概要
生徒が前に立って教師の代わりに説明する高校英語
岡山学芸館清秀中学校高等部 青木俊道先生の英語授業です。
「自分が予習していないところが当たりませんように…!」
一斉型の授業では、 そんな風に息をひそめて授業を受けている生徒もやっぱりいると思う、と青木先生はいいます。
しかし、この授業スタイルを取り入れるようになってからは、全員が予習をしてくるようになり、さらに、聞く姿勢も変わってきたそうです。
青木先生の授業では、 それぞれが予習してきた内容について まず生徒が前に立って説明をします。
まるで教師のように堂々と解説をする生徒たちですが、はじめの頃は今のように教えることはできなかったそうです。
どのようにして、生徒たちは教えることができるようになっていったのでしょうか。
そして、青木先生ご自身も、この授業を通じて あることを生徒から教わったそうです。
インタビューでは授業の背景にある青木先生の考え方と 生徒の変化についてもじっくりとお伺いしています。
ぜひご覧ください。
Q.これからを生きる生徒が英語を学ぶ意味は?
青木俊道先生(以下、青木) 英語を使う機会は純粋に増えると思っています。外に出て行く人も多くいますし、逆に日本にたくさんの人が入ってくる時にも、英語はコミュニケーションツールとして必要だと思います。
Q.英語を学ぶ醍醐味は?
青木 高校生はまず英語が分かるということに、喜びや成長を感じてもらえればいいなと思っています。英語は4技能、リーディング以外にスピーキング、ライティング、リスニングがありますが、担当しているリーディングにフォーカスした場合は、読んでしっかり理解出来るという納得感を50分授業の中でしっかり得て終われたらいいと思っています。
Q.先生が思う英語の楽しさは?
青木 もちろん、ネイティブスピーカーに自分の英語が通じた時の興奮は代えがたいものがあります。また、授業の中で英語をしっかりインプットできて、分かったときですね。その指標として、今の教材のように問題が必ずついているもので、正しく解答することが必要になります。
Q.今日の授業で最も生徒たちに学び取って欲しかったことは?
青木 予習で自分が考えた答えのプロセスを発表してもらいますが、その後に付け加える僕の解説のプロセスとのギャップですね。どこまで出来ていて、どこが足りないのかというところが一番感じてほしいところです。
今日の題材に関しては、僕が説明することはかなり少なく、こちらから説明しなくても生徒の方がよく分かっている、ということを知れてよかったです。
Q.生徒にさせている準備は?
青木 テキストの英文を読んできて、問題のあるものは解いてくるという予習までが宿題です。そこでアクティブ・ラーニングのような対話形式を実施して効果があるなと思うことが1つあります。
一斉講義型ですと、「自分がやっていないところを当てられないようこの50分過ぎてくれたらいいなぁ」と過ごしている子もいると思いますが、対話形式の授業では教室にいる生徒と相談しないといけないので、予習をしてこないと友達に負担がかかってしまう。そういう意味でのプレッシャーが彼らにはあるのだと思います。なので、予習はだいたいしてきますね。
Q.生徒たちを学びに惹きつけるための創意工夫は?
青木 一つは、足りてないことを感じてもらう。「もうこれで、自分は十分だぞ」と思うと、それ以降の学びや予習復習もしなくなると思います。やはり、「ああ、まだまだだな」と気づいてもらうということが大事です。
ただ、手が出ないであったり、もう届かないぐらい「自分は全然ダメだ」と心を折られるのもよくないので、そこのバランスが一番大切です。お腹いっぱいの状態で満足している子は、次に何かを求めようと思わないので、僕はいつも乾いた状態というか、空腹感を作りたいと思っています。
「まだまだもっと欲しいな」と思ってもらうために、空腹感や枯渇感を感じてもらうのが一番大事ですが、今日の授業だけでそれを感じてもらうことは正直難しいので、例えば色んなテストを実施したりしています。
校内の試験もそうですが、大きな校外の模擬試験を通じて、自分がどこまで勝負できるのかと定期的に実感できる機会があります。彼らはそういった場に参加することで「まだ足りないなぁ」と感じてくれていると思います。
また、題材やテキストについても、それらを選んでいる意味は所々で伝えています。「今の時期の皆さんだったらこういうレベルをやろう」という、その教材の意義を伝え、授業に臨んでいます。そうすることで「自分はこの教材、この素材をしっかりマスターしないといけないんだな」という認識を持って、クラスに臨んでくれている子が多いと思います。
Q.生徒に枯渇感・空腹感を与えることで起きてほしい変化は?
青木 一つは、予習ですよね。教室に50分座っていたら賢くなる。そうしたいですけども、座っているだけですべて身につくのであれば、全員同じように成績が上がると思います。
やはりそうではない部分での努力を、どれだけ出来るかが最終的に大きな要因になるので、教室外での学びが見える一つの形が予習だと思っています。そこをきちっと毎回やってくることは、彼らに求めたいことです。今は、やってきてくれているので、非常にありがたいです。
Q.今の授業に至るまでにどのような試行錯誤をされましたか?
青木 正直、今日のスタイルばかりでやっているのではありません。生徒が前に立って教師の代わりに説明をするという、今に至るまでのプロセスには、それを見せる、それを聞かせるというのがまずあるので、「じゃあ、やってみようか」と言ってやろうとしてもやはり最初はできないです。
最初は話していても、どこを向いてやっているのか分からない、一人でブツブツしゃべっているようなところからのスタートでした。それがだんだん経験を重ねていくうちに、慣れていきました。
生徒も実際にやれば、今度、僕が授業をするときにも見方が変わってくるので、その相乗効果で少しずつ上手になってきたなというところですね。最初はもう、言葉で表すとグダグダな雰囲気はありました。
Q.今の形式に至るまでの期間は?
青木 あの形式は、この秋からです。4月初め頃は基本的に講義型だけでなく、両方あってもいいかなと思っていました。彼らとの授業があるのは、2ヶ月の間、週3回あるので、合計でだいたい20回弱です。
それをずっとやっているわけではなく、講義型の授業と今の形式でやってもらうのを、ほぼ半分ずつぐらいのペースでやっています。
Q.より良いアクティブ・ラーニングの実現に向けて先生が普段からされている努力は?
青木 講義型、アクティブ・ラーニング型に限らず、素材に対して、生徒が分からないだろう、躓くだろうというところをなるべく見つけ出しておくということです。それを見つけないことには授業が作れないので、まずは授業のカギを見つけ出すことです。
Q.生徒の疑問点を見つけ出すコツや方法は?
青木 教えている子たちはそれぞれに、疑問点が違います。彼らの答案を見たり、話をしたり、授業のなかでも、必ず半分以上は発問して返してもらいます。その感触と過去の経験則で、どこが分かってないか判断します。
Q.生徒との関係づくりに関して
青木 近すぎず遠すぎずというところです。友達のようになってはいけないので、生徒が話を聞いてもらいたい時はしっかり聞くような存在でいないといけません。
ただ、高圧的すぎて発言ができない、授業で聞き出すことができない雰囲気でもいけないので、どの場面でも距離感作りを心がけています。フレンドリーなトピックを授業のスタートに入れる時もあれば、ちょっと厳しい話をする時もあります。
Q.先生の教養の高さや幅広さ、深さが求められると思うのですが
青木 自分が高校生の時に知りたかったこと、「こういうことを知っていたら良かったな」ということは、なるべく伝えたいと思います。
社会に出てから気づくよりも、いま知っていたほうが良いだろうことを話せるよう、常日頃、情報収集するようにしています。
Q.いい情報収集の方法は?
青木 大学進学を目指している子たちのクラスを担当しているので、関心が高いのはやはり大学に行ってからの話です。今は大学も色々変わっていますので、彼らはそういうトピックに興味を持ちます。
旬なところでいくと、18歳に参政権が出来たので、選挙の話もやはり興味を引きました。彼らが興味あるだろうことに関しては、掘り下げて、知らないことを提供できるようにしています。
Q.生徒たちの学びの姿のうち「もっとも意味のある変化」は?
青木 一番は、「私が話す時の聞く姿勢も変わった」というところだと思います。それまでは「教えてもらうのが当たり前」といった感じで座って、50分過ごしていました。いざ自分が教えてみると「ああ、こんなに伝わらないものなんだなぁ」とか「実は難しいことをやってくれているんだ」と気づいてもらえたのかなぁと。
どんな経験でもやってみてその人の凄さが分かり、そこからさらに興味が湧くということがあります。全員を教師に育成するわけではないのですが、英語の授業に関しても、彼らに体験してもらうことによって、より学びの意欲が湧くと思います。
Q.その先に臨む変化は?
青木 今の教育制度の中で、大学入試というものがあって、そこで英語の試験が必ずあるということは避けられません。やはりそこをクリアしてもらうことは、求められているミッションの一つだと思います。
その先の社会に出て、英語が使えるようにというのもありつつ、もっと直前にあるペーパーテストとかを、クリアできるような力は身につけてもらいたいです。
やはり最終的に、どんな問題でも作った人の意図が読めれば、答えが見つけられます。そういう意味でも、「出題者の意図を読めるようになってほしい」というのは、今の授業において一つのゴールです。
Q.アクティブ・ラーニングを通じて生徒たちに教えられたことは?
青木 最初は全然できなかったことが、みるみるうちにできるようになっていく、その成長度合いというのは、やはり目を見張るものがあります。その吸収力の高さには、教えられるというか、「可能性に蓋をしてはいけない」と思います。
あとは、普段から講義型でも生徒の意見は聞きますが、実際にやってもらうことで、分かってないことも非常に明確になります。講義型とは違うこと、彼らができることも、できない部分も明確に知ることができたと思います。
Q.「基礎学力が高くなければアクティブ・ラーニングはできない」という意見をどうお考えでしょうか?
青木 教科特性にもよるかもしれませんが、ある程度は必要だと思います。英語という教科において、単語を知らないと予習が出来ないので、今の僕のしているスタイルには参加しにくくなります。
その場合は、形式を変えないといけないということになります。それぞれの足りない基礎学力に応じたアクティブ・ラーニングは可能だと思いますが、学力層が非常に分かれていると、難しいと思います。どうしても、成績上位者が発言力を持ち、苦手な子は「ああ、そうなんだ」と受け入れる形になりがちかなと。
Q.「教科書をこなすので精一杯でアクティブ・ラーニングをやる余裕がない」という意見をどうお考えでしょうか?
青木 教科書を使って何を教えるかというところの解釈が、高等学校の教育の中で、ある程度、教員に任されている部分もあると思っています。今、英語は分かりやすくて、いわゆる国際基準、「CEFR(セファール)」でB2までというのがあります。
分かりやすいですが、やはりどこまで教えればいいのかというのは、教科書ではなく教員が、相手を見て決めることだと思うので、教科書の使い方次第なのかなぁと。それはアクティブ型であっても講義型であっても、変わらないと思います。
Q.「要領の良い生徒が主導権を握り、他の生徒の学びが深まらない」という意見をどうお考えでしょうか?
青木 そういうことが起こった時には、「その形式はちょっと変えないといけない」というシグナルだと思います。グループ分けを変えるなり、役割分担を教師側が指示して、それぞれに役割を与えられるような活動に変えるなり、そのままではいけないと思います。
Q.「アクティブ・ラーニングで入試に対応できるのか?」という意見をどうお考えでしょうか?
青木 そういう意見はもちろんあると思います。僕自身思っている部分はありますが、先ほども言ったように、彼らが活動することがゴールではありません。
活動したその経験の後、より他の人に対する興味関心が湧くので、学びの意欲が湧けば、自分で学習していけるということに繋がっていきます。今の考えとしては、決して違う方向に向いているものではないのかなと思います。
生徒だけが発言するのは正直難しいと思います。やはり、高いレベルが求められているなら「どこまで求められているのか」と伝えるメンターは必要なので、それを吸収する素地作りにアクティブ・ラーニングがあると思っています。
最終的にはどこから学んでもいいと思っています。学校の授業から学んでもいいですし、自分で見つけた問題集でもいいですし、それこそ目指すところがあるなら、その大学の問題を見てもいい。
それを吸収する上で「自分に何が必要なのか、何が足りないのか」と気付ける子になってほしいと思った時に、アクティブ・ラーニングというのは、非常に気付きの多い活動だと思います。そういう経験を踏むことによって、自分の足りないところ、どうしたらいいのかというところを学んでいけばいいと思っています。
Q.もっとこんな挑戦をしていきたいという野望はありますか?
青木 今日の授業はもっとスムーズに行けば、スピーキングのほうに進む予定でした。リーディングで英文を読んで解釈して、正しく読めていたか確認をしましたが、その後、自分の意見を英文で書いて、ペアでの発表と繋げていけると思います。
ありがたいことに数年後、英語の入試制度が4技能を問う形に変わっていきます。やはり生徒も、話せて当たり前という意識があるので、授業の中でも、自分の意見を書いて発表することはやっていこうと。
今、リーディングのテキストを使って、ライティング、スピーキングも出来るかなと思っています。メインはリーディングですが、慣れていけば最後の時間でそういう活動もできるようになると思います。
Q.アクティブ・ラーニングを始めようとしている先生に一言
青木 僕も最初は、いきなり50分やるのは勇気が要りました。僕は授業の中で、一部分だけ相談させ、反応を見るというのをしばらく続け、少しずつアクティブ・ラーニングの要素を入れたので、生徒もだんだん慣れていきました。
いきなりやろうとすると、生徒が戸惑います。それで躊躇してしまうのはもったいないので、僕の場合は少しずつ要素を取り入れ、お互いに共通理解を得ながら進めていけたのが良かったかなと思っています。手探りですが、そういう形も一つかなと思います。...
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