概要
教えたがりだった教師が、なぜアクティブ・ラーニングに目覚めたのか。
解を与えない日本史授業のあり方とは?
「先生の授業、面白かった。でも、学んだものは、ない」
卒業生に言われた言葉。
面白い小話をしていても、生徒に学びは残らないと知った。
「先生の想い、生徒に伝わってないですよ」
授業のあり方を変えてしばらくして生徒に言われた。
独りよがりの授業をしていたと気づいた。
「先生の授業で、いろんなことを学べた。先生が導いてくれたって、今はわかる」
そして今、卒業生からこういわれるようになった。
アクティブ・ラーニングはやり方ではなく、あり方。
自分がいなくても、学び続ける生徒を育てたい。
教えたがりだった杉山比呂之先生が、失敗を繰り返しながらつかんだアクティブ・ラーニングを促す授業とは?
Q.歴史を学ぶ重要性
杉山 比呂之先生(以下、杉山) 日本史という点で言えば、E・H・カーの「過去との対話」ではないですが、過去から現在、そして未来に繋げるというところを軸には僕は授業をやっています。
1つ大きく言うと、覚えるインプットではなくて、言い方は変ですが、彼らが人生で失敗しないように、過去の歴史の失敗からどう今に繋げて、彼らが成功と思うものを繰り返していってもらうか、ということを考えています。
実は、今日のクラスは他大学に進学するクラスなので、最近はあまり実物資料を持ってきていないのですが、(内部進学する)通常クラスは毎回持ってきています。そこから切実さ、クエスチョンを解決した時、分かったという喜びなどを感じられると良いのかなと思います。
Q.生徒たちに学んでほしいこと
杉山 今日は、近現代史と女性史だったので、僕は「日本史を学ぶ」と「日本史で学ぶ」というところを2つ、両翼で言っているのですが、「日本史を学ぶ」という視点であれば、どちらも比較的、彼ら彼女にとっては切実さが持てる分野かなと思っています。
ですから、いかに自分に落とし込むか当事者意識を持って自分でレクチャーを聞き、問題を解いて、最終的に振り返っていくのかというところが、1つあるかなと思います。
Q.意識していること
杉山 今までは、クエスチョンを受けたら、私が自分なりのアンサーを黒板に書いてしまっていましたが、そうすると生徒はそれが絶対解だと思って写してしまいます。
僕は、それぞれが納得解を出してもらって、最終的な答えは一人一人別々でいいと思ったので、振り返りシートに書いてもらったものが、よほど違うものでなければ、こちらも受け入れて、それに対してフィードバックしていくという流れに変えました。
僕は、本質は関わりたがりだし、教えたがりなので、かなり心の中で葛藤はあるのですが、彼らがいかに自立して学ぶかというところを意識してやっています。
Q.AL型を始めたきっかけ
杉山 今アクティブ・ラーニングを促す授業で有名な、同僚の皆川という教員が、最初にAL型授業に変えました。
申し訳ないですが、生徒からも反発があったし、僕が見に行っても訳がわかりませんでした。あれだけきちっとレクチャーされて、チョーク&トークの授業をやっていた先生が、何もしないで生徒たちだけで学習しているのかということに、やはり納得がいかなかったのですが、見ていると生徒の点数や書いてくる文章にどうも効果があるようだと思いました。
そこから、まずはやってみて、1年目、たまたま私が3年間持っていて、初めて卒業生を出したクラスの子たちに、「こういう授業に変えたい。君たち、もしかしたらある意味実験台かもしれないけど、一緒に付き合ってくれないか」とお願いしました。
今から5年前なのですが、最初の4月に付き合ってくれと話しました。
フリーライダーが出たり、「前の授業のほうが面白かった、楽しかった」「先生の話、聞きたい」「なんで、放っておくの?」と言われたり、色々ありました。
でも、意外と結果はそんなに変わりませんでした。そこから、手法ではなく、「僕はこういう力を君たちに身につけさせたい」ということを常に丁寧に話をして、失敗、成功、失敗、成功というようなことを繰り返して、今があるような形です。
Q.心の支えとなったもの
杉山 前の授業だと、生徒が卒業した後や学年が変わってから、「先生の授業が良い」「先生の授業じゃなきゃ嫌だ」、卒業してからも「先生の授業は面白かった」「楽しかった」と言われました。
でも「何を学んだの?」と聞いたら、意外となくて、「いや、先生のこういう小話が面白かった」と言われました。「僕の授業ではなくては学ばない」という生徒を育てたな、ある意味、「先生の授業が良い」というのは悪魔な言葉だなと思いました。
今むしろ、「先生の授業、ちょっときつい」「苦しい」と言われます。でも卒業した子は「いや、なんか学べました」「先生が言っていた、ファシリテーション、コーチングって分かります」と言ってくれるようになって、それが心の支えになってきました。
Q.努力していること
杉山 一番大前提で最初にお話したいのは、やはり専門性です。どんな授業であっても、その教科の専門性がなかったら授業になりません。
あとは、それを見いだし、生徒たちが学びやすい環境を作るために、ファシリテーションの研究会やインプロ、即興演劇に行ったり、コーチングの勉強をしたりしています。あとは異業種の、高校の教員ではない方との交流会に出掛けて、いま何が大事なのかということを勉強しています。
特に歴史の専門性に関しては、変な言い方ですが、自分自身がアクティブ・ラーナーにならないと出来ないので、初めは1周し、グループワークや振り返りシートのような手法に1回走りました
でも1年2年ぐらい1周してみたら、やはり歴史のことを知らないと授業にならないのだなということに気づいて、手法の部分とコンテンツの部分を同時並行で勉強しました。正直まだまだですが、日々勉強しています。
Q.苦労していること
杉山本当は、例えば40人や20人いたら、1人1人に違う課題を出したいですが、今の僕自身の状況では無理です。ですから、ペアワークや対話を必要とする授業、ワークの時に、いかにその40人、20人にとって、簡単でも難しくて何もできないわけでもない、一番彼らにとって学びを促せるようなワークの題材を探せるか、ということに苦労しています。
見つからない時は、いまはSNSが発達していますので、そこで聞きます。そうすると、私よりも専門性の高い、全国の日本史の先生が「面白いもの、あるよ」と言ってくれるので、「そのまま使っていいですか?」と聞いて借りるというのは良いと思います。
Q.手応えを感じる時
杉山 今日も多少あったと思いますが、50分という枠内で終わらないのです。「トイレ行ってもいいよ」「飲み物飲んでもいいよ」と言うのですが、それでもやっています。
「どうぞ、お好きにやってください」という時に、心の中では、「あ、うまくいっているな」と思います。意外と休み時間まで勉強してくれた時や、終わってからその授業や他教科のことを話している様子を見た時に、1つ手応えは感じます。
あとは実は僕、ペアの対話もすごく大事にしています。今アクティブ・ラーニングという言葉をもし定義するのであれば、主体的対話的深い学びと言いますが、僕は、最後は個だと思っています。
個で学ぶというのは、今日もあった8分間のように、まとめを考えさせる何分間かの時の向き合い方です。僕は書き方を規定していないので、色んなまとめが書かれています。あの時、僕はわざとプラプラすることがありますが、結構静寂に学んでいて、いなくても回るのだな、教員がいなくても育つ子を育てたいなと思いました。
それが少しずつ出来てきているかなと思います。
Q.生徒から学んだこと
杉山 私の性格的に、高校生たちにすぐ聞いてしまうので、いつも学期や年間が終わると、私の授業1年間を総括して、ポストイットと模造紙に良いところや悪いところを書いていく、「杉山をディスる会」というのを設けています。
彼らが勝手に名前をつけたのですが、もっとこうしたらいいなどという声を生で聞けます。「先生、こうでしたね。ああでしたね」「いや、僕は実はこういう意図でやっているから」「あ、そうですか。じゃあそれ、ちゃんと説明してください」というように対話します。
普段はアクティブ・ラーニングを取り入れていても、きちっとそこでフラットな関係での対話が出来、色んなことを学びました。
Q.印象に残っている言葉
杉山 今大学1年生の女の子が高2の時、アクティブ・ラーニングを促す授業を始めて3年目ぐらいの時、彼女に授業が終わった後に言われました。
「先生の授業、たぶん役に立つと思います。勉強にもなっています」「でも、全員じゃないって思います」「なんで?」「いや、アクティブ・ラーニングということをやりたいとか、促したいのはよく分かりますが、みんなには伝わっていないですよ。だからそれを、他のみんなに、特に運動部の○○君とか、△△さんとかには、しっかり言ったほうがいいですよ」
そう言われて、翌年からオリエンテーションなどをしっかりやるようになりました。
あと、常に黒板に貼るようにして、かなり意識付け、マインドセットというものを大事にするようにしました。
Q.基礎学力は必要か
杉山 おそらく、アクティブ・ラーニング型授業の定義によって変わると思います。僕は、アクティブ・ラーニング型は分かりやすいと思います。
僕は、アクティブ・ラーニングを“促す”授業と意識して言っています。アクティブ・ラーニングを“促す”のであれば、究極的な話、チョーク&トークでも、一斉授業でも出来ると思っています。
どうしてもアクティブ・ラーニング“型”授業と言うと、グループワークをやらなければいけない、振り返りシートをやらなければいけない、プレゼンをさせなければいけないというように、やり方「Doing」のほうに意識がいってしまいます。
そうではなく、あり方「Being」のほうで、僕たち教員が生徒をアクティブ・ラーニングな状態に促したいと思っています。基礎学力が低い子たちであっても、こういうところはアクティブに学ばせていきたいというのであれば、僕は出来ると思います。
私が以前、いわゆる底辺校で教えていた時に、こういう形ではありませんが、実際に出来るなとは思いました。
Q.授業の範囲について
杉山 それはよく質問を受けます。でも実は、私は毎時間こういう授業をやって、しかも最初に1週間ぐらいは日本史の授業をやらないのですが、最初に範囲が終わります。
オリエンテーションをやり、最後には振り返りの時間も取れるので、どういう形で授業を設計・デザインするのかによって、終わると思います。
どこまでをティーチしたかという定義の話になってくると、また難しいですが、彼らはきちっと学ぶので、しっかり教えられていると思います。
Q.授業のデザインの仕方
杉山 私は非常に細かいので、実は3月ぐらいから4月にかけて、年間の大きな大枠を作ってしまいます。当然それは、予定変更になることもありますが、「1年間こういう授業でこういう流れで、こういうように行きます。予定変更も当然あります」と言って、最初に生徒に出してしまいます。
ある意味、自分にもきちっと目標設定をできますし、生徒と一緒に目標を共有してそれに向かっていけます。
「足りない部分は、こうやってくださいね」と言ったり、私の授業は映像もあるので、「そちらのほうで足りない部分はYoutubeとかの映像を見て補ってください」と言ったりします。
特に歴史の教員は教えたがりで、「自分が勉強したことを教えたい」という気持ちはわかります。でも、彼らがそれに気づいて学んでほしいと思います。
僕たちはたくさん知っておくことは良いことで、例えば今日のこういう机間指導の時に、話したがりの先生であれば、「実はここの裏話だけど」と少しエッセンスを話して盛り上がることも僕は良いと思います。
だから、決して形ではなくて、その先生がしたかったらそうしたとしても、その子がさらに学べれば僕はそれで良いのかなと思います。
Q.ワークについて
杉山 僕の場合は、「日本史で学ぶ」というところに関しては、「対話」というものを1つ軸にしていて、最近は2人から5人くらいのペアやグループにしています。
2学期の後半になってくると言わなくてもいいのですが、最初の頃は、「今日のグループやペアは、こういうことを狙いにしています」ということを言います。
あとはクラスに応じて、例えばあるクラスは4人で役割まで決める、このクラスはおそらくそれをやる必要はない、このクラスは4人だとまだ早いなという場合にはペアで責任持たせるなど、その場その場の生徒の状況を見て変えています。
結局、僕はアクティブ・ラーニングを促す授業を始めてから、それまで以上に生徒のことを見るようになりました。振り返りシートを集めて、この子は今こう悩んでいるのかということなどを知れますし、場合によって、特に女の子はお悩み相談のようになってきます。
授業後の時間に、「では、この子にはこうしよう」「こういう声掛けをしよう」「この子にはどうしようかな」というような、良い意味での悩みが増えました。
Q.入試に対応できるのか
杉山 クラスに応じて変えていますが、他大クラスに対しては少しやはり入試を意識したプリントの作り方をしています。私は正直、始める前は彼らにとって一生に1回の大学受験で実験なんてできないと不安でしたので、そういうことを意識してやりました。
でも、いわゆる模試の結果や、彼ら彼女たちの進路の状況を見ていると、決してマイナスにはなっていないということに気づきました。
本校は母数が少ないのではっきりと言えないのですが、模試の偏差値も、全国・都の平均よりも高くなりました。
聞くと、授業外、一人で勉強しているそうです。教室だと、誰かと話したり僕がいたりするので、どんどん進めていけるし、それ以外のことも出来るので、良いのかなと思っています。
Q.今後の展望
杉山 本当は、彼らが授業をデザインしていって、私は50分その場にいるだけにしたいです。あとは生徒だけではなく保護者や社会人、当然他教科の先生が、教科などを超えて、あくまで学校という1つの箱・機能にいろんな先生が来て、そこで授業をするということをしたいです。
僕は、それをファシリテートしたり、コーディネートしたり、時にはティーチングしたりという、ごちゃ混ぜな状況にしていきたいというのが正直な野望です。
Q2 アクティブ・ラーニングの割合
杉山 生徒がアクティブ・ラーニングを促されている状態というのだとしたら、私の授業が50分なら、最初の生徒のKPの発表は、おそらく彼女がもっともアクティブ・ラーニングな状態になっていると思います。
あと、皆さんに見てもらうと意外とびっくりするのですが、やはりあの8分間ぐらいの静かな場で、1人できちっと落とし込んでいる時が、アクティブ・ラーニングな状態です。
そしてその後に対話をして説明する状態というのが、実は一番、私の中ではクライマックスと言えます。
その後のワークをする対話の時は、もしかしたら意外とやり方重視かもしれませんので、割合でいうとしたら、半分ぐらいが的確かなと思います。
ワークや、KP法でプレゼン、レクチャーなど、最後のリフレクションや振り返りの部分は、対話させたり、私と今みたいに問答したりと、その時の状況に応じて変えています。
Q.メッセージ
杉山 僕は数年前に、アクティブ・ラーニングなんかやめろと先輩の先生に怒られたことがあります。さんざん言われて、ものすごく落ち込んだのですが、そこから悔しくて勉強して頑張るようになったら、いろんな仲間が増えました。
今そう言っている先生も、実はジグソー法で授業していたりして、皆根気よく学校として、チーム教育としてやっていきたいという気持ちが心の中にありますので、是非、一緒に頑張りましょう。...
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