アクティブティーチャーの挑戦 第十五回(月刊高校教育6月号掲載)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第十五回(月刊高校教育6月号)
岩倉高等学校(東京都台東区)
松本祐也先生
「校内若手研修について」
≪岩倉高等学校について≫
○岩倉高校の歴史
本校は、明治30(1897)年に創設された「鉄道学校」がルーツであり、今年創立125年を迎えます。校名の由来でもある岩倉具視は、明治時代初期に使節団のトップとして主にアメリカとヨーロッパを訪れましたが、帰国後は産業育成に力を注ぐと同時に鉄道網の拡大の必要性を説きました。明治時代には各地で鉄道が建設され、優れた鉄道職員の育成も急務となりました。こうして設立されたのが「鉄道学校」です。
明治33年(1900)年には現在地(上野駅隣接)へ移転し、明治36(1903)年には、岩倉具視の偉業をたたえて「岩倉鉄道学校」と名称を変え、岩倉の名称がつけられました。その後、戦後の教育改革によって昭和23(1948)年に岩倉高等学校となり、当時の国鉄をはじめとする全国各地の鉄道会社へ卒業生を送り出してきました。
「鉄道学校」の系譜から、戦後は普通科・運輸科・機械科・商業科を中心に長らく鉄道業界への就職に特化した男子校でした。その後、鉄道各社の女性職員積極採用の高まりも後押しとなり平成26(2014)年から共学化し、同時に普通科と運輸科の2科体制となって現在に至ります。現在は、鉄道業界への多くの卒業生を送り出すとともに、進学にも対応するキャリア教育を行っています。
○鉄道運転シミュレーターについて
本校の施設の目玉の一つが運輸科の授業で使用する鉄道運転シミュレーターです。このシミュレーターは鉄道会社で使用しているものと同様なので、オープンキャンパスや学校祭で触れてから憧れを持つ入学生も少なくありません。実習棟には651系と211系、中央館には205系のシミュレーターがあります。
もっとも、運輸科の授業でこのシミュレーターに触れる時間は多くありません。運輸科では優れた鉄道職員を育てることを目標としつつも、高校生として必要な基礎学力や求められるホスピタリティマインドに多くの時間をかけて、バランスよく学べるカリキュラムとなっています。
また、2年次の夏と冬の長期休業中に行われる鉄道実習も本校の特徴的な学びのひとつです。これは鉄道会社で1週間程度のインターンシップを行うものであり、実際に駅や工場などの現場で働く経験を積むことができます。この鉄道実習は運輸科のみならず普通科の生徒でも可能で、女子からの希望も少なくありません。実際に現場に立ってわかることが多く、進路選択の重要な機会となったと述べる生徒も多くいます。
このように本校では普通科でも、伝統の鉄道教育を受けることができ、また運輸科でも教養教育に時間をかけて学ぶことで、広い視野を備えた生徒を育てています。
○1984年のセンバツ甲子園初出場初優勝について
昭和22(1947)年に創立された野球部は、校内に運動場がないため、戦前からの校地であった西東京市の専用グランドで活動を行っています。特筆すべきは、昭和59(1984)年春の選抜高校野球大会に初出場し初優勝したことです。球史に残る結果を残したことで、今もこの時の思い出を語ってくださる方も少なくありません。
本校は鉄道業界へ多くの卒業生を送り出していますが、球界でも多くの卒業生が活躍しており、プロ野球のみならず社会人野球や各地の野球チームの指導者となって活躍している卒業生も多くいます。
≪校内若手研修について≫
○実施の背景
スタートは10年前の平成24(2012)年です。本校では平成26(2014)年からの男女共学化に向けて若手教員の採用が増加するようになってきました。その中でも新卒教員は心配事も多く、私も相談に乗ることがよくありました。授業の進め方や生徒への生活指導の入り方といった基本的なことのみならず、そもそも教師とは何か、良い教育とは何かといった哲学的な問いにも話がおよぶことが少なくありませんでした。
当時は私もようやく授業に手ごたえを感じ、生徒との触れ合いが楽しくなってきた頃だったのでスキルの話はできても、本質的な話題にはスムーズに答えることができず、モヤモヤすることもありました。どうせなら一緒に語り合いながらより良い方向性を探してみようと考え、私と新卒教員による放課後サロンが不定期で開かれるようになりました。
しばらくたって、新卒者と私でスキルアップやこれからの学校について話をしているということを教頭に話したら「いいね、面白いことをやっているね」と言ってくれ、その後は時間が許す限り教頭も参加してくれるようになりました。これが校内若手研修の始まりです。
翌平成25(2013)年からは、校内初任者研修と名称を付けて教頭の指導の下、私がメインリーダーとなって運営し、前年度の新卒教員が初任者の相談相手になるしくみができました。このシステムはフォロワー制度と形を変えて現在にも受け継がれています。前年度の初任者が次年度の初任者に苦労だけでなく成功体験を語り、将来の展望を話す姿からは教頭や私も学びや気づきが多くありました。
どの学校でも同じですが、若手、特に大学を卒業したての教員は何をすればよいのかわからないままジェットコースターのような毎日を過ごすことになります。当然不安を抱えた中での教員生活となり、場合によっては自信を失うことさえあります。ベテランが見守りながら、空気が通りやすい若手同士が一緒に学び支え合うことで、業務面のみならず精神面でも安心できる環境づくりに少しは貢献できたのかなと感じます。
<2020年度 校内若手研修アンケートまとめ>
https://school-fal.com/uploads/files/images/gakuji/gakuji-2206_2020wakateT-questionnaire.pdf
○フォロワーについて
スタートした頃は不定期ながら放課後に実施していましたが、翌年からは月に1回日時を決めて定期的に実施するようになりました。なお、実施日時の決定や会場準備、話をしてもらう管理職や先輩教員へのアプローチは初任者に委ねました。
具体的な活動としては、管理職や先輩教職員からの講話を聞き、ディスカッションやフィードバックを行っています。令和2(2020)年度からはZoomを使ったオンライン研修も始めました。
フォロワーは平成27(2015)年から始まりました。この制度は採用3年程度の若手教員が初任者のメンターとなってサポートするだけでなく、初任者と対話をしながら一緒に成長していく目的で作られました。先輩教員が指導者や世話役になるのではなく、苦労やコツを伝えながら、初任者の姿からも気づきを得て一緒に成長していくことを目指しています。フォロワーは初任者1人に先輩教員1人が担当し、若手同士であることもあいまって、勤務上の話だけではなく日ごろの悩み相談にも乗ったりすることもあり、絆が深まっていくこともあるようです。
ちなみにこのフォロワーのしくみは教頭や私が作ったのではなく、研修で学んだ一部の教員が話し合って提案してくれました。このように学びを続ける教師が本校にいることは大きな誇りであると感じます。
○実施計画
近年の実施計画の概要は、下の一覧表の通りとなります。令和2(2020)年度は平成30(2018)年度と同じ内容を実施し、令和3(2021)年度はコロナの影響を考慮してフォロワーによる話し合いのみ実施しました。
<平成27~30年度 校内研修実施計画概要> https://school-fal.com/uploads/files/images/gakuji/gakuji-2206_kounaiT-resume.pdf
○成果と今後の展望
教員一人ひとりの引き出しにわずかながら刺激を与え続けていることをまずは挙げたいと思います。本校の校内研修で教員が見違えるようになったということはありませんが、少なくとも学び合うことで気づかなかったことに気づき、見えなかったことが見えてくる瞬間を提供できたことは成果と言えるでしょう。また、できることから行動に移していくように背中を押し続けていることも挙げられます。
校内若手研修で学んだ多くの教員が立派に担任を務め、校務において活躍している教員となっていることは一緒に学んできた者として望外の喜びでもあります。平成30(2018)年度に校内研修部門で「第2回NITs大賞優秀賞」を受賞できたのは、学び続ける教師が校内で増えていったことと無関係ではないと思います。
今後の展望としては、本校の校内研修がハブとなって学びの場を創出していくことです。これまでも本校の校内研修に興味を持たれた他校の先生をゲストとして招いて一緒に学んだり、講師として外部の方を招いて学び合いを進めてきましたが、学び合う環境づくりはこれからの教員に必要不可欠ではないかと思います。
本校で蓄積されたスキルやノウハウも少なからずあります。そのスキルやノウハウはこれまで関わってきた本校の教員の叡智であり、この叡智を本校だけにとどめておくことはもったいないことです。教員の学びのスタイルは多種多様です。本校の校内研修が本校の若手にとどまらず広く関係する皆様にもお役に立てればと考えています。
≪校内研修のポイントについて≫
○双方向性の大切さ
本校の校内研修で心掛けていることは、一方的に話を聞くことのみではないということです。聞いた話を参加者とシェアし、どのように感じたのかを話し合う、フィードバックも大切にしています。
主体的・能動的な学びと言われて久しいですが、教員こそ主体的・能動的であるということがどういうことであるのかを理解する必要があります。理解の一歩は自らをその環境に置くことです。本校の校内研修では伝える側も一緒になって聞き手と学び合います。意外なことに初任者の考えや指摘が的を得ていることも少なくないからです。
言葉で伝えることを生業としている教員は話すことが大好物です。ゆえに、学びの場に活かさない手はありません。双方向で学んでいくスタイルは本校の校内研修の特徴であると言えます。
○参加者の主体性を重んじる
校内研修のスケジュールは4月から9月までの前期は管理職による各分掌の詳細が中心です。校内システムを理解し、スムーズな業務につなげてもらうことが目的です。10月からは学びたいことや知りたいことを参加者で話し合い、企画運営しています。
ただし初任者は企画力も乏しいことがあるので、そんな時にフォロワーの存在が光ります。フォロワーがアドバイスをすることで企画運営も格段にしやすくなっているようです。
○その他のポイント
本校の校内若手研修が10年の間継続できた理由は様々ですが、大きく2つの理由があるように思います。
1つ目は本校に採用された教員は、学ぶことが好きな人が多いということです。学ぶことが好きだからこそ、学ぶことによって自らを成長させていくことができるということを理解している教員が多いと感じます。若手教員の学ぶ姿勢は私たちミドル世代のみならず管理職にも影響を与えてくれています。
2つ目はスタート時から一貫して、管理職の手厚いサポートがあるということです。このことは若手のみによる不安定な運営ではなく、強いバックアップのもとで学びの場が創造されていることを示します。環境づくりは特に大切で安心・安全な場づくりこそ学びの場には必要不可欠なのだと改めて感じます。
≪教務部長・教務主任の先生へのメッセージ≫
業務が多岐にわたる教務部長を一言で言うなら、贅沢であるということです。本校の教務部長は私が就任しているということもありますが、校内研修にも深くかかわっています。管理職と連携しながら、定期的に初任者と若手の成長を考える時間は私にとっても貴重な機会となっています。
教務部長は学校の要でもあり教育活動のほとんどに関わることから、学校全体を俯瞰できるようになりました。教務部長になるまでは組織の1パーツのみを見ていたような気がします。教務部長になってからは視野が広がり、さらに学校の面白さを感じるようになりました。その一方で、自分に足りないことも見えてくるようになり、力不足を感じることもしばしばあります。
また、自分の得意分野に気づいて強みを発揮し、不得意分野に気づいて知らないことを知る楽しさもあります。あまり人気のない役職ですが、この役職に就任しなければその贅沢さはわからないのかもしれません。
私は、学校をより良くしていくには何が必要かを常に考えていますが、校内若手研修の運営を通じて、僅かながらも貢献しているという自信が持てるようになりました。その自信が学校を良くしていく原動力になり、学校が良くなれば社会も良くなって、ひいては世界全体が良くなる一つの種に繋がっていると思うとワクワクします。教務部長になったことで、こんな大きな心を持てるようになりました。これからも現状に満足することなく、私自身が成長していくためにも探究しながら学び続けていく所存です。教育の未来のために一緒に頑張りましょう。
<参考資料>
2021年度 東京私学教育研究所合宿
「学び合う教職員の関係づくりと学ぶ場としての学校~本校若手校内研修の取り組みから~」
https://school-fal.com/uploads/files/images/gakuji/gakuji-2206_202108_Toshiken-resume.pdf