊なプレゼンソフトの使い方を勉強しました。
さらに、広報担当として、IllustratorやPremiere Proも独学で勉強しました。現在はPremiere Proを使って広報用の動画づくりをしています。また、Illustratorのスキルを学校イベントのフライヤーづくりに活かしています。
○プレゼン資料づくりのコツ
私の考える広報のプレゼン資料づくりのコツを6つお伝えします。
① 情報をしぼる。
② デザインにこだわる。
③ シンプルで分かりやすい表現を心掛ける。
④ 相手の立場にたつ。相手が何を知りたいかを考える。
⑤ 情報は消えるが、感情は残る。そのときの聞き手の感情を大切にする。
⑥ きっかけづくりに徹する。「もっと知りたい」を大切にする。
これらは、授業づくりにも共通することだと思います。
≪Find!アクティブラーナーについて≫
Find!アクティブラーナーについては、以前は個人会員として登録し、主に「有識者講演」「知識を深める」というコンテンツを視聴して、主体的・対話的で深い学びについて勉強していました。
鳥取城北高校が学校導入校となってからは、理科の教科会で、気になった授業をお互いに紹介する取組などをしています。実際に会議の中で動画を少し視聴してから、意見を述べ合うと、学びが深まります。授業動画を見ていると、前述の小林昭文先生のDNAが全国に広がっていることを感じ、嬉しくなります。
≪中堅の先生方へのメッセージ≫
ミドルリーダーとしての中堅教員には様々な役割がありますが、その一つが若手の先生の育成です。若手の先生を育てることはなかなか難しいことですが、若手の先生が日々成長して私たち中堅教員を超えていってくれたら嬉しいですよね。
そのために、私はまず「自分自身がワクワクしながらチャレンジする姿」を見せたいと考えています。ICTに限らず、新しいことを学び続ける姿はもちろんですが、吃音がありながらも勇気を持って大勢の前で話す姿など、弱点を抱えながらでも与えられたポジションで全力を尽くす姿を見せることで、若手の先生の捉え方も変わってくるのではないかと思います。そういった理由から、吃音のことを職場でもオープンにするようになりました。
もう一つ、若手の先生を育てる上で大切にしていることは「共有」です。これまで私が作ったあらゆる資料(ワークシートやスライド等のデータ)をオープンにして、各々がそれらを自分なりにバージョンアップできるようにしています。
さらに、参考になる書籍やサイトなど、学び方も共有しています。私たち中堅教員の手の内をどんどん明かして、彼らがのびのびと自分を高められる環境を整えることが必要ではないでしょうか。
社会の変化が激しく先行きが予測しづらいVUCA時代においては、まず基本をしっかり習得しさらに高め発展させていく、いわゆる「守破離」のスピードも求められていると思います。
学校はやはり人です。若手の先生に限らず、教員の成長が学校という組織の成長につながります。中堅教員として、しなやかに成長し続ける姿をこれからも見せていきたいです。