概要
過去の歴史と生徒の日常をつなげることで、学ぶ意味を感じやすくする世界史授業
「自分の生活と関係ない」と、学ぶ意義を見出せず、「歴史なんて学んでも意味ない」という生徒も出てきがちな世界史。
しかし、竹内先生の生徒たちは「難しいけど自分の力になっている実感がある」「人間力を高められていると思う」と言います。
どのような授業なのでしょうか?
竹内先生にお伺いしました。
Q.授業設計を教えてください
講義の中にアクティブ・ラーニング型の時間を入れていく
基本的には、毎回はアクティブ・ラーニング型ではやっていません。ポイント、ポイントでやるようにしています。講義も必要だと考えていて、講義と合わせて、学期ごとに3、4回、出来ればもう少し実施しています。今日の授業のように習ったことや、これから習うことに対しての理解や関心を深める、そのような授業展開をしています。
今回、3つの国の政策を終えたところだったので、それに対して、自分の意見や、考えを深めていくという形で、お互いにまず自分の意見を出した上で、意見交換して考えを深めていきました。
また今回は、以前の授業で生徒に伝えた参院選に関して、各党から色々な政策が出ている時期でした。そこで、過去の歴史におけるいろいろな政策を学んだ上で「今後にどのように活かしていくか」ということを考えてもらいたいと思い、過去のいろいろな国の政策と今の参議院選挙を関連づける授業設計をしました。特に歴史は、「暗記をして、問題を解いて」という生徒のイメージが強いです。それももちろん重要ですが、今回の選挙の話、過去の政策の話、そしてそれを考えた上で、現在の政策などを見て、自分でどう思うか。自分がそれに対して賛同できるのか、反対なのか。そのような意見を持ってもらいたいというところを大切に、今回の授業設計をしました。
Q.普段の授業内容は?
インプットは講義中心。アウトプットの場面でアクティブ・ラーニング型を取り入れる
普段はやはり講義ですね。あとは出来るだけ、授業の初めや最後に、実社会と繋がれるようなニュースを取り入れています。今回だったら選挙や、あとは世界情勢の話などを入れています。
この前は、授業でパレスチナ問題の起源ということで、イギリスの三枚舌外交を取り上げました。
そこで今パレスチナで起きている問題と組み合わせて、「歴史的な背景を知った上で、自分たちで解決方法はないかな」「どういうことが必要になってくるのかな」ということを考えました。過去をただ勉強して覚えるだけではなく、それをどのように現代に活かし、つなげていけるか。
過去の事象に関してのインプットは講義で行い、アウトプットはアクティブ・ラーニングを積極的に使って、授業で展開しています。周りの人の意見を聞いて、自分の考えを深めながら実社会で使えるようにしてもらいたい、という大きな意図があり、そのような形で授業を進めています。
Q.アクティブ・ラーニング型授業の割合は?
6割くらいは講義形式で行っています。これに関しては教科の特性もありますので、検討した上で、より良い形でやっていきたいと思います。やはりアクティブ・ラーニング型授業は生徒もやる気がでますし、活発な意見が交わされて、興味関心が引き出されていくようです。そのような特性がありますので、今後も引き続き検討していきたいと思っています。
Q.アクティブ・ラーニング型授業を導入した経緯とは?
公民の授業に取り入れたら、生徒たちが変わった
私が主にアクティブ・ラーニング型の授業を入れたのは、歴史の授業ではありませんでした。どちらかというと公民の授業中心です。我が校は中高一貫で、どちらも担当しているので、中学の公民のところでその手法を多く取り込みました。
公民というのは、自分の考えや意見を出したり、いろいろなものに対して、こういう考えを持っていると伝えたりします。
あとは、プロジェクトベースで取り入れています。一度取り組んだのは、お店を建てる上での立地条件を考察するというものです。少し経済の内容ですが、そのようなところでアクティブ・ラーニングはとても効果的に、楽しく経済が勉強できて、プラスになるということがありました。
それにはいい相乗効果があって、生徒も授業をよく聞くし、楽しく取り組むことができます。あるときは外に出て、参考にコンビニを見に行こうとか、そのようなことも行いました。その時にインタビューも出来ればしています。
すると、やはり次第に興味関心が高まってきて、いわゆる普通の授業や、ペーパーテストにもいい影響が出ているような実感があります。「社会の授業が好き」と言ってくれた生徒が多かったですね。
今年は、公民の授業は担当していませんが、歴史の授業や他の授業にも取り入れています。特に、高校生の受験対応によく取り入れています。「ノートをしっかり取って、大事な用語を全部覚えて」というだけでは、現代と繋げて考えることができなくなります。将来、実社会に出ていく中で、色々な人に自分の意見をしっかりと伝えられるようになってもらいたかったので、出来るだけ多く機会を持てるよう、導入をしています。
この授業を積極的に行ったのは去年からで、少し試しにやってみた、というところです。やってみると、生徒が活発に意見を出してくれたり、授業に対して前向きに発言をしてくれたりするようになりました。あとは、社会というと、板書で説明を聞いていくとどうしても生徒は眠くなってきます。それが少なくなってきたということも、導入するきっかけの1つになったと思います。
Q.最初に試してみた授業内容は?
教科書にあったトピックに取り組んでみたら、手ごたえを感じた
「違いの違い」という授業で、ある議論をさせました。「女性専用車両は、君たちにとってどういうものであるか」 また「男性専用車両はないが、それはどういうことなのか」という議論です。教科書にそのような項目があったので、それをみんなの前で発表させるようにしたら、一生懸命話し合っていました。
その話し合いの中で、「じゃあ、その話の根拠をちょっと探そうね。なんで君はそういう意見を出すの?」と聞いたら、憲法の条文を自ら読んで、「こういう根拠があって僕はこう思うんだ」という平等権などの根拠を拾ってきました。
「覚えろ」と言って教科書を開くのではなくて、自分が「知りたいな」と思って教科書を見だしたんです。そのような経験はモチベーションが違います。そうやって得た知識は忘れないし、自分のものになるということをとても強く感じました。
なので、そこから「これはアクティブ・ラーニング型授業をやるべきだな」と思い、出来るだけ多く取り入れていきました。そういう教科書を自分から見に行き、あとは人に聞きに行く。そのようなことをたくさんやってもらいたいと思い、それが大きなきっかけになりました。
Q.授業を進める上での工夫とは?
グループの組み方、プリントの使い方、実社会とのつながりを作る、うまく割愛する、ビジュアルで見せる
社会にではお互いの意見を言い合って、グループを作っていくので、出来るだけグループを固定しないような工夫をしています。今日も生徒の名前を呼んで、番号を言っていったのですが、あれも出来るだけ同じメンバーにならないようにしています。出来るだけランダムに組み合わせて、色々な子と組めるような仕掛けづくりは行っています。
あとは、プリントを使うように心がけています。今日も授業中に言いましたが、授業は書くことをメインにするのではなく、話し合った中で、あとはそこから自分で情報を得ていくようにしたいと思っています。生徒に対しても、書くことや、人の意見をメモすることだけがメインにならないように、気をつけようねと言っています。
なので、それに対してはプリントを使用したり、書くスペースを決めてあげるということをすると、うまく生徒が話す方向に向かっていくと思います。
それから時事やニュースについては、出来るだけ取り入れていくようにしています。昨日、今日ニュースであったことを話して、それが授業にリンクすると、生徒はとても強く関心を持ちます。「ああ、そういうことなんだな」と理解してくれるし、よく話を聞いてくれます。
なので、実社会と繋がれることが大切です。特に、公民などは繋がりやすいですが、歴史は繋がりにくいので、そういうところがうまくいくと良いかなと思います。
またこれはよく聞かれることですが、受験対応や、指導要領に対してしっかり終えることができるか、試験範囲をきちんと授業で出来るのか、という課題があります。そこは先ほど言ったようにプリントで工夫して、必要なところはしっかりと教えるようにしています。必要ではないと言ったら語弊がありますが、高校生だったら、読めば分かる部分や、「ここはしっかり自分で確認すれば、それで大丈夫だよ」というところは細かく説明せずに、少し割愛する。良い意味で、そういうような形で時間を確保してやっています。
それに伴って使うのがプリントです。今までのように板書を全部写してというと、書く時間がかかってしまうので、その部分は出来るだけ時間をうまく使い、調整できるようにしています。
もう一点は、電子黒板などの設備が揃っているところであれば、ビジュアルで見せるのはとてもインパクトが大きく引き込まれます。いい話のネタになったりしますので、そこでうまくビジュアルや動画を使用しています。生徒はデジタルネイティブの世代なので、やはりそのような方法で訴えかけると進めやすいし、議論が進んでいくというのは強く感じます。
先ほどの授業で、投票マッチングの説明をしたら、さっそく自分のスマホでやって見せてくれた子がいました。そういう体験からは自然と興味が湧くし、「少し政策を見てみよう」とか、「自分の考えはどこの政党に似ているのかな」ということにうまくリンクしていきました。授業のあとに見たことですが、授業と組み合わせられたことはとても良かったと思います。なので、そのあたりを少し工夫すると良い形で出来て、再現も出来るのではないでしょうか。
Q.生徒に変化はありましたか?
社会を好きになってくれる
僕の主観ですが、やはり社会を好きになってくれます。去年、公民を教えていたクラスに、たまたま用があってパソコンと教科書を持って行ったら、「やったあ、先生の授業、今日聞けるの?」と言ってくれたことがありました。その時はとても嬉しかったですね。
授業に興味を持ってくれている、そのように思ってくれるというのは、大きな変化だったと思います。社会は書いて話を聞いて、ちょっとしんどい授業だなと思われがちですが、それが一変したというのは僕の中で大きな変化です。
Q.生徒からの評価は?
先生の授業は楽しいし、聞いていて楽しい
少し手前味噌になるかもしれませんが、「先生の授業は楽しいし、聞いていて楽しいな」というのは言ってくれたりします。そこはありがたいと思いますし、そういう面では生徒もいいと思っていてくれているようです。
Q.アクティブ・ラーニング型授業への考え方を聞かせてください
柔軟に、バランスよく
色々な要素を入れられればいいなと思います。だから、私はこれしかやらないとか、アクティブ・ラーニングはやらないとか、アクティブ・ラーニングだけやる、というわけではありません。私自身も、インプットのための講義は大事だと思います。他方で、アクティブ・ラーニング型の授業もとても大事で、生徒にプラスになることはたくさんあります。なので、言い方は悪いかもしれないですが、いいとこ取りでうまくバランス良くやっていくのがいいのではないでしょうか。
教科の特性もありますが、教科の特性を理由にまったくやらないということはしないほうが良いと思います。楽しいとか、やっていて面白いという生徒の声もありますし、それがさらに勉強に繋がるということも、私自身、体感しています。
少し教員の負担は大きくなるかもしれませんが、やってマイナスになることはありません。やはりプラスになることが多いので、うまく自分でバランスを取りながら、研究をしていきたいと思います。また、それに対して他の先生の意見など、他の人の意見を取り入れてやっていけたらなと思っています。
Q.教員にはどのような負担がかかりますか?
準備自体よりも、発想の転換が難しい
授業準備に関しては、基本的にアクティブ・ラーニング型では、生徒自身がディスカッションしたりしながら話を深めていくものなので、準備はそこまでかかりません。ただ、今まで作ってきた授業をまったく違う形に変えないといけないので、その発想がすごく難しいです。
今回撮影のお話いただいて、このような形で授業を作りましたが、「どのように展開をして、どの単元でどういった内容を入れていくか」ということは、やはり悩みました。
だから、それは先行して色々取り組んでいる先生たちと情報をシェアしながら、出来るといいと思っています。やはりそこは大変なところですね。
今までのように、「プリントをたくさん作って、授業準備をする」というよりは、発想の転換や、新しいものを作っていく上で、極端に言うとノベーションのようなものが必要になります。だから、すごく悩みます。ずっと頭の中でモヤモヤ、モヤモヤすることもあり、その授業をやるときにどうしようかというのはいつも考えますね。
Q.周囲からの評価はどうですか?
良いねという評価が多いが、進度を心配する先生が多い
先生方に授業見学をしてもらい、ウェブ上でアンケートをとっています。その中では、良かったねとか、見て参考になりました、というご意見が多いですね。なかなかすべて書き込めていないというのもあるかもしれませんが。でも工夫してやっていくと、一定の評価というか、良いねという声がとても多いようです。
あとは、今度は先生方と話し合える場があると良いと思っています。そういう場を作っていくと、少し悪い評価や課題などが出てくるので、そこをうまく聞いた上で修正していけるといいと思います。
全体的には、マイナスな話が出てくることは少ないです。やはり一番のマイナス点として出てくるのは進度です。どの教科も、テストまでの期間や大学受験に向けて、ここまでは必ずやらなければいけないという部分があります。それに対して進度はどうなのか、という課題は出てきますので、そこをうまくクリアに出来るといいと思います。
Q.成績や定期考査への影響はどうですか?
点数を伸ばしている生徒はいるが、点数が悪い生徒はいない
一定のものはしっかり講義としてやっています。そして足りないところや、出来るところは自分たちでやってもらうようにしています。私の実感では、成績が極端に下がったということはないですね。どちらかというと、自分たちで興味を持ったことに対して、しっかり勉強しようという意欲が湧いてきていると感じます。
定期考査においても、すごく点数が悪い生徒も出ていません。逆に興味を持って、頑張った生徒が点数を上げてきているというのがここ1,2年でありました。私の実感ですので、大学受験に関してはまだなんとも言えませんが、定期考査においては、そのような実感を持っています。
Q.今後の課題とは?
教員同士を切磋琢磨していきたい。個人としては、ディスカッション以外の型の活用をもっとしていきたい。
色々な先生とコミュニケーションを取りながら、やり方や先ほどの発想の転換のところのシェアをうまくしていくと、良い形で繋がっていくと思います。
本校では、アクティブ・ラーニングを学校の方針として取り入れていこうということで、授業見学会のような形で、そのような授業をする場合には、教員同士でシェアをして、見学できるような制度を取っています。
なので、お互いに切磋琢磨しながら、良い形で続けていけると、学校や教科で1つの形が出来てくるのかなと思います。そのあたりをうまくやっていくといいのですが、なかなか難しいです。
やはり、その手法が大切だと思います。色々な手法がありますが、今回は、基本的にはディスカッションで、話し合いをしました。それ以外に使うのはジグソー法や、あとはプロジェクトベース型など、うまく合う手法を網羅して、授業中に入れるのはなかなか大変です。
今やっている歴史では、ディスカッション型が多くなってしまいます。できれば、プロジェクトベースで調べて発表することも出来ればいいですが、そのあたりのバランスの取り方と、どこの単元でどのように入れていくかが難しいです。
また、私は積極的にやっていますが、他の先生との温度差というのも難しいところはあります。周囲にうまく告知しながら、バランスを考えてやりつつ、他の先生にも伝えてやっていけるといいかなと思っています。
Q.今後の展望を聞かせてください
教師はサポーターとなり生徒の主体的学習をサポートしていく形へ
極論を言ってしまうと、アクティブ・ラーニングの手法を取り入れて、これをメインにある程度やっていくのであれば、講義は必要最低限にして、あとは自分たちで深めていく。そのような授業体系が出来るといいと思います。
やはり、勉強や興味のあることをやっていくのなら、自分でやって、分からなければ聞く。教員はそのサポーター役になっていけるといいと思います。授業においても、教えるのではなくて、生徒たちが自分からやっていくなかでサポートしていく。将来的にそのような形になっていくといいですね。
先ほどの話にもありましたが、必要なことに対して、自分たちで調べて、お互いに話し合って、解決をしていく。その中で、「ちょっと先生、困ったから教えて」とか、「ちょっと手助けしてくれ」ということに対して、「こうしたほうがいいよ」とか、「こうしなさい」という言い方は駄目ですね。「こうしてみたらどう?」というように、そういった形でコミュニケーションがとれるといいと思います。
)
今日は、少し政治的な話が入ったので、難しいところですね。選挙権が18歳に引き下げられ、教育現場には政治的中立が必要と言われています。それに対して、私たちが色々言ってしまうことは問題なので、そういったのも含めたうえで、生徒の中で話が出てきて、その中でディスカッションをしてもらえると、色々な意味でいいと思います。
生徒たちが自ら学べば、それで済むということもあると思います。「こういう意見が出ているんだけど、教えて」と言われたら、「それはこういうことだよ」と言います。それは生徒から聞かれたことなので、一方的に教えるということではなく、政治的な中立は保たれると思います。そのような意味でも、アクティブ・ラーニングというのはとてもいい手法です。自分たちでやるということで、そういうところもうまく守られると言いますか、良い形で進むのではないかと思っています。
※竹内先生の世界史の授業は、学校導入版で視聴できます
学校導入版の詳細はこちらをご覧ください...
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