アクティブティーチャーの挑戦 第二十六回(月刊高校教育5月号掲載)

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アクティブティーチャーの挑戦 第二十六回(月刊高校教育5月号)

鎮西学院高等学校
林田結先生

「インクルーシブ教育について」

≪鎮西学院高等学校について≫

本校は、1881年北米メソジスト教会から長崎に派遣されたC・S・ロング博士が設立し、今年で142周年になる学校です。キリスト教主義の学校であり、毎日のチャペルを軸として心の教育を大切にしています。建学の精神は『品性高潔なるクリスチャンジェントルマンの育成』、校訓は『敬天愛人』です。

校舎は長崎市にありましたが、1945年8月、長崎原爆により被災し、現在は、長崎県諫早市の緑豊かな場所に移転しています。2022年9月には、西九州新幹線が開業し、近くの諫早駅に停車するようになり、今後の発展が期待されるところです。

現在、普通科と商業科の2学科があり、普通科には、国公立進学コース・一般進学コース・公務員コース・グローバルイングリッシュコースがあります。生徒数は約960名です。大学と幼稚園が同じ敷地内に併設しており、交流も盛んです。

全体の8~9割が進学しています。その中でも国公立進学コースからは、京都大学をはじめとして44名国公立大に進学しています。海外大学への進学もあります。公務員のべ81名合格。就職率は100%。生徒の約8割が部活動に所属し、県上位に入ったり全国大会で活躍する部活動もあります。

≪私が学んできたこと≫

私は、大学では教育学部中学校教育コース英語専攻で学んでいました。その学部の障害児教育論の授業で、「授業のユニバーサルデザイン化」について学び、「UD デジタル 教科書体」というフォントがあることを初めて知りました。しかし、この時は「授業のユニバーサルデザイン化」は、発達障害等がある特定の子に向けてのインクルーシブ教育だと思っていました。

大学4年の時に1年間休学をして、オーストラリアに私費留学しました。現地校での日本語授業のアシスタントティーチャーとして1年間勤務しました。小学校や中学高校に配属され、TTの一人となったり、日本からの留学生の受け入れなどを担当したりしました。

オーストラリアの学校では、多国籍で様々な歴史的・文化的背景をもった子が一緒にいるのが当たり前でした。日本につながりのある子の存在を知り、外国に繋がりのある子に関心を抱くようになりました。学校では、発達障害等がある子へのサポートは当たり前に行われていました。基本的には同じ教室で学んでおり、時に特別な支援をしていました。オーストラリアでの1年間の経験を通して、include(配慮)されるべきなのは、障害のある子だけではないということを知りました。

大学を卒業した私は、私立の通信制高校に勤めることになりました。「何か」を抱え思い悩む子たちと向き合う日々でした。多くの本を読みましたが、本の中ではうまくいっていても、実際の私の授業ではうまくいかないという挫折感を味わいました。そんな私に、常駐のスクールソーシャルワーカーの方や、特別支援の免許を持った先生がいろいろ教えてくださいました。周りのサポートの必要さ、ありがたさを実感した1年間でした。その後、母校である鎮西学院高等学校に英語科教員として採用され、現在、3年目になります。

≪インクルーシブ教育について≫

インクルーシブ教育とは、障害の有無・国籍・LGBTQなどの特性や背景に関係なく、生徒一人一人がincludeされている、includeしていると感じる教育です。このincludeの意味について、私は「籠」をイメージしています。ハグするようにかこむ、あたたかく包み込むようなイメージです。

私は、教員もincludeされるべきだと考えています。教員が犠牲になって苦しみながら配慮をするのは、インクルーシブ教育ではないと思っています。我々教員も輪の中に入っていって、無理せず実態に合わせてやっていくのがいいと思います。教員一人一人にも、いろいろなバックグランドがあると思いますので、それを生徒たちも分かって、一緒になれたらと思うのです。そして、生徒たちには、includeする心をもって卒業していって欲しいと願っています。

本校で実施しているインクルーシブ教育の例についてお話しします。本校には多くの留学生がいます。中国や韓国からの留学生もいます。地歴科の先生は、歴史の教科書は日本からの視点で書かれているということを話しています。留学生一人一人に、前もってこんな話をするよと伝える時もあります。また、弱視の生徒には、iPadを使って授業に対応できるようにしています。iPad上では文字等を拡大できるのでとても有効です。さらに、テスト問題は拡大コピーをして渡しています。

本校のトイレは、バリアフリー化されています。制服については、女子生徒のスラックス着用はもちろん可です。ただし、男子のスカート着用はまだです。私自身は、男子のスカート着用もありだと思います。なぜなら、自分が「心地いい」と感じることが一番だと思うからです。

インクルーシブ教育の留意点を3点あげます。「合理的配慮を必要とする生徒を特別視してはいけない」「腫れ物に触るようにしてはいけない」「教員も周りの生徒も無理してはいけない」です。また、インクルーシブ教育では、他のクラスとの連携やチーム学校としての取組が大切です。そして、保護者との連携・協力も大切になります。

インクルーシブ教育の課題として、生徒は結構理解しているが、大人が理解できていないということがあります。生徒たちは、ネット社会で生きてきて多様な人たちがいることを理解し、その接し方も知っているような気がします。我々大人が、変わることを恐れてはいけないと感じるのです。

≪ユニバーサルデザインについて≫

ユニバーサルデザインとは、みんなが快適に過ごせる環境をつくるための方法の一つです。「心地いい」環境をつくることです。学校でいえば「学校に行きたくないと思わない」「授業を受けたくないと思わない」「安全だと思える」環境をつくることです。

教育におけるユニバーサルデザインについてお話しします。まず、本校では校長先生から、公文書のフォントには、『UDデジタル 教科書体』を使うように指示がありました。それに伴い、先生方は授業プリント等でもこのフォントを使っています。これは、私が大学時代に障害児教育論の授業で教えてもらったフォントです。しかし、このフォントは英語ネイティブの先生からの評判はあまりよくありません。私は英語では、Cavoliniや Segoe Printを使っています。

次に、授業のユニバーサルデザイン化についてです。まず、私は英語の授業の進め方を、基本的にはパターン化しています。そして、その授業のタイムテーブルを掲示するようにしています。紙に書いて掲示する時とスライドに投影する時があります。目次のようなものです。次に何をするのかが分かることで、不安なく授業に取り組めるようになるのです。また、机上に置くものを指示しています。まず、何もない状態にしてもらい、置くものを一つ一つ出してもらいます。留学生もいますので、丁寧に指示をしています。

次に、教室の掲示物についてですが、よく言われるように前面は必要最低限の物だけ掲示しています。ただし必要なものは貼っています。例えば、時間割・時間帯・係分担は貼っています。時計も前にあっていいと思います。また、掲示する場所は固定し、月によって変わるものは常にその位置に貼ります。さらに、壁のシミは、包装紙(100均のラッピングペーパー)を使って隠しています。シミが気になる生徒もいるのです。

授業プリントについては、前述のフォントを使うとともに、切り取ってノートに貼らせる時には、切り取り線を明示しています。さらに、そのプリントと同じものをプロジェクターで黒板に映したり、iPad上で記入したりしています。

英語のグループワークでは、音楽を流すようにしています。目的は、発話・発言を促す効果があるからです。特に英語では、英語を話す恥ずかしさを隠す意味もあります。音楽は、話し合うテーマに合う曲や、季節感のある曲にしています。生徒に選んでもらう場合もあります。グループワークで音楽を流すことは、オーストラリアでの授業で学びました。これは、とてもおすすめの方法です。ただし、聴覚過敏の生徒がいる時には、注意が必要です。また、ワークで時間を設定したときは、必ずタイマーを大きく黒板に映すようにしています。

次に、教員のユニバーサルデザイン化についてです。私は、服装や髪形に注意をしています。特にトップスは柄物を着ないようにしています。派手なデザインやプリント物は着ません。オンライン授業ではストライプを避けます。ちらつくからです。髪形については、髪が顔にかからないようにしています。表情が伝わるようにするためです。ただし、これは、私はそうしていますということで、先生方の個性も大切だと思います。

ユニバーサルデザイン化の留意点です。最初は大きな変化かもしれませんが、慣れると教員も日々がやりやすくなると思います。そして、独りよがりにならないで、生徒に聞いてみることが大切です。視覚優位、聴覚優位など、生徒の認知特性を知ることも大切です。授業のユニバーサルデザイン化は、身近なものから取り組んでいくのがいいと思います。

≪インクルーシブ教育に取り組んでいる先生へ≫

私は、4年前、オーストラリアで自然なインクルーシブ教育に触れることができました。SNS等で海外の様子を見てみると学びになることもあると思います。インクルーシブ教育というと「配慮する」というイメージがあるかと思いますが、私の中では「一緒に手をつないで寄り添う」「一緒に並んで歩いて行こう」という気持ちが「includeする心」だと思うのです。繰り返しになりますが、「include」の意味について、私は「籠」をイメージしています。ハグするようにかこむ、あたたかく包み込むようなイメージです。そして、ユニバーサルデザインとは、「心地いい」環境を作ることです。学校でいえば「学校に行きたくないと思わない」「授業を受けたくないと思わない」環境を作ることです。

ご存じの方も多いと思いますが、金子みすゞさんの「わたしと小鳥とすずと」という詩の中に「みんな違ってみんないい」という一節があります。金子みすゞさんは、大正時代末期から昭和時代初期にかけて活躍した日本の童謡詩人で、26歳で夭逝するまで約500編の詩を遺しました。「わたしと小鳥とすずと」は次のような詩です。


「わたしと小鳥とすずと」 金子みすゞ

わたしが両手を広げても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地面をはやくは走れない。

わたしがからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのように、
たくさんなうたは知らないよ。

すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがって、みんないい。
 

インクルーシブ教育について、我々教員は、まず何をすべきか。私は、生徒たちの話を聞くこと、生徒たちの声に耳を傾けることだと思います。先生方は、変わることを恐れないで欲しいと思います。違うことを特別視せずに受け入れて、お互いincludeして欲しいと思うのです。みんないいんだよ、ということを分かって欲しいし、「みんな違ってみんないい」という世界ができるといいと思います。日々手探りのことばかりかと思いますが、「みんな違ってみんないい」。そう思える学校がつくれるようになるまで頑張っていきましょう!

最後に私の好きな聖書の一節をお伝えさせてください。

主に望みをおく人は新たな力を得
鷲のように翼を張って上る。
走っても弱ることなく、歩いても疲れない。
(イザヤ書40章-31節)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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