概要
学ぶことにどんな価値があるのかを知ると、学生は勝手に学ぶものだ、と内藤先生はおっしゃいます。
学んだ知識を使って、具体的な社会問題を解決するゼミ活動をご紹介します。
Active Learning Online (ALO) について
Active Learning Onlineは、文部科学省の大学教育再生加速プログラムテーマI「アクティブ・ラーニング」に採択された全国の9つの大学が、連携して情報や成果の発信を行うポータルサイトです。
採択校である本校の授業動画については、以下からご覧いただけます。
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Q.学びの意味・醍醐味・おもしろさ
内藤 直樹准教授(以下、内藤) 課題発見ゼミナールというのは、基本的にその先生が専門分野にしている内容を通じて、もっと汎用的でアカデミックな知識であるとか、スキルの初歩を身につけるというところに意味があると思っています。
この授業に限りませんが、今年、担当させていただくにあたって考えたことは、大学教員は、どういう人間を生産しているのかということを考えると、研究者を育てているわけではないのだろうと思います。
今、大学の先生になっている人たちのほとんどは、大学院を出て、研究人生を送ってきたと思いますが、学生に教育を施している場、特に学部などは研究者養成機関ではないので、色々な形で社会に出ていく人材を育てています。
そんな社会人を育てるにあたって、自分が教えることで何が役に立つだろうということを、考える必要があるのではないかと思いました。
今年の課題発見ゼミナールのガイダンスの時もそうですが、多くの先生は、研究者養成モデルのような形で、ご自身が学んでこられたことを、そのまま教えていらっしゃる傾向が強いように思いました。ただ私の場合は、それとは違う考え方で人材を育てていきたいと考えています。
これは学問自体にとっても重要なことだと思いますけど、学問というのは、それ自体が社会的な産物であるので、社会に必要のない学問というのはなくなっていくわけです。必要になると新しい学問が誕生しますし、必要がなくなると消えていくものです。
ですから、もともと、自分が学んでいることや専門を、社会の中にどう位置付いていくのか。どういう立場でやっていけばいいのか、どういう社会に対してこれからインパクトを与えられるのか、ということを考えずに学問をやっている時代ではなくなっていくだろうし、今後特にそうだろうということです。この点で他の先生とは少し違うことを考えているかもしれません。
私は文化人類学が専門なのですが、この学問はわりとフィールドワークに行くことがあります。異文化の社会に行って、その文化や社会の在りようをフィールドワークを通じて明らかにしていく、ということを一番得意としているので、とにかくフィールドワークに行くようにしています。
また、他の先生は、あまりフィールドに出られないことが多いので、差異化も図れるだろうということで、フィールドワーク中心にしました。ただ、フィールドワークというのは、行けばいいというものではなく、何か知りたいことがあって、例えば私などわざわざアフリカまで行ったりするわけですから、そこで知りたいことを設定しないといけません。
そういう点で、今年は鳥獣害対策という課題を設定しました。これを解決する手段も色々あるのですが、たまたま観光というアプローチがいいかなというように考えて、では、観光を通じた鳥獣害対策をする上で何が重要だろうか?というお題を振るわけです。
今回は、まとめているところですが、先行研究などの素材は事前に与えて、枠組みを作ってからフィールドワークに行きました。この授業は、課題発見ゼミナールと名付けられていますけど、その課題とは何かということです。彼らが意識できるということが、すごく大事な事だと思います。
そもそも何が問題であるかという課題が分かるというのは非常に重要で、何が問題かを分かるためには、研究上の枠組み作りが重要だったりするわけです。どういうアプローチで、その問題に対処するのかとか、そもそも何が問題なのか等を決めるためには勉強が必要なので、勉強してくださいということです。
自分で課題を設定したり、発見しない限り、主体的に学ぶということはあり得ないと思います。もちろん、知ること自体が面白いことなので、歴史について学ぶとか、あることについて自分で知識を深めていくことが楽しい方々は、そうすればいいし、僕自身が学ぶ事の楽しさを見いだした時は、この学んだ知識が、その社会の中でどう役に立つかということに見通しが立った時に、面白いなと思えました。
文化人類学とは、そもそも単なる異文化の文化を研究する学問ですが、例えば、途上国社会の開発をうまく進めていくためには、絶対に欠かせない要素なのです。
人間の価値観が違えばゴールは当然違います。どのように開発をしたらいいかをきちんと考えるためには、異文化社会における彼らの考え方や習慣について知らないといけません。そうした、自分が学ぼうとしていることの、ある種の社会的な意義の見通しが立つことが、学生にとってのモチベーションにつながるだろうと強く思いました。
うちは総合科学部なので、それさえ分かると、あとは知識やスキルは道具みたいなものなので、必要なものを必要に応じて揃えてもらって勉強してもらうことが、学部の趣旨にも合っているだろうと思いますし、課題を発見し、学問は何の役に立つのかという実感を持って欲しいなというところです。
フィールドワークに連れていくことが問題なのではなくて、フィールドで起こっていることをどう切り取るかということが問題なわけです。特に、我々は常にフィールドに生きているわけで、日常生活というのもある種の現場なのですが、そういったフィールドで特定の出来事を切り取るためには、それなりにフレームワークを勉強しなければいけません。
その切り取り方のツールが理論であり、先行研究であり、学説であるので、それを学んだ上でフィールドに行き、それを使えるようになってほしいと思います。「切り取ることが出来る」という実感を得て帰ってくるというのが、初期の一番の醍醐味ではないかと思います。
ですので、フィールドは遠くにあればいいものではなくて、別に近くても全然構いません。また、異文化である必要もないし、とにかく先生方が社会をどのように切り取ることが出来るのかという具体例を示して、彼らがそれを実感できさえすれば、それでいいのではないかと思っています。
Q.今日の授業で最も学生に学び取って欲しかったこと
内藤 「大学で学ぶ」ということです。つまり学知と言うのですが、学知を使って、いかに社会問題の解決に貢献することが出来るのか、学知がどう使えるのかということを学び取って欲しかったです。
日本の大学進学率を考えると、特定のことを勉強したいから行くというわけではなくて、とりあえず大学に行くという感じで入ってくると思っており、本来、大学は来なくてもいいところですが、うちの大学でも、漫然と来ている子が多いです。ただ、ある特定の、役に立ちもしないような種類のことを学ぶところでも、実はやり方によっては役に立っているところがあるわけです。
ですので、「学知が役に立つのだ」ということを身をもって分かっていただきたいというのが、この課題発見ゼミナールでは一番大きいところですし、そうすると身も入るだろうという感じです。
Q.学生たちを学びに惹きつけるために特に創意工夫されたこと
内藤 あまり僕がしゃべっていると飽きるということが第一点と、細かい知識、体系的な知識に関しては、その後の授業でどんどん教えようと思っているので、まず、学知が役に立つという体験をしてもらうために、その使い方を学んでもらいたいです。
なので、自分でやってみるということをしてもらいます。やってみるというのは、大学の外に出るとか、身体を動かすという意味ではなくて、学知を使って考えてみるということです。それをしてもらいたいと思っているので、今日みたいに課題をいつも与えており、そうすると、彼らも寝たり飽きたりはしない傾向にあると思っています。
Q.今日の授業に至るまでの試行錯誤
内藤 基本的に人類学ベースでやってきたので、大きく言うと、同じようなことを着任当初からしているのですが、当初のほうが、もうちょっと重い感じの授業でした。
例えば、調査で体験に行く前に、勉強する量がよりずっと重い感じで、「これもこれもこれもこれも勉強してから行ってください、それをまとめなさい」というようなことをかなりやっていたし、今回みたいな課題発見ゼミナールでもそれをやっていました。
当初は、別立てで走らせているそういった重たい実習、4倍ぐらいの時間と労力を割く授業があるのですが、その付属物みたいな感じで、それにちょっと体験するということをしていました。
そうすると、フィールドとしてはすごくいいし、整理もされているのですが、彼らの中の主体性を発揮する領域がちょっと少ないなという思いがあって、今みたいに、チャラッとした(軽い)感じにしておいて、学生が自分で考えていると思える領域をもっと拡大したほうが、彼らが生き生きするという傾向はあります。
ですので、今回の鳥獣害対策は、本当はわりとハードな課題で、もっと生態学や地域の文化、両親の高齢化など、色んな調査や勉強をして欲しいのですが、あえて観光という枠組みで切っています。
観光は学生自身がかなりやっていることなので、入りやすい入口だろうと思って、観光を切り口にしてチャラく(軽く)しているという感じです。
観光研究というのは、たいがいライトなのですが、みんながやることだから、考える価値があるでしょうということで、あえて少し軽めの課題にして、その代わり、彼らが自発的に考える領域を増やすという変化はあったように思います。
Q.より良い授業のために普段から努力していること
内藤 ネタは常に探していて、この授業の場合は、具体的な社会問題で、なおかつ彼らでもコミットできそうな社会問題を解決するためのほどよい難しさの課題を探すということが重要です。
ほどよく無責任でいられるということを、いつも探しているので、手近な場所がいいだろうと思いながら、県内のお仕事をさせていただく時には、これがちょうどいい課題になるかなということを気にして見ています。とにかくいい感じの無責任具合ということですが、それは責任の範囲が適切な課題という意味です。
無責任だけだとそれはとても良くなくて、「行きました。見ました。良かったです。」というような、こちら側のお膳立て度が高ければ高いほど、彼らの学習効果という点ではあまり意味がないということが多かったものですから。他方で、彼らにはまだスキルがないわけですので、そんな責任を求められても困りますし、程良い責任の所在みたいなものを探そうとしています。
Q.AL型授業をするにあたり欠かすことのできない準備
内藤 実はそんなにないと思います。僕はたまたま、例えば、お金も時間もたまたま多少余裕があるのでこういうことをやっていますけれども、もし、お金も時間も余裕がなければ、教室内でやってもいいと思います。
ちゃんと社会問題を提示して、ケースを映像か何かで見せたりして、学生さんに「どうしたらいいですか?」というように考えさせるということでも、全然かまわないと思います。
要するに、外に行くことがゴールではなく、学知をどうやって使いこなして、何をするのかということを学生が考えられることがゴールだと思います。お膳立てしすぎると、外に行くことは必ずしもゴールを達成するときに役に立たない場合もあるわけです。
ですので、要するに、目的は何なのかということを明確にするとことです。その学知をどうやって活かしていくかということを学生に体得して欲しいということが目的なので、別に教室内でやってもかまわないと思います。気に付けている点はそこです。
Q.AL型授業を取り組むにあたりこれからも大事にしていきたいこと
内藤 僕の場合は、講義科目とそうじゃない科目では、けっこうメリハリを付けてやっていて、講義科目はもちろん、面白い映像とかを出したりするようにしていますけど、講義は講義です。
実習系のアクティブ・ラーニングと言われていますけど、最初からそっちはそっちで持っていて、講義は講義でやっています。それは、やはり勉強しないで調査に行っても何の意味もないので、そこはきちんと勉強はしてもらいますという感じでやっています。
Q.AL型授業を通じて学生たちに教えられたこと
内藤 僕もここの大学と同じような偏差値の地方国立大学の出身ですが、別に、文化人類学がやりたいから大学に来たわけでもなく、とりあえず行きましたみたいな感じで、面白くもないし、単に教養科目をこなしていたのですが、2年生になって実習の授業があった際、人類学的な調査の考え方と実際に調査に行くということをやってみると、その時初めてこれはとても面白いと思えたな、ということを思い出しました。
そうなると、誰に言われずとも自分で勉強するようになるわけです。人間というのは、興味を持つと勝手に面白いことをやるので、私の場合、大学院はもう一度別のところに行って今に至るというわけです。
そういうことがあるので、けっこうその経験が重要だなということで、主体的に学ぶことにどういう価値があるのかということを学生さんが知ると、勝手に学ぶよねというのが、自分の経験から得たことです。やれやれと言ってもやらないですし、僕もやらなかったのでそこが重要だなと思います。
1年生の初期にアクティブ・ラーニングを入れるというのは、そういう経験を通じて、大学で学問を勉強するのにこういう意味があるのだ、ということを少し理解してもらえると、より多くの時間を、主体的に、意欲的に学べるのではないかなと思って、そこは期待しています。それは、最近思ったことです。
Q.基礎学力が高くなければAL型授業はできないのか
内藤 うちの大学の偏差値は47.5ぐらいですけど、要するに、やる気がない人にやる気を出してもらうというところが主眼だと思っています。もちろん、すでにモチベーションがしっかりしている人たちに、実践の場で、もっと勉強してもらうという狙いもありますけど、そっちのモデルだと、確かに基礎学力が低いと使えないですよね。
例えば、元々アクティブ・ラーニングというか、サービス・ラーニングと言われているものは、医学系薬学系がかなり早い時期からやっていたと思います。看護の実習とか、インターンとか、それから教員の実習とか、あれをやろうと思ったら、それは勉強してないときっとお話にならないでしょう。そのモデルでおっしゃっているのではないかなと思います。
しかし、いま言っているのは、モチベーションがない種類の人間に対して、大学で学ぶということは、こういう意味があり、こういうことが面白いんですよということを知ってもらうということなので、むしろ基礎学力がない人間にこそ必要なものでしょうというところだと思います。
Q.全国の先生方へメッセージ
内藤 この間、アクティブ・ラーニングのやり方を教えてくださいと言われたのですが、どこかに調査に行かないといけないのではないかとか、サービス・ラーニングをしないといけないのではないかと皆さん思っていらっしゃいますけど、別にそういうことではないと思います。
先生方が教えていらっしゃる教科を使って、社会に出た時にどう役に立つのか、何が出来るのかという具体例を示して、それをやってもらうことで、この知識というのはこう使えるんだなということを体得してもらうことが重要なので、座学だったら座学でもかまわないと思います。要するに教室内でもいいと思いますし、大事なことは、頭を使うということです。
主体的に考えていくということが重要なので、別に外に行くとかそういうことが重要なわけではないということです。その辺の誤解が多いと思うので、皆さんそうではなく、持てる範囲でやったらいいのではないでしょうかという感じです。...
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