アクティブティーチャーの挑戦 第二十八回(月刊高校教育7月号掲載)

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アクティブティーチャーの挑戦 第二十八回(月刊高校教育7月号)

開智未来中学・高等学校
野中俊希先生

「授業を通して何を伝えたいのか」

≪開智未来中学・高等学校について≫

本校は、2011年に開校した私立学校であり、埼玉県北東部の加須市に所在しています。 探究活動・英語発信力・ICTの3つを柱に、「人間と知性を育てる」ことが教育方針になっています。本校が目指す教育活動のキーワードは、「3I's to I + I」です。具体的には、現代社会で活躍するための基本的スキル・手法として、Inquiry(探究) 、Internationalization(世界水準)、ICTにつなげる知能獲得を目指しています

Inquiry(探究)は、授業をはじめすべての教育活動の基幹となる考え方です。高校1年は1年間かけてひとつの研究に打ち込む「才能発見プログラム」に取り組み、探究の手法を学び、「未来TED」に向けてのプレゼンにおいて、表現力や発表スキルを磨きます。

Internationalization(世界水準)の取り組みとして、探究で得た研究成果を英語でも表現できるようにしていきます。高校2年での「海外フィールドワーク」では、徹底して使える英語の実践に努めます。希望者には、校内実施の「英語学習プログラム(エンパワーメントプログラム)」を含む様々な機会を設けています。

ICT(つなげる知能)については、1人1台のタブレットを最大限に活用し、モラルマナーを学んだ上で、デジタルリテラシーを獲得していきます。学習活動では、予習・授業・復習を通じてICTを日常的にフル活用しています。また長期休業中でも進路や探究活動について、担当教員からリモートでアドバイスを受けるなど、活用範囲は年々広がっています。

探究の成果を英語でタブレットを用いて発表する「未来TED」など、3つのIを有機的に結びつけ、1つのIntelligence(知性)として統合する取り組みを重ねています。そして、知性を基盤に各自の個性を活かし、それぞれのIdentity(自分らしさ)を確立していくことを到達目標としています。これが「3I's to I + I」ということになります。

さらに、藤井剛校長のもと、「本質を見抜く力」「深く考え続ける力」を新たなキーワードに、埼玉北端の自然豊かな渡瀬の地から、学びが本来もつ楽しさや深さを実体験し、最高峰に挑む心豊かなリーダーを世に送り出す教育を発信し続けています。

≪なぜ母校の教員になったのか≫

実は、私は開智未来高等学校の1期生でした。先輩がいない中、学校行事・部活動・委員会その他すべてを、当時の先生方と共につくりあげていきました。「放送・IT委員会」に所属し、学校行事をITの面で支えました。特に体育祭においては、「進行台本の作成」「競技中BGMの募集・セットリスト作成」「得点集計システム作成」など、主に体育科の先生方と協力しながら、行事運営に携わりました。文化祭においては、ブログサービスやSNSを活用し、宣伝・集客活動に尽力しました。また、音響の面から文化祭実行委員や各発表団体を支えました。

開校当初の本校は、生徒が「やりたい」と言ったことを先生方が尊重してくれ、応援してくれる(支えてくれる)そんな気風がありました。だからこそ充実した3年間を送れたのだと思います。また、そういった気風は開校13年を迎えた今でも存在し、生徒会を中心に「夏期制服としてポロシャツの導入」「女子生徒のパンツ制服の導入」「生徒会長選挙制の導入」など、今までになかった新たな開智未来が実現しつつあります。

≪教師を目指した理由≫

私が教師を目指した理由として大きかったのは、開智未来高等学校の工藤智先生との出会いでした。中学3年の時に参加した「体験授業」で、初めて工藤先生の世界史の授業を受けました。「ペルシア戦争」について、当時の世界観をストーリー仕立てでダイナミックに語る先生がとても印象的でした。一言で言えば、ペルシア戦争が起きた当時の世界にタイムスリップし、当時の兵士(アテネ市民)の状況を擬似体験しているかのような40分間でした。

その後、入学した開智未来で過ごした3年間は、本当に充実したものでした。そして、工藤先生への憧れから、よく質問に行きました。高校在学中から、工藤先生に「俺が定年退職したら、後は頼むよ」とよく言われていて、高校卒業後、工藤先生と同じ大学の同じ学部に進み、歴史学を学びました。母校で実施した教育実習の指導教官も工藤先生でした。また、大学時代には、学習塾の講師として、知識と授業スキルを磨きました。

そして、母校開智未来の教員になるという夢を実現しました。現在教員になって6年目ですが、最初の3年間は、憧れの工藤先生と一緒に仕事ができました。その後、工藤先生が退職され、今は、「開智未来の世界史」を後世にも残さねばという責務を感じています。

≪世界史の授業を通して何を伝えたいのか≫

私は、主に世界史を教えています。世界の歴史を学ぶことで、現在の世界情勢の背景にあるものを理解できると知ってもらいたいと思っています。そのために、世界の出来事を「自分事」として捉え、過去の過ちを繰り返さないように、今の時代をどう生きるのかを考えてもらいたいのです。

さらに、歴史を学ぶことは「楽しい」、そして「有意義な」営みであることを理解してもらいたいと考え、そういったことに「気づけるチャンス」を授業内に盛り込むように努力しています。生徒が「楽しい」「分かりやすい」と感じる授業は、教える立場である我々教員にとっても「楽しい」授業ということになります。

高校生には、読解力や意見を出す力が、年々減っているような気がしています。だからこそ、授業内でそういった力が育つ「チャンス」を、どれだけ盛り込んであげられるかが重要になります。これは、学校教育だからこそできることだと考えています。

意見を出す力を育てる前段階として、発表することが、当たり前で、恥ずかしくない状況や雰囲気をつくってあげることが重要です。「○○の具体例を教えて!」「○○って分かりやすく言い換えたらどういうこと?」「もしこの当時のフランス国民だったらどう思う?」など、簡単にレスポンスでき、かつ当時の世界観に没入できるような質問を増やしてあげることで、「生徒主体の授業(生徒が声を出す授業)」になると考えています。実は、私の授業では、私の声量より大きくなければ、授業中いつでも、発言・学びあいを行ってよいと生徒に伝えています。

授業の中で、「生徒による授業プロジェクト」や「偉人PR プロジェクト」を実施することもあります。特に、文化史の単元は単調になりがちなので、生徒に教材をつくって授業をしてもらうことがあります。また、諸子百家の単元では、分担して代表的な諸家の動画を作成してもらいました。完成度の高い動画作品が多くて、驚きました。

教員になって6年目ですが、いろいろ工夫してきた結果、世界史に興味を持つ生徒、知識欲・探究心の高い生徒が増えたような気がしています。最たる例が、生徒の質問の仕方の変化です。「野中先生、〇〇がわかりません」と言いにくる生徒は殆どおらず、質問が具体化している生徒、用語集や資料集その他Webサイトを用いて入念に調べた上で質問に来る生徒が殆どです。中には、「野中先生、〇〇の流れが合っているか、僕が先生に話すので、聞いてもらっても良いですか」と言って来る生徒もいます。

また、春休みに入る前に「春休みにお花見がてら、東京の美術館に行こうと思うのですが、国立西洋美術館と国立新美術館どちらがおすすめですか」と聞きにきた生徒がいました。その生徒は、結局国立新美術館に行ったようで、フェルメール作品のマグネットをお土産としてプレゼントしてくれて、その作品で描かれている情景を熱心に説明してくれました。

「好きこそのもの上手なれ」という言葉どおり、世界史好きが増え、本校の文系世界史選択者の多くが、世界史を得意科目とし、模擬試験や大学受験において高得点を叩きだしています。

≪授業でのICTの利活用について≫

私の授業でのICT利活用についてですが、よく「ロイロノートスクール」を使用します。テキストにない史資料を提示したり、「シンキングツール(くらげチャートなど)」を用いて、生徒が考えるタイミングを多く設けるよう心掛けています。また、「Mentimenter」というアンケートツールを使用することもあります。大人数の授業や各単元の導入にはぴったりのツールです。

さらに、文化史の授業では「Google Arts & Culture」を使用することもあります。ストリートビュー・ギャラリーで、メトロポリタン美術館や大英博物館などの有名美術館・博物館や、歴史的建造物を高画質で楽しむことができます。Art Projectorの機能を用いると、実際のサイズで、絵画作品が目の前にあるかのような経験をすることもできます。実際に美術館や歴史博物館を訪れているかのような体験ができるので、講義一辺倒にならず、おすすめです。また各絵画作品の説明を読む時間を設けることで、文化史と政治史を切り離すことなく教えられる、良いツールの1つだと考えています。

私の師匠である工藤智先生は、「世界史マスターテキスト」というオリジナル教材を作成されていました。その素晴らしい教材を後生に残すために、マスターテキストのデジタル化に取り組み、各ページのPDF化は完了しました。

私は、自分の授業動画(各単元の解説動画)を撮りため、Youtube上に限定公開でアップロードしています(全単元完了)。今後は、各URLをQRコード化し、そのマスターテキスト内に埋め込み、反転授業や欠席者対応の際に活用できるようにしていきたいと考えています。加えて、用語解説や外部ページに飛べるリンクを用意し、主体的に学ぶ生徒のサポートができればと考えています。

余談になりますが、バドミントン部の顧問としてもICTを日常的に使っています。部員たちも活用しています。スケジュールや練習メニューの共有とともに、日々の練習に関しては、フォームやフットワークの確認に使用しています。試合映像のアーカイブ作成(Google Drive)は、後日振り返りノートを作成する際に役立ちます。また、大会時には、本校選手だけでなく地区強豪校の選手のプレー動画を撮影・共有し、ミーティングの議題にすることもあります。一人一台のiPad(セルラーモデル)は、部活動でも大活躍しています。

≪開智未来の授業の進め方≫

本校の授業は、前校長(現教育顧問)の関根均先生の「哲学」の授業が主軸となっています。生徒は「哲学」の授業を通して「授業の受け方(能動的な学び方)」を学びます。また教員も職員会議における授業研修や、年に数回ある授業参観で、授業のスキルアップを図ります

各教員は、必ず授業の冒頭で「ねらい」を提示することになっています。また、「授業の根幹は「発問」にあり」とされています。生徒が思考する授業(考える授業)をするためには、教員から、よい問い(練られた問い)が生徒に投げかけられなければならない、本当にその通りだと思います。

具体的には、「大発問」(1時間の授業、または数回の授業を貫く問い)、「中発問」(授業の一部を構成させる問い、さまざまな知識を総合して考えさせる問い)、「小発問」(1問1答の発問、確認のための発問)を使い分けます。そのことによって、生徒を飽きさせず、生徒が考え続け、生徒が授業に参画する授業スタイルを身につけられるよう、日々研鑽をつんでいます。

本校の授業では、発問とともに、振り返りを大切にしています。「分からないを放置しない」ことを授業を受ける上での約束として提示しています。授業を受けて分からないことは、次の授業までに友達や先生に質問をすることを義務付けています。

私は、習熟具合(理解度)の確認方法として、授業冒頭で「前回の授業内容をテキストを見ずに、隣の生徒に教える」取り組みを入れています。テキストを見ずに説明する代わりに、その時には、具体的な人名や制度名などの歴史用語は覚えていなくても可としています。(例)「フランスで起きた革命が自分の国に広まると、自分(国王)も殺されかねないから、周りの国が同盟を組んで、潰そうとしてきた」(フランス革命・対仏大同盟)

≪開智未来のICT利活用について≫

ICT教育について本校は、学校法人開智学園全体の先頭に立って推進しています。2015~2016年度に、校内Wi-Fi等のICT環境を整備し、2017年度からiPad(セルラーモデル)の導入を開始し、2019年度には全校生徒・全教職員への導入が完了しました。

電車・スクールバスを登校手段とする生徒が大半の本校において、そこは立派な学びの場の1つです。Wi-Fiモデルだと、自宅と学校その他施設でなければ利用できません。データ化された教材や各教育アプリケーションを用いて、スキマ時間を活用する生徒が多くいるので、どこでも使えるセルラーモデルを導入しました。

また、iPad(セルラーモデル)は、スマートフォン等のデバイスを持っていない生徒のために、学校(先生)や保護者との連絡ツールとしても利用されています。例えば、スクールバスの運行状況、電車の遅延情報等をメールで共有しています。なお、生徒・保護者共にGoogleアカウントを配布しています。

開智未来の授業にiPad(ICT)は自然に溶け込んでいます。「使っています感」はありません。教材の配布、資料の提示、課題の提出、学び合いのツール、アンケート、振り返りのツール、検索ツールとして利用することが多いです。

また、体調不良や部活動の大会等で授業を休まねばならない時に、授業を撮影し(もしくはライブ配信し)、当該生徒に共有するツールとして利用することもあります。さらに、長期休暇中に、進路関係、探究関係で相談が必要な生徒に対し、オンラインで二者面談を行うこともあります。

≪「未来TED」について≫

年に1回、「未来TED」とよばれる探究活動の集大成、プレゼンテーションコンテストを実施しています。本校では、全学年それぞれ異なるテーマで探究活動を行っていますが、特に高校生は「才能発見プログラム」といって、テーマに縛りはなく、自身の興味のあるテーマで探究活動を実施しています。

生徒全員がGoogleスライドやPower Pointを用いてスライドを作成し、各学年の発表会で発表し、その代表者が「未来TED」に出場します。代表者の中には探究活動の過程で、農林水産副大臣との対談にこぎつけて地元でイベントを企画・実施する生徒、Youtuberとして盆栽の魅力を世界に広めている生徒もいます。

この「未来TED」の事前準備・当日の運営の大半は、生徒(放送・IT委員会)が担っています。オープニングムービー・入退場SEの作成、進行台本の作成などは生徒が行っています。また、配信については、業者の方と協力して、映像のスイッチング、ディレクター、ステージマネージャー、音響などを担当しています。

≪若手の先生方へのメッセージ〜とにかく「やってみる」そして「楽しむ」〜≫

すべての教育活動を生徒と共に「楽しむ」こと、これに尽きると考えています。

授業に関しては、まずは「自分にとっての理想の授業」を考えてみてください。生徒が「楽しい」「分かりやすい」と感じ、教える立場である我々教員も「楽しい」と感じる授業、これが私の授業における理想の1つです。

これを実現するには「講義一辺倒」では限界がありました。そこで私は、より良い授業、分かりやすい授業、生徒が主人公の授業をつくるために、ツール(道具)として、ICTの力を借りてみることにしました。また、授業内に仕掛けとして「学び合い」の時間を増やすことにしました。授業作りの最初は、これくらいの気持ちで良いと思います。

ICTや協働学習という言葉が流行語のように叫ばれていますが、ICT を使うために授業をするわけではありません。単に協働的な学びをすれば良いわけではありません。手段と目的を混同してはいけないと思います。我々には1人1人「理想の授業」そして「やりたい授業(こと)」があるはずです。それを実現するために、様々なツール・手法を取り入れてみてください。

部活動は、生徒と密に関われ、信頼関係を構築できる格好の機会です。専門ではないバドミントン部の顧問になり、正直「大変」「顧問を外れたい」と感じることもありました。しかし、今では生徒たちと一緒に活動を楽しみ、少しでも戦績を伸ばせるよう、合同練習や練習試合の企画・運営など、生徒のために自分にできることは積極的に取り組んでいます。他校の先生に電話をかけることなら、競技経験のない私にもできます。ありがたいことに、部員はみな前向きに活動に取り組み、卒業生はOB・OG として、今でも学校を訪れ、部活動指導の補助をしてくれています。

委員会活動に関しては、自身も所属していた「放送・IT 委員会」の顧問として、生徒の「やりたいこと」を極力尊重しつつ、生徒と共に各学校行事の運営にあたっています。1学期は「体育祭」、2学期は「文化祭」、3学期は「未来TED」と、忙しくも充実した日々を送っています。これら諸活動を通して得た経験や信頼関係は、授業やHR・学年経営にも大きく役立っています。生徒は自然とついてきてくれます。

学校現場において、無駄な教育活動は何一つ存在せず、個々の教育活動はそれぞれどこかで、他の活動と関連しています。だからこそ失敗を恐れず、時には先輩方にアドバイスをもらいながら、どんなことにも果敢にチャレンジして欲しいと考えています。

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