アクティブティーチャーの挑戦 第三十二回(月刊高校教育11月号掲載)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第三十二回(月刊高校教育11月号)
名古屋経済大学市邨中学校・高等学校
矢田 修先生
「2040年を見据えた学校づくり」
≪名古屋経済大学市邨中学校・高等学校≫
本校は、1907年に日本初の女子商業教育学校として開校しました。2002年に共学化し、2017年度に全校生徒へiPad配布、2022年に現行カリキュラムをスタートさせました。このカリキュラムでは、授業時間数を32時間(特進は34時間)から一律30時間に減単し、1時間あたりの授業を充実させています。また、探究に特化したエクスプローラコースの新設と、特進コース、文理コースの再編を実施しました。その再編によって、従来の特進コースはアカデミックコースに、文理コースはブライトコースになりました。さらに、キャリアデザインコースがあり、高等学校は4コース制になっています。
本校は、「一に人物、二に伎倆(ぎりょう)」を建学の精神にかかげ、人を育てる教育に重きを置いています。「桜は桜、松は松たれ」という、一人一人の個性を尊重し、生まれついての才能を伸ばすことを大切にしています。そして、社会で活躍し、世界に飛躍する人物となることを目標に置いています。
本校を第一志望とする推薦入試での入学比率が高く、生徒たちは、市邨への帰属意識を強く持っています。そのため、在学についての満足度が高いのが特色です。また、女子生徒の比率が65%と高く、特にキャリアデザインコースは9割が女子生徒です。
≪学校改革について≫
本校では、2016年から積極的に学校改革に取り組んでいます。学校改革を進めるために、まず、学校目標の明確化をはかりました。その根幹として「2040年を生きる力を身に付ける」という言葉を掲げ、話し合いを進めました。その過程で、教員の間に、「一に人物、二に伎倆 ~個性を尊重した人物本位の教育を~」という建学の精神に基づいた教育に立ち返ろうという共通認識も醸成されました。
そして、市邨の考える8つの学力という到達目標を設定することができました。その8つの学力とは、社会性、コミュニケーション能力、一般教養、想像力、創造力、ICTスキル、言語能力、主体性です。さらに、「自ら学び続ける力」「自分で考える力」を育てることを目標にしました。
その到達目標の実現のために、授業改革を推し進めました。教科書をただ教えるのではなく、教科書を使って探究する授業を推進し、生徒主体の学校に生まれ変わっていきました。同時に2017年からiPadの配布を開始し、2018年1月には全生徒が所有する体制を整え、そのiPadの有効活用により学力の向上をはかっています。
学校改革の主眼が、授業改革であったため、教員研修が活発となり、研究授業も頻繁に実施されています。生徒たちだけでなく、先生方にも主体的に学ぶことが醸成されています。これらの学校改革の結果、志願者及び入学者が大幅に増加し、人気のある学校になりました。
≪探究活動について≫
本校では、カリキュラムマネジメントにより、従来よりも余裕のあるカリキュラム編成を達成しました。週の時間数は、全コースとも30時間です。15時以降は生徒が自由に自ら学ぶ時間と位置づけています。余裕のある放課後には、下記のように生徒が自由に選択できる講座などを開設しています。
・市っちゃんカフェ……市邨の先生主催の講座・イベントなどを校内で実施
・ウェルカムカフェ……校外の人(保護者・大学講師など)を招いて、講座・イベントなど実施
・スタディカフェ………課題をやる、授業で分からないところを教え合うなど
・じっくりカフェ………小論文講座など
・校外でもカフェ………ボランティア・地域交流など広く校外で活動をしていく
これらのカフェの開設に伴い、従来の補習を廃止しました。また、個別で学びたい生徒に向けて、AI教材を中学高校を通じて積極的に取り入れています(Atama+など)。
探究活動については、中学で「未来」を開設しています。道徳(1h)、HR(1h)、総合(2h)、学校設定教科「未来」(2h)を合わせて6時間とし、6時間を合わせて「未来」として扱っています。「未来」の運用としては6単位を以下のように実施しています。
Language Arts……週1時間実施;言語の読解技術を学ぶ。教材として「論理エンジン」を採用(A〜C評価)
英会話……週1時間実施;英語を活用する場面を作る。(A〜C評価)
市邨ゼミ……週2時間実施;生徒の興味関心をひきだす。学期ごとに教師がゼミを設定し、生徒はゼミを選択して実施する。(A〜C評価)※授業時間数をカウントして、国語などの授業に振り返る場合もあり
道徳……週1時間実施;学びに向かう力を身につける。市邨精神を学ぶ。(文書評価)
HR……週1時間実施;クラスの団結や組織をつくる。
プロジェクト学習……学期ごとに実施。(文書評価)
1学期は弁論大会
2学期は学外へ出ての活動。ダンスコンテスト。
3学期はOpen Dayでの発表
それぞれのプロジェクトに向けて、HRや道徳の時間を活用して事前の準備(下調べや事前学習)に取り組む
一方、高校では、総合的な探究の時間に、言語力・論理力を学んでいます。具体的には、つくば言語技術研究所の「言語技術」をベースに、言語の読解と文章作成の能力を学んでいます。さらに、Global Competence ProgramというISAのプログラムを導入し、世界中のマインドセットに取り組んでいます。
さらに、高校では、学期の後半に3日間のコース別自主活動日を設定し、コースごとに探究学習を実施しています。この活動内ではインターンシップ(キャリアデザインコース)の実施や、社会人インタビュー(アカデミックコース)、小学生との探究交流(アカデミックコース)、盲学校との交流(エクスプローラコース)など、さまざまな取り組みが行われています。
この活動とは別に、「市邨ゼミ」を高校2年生で週2時間、高校3年生で週4時間実施しています(エクスプローラコースは週2時間)。ゼミでは、教師の設定したゼミを生徒が選択し、そのゼミ内で生徒が自由に探究します。ゼミは前期後期の設定となり、半期ごとに評価をつけます。
≪観点別評価について≫
観点別評価については、教育目標に即して、各教科の評価項目をきちんと定めようということで、2020年度に「教科ルーブリック」、2021年度に「科目ルーブリック」を作成しました。その上で、2022年度から本格的に観点別評価がスタートしています。
まず、第1観点の「知識・技能」については、授業内での単元テストやレポートなどで見ています。
次に、第2観点の「思考力・判断力・表現力」については、「思考判断表現テスト」やレポートなどで見ています。
ここで、「思考判断表現テスト」について説明します。本校では、「知識・技能」については、授業内で定期的に測り定着につなげるようにしています。定期テストについては、「思考力・判断力・表現力」を測る場面と考え、「思考判断表現テスト」を実施しています。このテストは、学期に1回実施します。それに伴い、従来の中間テストは廃止しました。
「思考判断表現テスト」の最大の特徴は、100点満点の点数を出さないという点です。評価は、観点ごとにA〜Cの3観点のみを算出します。点数を出さないため、学年順位などの算出は行いません。平均点も算出しません。答案返却日を設けず、じっくりと時間をかけて採点するようにしています。なお、「思考判断表現テスト」の中で、一部「知識・技能」を問う問題を設定してもよいことになっています。
次に、第3観点の「主体的に学習に取り組む態度」については、リフレクションシートを活用しています。その目的は、授業で「何を学び、何を発見し、何について疑問に思ったのか」「次回はどのように学ぶのか。改善すべき点はどこか」の振り返り(内省)を行い、次の学びに向けて調整していくことにあります。
ただし、リフレクションシートは、単に、第3観点を評価するためのツールではなく、「生徒の成長を伸長させるもの」であることが前提です。内省を繰り返し行うことで、考える力を養うことも大切にしています。
<リフレクション実施方法>
リフレクションシートを用いて以下の活動を繰り返し、その成長度合いを2軸で評価します。
生徒自身がその授業でどのような活動をして、何を学んだかを理解する(振り返り)
①の理解の上で次の授業に何を学び、何ができるようになるかを設定する(目標設定)
授業担当者は、生徒の①及び②をもとに、生徒の目標設定が適切かを検討し、修正が必要な場合は適宜アドバイスを行う(生徒への調整の促し)
生徒は③のアドバイスをもとに適宜目標設定を変更する(調整)
②及び④をもとに、次回の授業に臨み、その結果として何を学んだかを振り返る
これらの活動をもとに、評価は以下のように行っています。
①~⑤のうち、②(と必要な場合④)を行う力を『調整力』として評価し、さらに、どれだけ繰り返して、更なる成長につなげたかを『粘り強く学習に取り組む態度』として評価します。
<リフレクションシートの要件>
・全ての授業で毎授業ごとに必ず記入する
・各授業では5分間の記入時間を確保する(終了前5分を使う)
・教師は毎回全てのリフレクションシートを確認する必要はないが、適宜必要に応じて確認を行う
・可能であればフィードバックを行う
・様式は任意
ただし、「今日の振り返り」「前回目標の到達度と次回への目標設定」を必ず行う
リフレクションシートは教師と生徒が常時、過去のものを含めて見ることができる状態にしておく
実際の運用では、高校では、ほぼ全ての教員がMetaMoji(メタモジ)内にリフレクションシートを作成し、生徒に記述させています。中学では、エナジードギアを導入しており、こちらをリフレクションシートに変えて利用しています。
≪定期テストを廃止したらどうなったか≫
本校では、2022年度から通常の学期2回の定期テストを廃止しました。現在は、学期に1回、点数や順位を出さず、観点で評価する「思考判断表現テスト」を実施しています。
定期テスト廃止当初は、生徒教員含め、かなりの反対がありましたが、現在では生徒からは、ほとんど反対の声はありません。定期テストごとの順位を気にしなくてよくなったことで、成績に対する捉え方が相対的なものから、絶対的な実力と捉える生徒が増えたようです。また、項目ごとに評価がつくので、苦手な科目でも評価されるポイントに生徒が喜びを感じる姿を見るようになりました。
そして、授業内で単元テストがあるため、継続的に学習に取り組む生徒が増えました。日々の学習習慣が身についたようです。一方で、定期テストだけを頑張っていた生徒にとっては、成績を伸ばすことができなくなり、苦しくなっているようです。学校全体としては、学習習慣が身についた生徒が増えており、生徒の授業アンケートで行なっている学習時間調査では、明らかに学習時間が伸びています。
定期テスト廃止についての課題をあげます。学校の取り組みは、生徒には浸透しているのですが、保護者には、まだ理解が追いついていない方もいます。また、近隣の学校と比べて、取り組みが突出しているため、特殊な学校と言うイメージが一部にあるのも事実です。
また、教員の中には、このような取り組みが理解できない方もおり(特に非常勤講師)、取り組みが完全に学内で共有できているとは言えない段階です。今後の展望ですが、定期テストについては、来年度の完全廃止も視野に入れた検討を行なっています。
≪探究学習と市邨ゼミの展望について≫
探究学習の実施方法については、まだ試行錯誤の段階であり、細かな点について今後詰めていく必要があります。また、放課後の学びについては、現状としてまだまだ取り組みが不十分なので、教員、生徒、保護者に対しても周知をはかり、浸透させる必要があります。
探究学習については、今後の本校の軸になると考えています。コース別自主活動日は、すべてのコースでさらに充実させる必要があり、この活動を通じて生徒には興味関心を広げてほしいと考えています。
高校の「市邨ゼミ」では、生徒が持つ興味関心を追求する時間として、一人一人が自身の興味関心を深掘りして欲しいと考えており、更なる充実をはかります。
そして、これらの教育活動に、学校としての価値付けをするための場面を設定しています。3学期に行われるIchimura Exhibition Day/Open Dayをこの場面として設定しています。今後は、これらの場面以外にも、生徒が探究的に学んだ内容を価値付けできる場面を増やしていきたいと考えています。
これらの教育活動を通じて、全ての生徒が主体的な進路実現をできる学校を作っていきたいです。
≪先生方へのメッセージ≫
本校では、「生徒が自ら学ぶ学校」になることを目標に、2016年から積極的に学校改革に取り組んできました。近隣の学校などでは、似たような取り組み事例が少なく、試行錯誤の連続で進んできました。同じ目線で学校改革を取り組む仲間を学内で多数見つけることは簡単ではありませんが、学校の外を見渡すと、その取り組みを応援してくれる仲間がたくさんいます。
そんな仲間とたくさんつながることで、自分の取り組みに自信を持つことができます。そして、その取り組みを続けると、必ず学内に仲間ができます。そんな仲間と一緒に歩むことで、子どもたちが「自ら学ぶ」学校ができると信じています。ぜひ一緒に日本中の学校で「生徒が主役になる学び」を作りましょう!