アクティブティーチャーの挑戦 第三十九回(月刊高校教育6月号掲載)

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アクティブティーチャーの挑戦 第三十九回(月刊高校教育6月号)

立命館宇治中学校・高等学校
酒井淳平 先生

「探究的な学びのデザイン」

≪立命館宇治中学校・高等学校について≫

本校は、1965年、学校法人宇治学園により「宇治高等学校」として創立されました。1994年に学校法人立命館と学校法人宇治学園の法人合併により、「宇治高等学校」は「立命館宇治高等学校」に改称されました。

2009年には、国際バカロレア機構(IBO)により、関西の一条校初のIBディプロマ・プログラム(DP)校として認定され、世界基準の探究学習を実践する高校IBコースと中学IPコースを開設し,ハーバード大学をはじめとする海外名門大学への進学者を輩出しています。また、1年間の留学とイマージョン授業でグローバルリーダーを育成する高校IMコース、3年間の探究を柱に文理融合の学びを究める高校IGコース,多様な学びと経験を通して確かな基礎力と探究力を育む中学ICコースを展開しています。

立命館の建学の精神「自由と清新」と、教学理念「平和と民主主義」に基づき、卓越した言語能力に基づく知性と探究心、バランスのとれた豊かな個性、正義と倫理に貫かれた寛容の精神を身につけた未来のグローバルリーダーを育成しています。また、世界と日本の平和的発展に貢献することを教育目標とし、国際バカロレア機構が提唱する「Learner Profile (学習者像)」をふまえた「理想とする人間像」を明確に定め、その育成を目指し教育を展開しています。

生徒たちは、大学の附属校という環境も活かして、様々なことに挑戦しています。たとえば、クラブ活動でより高いレベルへ向けて努力している生徒、学校外とつながって自分のプロジェクトを進める生徒、学校行事などを創っている生徒、留学に挑戦する生徒など、多様な生徒たちがお互いに刺激を与え合いながら学校生活を過ごしています。

≪私の学びの変遷について≫

私が、数学の教師を目指した理由は、数学が昔から好きだったこと、教育に興味があったことなどです。しかし、実は最後まで迷っていて、就職活動をしました。内定もいくつか頂く中で、「何をしたいのか」でなく「苦労するならどの仕事なのか」と発想が変わり、そのとき「教師」に決めました。

大学院在籍時に、高校卒業資格も取得できる専門学校で非常勤講師として数学Ⅰを教えたのが、教員キャリアのスタートでした。その後、立命館中学校・高等学校の教員になりました。中学担任を6年間務めたあと、そのまま高校に上がって3年間、生徒と一緒に卒業する形で、2008年に立命館宇治に異動しました。立命館宇治では、初代のキャリア教育部長として、キャリア教育部の立ち上げや探究のカリキュラム開発を行い、今に至っています。

2013年度~2015年度に本校が、文部科学省のキャリア教育研究指定校になったことをきっかけとして、文部科学省関係の以下の仕事を担当することになりました。

◆「キャリア教育の手引き」
→高等学校におけるキャリア教育の実践の一部を執筆
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/mext_00010.html
◆「キャリア教育の総合的研究」
→全国の学校への調査を分析、高校を担当
https://www.nier.go.jp/shido/centerhp/career_SogotekiKenkyu/
https://www.nier.go.jp/shido/centerhp/career_SogotekiKenkyu_2.html
◆「評価に関する資料作成(高校・特別活動)」
→いわゆるオレンジ本と現場で呼ばれている冊子、事例を執筆

◆「大学入試改革好事例選定委員会」
→高大接続改革の一環としての会議、大学入試の好事例を選定

その他、学習指導要領の実施状況調査(高校・特別活動)、ホームルーム活動のススメ(リーフレット)の作成なども担当しました。

また、校外での活動も多くなっています。ナガセ・日本教育新聞主催のセミナーには、探究や数学で何度か登壇させていただいています。その他、学校での教員研修、いろいろな研究会の講師などもご依頼いただくときがあります。テーマは「キャリア教育」「探究」「数学(授業改善)」などです。

全国各地で頑張っている先生は、多数おられます。みんなで次の教育を創っていくことが重要で、そのためにも場が大切だと思います。普段は学校にいますので、日程調整は難しいのですが、思いを共有できる方には、できるだけ協力したいと思っています。もちろん、自分が学びに出かけるときも多いです(その方が多いです)。

近年、3冊の書籍を出版しましたので、ここで紹介させていただきます。

「高等学校 新学習指導要領 数学の授業づくり」(明治図書 2022)」
→新学習指導要領を教室の学びに落とし込むことを目指した本です。数学的に考える資質・能力、主体的・対話的で深い学び、数学的活動など、様々な新しいキーワードが提示された新学習指導要領、それらをどのように授業で具現化すればよいのかを徹底解説しました。
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「探究的な学びデザイン 高等学校 総合的な探究の時間から教科横断まで」(明治図書 2023)」
→探究を「なぜ・どうやって」やるのか、その疑問を解決することを目指した本です。一人の教員としてのマインドセットから探究学習で押さえたいポイントまで、その進め方を紐解いて行きます。豪華執筆陣による探究の実践モデルも掲載しています。
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「高等学校 探究が進む学校のつくり方」(明治図書 2024)」
→探究学習が加速する組織をデザインすることを目指した本です。探究学習の推進には、教員個人の取組だけでなく、学校という組織全体がどのように探究と向き合うかが重要です。リーダーとしてのマインドセットから校内の組織や仕組み・体制づくりまで、「探究」がうまく進む学校の条件を紐解いています。
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このように、私が学び続けている理由としては、目の前の生徒に還元するため、学ぶことは面白いし自分の世界を広げてくれるからということがあります。そして、学ぶことで教員としてのキャリアもより豊かになります。こうした思いはあるのですが、本気で教育を変えようと思えば、仲間と一緒に学び続けて実践し、形にしていくしかないという思いもあります。少しでも良い未来や良い教育を残せるために学んでいる、という思いもあります。

≪何のために数学を学ぶのか≫

教員をやっていると、生徒から「何のために数学を学ぶのですか」と聞かれることはありませんか。私は、以下のように説明しています。

数学は、多くの人の夢が詰まった学問であり、夢を見るために、夢に触れるために数学を学ぶという思いは常に持っています。また、数学には生きていくうえで大切な力が詰まっていると思います。たとえば、いろんな物事に共通する何かに気づくこと、仕事を段取り良く進める力、自分の主張を論理立てて組み立てること、これらは数学でこそ育つ力です。

数学的な見方・考え方を育てる授業デザインについてお伝えします。こちらが問題の解き方を教え込む授業をすると、生徒は数字を当てはめてやり方のみを暗記してしまいます。こうなると生徒がすることは作業になり、数学的な見方・考え方は育ちません。しかし、公式一つとっても自ら法則を発見して公式を作ろうとすると、数学的な見方・考え方が必要になってきます。また、問題を解く際に「似たような考え方で解ける問題はなかっただろうか」と考えたりすることも、数学的な見方・考え方です。見方・考え方を育てる授業デザインというと難しく聞こえるかもしれませんが、生徒が頭を使って数学するような授業になると、自然と数学的な見方・考え方を育てる授業になるのではないでしょうか。

私は、授業において、生徒の頭に「?」が浮かぶような発問をすること、「できた」という実感を生徒が持つこと、教えすぎずに生徒が気づくことを重視しています。これらを実現するために、「生徒が教科書を自分で読む力」を育てることや、「HOWよりWHY」を大切にしています。今後は、2次関数、三角比といった単元レベルでの授業構想が、もっとできればと思っているところです。

≪探究的な学びのデザインについて≫

探究的な学びについて、お伝えさせていただきます。

○探究とは何か
そもそも生きることは、人生の探究だと思います。また学問をすることは、探究することそのものです。一般的に探究的な学習とは生徒の課題設定から始まると言われています。与えられたものではなく、自分から歩みを進めていくような学び、それこそが探究ではないでしょうか。

○今なぜ探究なのか
高校現場においては、学習指導要領で強調されていること、大学入試で必要になってきたからということが大きいと思います。しかしそれは表面的なことであり、変化が激しく、決まった答えがない時代を生きていく子どもたちだからこそ、与えられる学びではなく、自ら疑問を持ち、それを解決していく学びが求められています。
一方、私は、そもそも学ぶことは探究することだと思っているので、今だからではなく、そもそも学校では探究が重要で、これまでも大切にされてきたと思っています。ただ、教育が丁寧になりすぎ、与えすぎる中で、探究を強調せざるをえないのかもしれないというのが本音です。

○探究の授業デザインについて
学校や生徒によるので一般論としては論じにくいのですが、目標や成果物の共有・最低ラインを高く設定しすぎないこと、これはすごく大事だと思っています。また、生徒の個人差は当然あるものとして、授業をデザインすることが重要だとも思います。

○探究の評価について
評価と評定が混同して語られがちですが、「総合的な探究の時間」において5段階の評定は必要なく、指導要録の評価についても学校で文言を決めれば対応できると思います。大事なことは、生徒が評価を受ける場面を増やすことではないでしょうか。評価を受けることで、自分の到達点や今後の課題が明確になります。その評価をどうするのかが、今求められていると思います。

○キャリア教育の視点
高校生の卒業後の進路は多様で、進学するとしても大学を学部レベルで選択する必要があります。つまり、生徒は高校卒業時に「自分の興味・関心」「自分がもっと深めたいこと」「どんな世界で生きていきたいのか」をイメージする必要があります。生徒が自分の興味・関心からテーマを設定できる「総合的な探究の時間」は、生徒が自分と向き合う絶好のチャンスだと思っています。つまり、「総合的な探究の時間」は、キャリア教育の視点を意識することが重要で、キャリア教育を進める絶好の機会だと思うのです。

≪探究が進む学校とは≫

探究を進めるためには、生徒に伴走する教員の存在が大切です。伴走、と言うのは簡単ですが、実行するのは本当に難しいと思います。でも、放置することなく、こちらが無理に引っ張るのでもなく、生徒にしっかり伴走できる教員でありたいし、そういう教員集団こそが生徒を育てることができると思います。初期は引っ張り、どこで手を離すか、難しいですが大切なことですね。

スポーツの世界を見ると、青山学院大学陸上競技部の原晋監督やオリックス・バファローズの中嶋聡監督は、本当に伴走されていると思います。駒澤大学陸上競技部の大八木弘明監督も、指導を伴走型に変えられた結果が、駒澤の復活でした。伴走する教員の存在があってこそ、生徒は自分で問いを持つことができ、その問いを育てていくことができます。伴走は、これからのキーワードだと思います。

そして、探究を進めるには、校内の仕組みや組織づくりが大切です。ここは、管理職だからできること、ミドルリーダーだからできることなど、それぞれの役割があるのだろうと思ってはいます。ただ、組織や仕組みに魂を入れるのが人なので、形を作ればいいものではないと思います。その点で、管理職と現場の握手が起これば素敵ですね。そして、チームで仕事を進めるためには、みんなでやるという思いだけでなく、スキルも必要だと感じる今日この頃です。

≪先生方へのメッセージ≫

教職離れが言われ、いろんな報道は、その傾向をより加速させているように感じます。そんな今だからこそ、現場から教職の魅力を発信する時なのでしょう。今の時代、難しいことはいっぱいありますが、学習指導要領は現場の実践から作られています。また、生徒たちの卒業式に立ち会えるのも、この仕事ならではです。現場から次の教育を創っていけるかが、今問われています。みんなで一緒に、次の教育をつくっていけたらうれしいです。

これから、ますます生徒観が問われると思います。生徒は、受益者・お客様として、与えられることで学ぶ存在ではありません。未来社会の担い手として、自ら学ぶ存在です。個別最適な学び、DX、探究など、いろんなキーワードが飛び交いますが、その土台には、未来を創る生徒を信じ、生徒は自ら学ぶ存在だと認めることがあります。かつての高度経済成長期の教育の成功体験が、今は重荷になっている面があるのかもしれません。でも日本の教育のポテンシャルや、教育が次の社会を創っていくということを信じて、日々いろいろなことに取り組みたいと思っています。


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