概要
目標設定とリフレクションでテニスが強くなる!?
アクティブ・ラーニング型の部活で、頭を使って強くなる!中学男子が全国大会出場を決めた聖徳学園中学校高等学校テニス部の練習風景と顧問の小野和彦先生のインタビュー動画を公開中です。
小野先生が着任した当時のテニス部は、部活というよりも趣味のサークル活動のようだったそうです。
自分が来たい時にだけ活動に来て、ボールを打って「楽しかった」と言って帰っていく。
でも、次の日は来ない。
年に1回しか来ない生徒もいました。
「テニスを好きになってほしい」「強くなって、テニスの深い楽しさを知ってほしい」
そのための第一歩として、小野先生はある簡単なルールを決めました。
その後、いくつかのステップを経て、今は、自分で練習メニューを考え、自分で組み立てるという生徒主導の部活動を実施しています。
この活動のポイントは、目標設定とリフレクション。
そして、ペアワーク。
小野先生の決めたルールとは?
練習中の声かけのポイントとは?
ぜひ動画でご覧ください。
Q.部活の指導にアクティブ・ラーニングを取り入れた経緯
小野 和彦先生(以下、小野) 私は前の学校からテニスを教えてきているのですが、前の学校のテニス部は全国大会常連校で、東京都か関東大会では優勝が当たり前な学校でした。その時はやはり、自分が中心になって子どもたちを強くしてあげるという、非常に自分よがりな考え方を持っていたと、この学校に来てから思うようになりました。
その理由は簡単なもので、この学校に赴任してきてテニス部を最初に受け持った時に、言い方は悪いのですが、まるでサークルでした。
とにかく、自分が来たい時に部活に来たり、年に1回しか来なかったりするような子どももいて、適当にボールを打ちながら「楽しかった」「テニス、楽しいよね」と言っても次の日は来ないこともありました。
教員がテニスを教える機会がなかったので、指導に繋がっていくことが全くなかったのです。子どもたちがどうやったらテニスを好きになって、強くなるかと考えた時に、今までの私のやり方ではついてこられないのではないかと思いました。なので、本当にテニスが好きになってもらうために、練習はかなり厳しいかと思うこともありますが、まずはきちんと部活に参加することから指導しました。
そして、「休む時は休んでいいから、必ず連絡しましょう」と、簡単なルールを最初に決めました。そうすることで、ルールを守るのが面倒くさいからという理由で、かなりの子どもが辞めていったのです。
残った子どもたちは一生懸命やる子どもたちだったので、だんだん技術的にもレベルが高くなってくるし、うまくなってきた時に次の段階に入らないといけないと思いました。
次の段階というのは、私が手取り足取り全部教えるのではなくて、自分たちで練習メニューを考えて、自分たちで練習を組み立てるというものです。必要な時は、私がアドバイスを入れるという形が必要かと思って、ティーチングではなく、コーチングのレベルに入るべきではないかと思いました。
かなり上手な子もいたのですが、その子たちの力を伸ばすために、次の段階に入らないといけないと思い、アクティブ・ラーニング型が必要かと思ったのです。
今は練習の始めに、全員アップが終わったところで、「はい。じゃあ、今日の目標、1分間で考えましょう」と言って、考えたら、「じゃあ、誰でもいいから、いつもと違うペアで話をして、それを言ってください」と言います。
お互いに励ましあって、練習をスタートしましょうという形をとり、終わった時に「じゃあ、今日1日はどうでしたか?」と自己判断でいいから、自分のリフレクションをやってもらって、それを生徒同士でもう一回話すという形を始めたのです。
すると今年になって、この学校でテニスをやりたいという子どもたちが数名入学してきました。その子どもたちはテニススクールなどで習っていて、レベルが高い子どもたちでした。中学校時代もテニスをやってきたり、小学校で頑張ってきたりした子どもたちなので、ある程度レベルが高かったです。
今までの昭和の時代ではないですけど、「俺が顧問で、お前たちは俺についてくればいい」という発想ではなくて、「よし、一緒になってうまくなっていこうね」という形にしました。「色々な練習方法をもちろん教えるし、必要だったらアドバイスするから聞いてね」というようにスタンスを変えたことによって、子どもたちは質問したり、話を聞いたりするようになりました。
ボールを打った時、必要に応じて「ねえねえ、今のミスはどうしてミスしたの?考えてみよう」と言うと、子どもは頭を使うようになりました。
それが結果に繋がってきて、今年の中学の大会で本戦に進んだ子どもがいたり、高校生の団体戦では女子も男子も4回戦まで上がれたりするチームになっていきました。
今年は女子部員が非常に増えたのですが、本当にびっくりしたのは、応援に女子生徒が全員来たことや彼女たちがクッキーや食べ物を作ってきて、「先輩がんばってくださいね」という姿でした。今までに見たことがありませんでした。
だから、子どもたちはお互いにライバルだし、切磋琢磨する仲間だけれども、チーム力を上げるための活動に繋がってきているかと思います。今までは男子は男子、女子は女子、中学生は中学生と分けて見る機会が多かったのですが、中高男女を一緒に交ぜて練習するようになったおかげで、お互いのことがよく分かるようになったという違いを生んでいます。
なるべく教えすぎずに、練習の前の最初の時に「じゃあ、今日はこれをやるから、こういうことを考えてね」と言っておき、ミスした時に「ねえねえ、今日は何を意識しようって言ったっけ?」ということを投げかけるだけにしています。
子どもたちは、今日は肩をひねるとか、膝を曲げるとか、そういうことだけでも考えるようになるので、そういう部分でアクティブ・ラーニング型を結構取り入れています。
Q.アクティブ・ラーニング型の指導に慣れていない生徒への対処方法
小野 部活動なので、上級生の高校生から中学校1年生まで一緒にやっていますから、上級生が「こうやってやるんだよ」と示してくれると、下級生や初めてテニスをする子どもたちも割とすんなり入ってきます。
授業でやる場合、男子と女子で隔たりがあったりすることが多いのですが、部活動だとその垣根がとれていて、中学生も高校生も男女も一緒にやっている関係ができています。そういうイメージがない中でも、子どもたちはすーっと参加していけるのではないかと感じています。
Q.高校生の中に中学生を混ぜる意図
小野 テニスは年齢が上だから絶対強くなるスポーツではなくて、中学校1年生だけど、高校2年生に勝つ子どもも結構います。
それを考えた時に、高校生に刺激を与えたいというのもありますが、中学1年生が上級生を見て、色々なことを学んでもらう機会も同時にあったほうが、成長度合いも早いだろうと思っています。
日曜日などは午前中なるべく一緒に練習をして、午後はレベル別にマッチ練習をするとかして、なるべく差をつけるような形をとっています。短い練習の中でなるべく効果的に練習をさせ、良い影響を与えるにはそれが一番良い方法と思っています。
Q.団体種目の場合の指導方法
小野 今まで以上にもっと声をかけることを多くしながら、試合中でも声かけています。例えば、その声をかけた時に普段と同じ状況を作ってあげることで、同じパフォーマンスができると思っています。
試合の時を想定して、練習を作ることは大事だと思うので、サッカーであろうが、野球であろうが、テニスであろうが、基本的には同じかと私は思っています。
Q.生徒がアクティブ・ラーニングに慣れて変化した点
小野 今年は本当にありがたいことに、こういう練習を始めて去年の暮れくらいから、中学3年生と小学校6年生で、うちの学校で練習をしたいと練習会に来る子どもが増えました。
最終的にはこうやって高校へ入学してくる子どもが増えてきたのは、まずそこが1つの理由だと思っています。中学生も高校生もテニスがうまい子どもも、色々な子どもが交ざりながら一緒に切磋琢磨してこようというのが、お互いに良い刺激になっているかというのももう1つの理由です
おかげさまで、今年は都大会の高校生も本戦に進んでいる子どももいますし、中学生も都大会のダブルスでベスト16に入る子どももいました。この間の土曜日は、その全国大会の予選、東京都の私立の大会なのですが、予選を勝ち上がって、初めて全国大会に出場が決まりました。
そのための指導をしていたものも、1つの成果であるかと思っています。ですが、お互いにチームを作る段階で、今までは自分だけ良ければいいという子どもが多かったのですが、人のことに気が付くようになってきたのも感じています。
例えば、周りでゴミやボールが落ちていると拾うという習慣ができることによって、カバーできるものが増えたのかと思うのです。
他人のことや痛みを考えられることが、テニスで強くなる1つのポイントだと思うので、そういうものが身についているのだと思います。
Q.部活を通して学業面に及ぼす変化
小野 面白いことに、テニス部の子どもたちは授業の中でも活発的に活動し、発言をすることが割と多いと思います。
この部活の子どもたちは、今までは人に対するコミュニケーションが苦手な子が多かったのですが、立場の垣根を超えて活動することによって、今までは仲の良い子たちしか集まっていなかったものが、違う子とも一緒にできるようになるのです。
例えば、合宿に行った時に、他のグループの子と組ませてもすぐに行動できています。他にもバスの座席は今までは好きな者で座ってもいいよと言っていたのを、今年はくじ引きにすると、「その中でしゃべらないといけない」と訓練させているので、違和感なく他の子どもたちともコミュニケーションを取れるようになります。
つまり、学校の中でもクラスの垣根を超えて、誰とでもしゃべる機会は多く取れるようになってきたというのは感じています。
Q.テニス初心者の生徒へのアドバイス方法
小野 テニスはとても楽しいスポーツで、老若男女みんなが関係なく出来るスポーツです。なので、「ちょっと身につけて、将来うまくなると、教えてあげられる立場になるから、頑張って練習しようね」と言うと目の色を変えて、必死で練習する子どももいます。そういう声掛けは常にしていますし、入学してすぐにラケット持たせてボール打たせます。球拾いをさせるよりも、とにかくボールと戯れてくれといった感じです。
練習をいっぱいしたければ、こちらが練習を見るし、やりたければ、いくらでも教えるから来なさいと声を掛けます。
Q.目標を決めさせる意図
小野 実は、練習の前に目的を各自考えようという取り組みを始めてからまだ2年くらいです。それまでは、なんとなく、こちらが「今日こういうことを目的にやろうね」と押しつけていたと思うのです。
アクティブ・ラーニングを色々と学ぶ中で、やはり生徒にさせるということをなるべく手放したいと考えるようになりました。こちらがさせるのではなく、自分でこれをしないといけないということを、考えるきっかけを与えたいと思っていました。
教えるよりも、自分たちで考える力を育むような形ができないかと思った時に、自分でまず目標を1つでも立てれば、それに向かって努力して子どもモチベーションが上がるだろうと考え出しました。
そうすることで、練習する時の子どもの意欲の変化が明確に分かったので、それ以降はなるべく全体の場や練習、ミーティングが最初にできる時には取り入れています。
1日の練習がなんとなく始まって終わっていくのは嫌なので、学校の授業も同じなのですが、最初に目標を示し、自分で目標を決めさせたいです。授業の時は、私が勝手に目標を作って、「この3つがあるからね」と伝えるのですが、テニスはそうではなく、子ども自身で「今日はこんなことに気を付けたい」と思わせるようにしています。
みんなそれぞれ目標が違うので、今日の目標が達成できるように頑張れるのではないかと思います。練習が終わった時に、お互いに「頑張ったね」とか、「また頑張ってね」と声を掛けられると、次のモチベーションに繋がるかとも思っています。
そういった声掛けをするために、目標を決めることは1つの動機づけにしています。色々なコートを歩きながら、常に声をかけるようにしています。「今日は何を考えているの?」「今日はこれを考えている?」などといったものです。
例えば、子どもを見ていると、「今日はそういう打ち方をしたいから、こういうことを考えているのだな」というのが分かります。だから、それを聞いて、「今日これ考えているの?」「はい」「じゃあ、ここをこうしたら」というアドバイスをその場で少し入れてあげるようにしています。
ボールを打っていて、首をかしげている子どもがいたら、すぐに行って「今何を考えている?」と聞いた時に「じゃあ、ここをこうすれば良いじゃない?」というアドバイスをしてあげるように、なるべく声掛けはしています。
Q.指導のポイント
小野 私が常に心掛けていることは、全体を見ながら気になったことがあると、その子どものところに行って、話をするということです。
生徒が30人以上いると、みんなそれぞれ悩みが違います。ですが、それを1つにまとめて解決するのではなくて、「君はこうだよね、あなたはこうだよね」と、常に声をかけています。だから同じアドバイスの繰り返しになることも多いのですが、そこで気が付いたことは必ず言ってあげることを意識しています。
Q.保護者からの意見
小野 うちの学校は、運動能力がとても高いという理由で入学する子どもはあまりいないです。テニスもなんとなくやってみたら楽しいかな、かっこいいかなと思って入ってくるようです。
ですが、厳しい練習もしていますし、特に求めていることは、とにかく練習に来られる時はちゃんと来るということです。休む時は、家族旅行でもなんでもかまわないけれど、練習できる時は100%、とにかく努力をしましょうと言っています。
そういうのがやっぱり、ちょっと距離が学校からありますから、嫌だと思う子どももいるかもしれませんが、一度テニスを好きになった子どもたちは、もう絶対にテニスから離れないですね。
夏休みもほとんど休みなく練習をやっていますけれど、毎日来ている子どもがいます。私が毎日練習に来てないと「先生、今日いないの?」と言われてしまうので、私も夏休みはほとんどないです。
でも、毎日こうやって一緒にテニスをやっているのは楽しいですし、子どもたちの成長を日々感じられるので、それは親御さんも同じだと思います。先日もここで行われた試合に来たお母さんが「こんなにうまくなっているのですね」と仰っていました。
高校1年生の女の子は、中学校であまり部活動が活発でない学校から来たので「本当にうまくなっている」と親御さんがびっくりされていて、「本当にありがたい」と言っていただけました。
これは高校から大学、また社会人になっても、人に教えてあげられる技術がつけられるので、おそらく、他の人から感謝された時に、本人もありがたいと思ってくれるのではないかと思ってやっています。
Q.先生からみた現状
小野 まだまだ完成形ではないと思っています。たまたま今回、全国大会に出ていますけれど、常にどこへ行ってもきちんと結果が出せて、恥ずかしくないチームを作りたいと思っています。
荷物の置き方とか、まだまだ指導しなければいけないことはあります。ですが、我々にはきちんと挨拶をしてくれますし、学校でもかなりするようになったと思います。きっと、普段教わっていない先生には素通りしてしまう子どもっているはずです。
でも、どこで見ていても、「テニス部の子どもたちはちゃんとやっているよね」と言われるチームができて、上下関係の中で厳しいこともあるけれども、お互いに助け合える関係ができた時に初めて良い関係が築けると思うのです。
それが、20年30年続いた時に初めて完成形だと思っています。ですので、まだまだ先は長いと思いながらやっています。
※小野先生の部活動は、学校導入版で視聴できます
学校導入版の詳細はこちらをご覧ください...
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