アクティブティーチャーの挑戦 第三十回(月刊高校教育9月号掲載)

学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。

アクティブティーチャーの挑戦 第三十回(月刊高校教育9月号)

日本体育大学柏高等学校
熊井允人先生

「人との繋がりの大切さについて」

≪日本体育大学柏高等学校について≫

日本体育大学柏高校(旧称:柏日体高校)は、千葉県柏市にある私立高校で日本体育大学の併設校です。創立57年を迎えた2016年4月より日本体育大学柏高校に学校名を変更しました。「アカデミックフロンティアコース」「アドバンストラーニングコース」「アスリートコース」の3つのコースを設け、自身の目標とする将来に向かって無駄なく勉強でき、積極的にタブレット端末を利用した授業も取り入れ未来型学習に力を入れています。「英検」「漢検」などの試験も年に数回行われ、知識の土台作りも積極的に行われます。

部活動では「野球部」や「サッカー部」「バスケットボール部」など8つの部活動が強化指定部として設置され、より高度な技術を身につけられます。また柏市にあるサッカーチーム、柏レイソルユースに所属し活動する生徒もいます。
近年は教員研修に力を入れており、東京工業大学の教授と連携を行なったり、全国の教員を講師に招いたりしています。特に若手研修に力を入れています。

生徒は、部活動や課外活動に積極的に取り組んでおり、明るく前向きです。また、先生と対話する時にオープンに対話できる生徒が多いです。全国大会出場を目標に日々部活動に取り組んでいる生徒もいれば、楽しく高校生活を過ごす生徒もいます。

≪20代に実施していたこと≫

私は、中学生の時には、将来は医者になって人助けをしたいと思っていました。しかし、進路行事の手術見学会の際に作業を見て、仕事にすることは無理だと悟りました。その後、何がしたいかと考えたときに、人に寄り添い助けることだと思い、教員を目指しました。高校時代、物理の授業は、自分の方が授業を上手くできるのではないかという、生意気な面もありました。大学選びは、物理学を学びながら教員免許を取得できて、体育会(バスケットボール)も続けられる場所を選択しました。

大学時代は、理学部物理学科・教職と単位数が多く大変な中で体育会にも所属し、単位を取るために、綱渡りの状態ながら4年間を過ごしました。この時、大学の教授に何度も体育会は辞めるように言われましたが、文武両道の体現をしたくて絶対に辞めませんでした。この時の経験で「やりたいことは諦めずに続けることの大切さ」を体得しました。この価値観は、今の教育活動や学校運営にも関係していると思います。

2011年に高校教諭となり、強化指定部でああった陸上部の副顧問に加えて、特進の教科担当にもなりました。19時半まで部活動指導、21時過ぎまで教科研究の日々でした。教科の専門性を持つ先生が当時はおらず、大手予備校の教員研修や都内で行なわれる物理の実験研修に参加しました。時には、母校に行って指導案を見てもらいました。

そんな中、同期(先輩教員)の紹介で、東京大学教育研究所主催の教育イベントに参加し、参加者の指導主事の先生方と対話をする機会がありました。ここで、教員の務めは教科指導だけではなく組織編成やカリキュラムマネジメントなど様々な仕事の繋がりが学校を動かし教育活動に繋がるということを学びました。このイベント参加をきっかけとして、時間がある限り外部に学びに行くようになりました。

≪アクティブ・ラーニングについて≫

特進コースの設置の後にタブレット端末の導入が決定し、私もその推進に携わることになりました。その関係で、先進的な教育をしている先生と出会い始め、その後ロイロノートを導入してからは研究会を数回実施したり、2017年には初めて校外研修の講師も担当しました。ICTの先進校は、同時に学校改革を行なっていることも多く刺激をもらいました。

「なんで学ぶ、どのようにして学ぶ」というビジョンを学校全体で持つために、2017年に河合塾と連携してアクティブラーナー研修を実施しました。しかし、新型コロナウィルスの影響を受け、アクティブ・ラーニングのあり方自体を見直す必要が生じました。本校では、アクティブ・ラーニングの本質である「深い学び」を実現するために、アクティブ・ラーニングをディーパーラーニングに発展させ、より良い学びを提供できるような研修を計画しました。

授業研究の専門家である東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の鈴木悠太先生をお招きし、授業における探究課題の設定方法や、生徒を深い学びへと誘うための理論についてご講演いただきました。その後は、引き続き鈴木先生を講師としてお招きし、「生徒を『深い学び』へと誘う授業・課題づくりに習熟し、探究課題を適切に評価できるようになる」ことを目標とし、ディーパーラーニング研修を全8回実施中です。

その他、教員の肯定感を上げるために職員室で授業の教育活動で起きた良い話を大きな声でしようキャンペーンを実施したり、生徒声に耳を傾け当時は反対された職員室前に自習コーナーを設置したり、放課後補習に関して受験形態ごとにガイダンスを実施するなど、その場その場で必要だと思うことを積極的に実践してきました。

≪どのようにして人との繋がりを作ったのか≫

人との繋がりを作るために、各種セミナーに参加しました。そこで積極的に名刺交換をし、多い時には月に30枚以上交換しました。また、コロナ禍でリアルセミナーがなかった時には、「Facebook100人プロジェクト」を実行しました。オンラインセミナーに参加し、オンライン上で対面した方と友達になるというキャンペーンです。結果として、今はその方に直接会うことがモチベーションに繋がっています。

また、オンラインで繋がった人たちと一緒に、2022年8月には『ロイロノートのICT“超かんたん”スキル』(時事通信社)という書籍を出版しました。実は、この本の編集会議は、全てオンラインで実施されました。

2018年、ロイロノートの営業の方に川崎で開催するEdcampに誘われて参加しました。Edcampとは、ワクワクしながら互いに実践を学ぶ刺激的な場を作りたい、という思いを持った教員や教育関係者であれば、誰もが主催者になれる教育対話イベントです。そこでの学びが多く、自分自身でもEdcampを開催しようと考えました。

翌2019年には、柏でEdcampのイベントを開催しました。見様見真似でチラシを作り、地域の教育機関にビラ配りを行ないました。塾の広報活動と題して、営業も行ないました。当時30人程度を集めることができ、その時の先生とはいまだに交流が続いています。その中で、のちに県議会議員になった方もいます。このように、出会いがあればその後の何かに繋がるという経験をしてきました。

コロナ禍では、全国Edcampをオンラインで開催し、全国に教員の知り合いを作ることができました。ベネッセ教育総合研究所の方と運営を行なったことで、イベント運営のノウハウが身につきました。このように外の人から何かを受け取って成長するという形が当たり前になっていました。それと同時に私も皆さんに何かを提供しなければならないと常に思うようになりました。

塾への広報活動をする中で、商工会議所の知り合いの方を発見し意気投合しました。そこから、柏市商工会青年部の当時の会長に、その日のうちに電話をし、次の日には私のビジョンを共有するため会長に会いに行き、その時考えていた教育活動の起案書を共有しました。その後、オブザーバーとして商工会青年部の活動に3か月参加させていただき、人脈を増やしながら教育活動の思いを多くの企業様に語りました。参加する中で、探究活動に協力してもらえる企業様を探していたのです。この行動と並行して学校内部でも新しい部署を作ってもらうことに力を注ぎ、現在の探究プログラムに繋がりました。

≪総合的な探究の時間でのアントレプレナーシップ教育の構築≫

日頃から生徒には言われたとおりに勉強するのも良いけれど、主体的により良いものを目指す姿勢の中の1つの出来事として受験勉強するという認識や学校生活の流れにできないかと考えていました。受験勉強のための勉強に疑問を感じておりました。その資質能力を養うために、外部との連携を深めた教育活動を考えていました。
その頃始めたのが、クエストカップという探究プログラムであり、全国大会に2回出場しました。その中で『課題を自ら見つけ、自分が思う方法でより良いものへと目指させる』ことの難しさや大切さを、生徒に身につけてほしいと思いました。3年間、この企業探究プログラムに参加しました、コンテンツや連携企業さんのクオリティは素晴らしく問題はなかったのですが、やや大人と対話する機会が少なく、また連携企業先が物理的に遠く生徒の住んでいる柏との違いがあり課題観のリアルさにかけると感じていました。もう少し、当事者意識を持って生徒に取り組ませたいと考えたのです。

それならば、地域の社長さんから、毎日会社を回してより良いものにしようとしている姿勢を、集会などで話してもらった方が、生徒に効果があるのではないかと思いました。当初は、各地域の企業の社長さんに、理念やビジョンを聞いて、成長の仕方や結果を求める姿勢を学ぶプログラムができたらと考えていました。

たまたま出会った柏市商工会議所の方に青年部の人を紹介してもらい、その日のうちにアポイントをとり、内容を伝えました。翌年には、起業家の人の話を聞くというキャリアイベントを実施しました。それと同時期に、自分自身が主催したオンラインイベントで、起業家教育活動に興味を持ってくれたスタートアップ企業をみつけ、連携する形となりました。

正直、自分一人でこの探究プログラムを発展させることは不可能で、誰かサポートに入ってくれないかと日々悩んでいたので、現在のアイコニックビート株式会社さんとの出会いは奇跡だと思っています。また、柏市商工会青年部のみなさんも、教員である私をオブザーバーとして受け入れてくれ、本校用のチームを発足してくださいました。このような経緯で現在は、総合的な探究の時間に、以下のようなアントレプレナーシップ教育のプログラムを運用しています。

プログラムが目指すものは、「主体的に行うとは何か」、自分で考えなさいとは何」「、頑張るとは何か」「結果を出すとは何か」、社会に通用するとは何か」等、これらの必要とされる資質能力の育成です。運営の苦労としては、とにかくお手本がないということでした。プログラム構築のため、柏市企業・依頼企業・学校との連携が大変でした。またマニュアルもまったくないため、その時その場でより良いものをデザインする力が必要となりました。そういう意味では私自身もアントレプレナーシップを体感しています。

アントレプレナーシップ教育プログラムの効果についてですが、生徒は自分事になる物事が多いため、必然的に主体的になります。敷かれたレールで動くことがない分、生徒が考えざるをえない部分が多く、多面的に物事を考えることができるようになりました。また、学校の教員以外の大人と触れ合うことが、たいへん良い経験になったようです。長期間に渡って協調性を持ちながら、プロジェクト学習を行わなければならないため、様々な能力が養われました。生徒たちは、社会を通して本当に学ばなければならないことを、肌で感じたと思います。

次に、教員側の効果ですが、常にその時その場でのデザイン力が試されることで、教員としての洞察・省察能力が向上していくと考えます。また、外部の方と話す機会が増えるため、視野が広がったと思います。さらに、教員としての苦労が、外部の方から評価され、教員としての自己肯定感も向上しました。

運営の流れは、この動画をご覧ください。
(4) アントレプレナーシップ中間報告!日体大柏アカデミックフロンティアコース - YouTube

柏市の企業と生徒だけでは、このプログラムは運用していたら他の探究プログラムと質は変わりないと思います。ここに、大手企業の有志メンバーを募ってメンターとして、生徒のサポートを月1で行っていることで内容の濃さが段違いになったと思っています。このプログラムは毎年10社の企業と連携しています。これを続ければ、各年10社の柏の企業の方に本校の教育活動を知っていただく事になり、地域密着で本校の教育の広報活動にもなります。

このプログラムの実施により、地域連携が加速し急激に知り合いが増えた事により、様々な方から地域からコラボ依頼が入ってきました。本校が、私の理想とする地域に根ざした教育機関となる日も、そんなに遠くない気がします。知り合いが増えたことで、授業で講演してもらうなど、外部連携のハードルが低くなっています。若い先生たちに、社会貢献の楽しさや教育活動の幅の広がりを体感してもらえる良い機会になり、私としてもどんどん世界観が広がり非常に楽しいです。

≪理想の教師像について≫

これからの教師は、オリジナリティを発揮して成長し続ける姿勢を持つことが大切だろ思います。生徒により良いデザインを提供し、それを生徒が教育活動としてアートに創り変えるような働きかけと準備ができる教師が理想です。そのためには、様々な知識を取捨選択し、アップデートし続ける姿勢が必要です。そして、生徒が真似したくなる生き方をしている教師でありたいです。

私自身、これまでの12年間の教員人生を振り返ると、学び続けていたと思います。外部セミナーへの参加、ロイロ認定ティーチャーの取得、各種発信をするとともに、社会との連携を持つことで社会との繋がりを意識した教育活動を実施してきました。その学び続ける姿勢は、生徒も見ています。生徒に、学べ学べと言っているのに、教員が学ばないというのはどうなのかなと思います。

私は、学校外に多くの人脈を持っている教師だと思います。これまでチャンスがあれば、電話、飛び込みアポイント、FacebookでDMなどして繋がってきました。うまくいかないときもありましたが、やればやるほど成功する確率が上がっています。コミュニケーション力・対話力・親和力、相手の懐に入っていく力が上がっているようです。

自分のオリジナリティを伸ばしていくためには、他人とどんどんコラボして天井をどんどんぶち壊していくことが一番の近道だと思っています。自分の可能性に蓋をしてしまってはもったいないです。実社会とかけ離れがちな職種である教員が、社会に繋がった学びを伝えるためには、地域社会の情報や肌感を大切にする必要があります。スキルや環境が学校で足りなくても、様々な業種の方に頼めば不可能も可能になるのです。生徒がやってみたいことをできる限り体現させてあげるために、より良い教育活動を行うために、今後も人との繋がりを重視していきます。そんなにハードルは高くないので、皆さんもチャレンジしてみてください。

正直、出会う人全員から何かしらを学べると思って対話をしています。その人なりの最高ポイントを探すのが趣味です。それは生徒であっても同じです。私の理想の教師像は、内外の刺激に前向きで様々な価値観に触れ、学びの中で自分なりを提供し続けることのできる教師です。そして、成長しようとする姿勢を生徒に見せ続けられる教師、教育のプロフェッショナルであるという自信を持ち公言できる教師、フルスイングしている教師です。

≪学校改革を推進している先生へのメッセージ≫

あくまで私の経験ですが、今の教育活動の成果は、今まで出会った様々な人からもらった知識や知恵、ビジョンやその在り方などを吸収できた結果だと思っています。教育につながる、生徒に還元できるという思いで、12年間、様々な活動をしてきました。どんなことも、無駄なことは何一つもないんだという思いで走ってきました。一見マイナスに見えることも、目を背けるのではなく自分になりに向き合うことで、いつかは自分の糧となり教育へつながる、これを継続していくことこそ、改革の始まりなのではないでしょうか。

1人1人の教育者が教育活動に前向きで、プロフェッショナルである自覚と自信を持って発信し続けて欲しいと思います。様々な環境下で、ご苦労されている先生も多いと思いますが、現場レベルで熱量を上げて、もっとピュアにオープンに貫いてほしいと思います。そのために、管理職の皆様には、熱い気持ちを持続させる研修や声掛けをお願いいたします。皆さんでフルスイングした教育活動を続けましょう!!先生たちの熱量こそ、教育の原動力だと思います!

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