概要
柚洞先生の地域ゼミは、地域の課題を見つけるところから学生たちが行います。
住民との雑談を通じて、「地域としての収入を得るための資源回収活動の回収率を高めたい」という課題を見つけた学生たち。
今回の授業では、なぜ、資源回収が進まないのか、聞き取り調査を実施します。
Active Learning Online (ALO) について
Active Learning Onlineは、文部科学省の大学教育再生加速プログラムテーマI「アクティブ・ラーニング」に採択された全国の9つの大学が、連携して情報や成果の発信を行うポータルサイトです。
採択校である本校の授業動画については、以下からご覧いただけます。
>> 授業動画を見る <<
Q.今日の授業に至るまでの経緯
柚洞 一央先生(以下、柚洞) 私は、去年から地域ゼミを担当しているのですが、学生とやりとりをする中で、指示されることに対するレスポンスは出来ても、彼ら自身が何もない状態から自分で問いを立てたりすることが苦手だなという印象がありました。あとは、知らない人としゃべるというようなコミュニケーション能力に課題を持っているという印象がありましたので、今回のような実践を試しにやっているところです。
Q.普段の授業の方法は?
柚洞 実践型学習のケースが多いです。知識を習得するのも大事ですが、なぜその知識を習得する必要があるのかという本質的なところの理解をしてほしいので、体験することを大事にしたいという思いがあります。なぜ学習をするのか、なぜ知識を得る必要があるのか。それを理解するために、まず実社会を体験してほしいということです。
Q.今までの授業の流れを教えてください
柚洞 この地域ゼミは、授業のテーマとして、様々な人と雑談をして地域課題を探ろうということで行っています。なぜそういうテーマにしたかというと、地域課題をいきなり与え、「これが課題だから、これについて考えよう」ということではなく、何の課題がこの地域にあるのかを、自分自身で探るところからやりたかったんですね。
ですので、15回ある地域ゼミの授業ですが、一番最初の頃は、かなり場当たり的ですが、大学の近くの喫茶店に行き、知らない人と話すことから始めました。誰も知らない喫茶店に飛び込みで入って、カウンターにいたおばちゃんと雑談をするという授業もやりましたし、その後、実際、三丘地区というところに焦点を当てて、まずはうろうろしてみましょうというところから回を重ね、人と話す事に慣れつつ、雑談の中から、地域の課題を見つけていくという方法です。
そして、「こういうことでいま困ってるんですよ。資源回収がなかなか回収率が100%にならなくて」という課題が見えてきたので、では、このテーマに絞って調査をしようということになりました。その後は、毎週、授業の度にこの地域に車で来て、地域の人と雑談をしながら「こういう授業をやっているらしいんですけど、ご存じですか?」と、事前準備なしに、地域住民の人とコミュニケーションを取りながら、どんなアンケート用紙を作ったらいいのかを考える下地を作りました。
今回は、それを踏まえて、学生たちがアンケート用紙を作ってきましたので、それを元に、実際に聞き取り調査をする授業になります。それを踏まえて今後は、そのデータを分析して、出来る範囲でグラフ等を使いながら情報を整理して発表会をやりたいと思っています。
この地域ゼミの取り組みを通して、僕の1つの理想は、授業が終わった後も様々な地域課題が他にもきっとあるはずなので、学生がこの地域に出向いて、地元の方に「この前はどうも、お世話になりました」と言いながら、「それだったら、僕、このへんで協力できますよ」と言って、学生自身が主体的に自主的に、この地域とどんどん絡んでいき、授業の枠を超えて、地域が学生とタッグを組み、なにか新しい課題であったり、新しい取り組みに繋がっていくことが理想です。
本当の意味で、それはきっとお金では変えられない地域作りの良い実践事例になると思いますので、そうなったら、僕は本当にこの授業やっていて良かったなと思います。
Q.授業を始めた思いは?
柚洞 端的に言うと、僕の中に、彼らが大学を出た後に、この混沌とした今の社会の中で、どうにか生きていってほしいという思いがあるんですね。それは学力の問題だけではなくて、何か自分の思い通りにならなくなった時に、自分でその課題を解決して、自力でなんとか歩いていってほしいという思いです。
こういう授業が、果たして大学の授業としてふさわしいかどうかはよく分からないですが、彼らには必要な経験だと思っています。ですので、教えるというよりは気づかせたいですね。彼らに気づいてほしいんですよ。その経験を通して、社会とは何か、自分とは何かということに気づいてほしいと考えています。
Q.苦労したことなど経験談を教えてください
柚洞 元々僕の専門は地理学で、聞き取り調査、フィールドワークを中心にやってきてましたので、フィールドの失敗というのは山のようにいくらでもあります。いきなり取材に行って、説教を受けることもありました。ですので、失敗もあっていいと思うんですね。まずは社会に対して、飛び込んでいくということが大事だと思います。
確かに、学校現場は色んな制約があると思いますが、1つの授業時間を充実させるために、プライベートの時間を使って、どれだけ地域とコミュニケーションを取るかということも、ものすごく大事だと思っています。
今回の実践においても、僕が空いた時間を使って近所のおじちゃんとお酒を飲んだり、様々な人とお茶を飲んだりして雑談をやっているので、ある程度は地域の中で受け入れてもらっているのかなという部分は、正直言ってあります。やっぱり教員という仕事は、日頃から社会との対話の中で、どういう教育をすべきかということを考えるべきだと思いますので、今の学校の現場の先生方はお忙しいとは思いますが、そこは大事にしてほしいかなと思います。
Q.学生の成長を感じる時は?
柚洞 少しずつですが、僕の授業を受けた学生が、ふとした時に、ちょっと成長したなと思う瞬間を感じることがあります。今までは、一言が出なかった学生が、ちょっと積極的になって、一言が言えた瞬間に出会うと、こういう授業やっていて良かったなと感じますね。
Q.学生を見守る時の心境は?
柚洞 学生を調査に行かせる時は、色んなことを考えます。一番最初にこのメンバーを調査に出した時は、やっぱり不安がありました。痛い思いするかもしれないなと心配になりましたが、逆に痛い思いをしてほしいという気持ちもあるので、「いやあ、聞き取りに行ったら、こんなすごい人に出会って、すごい苦情言われて、僕、なんて答えていいか分からなかったんです」というような経験も良い教育の場になり得るので、そういうこともあっていいと思っています。
もちろん、うまく出来るかなという心配はありますが、僕が心配してもしょうがないので、そこはぐっと堪えています。しかし、黙っているという行為は大変で、とてもしんどいところです。いかに黙るか、いかに余計なちょっかいを出さないかというのが、この授業をやっていくうえで、一番つらいところかもしれません。
でも、そこが大事だと思っています。彼らが現場で学ぶためには、僕があまり前面に出てはいけないし、あまり出過ぎると、彼らの貴重な体験の場を奪ってしまうことになりかねません。ただ、言ったほうが自分がほっとするし、安心するので、言いたくなるんですよね。でも、それをやってはいけないと、いつも葛藤をしています。
Q.先生の考えるアクティブ・ラーニングとは?
柚洞 今アクティブ・ラーニングという言葉があちこちで聞かれるようになっていますが、本質的には、目の前にいる子供とどう向き合うかということだと思います。
どうしても、50分という決められた授業の枠の中で、教科書を効果的に教えるかということに重きが置かれる傾向がありますけども、一度原点に戻って、教科書を教えるのではなく、教科書を使って教えてほしいと思っています。もっと言うと、教科書にそんなに引っ張られない授業をやってほしいという思いがありますね。
そもそも論ですが、なぜこの教科が存在しているのか。この教科を通して子供たちに何を伝えたいのかというところの哲学、思想を常に磨く方法論を自分で常に模索し続ける努力にチャレンジして欲しいなと思います。
そのためには、様々な専門家の方以外の人とも、コミュニケーションを取りながら、切磋琢磨しながら、将来の日本を担う子供たちが元気にこの社会で生きていけるような地域や学校の教育力を上げていく必要があると思っています。
Q.高校の先生にメッセージを
柚洞 楽しい授業をやってください。学ぶことは楽しいということを理屈抜きに感じられる授業をもっと増やしてほしいなと思いますね。今の大学生を見ていると、そういう経験があまりないんだろうなと感じます。小中高校で、勉強が面白という体験をあまりしてきてない印象があります。勉強はやらされるもので、なんだか分からないけど、やらされるもの、つまらないものと思っている学生が多いという印象がありますので、ぜひ学ぶことは楽しいなと思わせてほしいですね。それをやってていただくだけで、大学がもっと大学らしい教育を伸び伸びと出来る、そんな下地を作っていただきたいと思います。
Q.学生に身につけてほしい力とは?
柚洞 これから日本の未来の社会で生きていく子供たちに対しての思いは、大きく2つあります。1つは、生きることはすごく楽しいことだと思ってほしいということです。いま若い人たちに元気がないというか、前向きじゃないというか、ものごとに対して悲観的な傾向をすごく感じています。そうではなくて、そんなに悲観することはないし、もっと自由な発想でいくらでも人生を楽しむことができるということを伝えたいという思いが1つあります。
もう1つは、人生を楽しくするためには、色んな人と出会うことです。知り合いがたくさんいること、色んな人と繋がりを持っていることが、絶対に財産になると思っているので、人と仲良くなるためには、この授業でやっているように、いきなり知らない人と話すことで場数を踏んで、意外と知らない人に話しかけても、ちゃんと相手をしてくれて、話を返してくれるんだなということに気づいてほしいという思いがあります。
そこから、きっと知らない人と話すことに対して自信を持つようになると思いますし、もっと色んな人と話してみようと積極的になってほしいんですね。それが出来るようになると、きっともっと日本社会は明るくなると信じています。
逆に言うと、日本の今の社会を変える大きなキーワードは雑談力だと思っています。みんなもっと雑談したらいいですし、気軽に色んな人と話すことで、自然と課題は解決していくのではないかなと思います。
こういったスタイルの授業をやろうと思った1つの大きなきっかけは、最近、学生がすぐに正解を求めてくる傾向があると感じたからです。「先生、この答えって何?」「これって正解は何ですか?教えてください」と言うことに違和感を感じているところがありました。
僕はずっと地理学が専門で、人の語りを中心にヒヤリングすることで研究をしてきました。僕がお世話になった大学の先生の言葉で、「世の中にある情報の99%は、人の頭の中にある」とおっしゃった先生がいて、すごく良い言葉だなと思いました。
今の社会は、確かに、何でも調べようと思ったら、インターネットでなんらかの文字情報が出てきますが、実はもっと深い情報というのは皆さん一人一人の頭の中にあるわけですね。その文字化されていない情報と出会う体験をしてほしいと思っています。色んな人が色んな情報をそれぞれ頭の中に持っていて、色んなことに悩み、そのありのままを共有することで、学生にも色んなことを悩んでほしいと思います。要するに、考えるプロセスの原体験をさせたかったというのが、こういった授業をする1つの大きなきっかけです。...
テキストの続きを読むにはプランのアップグレードが必要です。
さらに表示する