概要
「学びたい」と思える課題設定が肝!
自分たちの住む町の願いを描きプレゼンテーションする国語授業
以前は口下手で、シーンとした反応が多かったという山際先生のクラス。
「先生、どうすればいいですか?」「何をすればいいですか?」と先生に判断をゆだねる場面が多かったそうです。
しかし今は、ペアワークやグループワークでも活発に意見交換をし、全員が課題をクリアするにはどうすればいいのか、主体的に考えられるようになりました。
福島県伊達市立保原小学校では、全クラス、全教員が『学び合い』の授業を実践しています。
教員は授業冒頭に課題を提示し、後は児童の学びを見守ることに徹します。
取材当日の授業のめあては、評論をよみ、「なぜ筆者は10年間のデータをグラフや表にまとめて文章とともに資料として示したのか?」を考えること。
単元目標『自分たちの住む町の願いを描きプレゼンテーションする』に向け、子どもたちが懸命に考え学び合う姿がありました。
「友達が増えた!勉強ができるようになった!」 「70点くらいだったのが、説明する力がついて、今は90点くらいとれるようになった!」
休み時間に子どもたちに話を聞くと、子どもたち自身が、授業を通じて成長を実感しているという実感を持っていることがわかりました。
Q.生徒の変化について
山際 政宗先生(以下、山際) あの子たちに出会った頃は、「先生、次はどうすればいいですか?」とか「これ、どうですか?」と、子どもたちのほうから教師側に判断を迫ってくることが多かったです。
でも、この授業のスタイルを通して、次第に「自分たちでなんとかしよう、解決しよう」という気持ちが強くなってきたようです。その中で、「自分たちでもなんとか出来た」、というプラスの経験が繰り返されて、子どもたちの自信にも繋がっているように感じます。
その自信が他の教育活動にも活かされて、あちらこちらで子どもたちの意思や主張が見えるようになってきました。例えば、委員会活動などでも、積極的に自分たちで何とかしよう、主体的に頑張ろう、という姿が見られるようになってきました。そのことが、私は一番大きな変化ではないかと思います。
Q.AL授業を通じて生徒から学んだ事は?
山際 まずは、子どもたちの力に圧倒されました。今まで、「子どもたちはこれくらい出来るかな?」と自分の中で無意識に線引きをしていたようです。でも実際には、子どもたちはそれを簡単に超えてしまいます。
しかも、それは一人だけじゃない。子どもたちも「みんなでやると、これだけの大きな力になる」ということを自分たち自身で実感しているので、そういった感覚が子どもたちの自信にも繋がっています。私自身も、子どもたちの様子を見る時間が長くなった分、じっくりと一人一人の様子を見ることが出来るようになりました。
その結果、今まで見逃していた子どもたちの鋭い呟きであったり、的を射た意見であったり、「へえ、そういう考え方をするんだ」という新しい発見を、本当に毎日見つけられるようになりました。
私自身も「ああ、子どもたちはそういう言葉を使って話をしているんだ」とか、「そう声を掛ければ、こんなふうに答えてくれるんだ」というリアルな感覚を子どもたちから学びましたし、教師の立場で子どもたちに言葉を掛ける時にも活かされていると思います。
子どもたちの力はとても多様で、その多様さに触れていくうちに、コミュニケーションの大切さも改めて感じました。子どもたちには自分が授業の中で得たものを返していきながら、お互い一緒になって高めていければいいと思っています。
Q.学び取ってほしかった事は?
山際 この単元には、プレゼンテーションをするという大きな狙いがあります。そのプレゼンテーションに向けて子どもたちにはまず、教材文を活かし一つ一つ学び取りながら、自分たちのプレゼンテーションに活かしていこう、ということを投げかけました。
今回は、表とグラフの意図的な使い方がポイントになっていますので、それらをいかに効果的に筆者が使っているか、ということを子どもたちにも考えさせました。その上で自分たちのプレゼンテーションにどう活かしていくか、ということを子どもたちに伝えながら学習をしたところです。
Q.国語を学ぶ意味とは?
山際 これから子どもたちが生きる社会では、今まで以上に多様な考え方の中で、自分の気持ちを表現していかなければならなくなるでしょう。そして、様々な考え方を持つ人たちと関わりながら、繋がっていきながら、自分の力を発揮していかなくてはけない世の中になるのではないかと考えています。
どの教科ももちろんすべて大切ですが、国語は言葉の学習が基本です。国語は子どもたちが自分を表現していく上で、根幹となる教科になるのではないでしょうか。
子どもたちには授業を通して言葉を自由に操れる、自分の気持ちを自由に表現できる、ということの素晴らしさを味わわせたいですし、色々な考えに出会うことで、「ああ、自分になかった考えだな」、「あの子の考えは素晴らしいな」というような、柔軟性も身につけていってほしい。そのような経験ができる素晴らしい教科ではないかと思っています。
Q.国語を学ぶ醍醐味とは?
山際 国語では、読書でも他の人の意見を聞くときでも、自分が感じたことをそのまま受け止めて表現するだけでは、ちょっと物足りないかもしれませんね。
相手がどのように考えているかということを想像しながら、自分の気持ちに折り合いをつけていくことが必要な場合もあります。時には、「それ、どうかな?」なんて批判的に考えたりしていくことで、国語の授業の中で、自分の心を耕していけると思います。
その中でさらに、色々な考えを認められる、という雰囲気を作っていけるといいですね。そうすると自分が何を言っても、みんなが認めてくれると思えるし、また誰の意見でも、それが認められるように寄り添っていくことができるようになっていく。
そのように全ての考えが、「良いね!」「それ良いね!」って認められるようになる、そんな心のトレーニングができるのが、国語科の良さではないでしょうか。
Q.どんな創意工夫をしている?
山際 一つ一つの授業ももちろん大事ですが、授業を組み立てる時には単元全体を構想して、そこから、一つ一つの授業に取り組むようにしています。
今回は、プレゼンテーションがポイントになる単元でしたので、今日の授業も後々のプレゼンテーションにつながるということを、子どもたちにまず意識づけます。そして、自分たちにとって身近な話題、授業では保原町をテーマに取り上げたことで、子どもたちの興味関心も高まって、学習にも真剣に取り組んでいけたようでした。
また、今回は保護者の方にも、事前に保原町をどう思っているかというアンケートにご協力いただきました。そのアンケートを授業の資料として活用したことで、子どもたちの興味をさらに高めることができたと思います。子どもたちも、自分の親がどんなふうに保原町を思っているのか、ということにとても興味があるようですね。
授業の裏でそういったことを仕掛けながら、単元全体で子どもたちに学びの必然性を伝えていければ良いなと思い授業を進めています。
Q.授業までにどんな試行錯誤をしたか?
山際 うちのクラスでは、人前で話すのが苦手な子が多く、最初は積極的に話す子が少なかったです。また話を聞く姿勢も、無反応でじっとこちらを見つめるような子が多かったです。正直、担任としてちょっと話しづらいところもありましたが、この雰囲気をどうにかしたいという思いがあったので、子どもたちにもお互いの関わりを大切にしていこう、という話をしながら進めていました。
今回の授業のスタイルもそうですが、出来るだけ子どもたち同士の関わる時間を多く確保しています。もちろん学力向上も大切ですが、それと同じくらい人間関係の大切さを子どもたちに伝えていければ良いなと思い、このようなスタイルを取りながら授業を進めています。
Q.普段どのような努力をしているか?
山際 本校は、教員が全クラスで同じ取り組みをしているという強みがあります。困った時には、すぐ近くに相談できる先生方がいらっしゃるので心強いです。
私自身としては、やはり課題設定が大きな課題です。子どもたちが興味関心を持てるようなネタを探すために、普段からニュースや新聞をよく見るようにしています。その中から子どもたちが興味あるものを1つでも探して、授業に活かしていくことは自分では努力しているところです。
Q.絶対に欠かす事のできない準備とは?
山際 先ほどお話したように授業の課題探しも大切ですが、やはり子どもたちに活動を委ねる部分が大きいため、その前までの準備が大事だと思います。
子どもたちが学びたくなるような課題の設定は、自分でも納得できるところまでできていません。そこをうまく見つけて、子どもたちが「よし、頑張るぞ」と自然と学びたくなるような課題をいかに投げかけることができるか。
そして、1つの授業だけではなく、単元全体の中で、子どもたちがしっかりと力を培い、身につけていけるようにすることも大切にしています。1つの授業の中で、いつも全員が学び取れるかというと、そうとは限りません。
たとえ今日できなかったとしても、次の授業では前回の振り返りをするような課題から始めて、前回できなかった子も次の授業に繋げていけるようなフォローをしています。単元が終わった時に、子どもたちにはそれぞれにここまで出来た、という達成感を味わわせたいと思っています。
Q.AL授業は基礎学力が高くないとできない?
山際 私も初めてこのスタイルの授業に切り替えたときは不安でしたが、AL授業が可能だということは子どもたちが証明してくれました。もちろん学力の差があるということは否めませんが、子どもたちは学力に限らず、様々な力を授業の中で発揮しています。
例えば勉強できる子は、自分なりの考えがしっかり出来ているので、自分の目線で考えを語ることが多いですが、苦手な子はなかなか発言することができないこともあります。
でも、今のスタイルでは、「みんなが分かるためにどうすればいい?あなたの力をどう活かせば、この子が分かるようになる?」ということを繰り返し語っています。するとその中で、子どもたちも自分がわかるというだけではなく、「自分の力は、もっとこうすれば周りの子のために活かすことができる」という事に次第に気づき始めるのです。
すると、それぞれに学力の差はあっても、自分の役割のようなものを段々自分でわかるようになってきて、子ども同士の関わりが出来るようになってきます。今まで分からなくて困っていた子も、その中で教えてもらえる機会が増えたり、自分の考えを確かめる機会が増えたりするので、子どもたちの学ぶ意欲は上がっていきます。その意欲が、更に本人の学力アップにも繋がっているようです。
実際、僕のクラスでも国語は苦手、という子もいますが、授業の様子を見ていると、苦手な子でも自分の考えをどんどん伝えていこうと頑張っています。また、それを受け止めてもらえるという安心感も、子どもたちには大きな助けになっているようです。
授業の中ではどんな意見を言っても柔軟に受け止められるので、子どもたち同士の素晴らしさ、お互いの良さを発揮できるとてもよい機会になっているのではないでしょうか。
Q.今後挑戦していきたい野望
山際 今は子どもたちの力を信じて委ねているというスタイルで授業をしていますが、ゆくゆくは授業の中で、僕の代わりになるような子をたくさん育てていきたいです。
例えば、黒板、ホワイトボードの前に出て、「みんな、聞いて。今日の授業の大切なポイントはこんなところだよ」と説明できるような。子どもたちの中での先生のような子をたくさん育てたいですね。
それは、国語の先生であってもいいし、家庭科の先生であってもいいし、社会の先生であってもいい。自分の得意とするところで活躍できるということに対する喜びや、「あ、こんなふうにして自分の力を発揮していけばいいんだな」というやりがいを感じられるといいのではないでしょうか。
そういう経験を持っていると、将来就職をする時や、何か人生の岐路に立った時にも自信を持って自分のセールスポイントをアピールできますし、自分の良さや強みを発揮して頑張ろう、という前向きな姿が見られるのではないかと期待しています。もっともっと、そんな子どもたちを育てていきたいですね。
<全国の先生へエールを>
山際 僕もこういうスタイルで学習をすることに、初めは抵抗がありました。しかし目の前の子どもたちの姿を見ていると、やはりこのスタイルが子どもの力を発揮させる一番の近道だと思います。
子どもたちのためとは思っていても、私たちが必要以上に言葉を掛けてしまうと、実は子どもたちがそこで考えることをストップさせてしまうこともあります。最初は言葉をかけすぎないようにするという、我慢の連続でした。でもその我慢の先に、子どもたちが生き生きと学習している姿が見られていると思うので、私はこのまま、このスタイルで授業を進めていきたいと思います。
※山際先生の国語の授業は、学校導入版で視聴できます
学校導入版の詳細はこちらをご覧ください...
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