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アクティブティーチャーの挑戦 第二十九回(月刊高校教育8月号掲載)

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。

アクティブティーチャーの挑戦 第二十九回(月刊高校教育8月号)

大同大学大同高等学校
苅谷仁志先生

「主体的・対話的で深い学びの評価について」

≪大同大学大同高等学校について≫

本校は、1939年、大同製鋼株式会社(現在の大同特殊鋼)社長の下出義雄氏の「私は今まで物を生産することに全力を注いできたが、これからは技術者を養成して社会、国家に貢献したい」という志の下に工業高校として設立されました。1973年には普通科を新設、1998年には男女共学となりました。

2019年の創立80周年を機に、全教室のICT化や工業科の設備の大規模な更新、理科実験器具の整備を進め、新教育課程実施に先んじて「主体的・対話的で深い学び」を目指した授業改革に取り組んできました。生徒は、どこでも使えるセルラー回線のiPadを持ち、授業で積極的に活用しています。親身な学習指導・進路指導、高い実績を持つ就職指導、更には全国大会を目指す部活動の活躍、大同大学と連携した数々の企画等、特色ある高校生活が大同高校にはあります。

普通科では、特進コース、大同大学進学コース、文理進学コースと3つのコースが選べ、生徒一人一人が自分にあったコースを選び、国公立大学をはじめ、個々が目標としている大学進学に向けてのびのびと勉学に励んでいます。工業科では、2年次より、生産システムコース、電子機械コース、大同大学進学コース、電子情報コース、情報デザインコースと5つのコースが選べ、進学する生徒も就職する生徒も、社会に出てすぐに役立つものづくりの技術がしっかりと身についているのが特色です。

≪実験室の整備について≫

本校に赴任して、まず取り組んだのは、実験室の整備でした。私は、前任は公立学校でした。その時は、人事異動により短いサイクルで教員が変わってしまうため、誰がいつ購入したのかわからない埃まみれの実験器具などがたくさんあり、満足に整備をすることができませんでした。予算を使う場合も、異動等で長期計画ができず、もどかしい思いをしていました。

それに比べて私学では、長年同じ学校に勤めることができるため、実験室の整備を計画的に実施することができます。本校の場合は長い間実験をしてこなかったため、実験室は整備されておらず、実験器具は一から揃えるところから始める必要がありました。

2017年度から2018年度にかけて先進校である東京都の高等学校をはじめ、他に4つの学校を見学しました。見学した学校で学んだことを基に、理科室を整備する3年計画を立案しました。幸い、創立80年を記念した事業として2019年度から2021年度にかけて、計画に沿って理科教育振興を活用しながら実験器具を揃え、実験室を整備することができました。

しかし、問題がありました。それは、今まで実験をあまりしてこなかったため、実験のやり方がわからない先生や、実験に対して距離をおいている非常勤の先生がいることでした。そこで、私は、YouTubeの活用を考えました。実験に慣れていない先生でも実験を行うことができるように、実験手順がわかる動画を撮影してYouTubeにアップしました。教員が詳しく説明をしなくても、生徒が動画を見るだけで実験を進めることができるように工夫して動画を作成しました。以下のように一般公開しています。



(出典:https://www.youtube.com/@hitoshibeho

これらの動画によって、教員の実験に対する抵抗を無くそうと考えました。また、実験を中心とした授業をすべての教員が行うことができるモデルを構築することで、「主体的・対話的で深い学び」を実現させたいと考えました。

なぜ、高校の理科の授業で実験が大切なのかですが、実験を通して理科を好きになってもらうことが一番の理由です。そして、理科の面白さや自然の現象を、生徒に見て触れて体験し実感してほしかったのです。実際に殆どの生徒は、実験の授業が楽しいと言い、生き生きと取り組んでいます。

≪観点別学習評価について≫

私は、観点別学習評価の第3観点である「主体的に学習に取り組む態度」について、理科の場合、実験で評価できると考えています。実際に、実験ごとに生徒一人一人が持っているiPadのアプリPagesを使い、実験レポートマニュアルに沿ってレポートを生徒に作成させ、提出させています。提出方法はロイロノートというアプリを用いています。実験レポートの作成マニュアルは以下の内容です。

具体的な「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法は、チェック項目による評価を用いています。チェック項目は上の実験レポートの(考察・感想)の①〜⑤の5つの項目です。

①実験で得られたデータを大切にして自分の言葉で考察がまとめられているか
②良かった点、悪かった点、改善点、工夫したことが書かれているか
③対話をする中でどのような発見があったかが書かれているか
④新たな問いを立て次につなげようとしているかが書かれているか
⑤私たちの生活に関係づけるとどのようなことがわかるかが書かれているか

これらのチェック項目について、各1点とし、下の計算式でABCの評価をつけています。


(出典:「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 文部科学省 国立教育政策研究所)

今後の展望についてですが、物理の授業において、PDCAサイクルを回していくことによって、生徒たちが主体的に取り組むことのできる授業を確立させていきます。評価のチェック項目については、その都度そのときの生徒の様子をみて、必要があれば柔軟に変更し、対応していきます。また、実験レポートによって第3観点の「主体的に学習に取り組む態度」を評価していますが、 実は、第1観点の「知識・技能」と第2観点の「思考力・判断力・表現力」についても、授業の中で評価できるようにしていきたいと考えています。つまり、定期試験の廃止です。これは、なかなか難しいことですが、一歩一歩進めていきたいと思います。

≪主体的・対話的で深い学びについて≫

本校では、2020年度から2年間、小林昭文先生に授業改革アドバイザーとしてご指導をいただきました。小林先生との出会いは、2015年でした。当時本校の校長だった服部保孝先生が主催していた『アクティブラーニング型授業実践研究会』に参加したとき、助言者として小林先生からアドバイスをいただいきました。元高校物理の先生ということで、親近感をもって学ばせていただきました。

小林先生のおかげで、多くの「授業者スキル」を身につけることができました。アクティブ・ラーニング型の授業を取り入れたことで、おしゃべりや居眠りで生徒を注意することがなくなり、生徒との関係が良くなりました。生徒の学習時間は増え、テストでは今までにない平均点になりました。特に下位層の人数が減ったことが目立ちました。

また、普段から自主的に学ぶ習慣がついたことで、実験がスムーズに行えるようになりました。その結果、実験と理論が結びつくことで、物理が楽しいという嬉しい声が多く聞こえてくるようになりました。私から見て、特に生徒が身につけたと感じる力は、
①自ら学び、自ら考える力
②コミュニケーション能力
③多様性、協調性
④他人に教える力
です。これらの力を身にまとい、めまぐるしく劇的に変化する時代を生き抜いていってほしいと強く願っています。

具体的に、私の物理の授業での取組についてお伝えします。生徒の能動的な学びの参加時間を増やすために、授業プリントを作成し、パワーポイントで説明をすることで、本日の授業のテーマの説明を15分程度に凝縮させました。板書時間を大幅に無くし、グループに分かれて行う問題演習をメインにしました。問題演習では解答は配りますが解説はせず、グループで協力し、教え合い、相談しあう、あくまで生徒主体の授業にしました。今までとは正反対の、おしゃべり、立ち歩き容認の授業です。

寝る生徒はいなくなりました。目標を確認テストで「クラス全員満点をとる」と設定し、目標を達成するためのグループ学習の態度目標を小林昭文先生に倣って次のように定め、生徒に周知徹底しました。
『グループに貢献する』
『教えあう・助け合う・協力する』
『全員が理解する』
『おしゃべりOK、立ち歩きOK』

その結果、確認テストで満点を取るための話し合いが活発になり、集中して問題演習に取り組むようになりました。授業が終ってからも教え合いは続き、授業が始まる前の休憩中には確認テストで満点を取るために勉強をしている姿が見受けられるようになりました。確認テストには、振り返りの記述をさせる項目をつくりました。振り返りをさせることで、生徒は自ら学び考える姿に変容していきました。嬉しい反面、教師は必要以上に教えない、問題演習の解説をしないという指導方法にとまどいを感じたこともありましたが、確実に生徒たちは主体的に学ぶようになっています。

≪主体的・対話的で深い学びの成果ついて≫

主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)によって、学力は向上するのかという議論がありますが、私の物理の授業では学力の向上が見られました。アクティブ・ラーニングを実施した物理では、偏差値下位層の生徒が他教科と比較して教科によっては2割程度少なく、偏差値上位層の生徒は1割程度多くなりました。寝ている生徒が減って授業に参加している生徒が増えていることが成績にも表れています。また、問題演習では、チャレンジ問題として難易度の高い問題を1題入れておくことで、上位の生徒も飽きずに問題演習に取り組むことができるような仕掛けをしてあります。

下に校外マーク模試の結果を示します。

(1)アクティブ・ラーニング実施物理クラスと他教科との成績比較
【クラス】 大同大学進学クラス2クラス(2年2組・2年3組 合計52名)
【模 試】 校外マーク模試(2月実施)
【比較科目】英語・数学IA・数学ⅡB
【アクティブ・ラーニング実施科目】 物理基礎

次に、アクティブ・ラーニング実施前と実施後の成績の比較を示します。偏差値上位層が増え、下位層が減っていることがわかります。

(2)アクティブ・ラーニング実施前とアクティブ・ラーニング実施後の成績比較

【クラス】 大同大学進学クラス2クラス
【模 試】 校外マーク模試(2月実施)
【科 目】 物理基礎

≪日本私学教育研究所(日私研)の委託研究員について≫

2022年度には、一般財団法人日本私学教育研究所(日私教研)の委託研究員をつとめました。それに伴い、「理科実験を中心とした主体的・対話的で深い学び」をテーマとした自主研究会を3回実施しました。愛知県私学協会の研修会に参加した先生方に呼び掛けて、その中から他校の4人の先生が集まってくださいました。研究会で出た意見は、その都度授業に織り込むことで授業を構築させていきました。織り込んだ項目は次の4つです。

1.評価に「対話をする中で、どのような発見があったか」を加えると対話がより活発になる
2.学習を振り返り、改善することでブラッシュアップできるきっかけになる授業にするとよい
3.年間通じてレポート指導を行い、レポートの質を高めるようにするスモールステップが必要
4.次はこのように実験を行いたいといった、次への展望を書かせるとよい

自主的な研究会でしたが、実施する度に新たな発見や、気づきがあり、たいへん有意義な時間でした。他校の先生と学ぶことの楽しさを感じました。そして、2023年3月には、日本私学教育研究所の研究成果報告会で中部地区代表として発表させていただきました。研究テーマは「理科(物理)実験を中心とした主体的・対話的で深い学びの授業モデルの構築」でした。委託研究員として、本研究を行ったことで、私自身がより主体的になり、より理科が好きになりました。そして、生徒たちにも同じ気持ちになってもらいたいと強く願い、これからも研究を続けていきたいと考えています。

≪先生方へのメッセージ≫

物理を勉強していると、自然界では変化を好まない現象を見かけることがあります。たとえば、静止している物体は、いつまでも静止し続ける慣性の法則があります。しかし、外から力を加えれば、静止している物体も動き出す場合があります。磁石を動かせば「レンツの法則」により電流を発生させることさえできるのです。

時代や生徒が変わるように、教育も変えていく必要があります。研究や勉強をし続けて変化を加え、少しでもピリッとくる静電気みたいな何かを与える授業を展開する、そうすると、磁石を動かすと周りの磁場が変化するように周りにも影響を与えることができると信じています。影響を与えず、動かないものがあるとしたら、忍耐強くありとあらゆる方法で動くまで自分が変化をし続ければいいと思います。全ては、生徒のために。

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