概要
数学で何より大切なのは「言葉」!?
一流企業から教師に転職。
一度学んだら忘れられないと生徒が絶賛する授業とは?
16年間ベネッセコーポレーションで、営業、企画、新規事業開発をしてきた児浦良裕先生は、3年前に高校教師に転職しました。
教員としてどういう役割を果たすべきか?という問いを常に持ちながら、教壇に立っています。
物事をしっかりと言葉にして説明できたり、複雑な事象を図にして整理できたりする思考力は、社会に出て仕事をする中でとても大切。
生徒たちに、数学がビジネスシーンでどう使えるのか、どう役に立つのかを実感させたいという児浦先生は、数学を言語化するということを大切にしています。
・解き方を言葉で説明する
・解いた問題を振り返り、次、同じ問題を間違わないためにどうするか?ポイントを言語化して書きだす
・チームになり、友達と解き方や考え方を教え合う
こうした授業の結果、生徒の成績も向上傾向にあり、20点、30点から70点を超えるようになった生徒もいるそうです。
生徒に話を聞くと、こんな言葉が返ってきました。
「すごい面白い授業だと思います。数学は中1からずっとやってきたんですけど、その中で一番面白い、一番楽しい授業です。チームになって、話し合いとか出来て、忘れない。1回学んだことを忘れたくても忘れられないんですよね。教えてもらったり、逆に教えたりすることで、それで忘れないのかなと思います」
生徒が絶賛する数学授業をぜひご覧ください。
Q.児浦先生の社会人経歴
児浦 良裕先生(以下、児浦) 社会人経歴は19年目になります。16年間はベネッセコーポレーションで営業や企画、新規事業開発などの仕事をしました。特に学校で仕事をすることが多かったので、学校の先生たちとの人脈があり、学校というものがどういうところなのか、外から見ていました。
その中でご縁があって、「学校の教員にならないか」というお声をいただいたので、これは自分にとってチャンスかなと思い、教員に転職しました。今、転職して本校で3年目になります。まだまだ教員としては駆け出しの状況です。
Q.数学に対する思い
児浦 自分自身が教員としてどういう役割を果たすべきか常々考えていますが、自分の場合は「ビジネスのシーンで数学をどう使えるのか」と、意識していました。
僕自身、ビジネスのシーンで、「数学はこんなふうに役に立つんだ」と感じたこともあるので、そういったことをなるべく生徒たちに実感をさせたいですし、大切にしていきたいと思っています。
具体的に言うと、数学というのは、言語と非言語を行ったり来たりするような学問だと思っています。僕はよく生徒たちに、文と式と図を行ったり来たりできないとダメだという意味で「文式図」という言葉を使います。
数学のノートを見ると、式だけをひたすら羅列している生徒がたくさん見受けられます。僕は常に、「それを言葉で言うと、どう表現できるの?」とか、「図に描くとどうなるの?」とかなりしつこく言います。
それは企業で働いていた時に、言葉と式を行ったり来たりすることや、式と図と行ったり来たりすることが、思考力として大切であると非常に強く実感しているからです。数学というのは、変換能力や思考力を育てる、非常に大事な学問であると思っています。
それから、もう1つは問題解決力です。問題解決とは何かと言ったときに、ありきたりではありますが「まずはその状況、現状は何なのかとしっかり整理すること」が大事だと思います。
数学の問題では、今どういう条件が自分に与えられているのか、ということを整理していきます。また、これは世の中の何でも同じだと思いますが、数学も「何を目指して活動するのか」という目標が大切です。
まず何を答えとして出さなければいけないのかという現状とゴールがあります。その時に、自分はどのように解決に導き、道筋を立てていくかが、問題解決のための大切なプロセスです。
数学には、そのプロセスが詰まっています。目指すべきビジョンが1つの解答という、非常にシンプルかつ分かりやすい問題解決なので、そのトレーニングに非常に適していると思い、常々意識させています。
Q.アクティブ・ラーニング型授業を始めた経緯
児浦 そもそもアクティブ・ラーニングという言葉が生まれる前に、先ほども申し上げた「文式図」。すなわち、「これって言葉で言うと何なの?」ということをすごく大事にしていました。生徒たちには「言葉で説明して」とか、グループの中で、「言葉で説明するとどうなるか考えて」という発題は前からしていました。
その中で、今流行のアクティブ・ラーニングが登場したため、体裁を整える機会が増えたと思います。具体的に言うと、今日、黒板に時間短縮に非常に有効な「KP法」という紙を貼っていました。やはり、アクティブ・ラーニングをするためには時間が必要なので、説明する時間を短縮化するためにKP法を使います。
あとは、「グループで活動させたい」と考えました。ただ、グループで活動すると、なかなかうまく回らない、統制が効かないという不安があると思います。私はご覧のとおり、チームポイントというものを導入しています。学期の半期ごとに毎回グループの組み替えをして、1番ポイントを稼いだチームには、成績には含めませんが、表彰をします。
表彰した子には、東大のボールペンをあげたりとか、沖縄のお土産をあげたりします。たいしたことのない、一人100円もいかないようなプレゼントですが、そういったものをもらうと、生徒たちは嬉しいようです。
グループで表彰を目指すという流れができた時に、アクティブ・ラーニングの話が出てきたので、「ああ、これアクティブ・ラーニングなのかな」と、意識するようになりました。
他にもたまに、ジグソー法というものを使うことがあります。ただ私は、毎回同じスタイルの授業が継続して行われるべきだと思っています。毎回イベント型にするのではなく、持続可能なように毎回同じ内容にしていくと生徒たちも自然と数学が楽しくなります。数学の成績が上がるという実感を持たせることが大事だと意識し、授業設計をしています。
Q.授業の設計
児浦 まず、教科書レベルから始め、もう少しハイレベルな章末問題をやります。チャートという少し発展的なレベルの数学の問題集があるため、私は「チャートレベル」と呼んでいます。
さらにその上に、入試基礎レベル、入試標準レベルと、4段階設定をしています。4段階の中で、授業でメインに行うのは教科書レベルとチャートレベルという位置づけをしています。
特に、教科書レベルは、マスターしてないと上の段階に行けませんから、徹底してマスターしてほしいです。そういう意味では授業の中で教え合いもしますが、必ず授業の冒頭に5分間の小テストを行います。
その小テストで、前に扱った教科書レベルの本当に基本的な問題がしっかりできているのか確認し、リベンジシステムという形を取っています。
その時に採点すると、0点の子とか、3点の子もいますが、解答を配らず、どんな手段でも解き直しをして、合っていれば成績に入れます。例えば、0点だった子が解き直しをして10点になったら、10点を成績に入れます。必ず解き直しをして、全てのテストが10点満点という子も何人かいますし、やはりまったくやってこない子もいます。
解き直しをした子は確実に成績が上がっているという手応えがあるため、冒頭5分間の小テストは欠かさずやるというのがルールです。
それから、授業に必要な公式や、問題の解き方の説明は、非常に大切にしています。KP法のような紙芝居を使うパターンもあれば、板書で説明をしていくパターンもありますが、何よりも大切にしているのは、言葉です。
今日の授業でもやりましたが、式の手順に、例えば「①微分をする」、「②f'(x)=0となるxの値を探す」というふうに、今やっている作業は何なのか、必ず言葉で書きます。それを何度も繰り返したあと、②の言葉を空欄にして、「ここ何だっけ?」というふうに答えさせています。授業の中では常々、自分のやっている作業を言語化させ、きちんと説明できる状態にすることを大事にしています。
そのあとは練習問題を解きますが、グループの中で練習問題を解いている時は、例えば「机をくっつけて、教え合いをしろ」とはしていません。自分一人で解きたい人は自分一人で解いてもいいし、教え合いをしたい人はしてもいいし、まずは自分で解いてから、解き終わってから教え合いをしたい人はしてもいいし、自由にしています。
チームの評価には、チームポイントというものを活用しています。チーム内の全員が問題を解き、1番早く終わったチームにはポイントをあげます。およそ1ヶ月半の中でポイントを1番稼いだチームを表彰してあげることで、練習問題に自分から取り組む子がいたりとか、ポイントがほしいから予習をしてくる子がいたりとか、積極的な姿勢になります。
基本的にはそういう流れで進めていきますが、生徒がよく躓くポイントやなかなか定着しにくい公式ついては、どうやればマスターできるのか、付箋に書かせるようにしています。
付箋に書かせたものは、基本的には発表させたり、授業の時に全員分コピーして配ったりしながら、何がポイントなのか、自分なりに言語化させるようにしています。受験の時にとても有効なので、チームごとにノートを作り、付箋を貼らせる授業もあります。
解いた問題に対して、振り返りコメントを書いた付箋を貼ることで、ノートを見れば、チームがどんな問題をどう解いて、どのように失敗したのかを全部見られるような形にしています。あとは定期テストとか、週末課題とか、数学塾という週2回の補習と組み合わせて、授業を設計しています。
Q.今の設計を作るまでの試行錯誤
児浦 まず1年目は、高校2年生を受け持ち、次に高3、今は高2を担当しています。1年目はまったく分からないので、最初に高校2年生を持った時は、プリントも作っていませんでしたし、板書しながら説明をして、問題を解いてもらうオーソドックスなやり方でした。
その時に進むスピードが遅いことが問題だと思いました。それは板書に慣れてないというのもありましたし、何を書いていいか分からないというのもありました。生徒たちがノートをとっている間、机間巡視と言って、机をぐるぐる回っている時に、今生徒が何をしているのか分からない。字が綺麗な子は分かりますが、汚い子はさっぱり分かりません。
生徒それぞれの理解度が分かるようにしたいと思い、何が必要か、大事になるか考えた時に、授業プリントを開発しました。1年目の2学期からは、全てにおいて、授業プリントを使って授業をする形にしました。
例えば、僕は無駄なことを板書したり省略系の文字を書いたりと、板書がきれいじゃないですが、手元のプリントを見れば十分なので、本当に大事なところだけを板書する形にしました。基本的にはプリントスタイルに変えたというのが、まず1つ大きな転機だったと思っています。
その副産物として、生徒たちが、どの問題をどこまで解いているのかが分かるようになりました。面白かったのが、プリントをやり始めた生徒たちのだいたい2割くらいが、予習するようになったことです。
要は、プリントに空白部分があるのが気持ち悪いと思う子が多くて、どんどん予習をし出します。単元の全部のプリントを、全員にあげますが、「全部終わったので、次の単元のプリントをください」という子が登場したのが、すごく印象的でした。
今の担当クラスはまさにそれで「プリントください」と言って、もう高校3年生でやる分野の最後の方まで予習している子も2、3人います。プリントがあると、お互いに共通のものを持っているので、そういう対話ができるという実感があります。
そのあと、導入したのがグループ制です。2年前なので、まだそんなに、アクティブ・ラーニングと言われてない時代です。
グループ制をちょうど1年目の2学期くらいから試行錯誤しながら入れ「どうしたらうまく回るか」と思ったときに、ポイント制を始めたらうまくはまりました。ポイントをあげると、みんな頑張るので、チームごとにできる子ができない子を「おまえ、ほら頑張れ」と、必死に教える状況が生まれました。
ポイント制をする前、できる子は、「先に進みたいのに、なんでこいつらに教えなきゃいけないんだよ」という部分がありました。できる子はどんどん進んで、一生懸命やっているのに、「なんでそこで足踏みさせられるんだ」と思うのですが、チームポイント制に変えた瞬間に、偏差値70の子が偏差値30の子に必死に教える状況が生まれました。
それにより、偏差値70の子が成績下がるかというと、全然下がらなかったことに衝撃を受けました。手応えは、文系の子や、数学をやりたいと思っていない子たちに感じます。例えば、最初の頃、授業中は理解できているけれど勉強をしない子が、グループ制でできていない子に教え合いを繰り返してくことで、20~30点くらいのレベルから、なんと70点を取るレベルになりました。
そのくらい成績が変わるというのを見たときに、「ああ、これはすごく効果あるな」と。特に教えた側の成績が上がるというのが印象的でした。
試行錯誤はありましたが、そういうサイクルを作ることがとても大事だなと、今は手応えを持っています。ただ、やはり相性もあるので、「グループ制がすごくいいな」と思う子もいれば、「いや、僕は黙々と一人で解きたいです」という子もいます。あまり強制的に「必ず教え合いをしろ」とか、「必ず一人で解け」と言わず、最も効果の上がる学習スタイルを自分たちで見つけるように言っています。
「せっかくだったら、1回くらい教え合ってみれば?」という言い方はしています。そうすると、「教え合いはやりたくありません」とアンケートに書いていた子が、教え合いを経験した今では1番能動的で、優勝するチームのリーダーだったりするので、不思議だなと思います。それが2つ目の改善した点です。
高校3年生を担当した時には、受験モードになり、生徒たちは必死でした。先ほどのレベルで言うと、入試基礎レベルや入試標準レベルの難しい問題演習をやるようになりますから、当然出来ないことも多いですが、同じようにグループ制でやりました。
理解できている子はいいのですが、理解ができてない子は、そのままでは、学びが足りません。そのときに問題を解いてみて、できなかったところは何なのか、できるようになるためにはどうすればいいのか、というようなことを付箋に書かせるようにしました。
それを必死にやった子たちは、完璧にできるようになったという手応えがあって、自分ができてないところをちゃんと振り返り、言語化して、客観的に見られるようにすることは、非常に大事だと思いました。続けていくと、生徒たちが自分たちで入試問題演習をやっている時にも、「この問題は、こういう理由でできなかった」と語れるようになるので、質問も明確になります。
受験の時は時間がなく、ぐだぐだと質問をしている暇はないと思いますが、質問が端的になると、教員と生徒とのやりとりもしやすくなりました。そんな流れが非常に良かったと思っていますが、3年目の今年に大きく変えたのは、レベルを明確にしたことです。
今までも問題ごとにレベルは違いましたし、生徒にもなんとなく伝えていましたが、今は、「この問題は教科書レベル」、「この問題はチャートレベル」、「この問題なら入試基礎レベル」と謳っています。授業では、「ここの場面では教科書レベルのことをやってやるよ」、「今回の授業ではチャートレベルの問題をみんなで教え合いしながらやるよ、ちょっと難しいから頑張れよ」というような言い方をします。
放課後にやっている数学塾では、「今度の進研模試に向けて、入試基礎レベルのものを徹底してやるから、それをやりたい人は来なさい」と言うこともあります。僕の担当する講習では入試基礎レベル、別の先生が担当する講習はチャートレベルというふうに、申込用紙にも謳っています。
レベルを明確化することにより「僕はチャートレベルができてないからやらなきゃ」とか、「チャートレベルができるようになったから、入試基礎レベルにチャレンジしよう」というように、自覚する子が増えました。今年はレベルを明確化したかったので、だいぶ仕掛けを打ち、試行錯誤の連続で生徒も変わっていきました。
Q.授業外での学習について
児浦 教科書レベルは小テストなどを中心にやっていますが、チャートレベルは、授業の中では4回に1回くらいの比率でしか扱えません。やはり教科書で基本的なことをしっかりやった上で、「じゃあ、チャートレベルもやってみようか」というような授業設計にしていますので、そんなに頻度は多くないと思っています。
特に理系の子たちは発展学習をさせないといけないので、「黄色チャートの完成ノート」という完成ノートを毎週提出させています。計画表の中に、「何ページ目から何ページ目までやる」、「何月何日の週の授業はどこまで進んで、完成ノートはどこまでやる」と全部書いてあるので、生徒たちはそれを見てやってくるというシステムにしています。
チャートレベルは週末課題で、しっかりフォローアップをしていくという形です。入試基礎レベルのものについては、高校2年生の間、授業の中でやれるのは、定期テストの前くらいです。あとは模擬試験の前にやるくらいしかできません。
そのため勉強したい子には、放課後の希望者制の講習をするようにしています。講習に来る子たちは、やはり模擬試験でも結果を出していきます。事前に模試の過去問題集を出していますが、基本的なレベルの問題は入れません。僕は模擬試験とは、入試基礎レベルを鍛えるためのものだと割り切っています。
教科書レベル、完成ノート、チャートレベルの問題ももちろんやってほしいですが、授業の中でできる仕組みにしているので、模擬試験は入試基礎レベルのチャレンジだという位置づけを生徒たちに謳っています。あとは夏期講習、冬期講習、春期講習というような、いわゆる長期休暇の時の講習は、完全に入試基礎レベルで問題設定をしています。それをやっていくと、入試基礎レベルはできるようになります。
入試基礎レベルでよく使う問題集はいくつかありますが、それは生徒たちで買い、学校でしか買えない問題集は僕が発注してあげます。自分で購入した問題集を何周もして、「入試基礎レベルは終わったので、次は演習レベルにいきたいです」という子もいます。入試標準レベルの学習は、課外や個別で対応するというのが現状です。
高校3年生になると演習の授業も増えるので、入試基礎レベル、入試標準レベルは通常の授業の中で扱っていきます。授業以外のところも含めるとそういう設計です。
もう1つ、レベル設定があるのがテストです。定期テストは、教科書レベルの問題を何割、完成ノート、チャートレベルの問題を何割、入試基礎レベルの問題を何割というふうに、パーセンテージをコースごとに変えます。
レベルは毎回、試験問題のタイトル欄に提示しています。「数学Ⅱ○○コース、○学期の期末テスト」と書き、その隣に、「何番から何番は教科書レベル」、「何番から何番はチャートレベル」、「何番から何番は入試基礎レベル」と書いてあります。
生徒たちは、「俺は今、教科書レベルを解いているんだ」と意識しながら解くような形になっています。生徒によっては、教科書レベルがあまり得意でないとか、細かいことが嫌いな子もいるので、教科書レベルではあまり点が取れないのに、入試基礎レベルの問題で高い得点を取る子もいます。タイプによる差がかなりはっきりするので、生徒もレベルを自覚します。
「教科書レベルは完璧だけど、チャートレベルは全然まだ出来ていません」という振り返りのコメントをよく見受けますので、そういう自覚や認識をさせるということは、とても大事だと思っています。
Q コースごとのねらいの違い
児浦 理系の特進クラスの、1番上のコースの子たちについては、やはり入試基礎レベルとか、難しいものを教えてあげたいと思っています。やはり全員が、模擬試験で言うと偏差値60を超えるレベル、何割かは70を超えるレベルを目指しています。
教科書だけやっていても、そのレベルになりませんから、そのための問題を差し込んでいます。あとすごく大事なのが、一通りの解答に固執させたくないということです。
教科書で「こういう解答になる」と教え込むことはできますが、生徒たちに、授業の中でたくさんのハテナや驚きを持たせたいと思っています。今日の授業で言うと「なぜx2+3x+a=0はaをy=aにして、そのy=aが上や下にいくので判断しなきゃいけないのか」。「y=0じゃダメなんですか?」と思ってもおかしくないと思います。今までやっていた中では、その方が自然な流れです。
そういう疑問を常に持たせ、二通りでやらせてみて、「どっちのほうがやりやすいかあとで判断してもいいよ」ともっていきます。もしくはジグソー法を使いながら、チーム分けをして発表し合うこともあります。例えば、図形の時幾何的に解く人と、判別式を使って解く人というチームを分けて、それぞれで教え合うこともあります。
特に理系のトップクラスのほうでは、よくやる方法ですね。上のコースは自分で勉強できる子がほとんどですが、レギュラークラスは自分で勉強することができない子が多いです。全員が完璧になるには、当然時間がかかるし、コントロールできるものでもないので、僕はまず、「圧倒的にできる子を作る」というのが大事だと思っています。
自分で勉強できる子が、圧倒的な結果を出し始めれば、「やべえ、あいつがあんなにできるんだったら俺もできるはずだ」と思うはずなので、そういう回路を作るようにしています。
先ほどのインタビューで言うと、大谷君は、1学期の最初のテストでは、そんなに点数が良くありませんでした。しかし、1学期の期末でいきなり2位になり、それからずっと2位を維持しています。得点も70点台とか、高い得点を取ってきたとき、「あれ?あいつとそんなに俺変わんなかったはずなのに」と思う子たちは、非常に悔しいわけです。
それではどうすればいいのかと、生徒自身が考えます。「大谷君はテスト直しを毎回必ずやっているな、じゃあそれを真似してみよう」とか「完成ノートも毎週提出しているな、じゃあ、どこかでまとめてでもいいから提出しよう」とか。
彼らの行動は一人一人違いますが、やはり何かしらアクションを起こす子が増えました。レギュラークラスでは、互いを意識させるように、こちら側もコーディネートしていかなければいけないなと思っています。
文系に関しては、国立のかなり高いレベルを目指している子、偏差値70を超えているような子もいれば、受験で数学が要らないという子も混在しているクラスです。意識していることは、大きく2つです。
まず1つは、できる子とできない子がなるべく同じチームになるようにして、できる子ができない子を教えたくなるような仕掛けを作ります。それはメンバー構成もあるでしょうし、できている子に、「ちょっと教えてあげて」とか声掛けもしています。
実を言うと文系は、今の時間割だと高校の2年生の間は数学Ⅱしかできず、数学Bはほとんどできません。しかし、センター試験では両方必要なので、文系の子たちは困る訳です。文系の国立を狙っている子には、数学塾という補習の中でまだ授業では扱っていないベクトルの補習をやり、模試レベルにまで持っていくことができました。一生懸命な文系の子には、特別講習のような形で教えています。
それによって彼らは、僕に対する求心力も上がります。授業中、僕に対して逆らうようなことはしませんし、「つまんねえなこの授業」なんていう態度は当然ながら取らないようになります。補習で成績をあげているので、「授業中はできない子に頑張って教えてあげよう」というようになっています。
勉強教えることで、「成績があがっているな」と実感できるため、彼らは決して無意味だと思っていないはずです。ただ、最初が肝心です。最初にやる気がなくなると、ずっとやらなくなってしまうので、彼らに特別講義をしてあげて、「その代わり、授業内の教え合いも頑張って」というようなやり方をしています。
それからもう1つは、実は文系の生徒のほうが、数学の必要性を実感できるとか、実感させやすいと思っています。理系の生徒は、数学を当然使うのも当たり前だと思っていますから、あんまり実社会での必要性について教える必要はありません。
ビッグデータの時代ですから、当然、文系も統計が出来なければ話にならないですし、経済学部に行けば、微分も出てきます。そういうことを考えた時に、「数学をやらなくていいの?」という話をします。
文系の生徒には、必ず各単元の最初と最後に、社会のことを実感できるような数学の問題を解かせます。そういう問題には、理系の生徒以上に、必死に取り組んでいます。線形計画法を作って、「どれだけ仕入れをすればいいか?」というような問題を授業の冒頭に出し、少し考えさせます。
その授業の中で色々なことを学んだ上で、最後の締めくくりとして、「じゃあ最初にやった問題を、もう1回やってみようか」と言うと、みんな必死に解きます。もちろんチームポイント欲しいからというのもありますが、最後は「僕らはこういう内容を数学の中で学びたい」と言っていました。「こういう授業をできるのはすごくいいことだと思う」と言ってくれたのが、嬉しかったです。
文系の生徒はこの時期になると、数学の平均点が下がっていくはずですが、担当クラスではむしろ上がっています。理系のトップクラスでも平均点が60点台くらいのテストで、文系のクラスが60点後半を出したので、驚きました。数学の受験が必要ない生徒も、チャートレベルを解けるようになっています。さらに入試基礎レベルも解けるようになっているのを見たときに、「浸透したなぁ」と改めて感じた次第です。...
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