アクティブティーチャーの挑戦 第四十三回(月刊高校教育10月号)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第四十三回(月刊高校教育10月号)
星の杜中学校・高等学校
三浦 学 先生
「高校における探究のUPDATEについて」
≪星の杜中学校・高等学校について≫
本校は、2023年4月、前身となる宇都宮海星女子学院中学校・高等学校から校名変更・共学化し開校しました。スクールミッションとして「新たな価値を創造し 社会に貢献する、チェンジメーカーの育成」を掲げています。本校ではチェンジメーカーを次のように定義しています。“これはおかしいかもしれない”という身近な気づきや違和感を見て見ぬふりをせず、仲間を集めて行動できる人 です。
そのために育成する能力を5つのグラデュエーションポリシーとして掲げており、本校の教育活動はこれらの能力の育成につながっていることを前提に設計されています。5つのグラデュエーションポリシーとは、①開発力・創造性 ②共感力・協調性 ③課題発見・解決力 ④レジリエンス ⑤メタ認知 です。また、変化が激しく、これからの予測困難な社会において本当に活躍できる人材を育てるため、ビジョンとして「教育新時代の最前線へ」を掲げています。
本校は、カトリックミッションスクールとして、マリアの宣教者フランシスコ修道会によって1954年に栃木県宇都宮市に設立されました。当時の社会背景や時代の流れに沿って女性にとって必要とされる教育が実践されてきましたが、さらなる女性の社会進出やグローバル化、テクノロジーの進化が目覚ましく、さまざまな多様性が前提になっている時代の変容の中で、少子化や入学者数の減少に伴い共学化し、教育の方針も大きく変えて新たな学校へと校名を変更するに至りました。
本校では、これからの社会で活躍できるための非認知スキルを育成する「21世紀型教育」を実践しています。非認知スキルの重要性は新学習指導要領やOECDのラーニングコンパスで示されている通りですが、その力を授業の中や学校行事、学校生活の中で身につけていくことを狙いとしています。
そのため、教員が生徒に一方的な指示をする「指導」ではなく、生徒に考えてもらうための「支援」をしています(生徒支援、進路支援、学習支援)。暗記中心、一夜漬けで記憶に残らない定期テストはありません。但し、単元テストはあります。校則はありませんが、社会と照らし合わせて生徒が自ら考えて行動してもらうよう仕組みづくりをしています。服装も自由ですが、TPOに応じた服装を考えてもらいます。そして、社会との接続した学びのために多岐にわたる学びの機会を設けています。中学校では「イノベーターコース」と「エンジニアコース」、高校では「グローバルラーニングコース」と「ディープラーニングコース」のコース制や、探究や留学、さらには偏差値偏重ではなく、ブルームタキソノミーをベースとした授業の設計などに取り組んでいます。
生徒はイキイキと学校生活を楽しんでいる姿がとても印象的です。中学校・高校時代に「なりたい自分」を見つけ、挑戦したいことに自らアクションを起こしている生徒がたくさんいます。自ら学校を飛び出し、外部でパフォーマンスを披露する生徒や精力的にボランティアに取り組む生徒、自身で起業しビジネスに挑戦している生徒もいます。また、昨年度は海外へ20名以上の生徒が留学に出発、3名の生徒がシドニー大学を始めレベルの高い海外大学から合格をもらいました。探究も精力的に取り組んでいる生徒も多く、今後のさらなる活躍に期待しています。
≪私の経歴や取組について≫
大学時代に、地域を視るフィールドワークを実践し、自分から動いて新しい発見を見つけられるようになりました。おそらく、今の探究の原型を大学時代に学ぶことができたと思います。それを伝えたいという想いから、教師を志望しました。
私は、宮城県の県立高校教諭としてキャリアを積みました。赴任校は、宮城県登米高等学校、宮城県迫養護学校(現:迫支援学校)、宮城県一迫商業高等学校、石巻市立女子高等学校、宮城県涌谷高等学校、宮城県宮城第一高等学校、星の杜中学校・高等学校です。
涌谷高校時代に、宮城県の仕事や、個人でも学びに大きく動くようになり、多くのステークホルダーとの出会いがあって今に至ります。宮城第一高校の時に「探究科」の開設が決まり、そこに重点的に関わって仕事ができる、ホンモノの探究ができると思っていましたが、実際には思うようにいきませんでした。そんなある日、現在の星の杜中学校・高等学校の校長に「日本一探究で名の知れる学校にしよう!」とお話を頂き、2024年4月に同校の教員になりました。
私は、これまで外部研修や他校視察で知見を広げてきました。例えば、宮城県のICT推進のメンバー( MIYAGI Styleスタイリスト)に選出され、ICT関係の多くの学校を視察し、ICTと探究が授業に創造をもたらすことを実感しました。また、教育関係のセミナーだけでなく、民間主催の研修にも積極的に参加しました。外を見ると視野が広がりますし、皆さんにも外部研修への参加をぜひお勧めします。私は、このような活動の中で多くの方と知り合いました。特に、井澤友郭さん、佐藤賢一さん、藤岡慎二さんとの出会いは自分を大きく変えてくれました。
私の実践について、取材を受けたり、自ら執筆したりすることも多くなりました。また、近年は講演会の依頼も多くなっています。教員研修会やイベントで講師をつとめることで、私自身の学びが深まっています。
≪私の探究の実践について≫
●宮城県涌谷高等学校での実践
涌谷高校では、ICTの活用を推進しました。教員1人一台の端末の活用から、生徒グループで一台の活動の支援を行いました。また、アクティブ・ラーニングを導入し、特に小林昭文先生が関わった埼玉県立越谷高校の視察からジグソー法を学び、関連するセミナーにも参加しました。さらに、小林昭文先生を涌谷高校に招聘し、教員セミナーを実現しました。この頃、授業に「問いづくり」の要素を入れ始め、探究型の授業の試行を開始しました。
●宮城県宮城第一高等学校での実践
涌谷高校での実践を活かし、受験校での探究型授業を開始しました。「教師が教えない」という考え方のもと、生徒が自走する学びへチャレンジしました。特に、問いを立てること、問いを転換することを重視しました。その結果、4年が経過した頃には、生徒が個別最適の中で学ぶ姿が見られ、校外模試の成績も上がりました。
「探究科」の設置後には、希望者による探究講座を開始しました。参加メンバーは、初年度からマイプロジェクトアワード全国大会出場を果たし、昨年度は早稲田大学主催のアントレナーシップの大会で全国2位の好成績も収めました。
●星の杜高等学校での実践
今年度赴任した星の杜では、新たな取組として、「わかりにくい授業」を意識し生徒に考えてもらうようにしています。これは、生徒の思考を高めていきたいという想いからで、わかりやすく教えるということは、生徒が思考しないケースもあると考えたからです。私は、生徒たちに、徹底的に学びの創造をしてもらいたいと考えています。
現在、高校1年生の「歴史総合」を担当していますが、ワークシートの配布をやめ、オールPBLで授業を実施しています。私は、生徒たちが自分で真っ白なキャンバスに作品を描くような授業をしたいと思っています。言い換えると「教科の探究」という本丸に進んでいきたいのです。私は、「教科で探究のトリガーを引く」ことを考えています。
≪高校での探究のUPDATEについて≫
高校での探究の現状は、全体で見るとなかなか新学習指導要領の内容に移行していないと思います。ICTや探究も言葉だけ先走っているように感じます。例えば、ICT活用はタブレットにワークシートを入れて、黒板やノートの代わりにするだけになっている。また、探究は総合探究だけで、調べ学習に終始したり、進路の時間もキャリアではなく高校卒業時点を点とする活動で終わっている印象です。
探究の課題は、主語を先生から生徒にできるかです。「何を教えるか?」「どう教えるか?」から「何を学ぶのか?」「どう学ぶのか?」への転換が、探究のUPDATEに必要だと考えています。
私自身がこれからやりたいことは、「学びを生徒に任せる」ことです。生徒が自分で選択するということを大切にしていきたいです。自己実現のためには自己選択をするスキルが必要で、それを学校全体で行いたいと考えています。個別最適化、自由進度学習も関連してくると思います。
また、それらを進めていく上で、教師が作るグループワークからの脱却、という考え方がもしかすると本丸かもしれないと思っています。
≪先生方へのメッセージ≫
生徒の創造する力をどう創ることを支援していくか?
生徒を信頼して任せる大切さが必要です。
例年通りは思考が停止するので、常にUPDATEしていく必要があると思います。
私がよく考えているのは、社会問題があるところには問題があり、なかなか踏み込む勇気がありません。しかし、その状況を抜け出せるような光り輝く星となりたいと思っています。社会問題を森林として例えると、森に迷った人たちはその中にある問題を解決しながら出口に辿り着く。その目印となる星を目掛けて行動する。
実は、これは私が5年くらい前に考えた探究のテーマでした。諸事情で全体ではできなくなっていたところに、この探究と同じ名前の「星の杜中学校・高等学校」が誕生しました。嘘みたいな話ですが、自分が考えた探究と同じテーマで学校が開校される喜びはすごかったです。どうしても働きたいという想いがあり、星の杜のカリキュラムディレクターである石川一郎先生に問い合わせもしました。自らの学びを深めると、大きな人生の分岐点にたどり着きます。一度しかない自分のキャリア形成をどこかで終わらせるのではなく、終わりなき旅を楽しんでいきたいと思っています。