第 1 回大学入学者に係る大学入学共通テストについて

「学びの場のデザイナー」藤牧 朗

 令和3年1月16日、17日と初めての「大学入学者に係る大学入学共通テスト」(いわゆる共通テスト)を受験会場において受験できる最大の形で受験してきました。
 共通一次試験第1期生として、共通一次時代は第1回から5回まで受験、また、ここ十年以上は継続してセンター試験を受けてきました。その体験から、実感として感じたことを記述させていただきます。

 毎年、このセンター試験の二日間は、「1年で最も気力体力を消耗する二日間」と感じてきました。今回の共通テストをみると、タイムスケジュールも教科科目の設定の仕方も、従来のセンター試験とほぼ同じ(数学①の時間が10分長くなったところだけが異なるだけ)でした。そのため、「また、あの苦痛な二日間が始まるのか」という暗い気持ちの中、初日の1教科(1科目)目が始まりました。ところが、ところが…

 当日会場では、一日目は、地理歴史、公民(世界史Bと現代社会)、国語、英語(筆記とリスニング)を受験しました。また、二日目は、理科①(物理基礎、化学基礎)、数学①(数学Ⅰ・数学A)、数学②(数学Ⅱ・数学B)、理科②(生物)と受験しました。ここでは、地歴と公民1科目ずつ、理科は物化生一つずつという形で受験です。

 1教科、1科目ごとの詳細の解説及び分析は、各教科各科目の専門の先生方や予備校の方々にお任せしたいと思います。ここでは、当日受験した以外の科目を含め、個人的に概観を書かせていただきます。

 どの教科も科目も、どの問いも、とても工夫された出題であり、問題文を読んでいて、問いを解いていて、愉しく感じられるものが多かったという印象をもちました。この気分は、昨年までの「センター試験」では全く感じなかったことです。そして、何よりも、これだけの問題を作成するのには、相当のご苦労があったのではないかと想像しながら解いていました。
 特に、暗記科目と思われてしまいがちな教科科目は、よく考えて作られているなぁと感じました。それほど細かい知識まで暗記していることは求められていないかわりに、しっかりと学んできたことじっくりと考えることを求めていることがよくわかります。普段からの学び方が重要であることを再確認できます。そして、もっとじっくりと考えられる時間があったらより愉しめるのだけれど…と感じるところがいくつもありました。予想通り、英語の変化は大きかったです。しかし、それよりも、他教科科目、例えば…世界史は、初めの問題から、んん、と考えさせられる問題でした。生物は「暗記科目ではない」と思わせてくれました。そして、最も変化を感じなかったのは、化学でした。

 この変化は、よくありがちな「『どこが試験に出るのですか』『どこがポイントですか』のようなことを聞いて、それを覚えるような【勉強】方法は、学びの本質とは全く方向違いである」ということを、出題者が示そうとしている、と感じました。
 このことは、当に、大学で学ぶためにどのような学び(方)が必要なのかを提示しようとしていると判断できます。すなわち、このテストは、「高校の学習確認テスト(いわゆる卒業テスト)」ではなく、「大学で学ぶための試験である」ということを明示しているものなのでしょう。それこそが、「高大接続システム改革会議」のなかで議論されてきたことであったこと、目指そうとしていたことと結びつきました。
 これからの社会で、これから(すでに今も)の世界で求められている力をこれから社会に出ていく若者たちに示そうとしているものと強く感じました。そして、この出題者の気概を感じました。同時にまた、これだけの問題を作成するのはとても苦労されたのではないかとも思いました。

 今回は、受験していて、今までになく受けている自分自身が、とてもいい学びになったと感じています。この気持ち、この肌感覚を、これからの教育実践の場で指導に活かしていきたいと強く思っています。きっと、多くの先生方も同じ感覚をお持ちになったことと信じています。

 これまでは、周りの先生方に、「あなたのような人がふざけて受験しているのは受験生に迷惑だ」などと試験前や終了後に非難され笑われてきたものでした。それに比して、今回は、そのような反応は全くありませんでした。逆に、多くの方から激励をいただきました。現役の受験生といっしょに受験するという意義をわかっていただけるようになってきたものと感じます。ご理解いただき、ありがとうございます。

そうなんです……「なぜこの試験を受け続けるの?」……よく聞かれる質問です。

主な理由は三つです(いわゆる「三つ挙げる」というありそうなパターン=王道ですが)。
①現場を知る
何を持っていくといいのか、トイレにはどのタイミングで行くといいのか、など、受験を毎年継続していると、その試験場の雰囲気の変化があることさえもわかります。
②問題の傾向の変化を知る
一通り、全教科の問題を解きますので、もちろん問題傾向の変化を知ることができます。そして、時間配分の感覚を維持することもできます。
③受験生の気持ちを忘れない
「問題をみたとたんに頭が真白になった」などあの感覚、実際に試験場に行って、その雰囲気の中で制限時間内に問題を解くのと、職場や自宅でのんびり解くのとでは全く違います。緊張感や焦りなど、いろいろな感情もある程度は理解できるでしょう。
……これだけでなく、それ以外にもいろいろとこの効果はあると感じます。

会場で同じ条件で実際の感覚を掴む、そして伝える

 このようにして得たことを、受験後、自分の気持ちが冷めないうちに生徒に直接伝えていきたい、また、周りの関係する先生にもお伝えしたいとか考えていきましょう。もちろん、その機会がどれだけあるのかは、先生の立場次第…というところはありますが…

生徒と同じすぐ近くの席だったことも

 受験場へ行くと、誰か知っている生徒を探して…なんてことは今はありません。以前は教え子と同じ会場のこともありましたが、今回は教えている生徒たちには会う可能性が全くない受験会場だったので、残念でした。今までには、同じ受験室であること、時にはすぐ近くの席での受験もありました。
 この試験の受験については、受けるのをやめようやめようと、思いながら…なかなかやめられず、今回まできました…
 また、受験生プロパーでないため、試験中に、気になる生徒の顔や次の授業のことなどが頭に浮かんできて集中できないのが残念なところです。

教科に関してのコメント

①地理歴史、公民

A.地理歴史は総じてどの科目も、英語の次に変化が大きかったものと感じています。上記にも書きましたが、「暗記もの」ということから脱却し「思考するもの」を目指していると考えました。今回は第一回答科目として世界史を選択したのですが、考える問題が増えたと感じました。非常にいい問題になったと思います。今までは多くが「覚えていればできる」ものでしたから…今回の出題は、「大学での学び」を意識させられる出題です。暗記中心の「勉強」をしてきた場合は学び方(指導の仕方も)を変えていかないといけないということになります。
B.公民の出題は、昨年まではリード文(各問題の初めにある文章)が非常に長く、それをまともに読んでいると時間が足りなくなるくらいの分量と感じていましたが、今回はそこがコンパクトになっていました。その代わりに各問の資料が多くなり選択肢の文が長くなっています。その分、考えることに時間を要しました。

②国語

 もしかしたら、今までのセンター試験とは与えられる文章が相当異なっているのではないかと想像されていたはずです。試行テストがとても「挑戦的な」出題でしたから、そこは肩透かしを食らったとも言えます。実際には、記述問題がなくなっただけではなく、従来のセンター試験と同じような配置でした。ただ、全く同じということではありませんでした。ここでも、対話的な学びを展開することが求められているように感じます。もちろん、この問題のつくり方には賛否両論あるのだろうと感じます。そこのところは、国語の専門の方々にお譲りしたいと思います。個人的には、今年は解いていて、時間に余裕がありました。すなわち「解きやすかった」と思っています。

③英語

 英語は大きく変わることは知っていましたが、それでも、センター試験からみると「かなり変化した」と感じるくらい大きく変わりました。リーディングでは、昨年度までの発音や文法問題が全くなくなりましたが、それよりもそれ以外の変化が思っていたよりも大きかったと感じています。最初の一言以外は、すべてが英語で書かれていて、資料が多く、さらに英語の量が多く感じました。文自体は難しくはありませんでしたが、この量をこなすのには、従来型の「勉強法」ではなかなか厳しいものでしょう。リスニングは、予想通りの変化といっていいと思います。リーディング、リスニングとも、これからの英語(外国語)学習の仕方への指針を示したものと捉えられます。

④数学

 数学①で数学Ⅰ・数学A、数学②で数学Ⅱ・数学Bを解きました。昨年までと異なったことは数学①が70分となっていたことです。時間は長くなっても記述があるわけでもなく形式は変わっていませんでした。それでも、解いていて、「あっ、違う…」と感じました。今までは、ただただ、与えられた道筋に乗って進ませられている感じでしたが、今回は少し異なる感覚で解いていく感じがしました。解いていくのにわくわく感をもちました。いまは、普段、数学を解いている時間がないので、解答にスピードがなく解ききれませんでしたが、もっと解いていたい…と感じさせられました。これこそ、今までになかった感覚です。来年はどのような出題になるのか期待します。そして、教える立場で考えても対話的な学びを工夫できるように感じました。

⑤理科

 理科①理科②ともに受けてきました。理科①では物理基礎と化学基礎、理科②では生物を解きました。物理は問題の提示の仕方に工夫がありました。そこそこにその場で考えることを求めているようでした。化学は昨年までと最も変化のない科目でした。それに対して、生物は驚くほど「変わった」と感じました。昨年までは、どれだけ(事項も解き方も)覚えているかを問うものであったのに対して、今まで学んできたことをその場で組み合わせて考える問いが多いようでした。当に、生物は暗記科目なんて思っていたら大間違い、自然科学=考える科目という出題でした。ここでも、これからの目標として「学ぶこと」は何なのか、何を目指して学ぶのか、について問いかけているようでした。ここでは、「科学」とは何かを問うこと、そして探究的な学びを求めているということでしょう。

全体的変化

 今回の出題の変化は、これからの「学びの方向性」を示したものと捉えています。それは、教育が「これからの社会を生きるため」のものというのであれば、当然あるべき方向性の「改革」であると考えられます。学校教育、授業の方法などに関して、明らかに「暗記に頼る勉強法」をもっと「探究的」にするように求めています。今回の学習指導要領の改訂に合わせたものになっていると思われます。今回の学習指導要領が本格実施になった後の共通テストは、さらに「これからの社会を生きる」ことに適合した出題になるでしょう。

「学びの場つくり」

 各教科各科目の授業もそれに合わせて、もっと探究的に、もっと考える授業にしていくことが求められます。それを続けていくためには、生徒からみると興味を惹かれる内容そして授業の進め方、時間の使い方が求められます。今の子どもたちは、どんどん変化しています。自分で考え、表現することができる子どもたちも育ってきつつあります。それに対して、まだまだ引っ込み思案で恥ずかしがりや従来の日本型の子どもたちもいます。さらに多様な子どもたちに、様々なアプローチや仕掛けを準備して、生徒たちが主体的に考え行動できるように、対話を通して考えコミュニケーション能力とコラボレーションによる思考の発展性を感じられるように、このようなことを通して、広く深く考え学ぶことができるように、学ぶ場を創っていくこと、その場を運営すること、これが私たち教育現場に立つ立場に求められています。

「学び方」の改革を…

 上記のような変化があるにもかかわらず、それを否定的にいう人(特に、これからを生きる若い人)がいるということはとても残念なことです。自分が得点できなければ、苦情を言いたくなるのもわかりますが、それだからと言って、否定すればいいというものではありません。
これは、ご本人の学び方に課題があるのです。直接生徒たちに教える立場にある自分自身としては、そのような誤った「勉強法」を進めてきたのはなぜか、そのような「勉強法」が良いと誰に(あるいは何かに)勧められてきたのか、そこが気になって仕方ありません。それが自分と同じ中学校や高等学校の先生でないことを願うばかりです。

受験をお奨めします

 塾(予備校併設)を経営していた30代の頃は、自分自身が業務の関係もあり各教科各科目の受験勉強をしていたので、得点も高く国立大学の合格をとれました。しかし、学校での業務を担っているいまは、特に、「受験勉強」をせずに受験しています。そうすると、自分が担当している科目以外は確実には得点することが難しくなります。特に、数学などは毎年「着実に」得点が下がっていくのがわかります。また、今回は、英語がきつかったです。出題の仕方が大きく変わっただけに、それに向けた「勉強」をしてきていないのは、対処が難しかったと感じます。
 とかく、「自分の教科、科目以外は関係ない」と思い(そのように自分に言い聞かせ)がちです。しかし、他教科まで受験することにより「継続して学習(「勉強」)し続けないとどのようになるのか」について実感し続け、また、受験生の気持ちをある程度は理解しながら生徒へアドバイスできます。そのような点でも全教科受験をし続けていることに大きな価値を感じています。高校生を担当されている先生方には全教科受験をお奨めします。

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