アクティブティーチャーの挑戦 第二十七回(月刊高校教育6月号掲載)

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
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アクティブティーチャーの挑戦 第二十七回(月刊高校教育6月号)

浦和実業学園中学校・高等学校
田口純平先生

「ICTを活用した時空を越えたアクティブ・ラーニング」

≪浦和実業学園中学校・高等学校について≫

本校は、1946年に創設者九里總一郎が珠算・簿記・英語を指導する私塾として開設しました。その後、1963年に埼玉県さいたま市南区(旧浦和市)に浦和実業学園商業高等学校を設置し、1974年の普通科設置に伴い、1975年に浦和実業学園高等学校と改称しました。本校は、さいたま市南区文蔵にあり、文教地域ならではの閑静な街並みの一角にあります。京浜東北線・武蔵野線南浦和駅から徒歩12分と、最寄り駅から近いのも魅力です。

創設者九里總一郎先生の『これまでの学問のための学問ではなく、実際に役に立つ学問を』に基づく「実学に勤め徳を養う」という建学の精神のもと、「品性を正し礼節を重んじ豊かな人間性を育てる」徳育、「健全な精神を宿す健康な身体づくりの訓練を行う」体育、「個性の伸長発揮につとめ、自主独立の精神を培う」知育を育てる教育を基本理念に据えております。一般には「知徳体」といいますが、本校では「徳体知」として、「徳」を第一に据えています。日本を背負っていく人間を育てる、徳のある人間を育てるという想いから、徳を大切にし、それを支える体育と知育を行うという思いが背景にあります。「実学教育」と「徳育教育」の両面を同じように重んじ、バランスの取れた人間教育をおこなっています。

本校は、中学と高校普通科・商業科を設置しており、約2500名の生徒が在籍しています。その生徒一人一人に寄り添う教育を求められるのが本校になります。素朴で素直な生徒が多いのが特色です。素直という言葉は従順という意味ではなく、自主自立を目指した素直さです。話を聞き、理解し行動できる生徒が多いのが特色です。

≪私が学んできたこと、実践してきたこと≫

大学では、文学部で孔子の「仁」に関する研究をおこなっていました。文学というよりも哲学です。今となれば、本校の建学の精神「実学に勤め徳を養う」にある「徳育」の実践としての「五常の徳」を学んでいたことになります。その後、社会形成における仁と徳の実践を研究するため、大学院で経済学研究科修士課程を専攻。仁と徳を処世の基本理念とし、日本経済の礎を築いた渋沢栄一の研究を中心に「経世済民から考える儒学」についての研究をおこないました

文学ではなく哲学から国語の教員になったことで、とにかく最初は、日本文学の基本から学びなおしました。中高で使っている便覧レベルからです。純文学は、学生の時以上に読みました。周りの先生方のお話についていくのに必死でした。私が教員になったころは、まだ受験指導全盛期で、「国語を解く=メソッド」の時代でした。メソッドを教えることができるのが教員だと考えていた時期もありました。「授業を盛り上げる=点数を取る方法を伝授する」という時代でした。

しかし、その後、「文学を理解する楽しさ+受験で自己表現できる学力の育成」が求められる時代に変わり、メソッドだけでは限界に近づいてきました。そこで、俯瞰した視線で問に向かう、メソッドではなくコンシデレーションを取り混ぜた授業にしようと考えました。国語の問題を解く時に、生徒同士の考察(コンシデレーション)を入れ始めました。私が水先案内人として話を広げていくと、生徒たちは、様々なアプローチを試みました。授業の中で、生徒たちが調べ始め、様々な知識を取り入れていきました。その後に、では「この問題の解答は」と戻ると、基礎知識が入り、俯瞰して作者を見つめたことで、解答が見えてくるという授業でした。

ここで私は気づいたのです。受験問題を1問解くだけで、生徒たちが自ら知識の獲得をおこない、私に説明する。さらに俯瞰した見方でコンシデレーションをおこない、生徒同士がディスカッションすることができる。今から約15年前に、受験指導でも生徒主体の授業が展開できると気づいたのです。現在、アクティブ・ラーニングが推奨される時代となりましたが、私は、受験指導とアクティブ・ラーニングは別物ではないと考えています。

≪ICT教育責任者としての最初の一歩≫

私は、2019年度に、ICT教育の責任者になりました。私の使命は、一からICT教育を創り上げることでした。まず、各通信会社が主催するICT活用セミナーに参加しました。セキュリティーの構築、ADE管理の方法、学校の組織作り、ICT構築(AP構築)などを学びました。ICT教育をプレーヤーとして行うことも大切ですが、コーチとして指導する力も必要です。また管理者としての知識も必要ですので、まず外部セミナーに通って学びました。

次にコンテンツの選定です。ICT教育のメリットとして、自宅でも先生が寄り添っているような仕組みが必要だと考えました。そのようなコンテンツを充実させるため、教育機関のICT研修会に参加しました。特に困ったのが商業科です。商業・簿記などに対応できるICT教育コンテンツがなく、様々な会社に問い合わせましたが見つかりませんでした。しかし、研修会でお会いした出版会社より情報を頂き、簿記をICTで学ぶことのできるコンテンツがあることを聞きました。私は、その企業に直接お話を聞きに行きました。確かに研修会に参加するのも大切ですが、企業に赴いて、担当者に直接話をお聞きする営業手法で、コンテンツ選定をしました。

そして、組織構築です。東京都と埼玉県のICT先進校の私立高校にお願いし、授業見学と組織作りのノウハウを、副校長先生やICT担当の先生にお聞きしました。構築の苦労や問題点、解決策などについて直接お話を聞いて学びました。直接、足を運んで質問をぶつけました。元来、就職指導の責任者をしており、年間100~200の会社訪問をしていましたので、足を運ぶことの大切さを知っていました。

≪ICTの活用 ―iPadのLTEモデル導入―≫

2023年度で、iPadを導入して4年目になります。iPadにした理由は、他のモバイル端末よりも軽量であり、教室移動の際や自宅への持ち帰りが楽なことや、校外活動・部活動の試合中などでも即座に起動して利用できるからです。さらに、保護者への経済的負担が軽くなることを目的に、LTE回線を導入することを決めていたため、それを構築しやすいiPadを選択しました。

なぜ、iPadのLTEモデルにしたのかとよく聞かれます。LTEの利点は「どこでも利用できる」という点です。ICTの機器を検討していた時、「上の子はiPad、下の子はChromebook、夫はPCを使い、さらにスマートフォンもつなぐので家庭でWi-Fiがつながりにくくなる」「オンラインの授業LIVE配信だと止まってしまってどうしようもない」という声を保護者から聞いていました。LTE回線にすれば、独自に通信を取るので、家庭への影響も少なくなります。生徒・保護者ファーストの観点から、iPadのLTEモデルにしたという側面があります。なお、iPadの購入代金については、入学当初の徴収ではなく、毎月の授業料・学年費でねん出しています。これは、保護者の負担を最大限おさえるためです。

キーボードや電子ペンについては、任意で購入としています。今のアプリは、認識が良くなっているので、指で文字を書いても、認識して読み取ってくれます。よって、直接指で書いている生徒もいます。現在、キーボードを持っている生徒は、全体の約6割です。また、便利な辞書アプリも導入しています。

生徒は、全員iPadを持っていますので、朝のうちに必要なコンテンツにはログインします。授業では、机の横において、わからないところを調べたり、辞書アプリを使って自らの学びを構築したりしています。休み時間は、配信された課題を解いたりしているようです。授業以外では、中学生は、映像を撮影しiMovieで編集し、映画を作成して発表しています。高校生は、部活動で試合を撮影して、振り返りをおこなっています。

教員は、校務関係をiPadとPCでおこなっており、会議は全てiPadを通じて資料配付をしています。また、オンラインでの打ち合わせにも使っています。さらに、2023年度からは考査等の採点を電子化し、採点業務としても活用していく予定です。

≪私の執筆・講演活動について≫

【就職指導】
・読売新聞「この人プラスワン」……新しい高校就職
・「雇用問題対策協議会」……浦和実業学園高校就職指導について
・実務教育出版「SPIを用いた就職指導」
・ライセンスアカデミーYouTube番組進路指導TV……8・9月内定をとるために

【ICT教育】
・YouTube番組「TDXラジオ」……ICT機器とICT教育について
・教育家庭新聞、日本教育新聞……ICT教育について
・大学新聞社・ライセンスアカデミー主催 高大接続研究会(埼玉)講師……ICT教育・観点別評価について
・カシオ計算機……高校ICT教育セミナー、ICT特別公開授業、ファシリテーター
・学習情報教育センター……「学習情報」ICT教育

【埼玉県私学協会】
・埼玉県初任者研修教科別指導国語科講師(2019年~)

≪時空を越えたアクティブ・ラーニング≫

私は、アクティブラーニング・情報管理部の主任をしています。従いまして、多くの先生方がアクティブ・ラーニングを用いた生徒主体の授業展開をできるように環境整備を行うこと、スキルアップを行うこと、ICT機器を揃えることなど、ICT教育全てを構築するという課題をクリアするために日々努力しています。

私自身の国語の授業については、昔から行っている授業が、アクティブ・ラーニングだと気づきました。そのため、スタイルを大きく変化させるのではなく、もう一度授業を見直そう、ICT機器を利用すればもっと生徒の意見が他の生徒たちに伝わるのではないか、という観点に立っています。

例えば、源氏物語を題材として、問題を作成して解答を導くという授業があります。解答を作ることが目的ではなく、グループで解答を導くための話し合いをしている過程を、他の生徒に開示することを目的とした授業です。話し合いは、チャット形式を使えるClassiを利用し、チャットの内容をPPに添付して投影しています。さらに、話し合いの過程で出た疑問を、他のグループの生徒たちが調べるという授業です。

実は、同じ内容の授業を、次の学年、次の学年と続けてきました。近年は、ICTの活用によって、保存しておいた、その授業の記録を提示できるようになりました。そうすることによって、「去年の先輩たちはこう考えていたようだよ」「こういうアプローチもありだね」「先輩たちがこの地点でこういう勉強をしてこういう気付きをしていたのか、私たちも考えてみよう」となりました。同じテーマの授業の中で、卒業生から在校生という奇跡のつながりが生まれたのです。これは「時空を超えたアクティブ・ラーニング」と言えます。教えるのは、教員ではなく、先輩となります。このことを伝えておくと、生徒たちは「私たちの会話が残るんでしょう。しっかり考えなきゃ」と思うようです。

≪新しいことを校内に広める方法と今後の課題≫

学校として、新しいことに取り組む際、校内研修を充実させようと考えがちです。私も責任者として、当初、先生方の研修を増やそうとしました。しかし、研修というのは「対岸の火事」になりがちです。それは、ICTに詳しい人だからできるわけで、私には無理と考えてしまうのです。実際に、私もそうでした。責任者に就任当初ド素人だった私は、外部研修に出て話を聞くのですが、「それは、その学校だからできるんでしょ。うちじゃ無理。私なんかもってのほか」と思っていました。なので、研修しなさい!アクティブ・ラーニングをしなさい!」といっても無理な話だということが分かっていました。

そこで、こうしなさい、ああしなさいという指示を出すのではなく、例えば「このコンテンツは使用してください。禁止事項はこれです。」だけを提示して、あとは自由に使ってもらいました。そうすると、学年の中でもよく使う先生が出てきます。その先生をHPで掲載したり、外部にお願いして講演者として呼んでもらったりする。そうすることで、あの先生も使っているのだからという意識が芽生えました。

それでもICT教育について、否定的な方もいます。ただし最低ラインを設けることで、苦手な先生も使うようになります。そこを見逃さない。○○先生もこのように使用されていましたよと、知らせることで、いろいろな先生が、アクティブ・ラーニングやICT教育をしてみようという意識になりました。私は先導するというよりも、後方にいて、背中を押していく立場だと考えています。

現在、校務文書のペーパレス化が進み、会議は全てiPadで完結できるようになりました。また授業でPCやiPadを利用する先生も格段に増えております。多くの先生が、iPadがない時代には戻れないね、という状況になりました。一方、要望も多くなりました。これはできないのか、あれはできないのか、とよく聞かれます。環境整備の点ついては、学園に交渉したり、企業に交渉したりしています。ID管理の数も多くなって大変です。ただ、こうしたい、ああしたいは、かなえていかなければならない課題です。「できない=やっぱり意味がない」になってしまいますので、最大限の努力をしています。

さらに、アクティブ・ラーニングと受験指導の相関関係を目で見える形で提示したいと考えています。アクティブ・ラーニングを入れたから○○大学に合格したでは、本来の目的からずれていきます。ただし、現実的には、そこを求められることもあります。「アクティブ・ラーニング=受験=生徒の進路実現」を先生方に理解してもらえるような、数値データや検証に苦労しております。

≪先生方へのメッセージ≫

私は、今この記事をお読みになっている皆様よりICT機器に疎いと思います。決して、ICT教育にも長けていません。だからこそ、多くの皆様からお声がけをいただいているのだと思います。多くの先生方も、ICT教育を受けたり、大学で学んでいないと思います。おそらく、ICT教育に長けている先生は、現状全体の2割に満たないのではないでしょうか。

ですので、できないことを前提に一歩踏み出しましょう。ICT機器を触ってみて、皆さんが授業で発問しているところをICTに任せてみましょう。わからなければ隣の人に聞いてみましょう。私はいつも誰かを頼って、ICT教育やアクティブ・ラーニングの責任者をしております。そのためには、外を知りましょう。足で稼ぐ情報ほど身になるものはありません。研修も大切です。講演を聴くのも大切です。本を読むのも大切です。その一歩が、私たちが教員であるための、人生のアクティブ・ラーニングです。

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