概要
企画力がすごい!提案理由が命!?
「なかよし会をしたい」
小学1年生の学級会を公開!松井有沙先生
1年2組の学級会。
司会役の児童が話し合いの開始を宣言して、話し合いがスタートしました。
「これから第13回学級会を始めます。話し合いでは、提案理由が命です。提案理由を意識して、話し合いましょう。」
途切れることなく意見が飛び交い、いい意見だと思うと子どもたちから「いいねー」という声も上がります。
議論が煮詰まったときには、司会役の児童が機転を利かせて、「それじゃあ、1分、隣の人同士で話し合ってみましょう」と、見事にファシリテート!
大人顔負けの議論の運びに、本当にこの子たちは小学校1年生なの?と信じられない気持ちになりました。
いったい、この子たちは何者なのでしょうか?
実は、当校は、東京都八王子市の特別活動の研究指定校であり、文部科学省の研究協力校。
学校全体で、特別活動を軸に学校を改革をしているのです。
今でこそ、子どもたちは生き生きと自分の意見を言い、協力し合って学校生活を送っていますが、清水校長が当校に着任した当時は、「あなたは、自分にいいところがありますか?」 という質問に対して「あります」と答えた児童が18%しかいなかったそうです。
この数字は、東京都内、さらに、全国の学校と比べても、一番低い数値。
学級崩壊。いじめ。保護者からのクレームも多く、この状況を何とかしなければいけないと、清水校長は、特別活動を軸に学校改革をすることを決めました。
そこからどのように、学校は、先生は、子どもたちは変わっていったのでしょうか?
Q.学校と校長先生の紹介
清水 弘美校長先生(以下、清水) 八王子市立弐分方小学校、児童数は403名です。八王子といっても、東京都の一番西の端に近いところにあります。周辺は住宅街ですが、駅からちょっと離れているため、自然豊かな、小動物なども出たりする素朴な環境で、素朴な子どもたちが育っています。私自身は、校長になって5年目です。この近隣に住んでいるので、子どもたちの環境もよく分かりますし、特別活動を専門に学校を作っています。
Q.特別活動の指定校
清水 私がこの学校に赴任したのが平成24年で、25、26年に特別活動というジャンルで八王子市の研究指定校を引き受けています。26年度は同時に、文部科学省の研究協力校となりました。27、28年も引き続き、八王子市の研究指定校と文部科学省の研究協力校をやっています。
Q.アクティブ・ラーニングに取組む理由
清水 アクティブ・ラーニングとは最近出てきた言葉ですが、もともとは主体的、協働的、深い学びといわれるように、子どもが中心になって勉強をするということです。
私がよく使う言葉に、「馬を水場まで連れて行くことはできるけど、水を飲ませることはできない」というものがあります。これが意味するように、子どもがその気にならなかったら、どんなに良い授業をしても子どもの中に入らないのです。
人をその気にさせる方法はいくつかあります。例えば鞭で打つとか、エサで釣るといったことは、子どもをその気にさせる方法としては無理矢理のものです。私の場合は、友達と一緒に伸びる喜びを得ながら勉強することが、教育の原点だと思っています。ですから、アクティブ・ラーニングに取り組んでいるのです。
アクティブ・ラーニングは、特別活動の手法と私は呼んでいます。特別活動は、やはり自分が進んでやる主体的なものです。それから、みんなと一緒にやる協働的なものです。そして、机上の学びではなく、実際にやるものとして教えています。
そうやって、自分の生きていく社会をより良いものにしていく、しかも一人ではなく、みんなでやっていくということを教えるのが特別活動です。だから、特別活動をやることは、そのままアクティブ・ラーニングをやるということなのです。
Q.特別活動の始まり
清水 私が異動してきた時、近隣のいくつかの学校と自尊感情のデータを比べてみました。すると、うちの学校が最も低くなっていました。さらに、東京都や全国と比べても、一番低かったのです。
その時は、「あなたは自分に良いところはありますか?」という質問でしたが、「あります」と答えた子どもが18%しかいませんでした。2割を切っているわけです。「あります」と、きっぱり言い切れる子がいないような学校でした。
当然ながら学級崩壊もあったし、友達同士のいじめもあったし、そうなれば保護者からのクレームもあり、教員もやる気を失ってしまうという状況になっていました。
「鶏が先か、卵が先か」といわれるように、何が原因で、どのような結果が出たのかはお互い様なのだと思います。教員のせいかもしれない、子どものせいかもしれない、保護者のせいかもしれないけれど、その組み合わせなのです。それが現状でした。
これはなんとかしなくてはいけないと、私は校長としてここへ来た時に、「特別活動を軸に学校経営をします」と先生方に宣言しました。そこからのスタートです。
Q.どのような生徒になって欲しいか
清水 本校の教育目標は「役に立つ喜びを知る子」の1本だけです。学校にはどこでも、創立以来の教育目標がありますよね。私が来た年に、うちには3つあったのです。どれも長くて「よく考え、なんとかする子」や「思いやりがあって、優しい子」など、誰に聞いても正確に言える人が一人もいませんでした。
誰も知らないのだったらなくても同じでしょう。だから1本に変え、「役に立つ喜びを知る子」としました。
これは「役に立つことが、自分の居場所を作ることになる」という考え方に基づきます。では、役に立つためにはどうしたらいいかといえば、主体的に動くこと、みんなと一緒に協力すること、そして実際に自分の体で動くことです。それを子どもたちに教え、育てようと思いました。
Q.アクティブ・ラーニングの難しさ
清水 アクティブ・ラーニングと聞いても、どういうものかイメージが掴めない、ということでしょうね。私はアクティブ・ラーニングを特別活動と考えています。特別活動は素晴らしい教育活動ですが、ほとんどの人が知らないのです。
日本人の中で、特別活動の教育を受けたことのない人は一人もいません。それにも関わらず、保護者や地域の人で特別活動という言葉を知っている人はほとんどいません。教員でさえも、特別活動の本当の価値を知る人は少ないのです。
だから、「特別活動をやりますよ」「アクティブ・ラーニングをやりますよ」と言った時に、それがどういうものかを、まず教師や保護者に伝えるのが大変でした。
Q.アクティブ・ラーニングの成果
清水 子どもを見てもらえば分かります。子どもたちが、とても優しくなりました。アクティブ・ラーニングというのは、自分も頑張るのですが、友達と一緒にやっていくことですからね。
そうすると、人のことを認められるようになり、同時に自分も認めてもらえるようになります。人と自分の違いも受け入れられるようになるので、子どもたちが優しくなるのです。そういう点で子どもが変わってきたのが、一番大きな手応えです。
Q.どのようにして学校全体をコントロールするか
清水 最も大事なことは、学校中の価値観を統一することです。教師も保護者も子どもたちも、「役に立つということが一番素晴らしいのだ」と統一するのです。そこへ向かって、うちの教育活動は進んでいます。その方法として特別活動、つまりアクティブ・ラーニングをやっていくわけです。
具体的な方法として、一番力を入れているのは異年齢交流です。これは、私がうちの学校に来てから本格的に始めたものですが、1年生から6年生までを縦割りにした班を作っています。15人ぐらいを1つの班にするので、各学年から2人か3人が入ります。それが全部で30班あります。
ここまではどこの学校にもありますが、うちは6年間、そのチームを変えません。例えば、1年生で「あなたは縦割り班の15班ですよ」と言われたら、卒業する時も15班なのです。6年生が抜ければ、1年生が新しく入ってくる形になります。
そうすると、一緒に成長していく仲間がいて、兄弟のような関係が生まれます。成長するごとに立場も変わってきて、誰もが通る立場をクリアして6年生になるのです。そのことが、やはり子どもたちを育てますね。私たちは、特に6年生に力を入れて育てています。6年生が良ければ学校は安定するから、下級生みんなの見本になる6年生を作っているのです。
Q.実践していること
清水 水曜日の朝に15分間、班の子どもたちが一緒に遊びます。これは毎週やっていることです。他には、1年生から6年生まで集まって、話し合い活動をやっています。子どもたちの発達段階は全然違い、もう私より背が高い6年生もいれば、まだ赤ちゃんみたいな1年生もいますが、みんなで話し合いをするのです。
例えば「今度、何をして遊ぶか決めようよ」といったことを自分たちで話し合わせます。そうすると、上の学年はしっかりできるでしょう。それを下の学年は見ていますよね。その中で、下の学年の言葉が足りないところを上の学年がフォローし、「こういうことだよね」と言って気持ちを汲みながら、みんなで集団決定していくのです。
学校の色々な行事でも同様です。運動会や全校遠足、展覧会といったものすべてを、縦割り班をベースにやらせています。だから、6年生がとても育ちます。
同じ学年だけだと、1年生から6年生まで同じメンバーで上がっていきます。しかし、3月生まれの子などは発達が遅く、3年生ぐらいまでは割と身体も小さいのですよ。
一方、4月・5月生まれの子はリーダー格になり、そのまま6年生まで上がっていくわけです。そうすると、本来の能力とは関係なく、環境によって「おミソとして育てられる子」「リーダーとして育てられる子」が出てきてしまいます。
ところが、異年齢の班になると、6年生の教室の中ではいつも人の後ろにくっついていくような子も、自分がリーダーにならないといけないという責任を負わされるので、そこで成長するのです。
6年生同士がお互いに「いやあ、大変だよね」と認め合えて、苦労を共有できるから、同じクラスの友達を尊敬し合えるようになります。異年齢交流は、本校の教育活動の軸になっていると思います。
Q.アクティブ・ラーニングの考え方
清水 「アクティブ・ラーニングはどうやるのですか?」とよく聞かれます。アクティブ・ラーニングは方法なので、色々なやり方があります。でも、その方法を考えるより、アクティブ・ラーナーを育ててほしいと思うのです。アクティブ・ラーナーが育てば、何をやっても全部アクティブ・ラーニングになります。
つまり、学校中の教育活動のすべてがアクティブ・ラーニングになるわけです。「主体的にこれを学びたい」と思う子どもばかりになれば、もうアクティブ・ラーニングの方法を考える必要はありません。その方法すらも、子どもが考えるようになります。子ども主体でさまざまなことを作らせていけば自信がつき、とても伸びるのです。
アクティブ・ラーニングについて、「話し合い活動ですか?」「集団での決定ですか?」「どういうワークシートを使えばいいのですか?」などと問われますが、そういうことではないのです。
「みんなで一緒に楽しいことをやるのだ」という経験を山のようにさせて、何かがあったらパッと飛びつく子どもに育てるのです。そういう子どもになれば、自動的に学校中の教育活動がアクティブ・ラーニングになります。
だから、アクティブ・ラーニングにする方法を考えるのではなく、アクティブ・ラーニングをする子どもを育てるように体質改善したほうがいいですね。それが結局、学校中のすべてのトラブルを解消します。学力も上がるし、体力も上がるし、いじめもなくなるし、保護者からの苦情もなくなります。
教員同士の関係も良くなり、自信を持って仕事をするようになります。アクティブ・ラーナーになった子どもたちと一緒に仕事をしている教員は幸せですよ。いつも感動があります。
余談ですが、5年生が参加する連合学芸会という行事があります。八王子市には70校あるのですが、色々な学校から5年生が集まって、「オリンパスホール」という広い会場で合唱と演奏を披露します。
その際、うちの子どもたちだけが、歌いながら泣いてしまうのです。子どもたちは、そこまで練習してきた自分のこと、仲間のことを思って泣いてしまうし、指揮をしている先生も、それを見ながら泣いているのだから、可愛いでしょう? そういう子どもたちになれば、どんな教育活動をやっても、素晴らしいアクティブ・ラーニングができるようになります。
Q.なぜアクティブ・ラーニングの考えに至ったのか?
清水 私は、特別活動の価値を感じるわけですが、これは持って生まれたものという気がします。子どもの頃から、みんなで一緒に楽しいことをするのが大好きだったのです。
そうしていると、自然に色々なことができるようになる、しかもみんな一緒にできるようになるということが分かってきます。自分自身、小学校、中学校、高校、大学、社会に出てからの経験の中で、たぶんアクティブ・ラーニングをしてきたと思うのです。
ただ、私はたまたま、そういう性格に生まれたけれど、そうでない人も大勢います。でも、そんな人たちも、一緒にやればみんな伸びるという経験はしているはずです。私は、せっかく校長になったのだから、「これ以外はありませんよ」という形で職員たちを引っ張っています。とてもわがままな校長ですが、みんなよくついてきてくれていると思います。
Q.アクティブ・ラーニングを浸透させる方法
清水 アクティブ・ラーニングの価値を分かってもらうべきだと思います。
例えば、授業の中でアクティブ・ラーニングを使うとなると、教員が講義形式でバーッと教える授業よりも時間が掛かります。一定の時間の中ですから、教えきれないことがいっぱいあるのです。でも、浅いものを数多く教えても仕方ありません。私は、「一点突破」で一つだけ一生懸命やったらその他のことはいいと言っています。
「ハンカチ文化」というのですが、ハンカチを広げて、真ん中をフッと持ち上げると、周りも一緒に上がるでしょう。そういう形を目指して、アクティブ・ラーニングをやると決めたら、信じてやりきらないとダメですね。何でもそうなので、別に特別活動でなくてもいいのです。国語でも、算数でも、体育でも構いません。それを徹底的にアクティブ・ラーニングでやるのだと決めて、そしてやりきることが大事です。
実は、アクティブ・ラーニングは「この授業をしたら、こういう結果が出る」というものではありません。アクティブ・ラーナーを育てるのと同じように、教育の体質改善なのです。そこのところは、やはり先行例を見て、それを信じて、教員が前向きに勉強するしかないと思います。教員の常識というものを覆していかないと、アクティブ・ラーニングの授業にはならないからです。
「教えなきゃ」と思っているうちは、アクティブ・ラーニングになりません。アクティブ・ラーニングは、教師が教えるのを止めたところからスタートするのです。私は特活(特別活動)脳と言いますが、教師が今までの脳を取り外して、その特活脳をかぶった段階から、アクティブ・ラーニングを作れるようになると思います。
Q.アクティブ・ラーニングはどこまで影響するか
清水 6年生を送る会では、本当に体育館が揺れるほど子どもたちがバンバン泣きます。それだけ人間関係がしっかりできているからです。中学に行った卒業生も母校の運動会を見に来て、本当は入ってはいけないのですが、児童席の自分の班のところへ行って「頑張れよ」などと声を掛けてくれたりします。
そうやって、結局は地域を作っているということです。これから学校は、地域作りの任務まで担っていくと思います。子どもが変われば親が変わるから、そうすると地域も変わるでしょう。地域を良くする最初の発信源が、アクティブ・ラーニングでできたら、こんなに嬉しいことはないですね。...
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