アクティブティーチャーの挑戦 第四十四回(月刊高校教育11月号)
学事出版『月刊高校教育』にてFind!アクティブラーナーの連載がスタート!
こちらでは冊子の記事をWEB版として公開しております。
アクティブティーチャーの挑戦 第四十四回(月刊高校教育11月号)
徳島県立池田高等学校
田島幹大 先生
「公立高校における探究科の取組について」
≪徳島県立池田高等学校について≫
本校は、1922年に徳島県立池田中学校として開校し、今年で創立102年目になります。1948年には池田高等学校と改称しました。徳島県北西部の三好市池田町に所在する山間部の学校で、四国のほぼ真ん中に位置しています。1970~80年代に、蔦文也元監督が率いる本校野球部が、春夏の甲子園大会で優勝3回、準優勝2回を達成したことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。全部員11人だけで戦い抜き準優勝を果たした「さわやかイレブン」や、「やまびこ打線」と呼ばれた豪快な攻撃野球で、一躍有名になりました。
現在、本校には、全日制普通科4クラス、全日制探究科1クラス、定時制1クラスがあります。探究科は2012年に開設され、今年で12年目になります。その他、2つの分校(辻校、三好校)を持っています。辻校は総合学科、三好校は食農科学科と環境資源科の学校です。
本校の魅力は、①さわやかな校風、②きめ細かな進路指導、③文武両道です。文武両道についてお話しすると、本校の生徒は部活動加入率が90%を超え、日々熱心に活動しています。県内外の多数の高校と練習試合や大会、研究発表会で交流できるのも、四国の真ん中・池田高校ならではです。その実績も大きく進路に結びついています。
生徒たちは、とてもさわやかで、元気に挨拶をします。また、お互いにリスペクトする気持ちを持っている生徒たちです。先日、特別講義の外部講師の方から、授業中の反応がとても良く、前向きに学びに取り組む姿勢が素晴らしいと褒めていただきました。
≪池田高校の探究科について≫
本校の探究科は、2012年に開設されました。その2年前から開設準備を始めました。参考にさせてもらうため、次の3つの学校を訪問させていただきました。富山県立高岡高等学校さん、福井県立若狭高等学校さん、兵庫県立小野高等学校さんです。私は、探究科3期生の担任を3年間つとめました。試行錯誤の3年間でしたが、本校探究科のスタイルを作り上げることができました。そして、現在は、探究科長と進路指導主事を兼務しています。
探究科は、各学年1クラスです。1年生は「総合的な探究の時間」ですが、2年生・3年生では「理数探究」を開設しています。現在の2年生探究科クラスでは、8つの探究班があります。妖怪班・辻まち班・方言班・商店街班・あかね班・ジオパーク班・観光班・教育班の8つです。1班3~5名で構成されています。ここでは、妖怪班と辻まち班の取組について、紹介させていただきます。
【妖怪班】
三好市内では山城町にだけ、妖怪伝承があります。その妖怪について、探究活動を行っています。妖怪祭りは、廃校となった旧上名小学校で行われます。地域の方の手作りのお祭りですが、生徒がインタビューしてみると、この祭りを目的に、県外から多くの方がいらっしゃっていることがわかりました。海外からの観光客も多く参加しています。
群馬大学教育学部准教授である市川寛也先生は、妖怪研究家でもあり、三好市山城町がフィールドのひとつです。市川先生に相談にのっていただきながら、探究活動をすすめています。
昨年度は、広島県三次市の三次もののけミュージアムを見学しました。西光禅寺を訪問し、御住職様から三次市の妖怪について教えていただきました。夏には、小豆島の妖怪美術館を見学するとともに、山城町で妖怪ヤギョウサンの聴き取り調査を実施しました。ヤギョウサンは、山城町政友集落で語り継がれる妖怪とされていますが、政友集落だけでなく、山城町内や三好市内各地でヤギョウサンが出現しています。妖怪ヤギョウサンはどこまで広がっているのかを調査する予定です。
【辻まち班】
三好市観光協会長様から、辻(三好市井川町)の街を観光客がたくさん訪れるような観光コースをつくって欲しいと依頼をうけて、探究活動を行っています。生徒は、辻まちで活動する様々な団体の協力を得て、探究活動をすすめています。
植物の日本あかねが、辻まちに自生していることから、あかね染めの普及をめざす団体である井川茜の杜があります。その協力を得て、あかね染めの体験をさせていただくとともに、大学生向けモニターツアーの実施までお世話になりました。また、お茶の生産をしている有限会社近藤様から、同じ種類のお茶でも、山の東向き斜面と西向き斜面と、栽培した場所で味が全く異なる2種類のお茶を提供していただきました。
江戸末期から明治期にかけて、阿波刻みたばこは、藍とならぶ徳島の一大産業でした。井川町周辺では良質の煙草が生産され、吉野川の水運を利用して、辻まちから全国に出荷されていました。井川町辻のあちこちには、うだつを施した家が残っています。うだつは富の象徴です。辻まちがなぜ栄えたのか、なぜ繁栄が終わったのか、辻まち歩きの会の研修会やコースの検討会に参加させていただきました。
辻まちだけを目的とする県外・海外からの観光客を誘致することは難しく、現在は辻まちと四国各地とを結んだ観光ツアーの探究活動を行っています。
≪探究科の特色ある取組について≫
探究科では、クラス全体で行う校外研修を、1年生が年間3回(各学期に1回)、2年生が年間1回(1泊2日)行っています。今年度実施した校外研修を一部紹介します。
・探究科1年生は6月に香川県で研修を行いました。
高松丸亀町商店街は、四国でも最も大きい商店街の一つですが、全国から視察が最も多い商店街としても有名です。商店街の衰退が問題となっている地域が多いなか、来客数がなぜ多いのか、賑わっているのか、考えながらフィールドワークを行いました。フィールドワークに先立って、香川大学経済学部を訪問し、森貞誠先生からマーケティングとフィールドワークの際の着眼点について講義していただきました。
・探究科2年生は8月に大阪府と兵庫県で研修を行いました。
大阪大学工学研究科応用科学専攻准教授の西井祐二先生は、徳島県三好市出身です。そのご縁で、大阪大学を訪問させていただくことになりました。また、大阪公立大学経済学部松本ゼミとのご縁で、松本ゼミの研究フィールドである大阪天神橋筋商店街を、ゼミ生とともにフィールドワークを実施しました。
私は、探究活動では、疑問を感じたらすぐに現地に行って実際に見たり、周りの人に尋ねてみたりすることがよいと生徒に伝えています。コロナが5類になってからも、様々な感染症が流行るたびに現地調査に行きにくい状況となりますが、可能な範囲で、できるだけフィールドワークにでかけることを推奨しています。
≪探究科の成果と課題≫
探究科の成果として、いくつかのコンテストで、全国的な賞を頂いています。近年の受賞について、一部紹介いたします。
観光甲子園 2022 SDGs修学旅行部門 グランプリ(全国第1位)
観光甲子園 2022 空飛ぶクルマ部門 決勝進出(全国ベスト5)
第1回中高生日本語研究コンテスト(2022年) リサーチ部門 優秀賞(全国第2位相当)
第2回中高生日本語研究コンテスト(2023年) リサーチ部門 特別賞(全国第8位相当)
池田高校がある三好市は、四方を四国四県に接しています。そのため、三好市各地には隣接県の特徴的な文化と三好市独自の文化が融合したものが見られます。祭りも、山間地の祭りに近いもの、海沿いの街(瀬戸内海)の祭りの特徴を持つものが見られます。
大学の先生で、三好市を研究フィールドにされている方が、池田高校探究科の課題研究にアドバイスをしてくださっています。逆に、生徒が調査してきた成果を大学の先生方に提供することもあります。探究活動における主な調査対象は、山間地域の生活文化、山間地域に生活する高齢者です。
大学の先生がアドバイスをしてくださるということは、探究活動のテーマが大学の先生の研究テーマに近いものになるという場合もあります。その場合、生徒が探究してみたいものではない可能性もあります。誰かから与えられたテーマでは、3年間にわたる調査研究を継続できない、モチベーションを持続できないという事例も、他校ではあるようです。
池田高校の場合、そのような事例が全くないというわけではありませんが、少ないと思います。誰かから与えられたテーマであっても、いつの間にか自分たちのテーマになって、一生懸命調査に取り組んでいることが多いのです。生徒たちのまわりに対してリスペクトする姿勢、学びに対する真摯な姿勢により、テーマを「自分事化」することが出来ていると感じています。
ただ、今後の生徒もそのようであるか、保証はありません。探究活動のテーマをどのように決めるかが、大きな課題だと思っています。
≪四国高校生探究活動発表会について≫
コロナによって対外的な活動がほとんどできなかった2020年度、何か探究活動に関するイベントができないかと考え、四国高校生探究活動発表会(四国まんなか高校生探究活動サミット)を開催することにしました。その実施要項に、目的として、以下のように書きました。
【目的】
高齢化、人口流出、限界集落などのキーワードがありますが、今後の地方の在り方は、もはや地方固有の問題ではなく、全国的な問題とされています。
四国各県には、これらを課題に持つ地域の高校生が多く通学しています。それぞれの地域や所属する学校において、この課題解決に向けて様々な形の探究活動に取り組んでいますが、その成果を四国まんなか地域で共有し、意見を交換したり提言したりすることは、個々の生徒にとっても将来の四国まんなか地域にとっても意義深いことだと考えます。
ところでこの探究サミットは、最初に挙げた地方創生に関するキーワードに限った成果の共有よりも、各地域固有の内容、あるいは生徒一人ひとりが興味を持つことについて探究した成果の共有の方がより広い視野を持つこととなり、地域の新しい課題発見や解決に向かう原動力につながり、参加者にとってもより大きな意義を持つと考えられることから、様々な探究活動の成果を共有する場にしたいと考えています。
興味を持つ内容を意欲的に探究し、その成果を持ち寄って自分たちと違う価値観を持つ高校生と有意な時間を共有できることを期待します。
2020年度の終わり、2021年3月25日に、第1回四国高校生探究活動発表会をZOOMによるオンラインで開催しました。1年後には、第2回をやはりオンラインで開催しました。
そして、2022年度の第3回と、2023年度の第4回は、リアルで開催できました。会場は、三好市の「峡谷の湯宿大歩危峡まんなか」でした。主催は、四国高校生探究教育研究協議会、徳島県立池田高等学校です。
第3回大会の午前中は、ポスターセッションを実施し、午後は、「哲学ウオーク」を実施しました。「哲学ウオーク」とは、異なる高校で4人程度のグループをつくり、自分に割り振られた「哲学者の言葉」にあう場所を探します。その場所をグループメンバーに紹介し、質問を受けます。会場に戻ってから行われるグループまとめの対話のなかでこの質問に答え、ディスカッションを行うものです。大会後のアンケートでは、この「哲学ウオーク」が満足度1位でした。参加生徒たちは、他校の生徒と一緒に探究する楽しさを感じたのだと思います。
2024年3月25日に実施した第4回大会の参加校は、高知県立山田高等学校、高知県立高知小津高等学校、高知県立大方高等学校、愛媛県立川之江高等学校、香川県立善通寺第一高等学校、香川県立琴平高等学校 徳島県立阿波高等学校、徳島県立城北高等学校、本校の9校でした。
今年度も、第5回大会を本校主催で実施しますが、来年度は、別の学校が担当してくださるようです。2020年度に始めた、四国高校生探究活動発表会が、四国の真ん中で花開いていることに喜びを感じています。
≪探究を担当している先生方へのメッセージ≫
私は、東京や横浜への修学旅行について、業者任せにはせず、必ず個人的に下見をするようにしています。まず、自分の足で歩くことによって、生徒の学びにつながる旅行をデザインしたいと考えているからです。そして、バスで観光地をピンポイントで巡るのではなく、フィールドワークを取り入れて、生徒たちが、その土地の生活圏を知り、愛着が持てるようにしています。
探究も同じではないでしょうか。与えられたテーマについて、レールの上を走るのではなく、自分の足で現地を歩いて探究することが大切です。そのためのキーワードは「自分事化」と「フィールドワーク」ではないかと思います。
本校では、探究科を開設して12年になりました。私は、開設準備から関わってきました。たいへんなこともありましたが、生徒たちは、探究を「自分事」として、楽しんでいるようです。そして、2020年度に始めた、四国高校生探究活動発表会(四国まんなか高校生探究活動サミット)も今年度で第5回になりました。感慨無量です。
今、全国の高校で、探究の取組についてご苦労されている先生方、御苦労なさっていること,工夫なさったことをお教えいただきたいと思います。また、四国高校生探究活動発表会への御参加や,生徒の共同研究のお誘いなども御連絡をお待ちしています。