概要
一人ひとりが先生になる!
日本一の学校に向けて6学年が一緒に学ぶ、20分の寺子屋タイム
当校には、普段の授業ではありえない、1年生から6年生までの子どもたちが集まって課題に取り組む「寺子屋タイム」という時間があります。
教室に向かうと、子どもたちは自分で自分の課題にあったプリントを選び、自由に席について勉強を始めます。
回を追うごとに、上級生は下級生を気にかけ、勉強を教えるようになったそうです。
課題に合わせてプリントを選ぶというのは、子どもたちにとって難しいのでは?と疑問に思いますが、はじめのうちはそのような様子もあったものの、今では各自が目的をもってプリントを選べるようになったそうです。
そのポイントは、毎回の寺子屋タイムの最後に書く『振り返りカード』にありました。
こちらの動画は3セットございますので、ぜひ他の動画もご覧ください。
長野小学校・藤澤真弓先生(寺子屋タイム)を見る
Q.「寺子屋タイム」とは
藤澤 真弓先生(以下、藤澤) 異学年の子どもたちが1つの教室に集まって、まずは自分の課題を見つけて、その課題に取り組むという、普段の授業ではあり得ない20分間のことです。
その間教えるのは、普段は先生だけですが、そばにいる色々な親しいお友達や異学年のお兄さん、お姉さんに教えてもらっていいよと、子どもたちに伝えて取り組ませています。子どもたちには、この時間の中で、「今日はこれが出来た」と、1つでも伸びたと思える瞬間があれば大成功だと話しています。
Q.プリントは学年分けされるのか
藤澤 はい、そうです。この活動を始める時に、どのようなもので取り組ませるかが最初の課題でした。各学年で用意をしてもいいのですが、先生方も普段の授業があるので、出来るだけ負担にならないようにしようと考えました。
そこで市販の計算ドリルを購入したら、それに付いてくる付録からダウンロードできるプリントがあったので、そちらの該当学年のプリントを採用させていただいて、取り組むようにしています。
Q.別の学年のプリントをやってもいいのか
藤澤 基本的には良いことになっています。やってはいけないとは言わず、ただその時間に自分が何を目的にそのプリントを取り組むかというところを大事にしたいと思っています。
実は初めの頃、そういったところがはっきりしていなかったので、逆の現象が起きていたのです。難しいものよりも簡単なものをたくさんやりたいという子どもたちの欲が出てきたことがありました。
そこで何が問題かと考えて出た答えは、振り返りがきちんと出来ていなかったので、そこを徹底することでした。すると、子どもたちに目的を作ることが出来るようになったのです。上の学年のプリントではなく、自分の学年に合ったもの、自分がちょっと苦手な内容のもの、少し下の学年のものなどで、「今日はこういう目的でやるよ」と指導することが出来るようになりました。
Q.目的を決めることは全学年共通か
藤澤 全学年で必ず目的を決められるよう、振り返りのカードに時間を取れるようにしています。
初めは、特習の時間(25分間)全てを課題に充てていましたが、きちんと振り返りの時間を取らないといけないということで、課題に取り組む時間は20分と決めて、残りの5分はとにかく振り返ろうということにしました。
今日は足し算が全部出来たとか、掛け算のところの間違いが多かったなどと振り返りをすることで、私たち担任がそれを見た時に「次は掛け算の勉強をやってみようね」という子どもたちへの声かけに繋がりました。そうすることで子どもたちに次の課題を与える事もできるし、自分でも振り返りが出来る形になって、なんとか出来ている感じがします。
Q.先生が振り返りをチェックするのは寺子屋タイムが終わった後?
藤澤 そうですね。ファイルされているので、必ず各学年の担任の先生に確認をお願いしています。
Q.児童への声掛けは寺子屋タイム以外でするのか
藤澤 そうですね。次の寺子屋タイムの最初、あるいは最中に声を掛けている先生もいらっしゃいます。そのような形で子どもたちと対話していますし、あとは、見ていて気になるような子に関しては、授業中にも気を掛けることが出来るようになるのも、寺子屋タイムの良さだと思っています。
Q.寺子屋タイムの直前に準備する時間はあるか
藤澤 準備する時間はありません。
Q.「せーの」という感じ?
藤澤 「せーの」という感じです。時間になって放送が流れると、寺子屋タイムが始まる意識になっています。例えば、授業が2?3分延びた時は、遅れて教室に入ってくることもあります。そのような場合は全く気にせず、とにかく3時から始まるというのは決めてあるので、放送を流してスタートする形をとっています。
Q.寺子屋タイムを実施するきっかけとなった出来事は?
藤澤 一番のきっかけは、市川(同僚の先生)が『学び合い』というアクティブ・ラーニングを学校の中でやっていこうという話でした。それは昨年の初めからずっと言い続けていたことです。
ですので、自分たちなりに勉強したアクティブ・ラーニングを、各学年やクラス、授業の中でやってきました。それが、『学び合い』であって、お互いで教えあうことが目的でした。
『学び合い』は、学年というよりむしろ学校全体で出来るのではないかと、市川も常々考えていました。昨年の秋くらいに、「何か出来ないか」と私だけでなく職員でそういう話になり、実現していく流れになったのです。
何回か職員だけで話し合いの場を設けて、どんな形や内容で、いつやるのがいいのか、まさに基本のところから話し合いが行われました。
ですので、今の寺子屋タイムは、その話し合いがまとまった形です。『学び合い』については職員自身に考えがあるので、アクティブ・ラーニングはどんなものがいいのだろうとか、どんなものが『学び合い』というのだろうなど職員は日頃から悩んでいます。その中で、職員同士で話し合いながらまとまっていったと思います。
Q.アクティブ・ラーニングを通して児童はどのように変わったか
藤澤 最初はこちらからやろうという感じで子どもたちに提示したものなので、中には、少し強制されているとまではいかなくても、寺子屋タイムの時間になったから来たという感じで、嫌々来ている子どももいたかもしれないと思います。実際、最初の頃は何もせずに時間を過ごしていたり、とりあえず来ていたりする子どもは何人かいました。
ただ、そんな中でも、最初からとても一生懸命やっている子どももいました。教え合ったり、好きな子と話しながら勉強が出来たりとか、そういった良さを感じていた子どももいたみたいです。
今年度がスタートした時の話です。新1年生はまったく初めてなのですが、2年生から6年生は、「昨年からのこの活動を今年も出来るのだ」という期待があったのを4月の時点で感じられたのです。
「あ、今年もやるんだね」という心構えが昨年とは全然違って、むしろこの時間を楽しみにしている子どもも増えていました。実際にあった子どもたちの動きですが、あえて席を毎回変えたり、「今日はあれやろうよ」と話しながらこの教室に来ていたりしていました。子どもたちの姿がとても意欲的になったのは大きな変化だと思います。
Q.新1年生が入ってくることによる上の学年の児童への影響はあるのか
藤澤 一番は6年生かと思います。6年生が迎え入れるという気持ちが本当に強くて、椅子の座り方にまで意識していました。あえて1年生を見つけて隣に座ったり、1年生が座れるような環境を作ろうとしたり、といったことが見られて、6年生にとっては大きな影響でした。
私が担当している3年生の子どもたちは、1年生が一生懸命やっている姿を見て、「負けてられない!」「プリントを何枚もやろう」という気持ちが湧いたようでした。誰かに教えてあげるということはないのですが、良い影響は受けたと感じました。
Q.そういった6年生の動きは先生方の助言や導きがあったからか
藤澤 そうですね。やはり日頃から、教室で『学び合い』をとても積極的にやってきている学年でもあると思います。市川がこの『学び合い』やアクティブ・ラーニングに対して、子どもたちに語れる部分が大きかったです。
ただ6年生自身の、教師からの語りを受け取る姿勢も大きいと思っています。ですので、日頃の教育活動の中で、教師が子どもたちにどんなことを語っているのか、というところが大切だと思います。
Q.この寺子屋タイムをどのようにしていきたいか
藤澤 昨年始めた時はどうなっていくのだろうと、イメージがつかなかったですね。だから、「やっと1年経つのか」と今思いました。
最初はこうやって、1年生から6年生までが交わって学習する環境が作れるのかどうかすら分からなかったので、1年経ってみて、「子どもたちはすごい、やれば出来る」という気持ちがあります。
もっともっと子どもたちに要求していきたいこともあります。実は、この活動を始めた時に、「日本一の学校を作ろう」というのを、子どもたちにバーン!と言ったのです。
挨拶だったり、学校生活だったり、色々なことで日本一を作ることはできますが、勉強の仕方や学び方でも日本一を目指せると思って、寺子屋タイムをスタートさせました。子どもたちが「寺子屋タイムでこんなことを学んでいんるだよ」と語れるようになったら嬉しいと思っています。寺子屋タイムの意味を語れるぐらい、喜びの実感がこれから増えていけば嬉しいです。
Q.児童たちはすごいなあと思う瞬間
藤澤 どの子どもも、困っている子どもを助けたいといつでも言います。でも、具体的な行動や何が出来るか出来ないかというのは、こういう時に見られるのだと思うのです。人数を集めればなんとかなるのではないかと言う人もいますが、子どもたち同士は普段から関わっているわけではないので、実際どんな動きになるのかは未知数でした。
ですが、印象に残っているものがあります。全く学年の違う男女が隣同士で座っていたときですが、1回手を止めてしまった女の子に対して、男の子がすーっと体を寄せて「どうしたの?」と声をかけていました。最初、女の子は戸惑うのですが、気にかけてくれたのを嬉しそうにしていたのです。
女の子は少し驚きながらですが、「ここがわからないんだけど・・・」と言ったら、男の子が、プリントの空いているところに「ここはこうやって計算するんだよ」とか、「いや、こことここはこうするんだよ」という感じで、本当に一生懸命でした。たぶん言葉でうまく伝わらないこともたくさんあると思いますが、体全体で、「ここはこうでさぁ」といった形で教えている姿を見ると、普段見られない子どもの姿はたくさんあると感じました。
子どもの見たことない姿、クラスの中で見たことない姿が見られるというのが、すごく印象的でした。
Q.うまくいっていないところや改善したい部分はあるか
藤澤 そうですね。子どもたちには素晴らしい姿もたくさんあるのですが、実は今年の10月頃にちょっとマンネリ化を感じました。また怠けてしまうことや、簡単なプリントに流れてしまうなどといったことです。
1年間同じような活動をしていて、慣れてくるのはとても良いことなのですが、悪い意味でのマンネリ化が発生した時に、私たちはどんな手立てを投じるべきか、ということを常に考えなければならないと思わされました。
そこで、今年は集会を開きました。集会では、子どもたちの良い姿を評価しつつも、「そのプリントは楽だから選んでいませんか?」とか、「何もやらないで20分過ごしていませんか?」と、実際にマンネリ化をしている子どもの姿を投げかけました。
ただ、子どもたちの悪いところなどを言うだけではありません。私たち自身、振り返りはしていたのですが、振り返りの仕方が良くなかったのかもしれないと思っていました。「先生たちもやり方を少し変えてみたよ。今日からこういうふうにやってみようよ」と、集会で子どもたちに伝えて、その日からまた再スタートしました。
今後もそのようなことがあるだろうと思っています。子どもが課題を達成する喜びはもちろんあるけれども、慣れてしまった頃にどれだけ新鮮さを持ちながら継続していくか、というのが課題だと思っています。
Q.マンネリ化を避ける方法
藤澤 教師で意見を交わし合っているところです。例えば、「取り組むプリントより、取り組ませる内容を変えたほうがいいのではないか」とか、活動を始めた頃に出ていた話では、「授業の延長では意味がないし、授業と同じような内容だから面白くなくなるのではないか」という意見もありました。
その他の意見だと、ちょっとパズル的な問題を出してみるとか、子どもたちは思考力検定というものを受けているので、「思考力を問うような問題を厳選して与えてみてはどうか」という意見もありました。あとは、「学年で分かれてはいるけれども、ちょっとひねれば答えられるような問題などを出してみるとか、何人かが集まって解くような問題にしたほうがいいのではないか」など、色々ありました。常々悩んでいます。
でもまだ、本当に何をどうやっていったらいいのかという具体的な策は、正直なところ出ておらず、やりながらという感じです。
Q.アクティブ・ラーニングのどんなところに良さを感じるか
藤澤 私も最初、子どもたちにやらせっぱなしな印象がありました。「これで良いのか?」と思ったのです。他の教師もたぶん同じだと思います。勉強をやらせっぱなしという印象があるから、「本当にそれで良いの?」といった感じです
でも、実際はそうではなく、そういった時でしか見られない子どもの姿があるのです。一斉授業がいけないわけではなく、むしろ必要と思っています。しかし、アクティブ・ラーニングでは、一斉授業では見られない子どもの姿を見ることができます。
それは、対教師ではなくて、子ども同士のやりとりの中で、自分の言いたいことを言葉でうまく説明できない時によく見られます。
「この子はなんて言うのだろう」と、普段、言葉をうまく伝えられないような子どもが、友達同士の中ではどう伝えているのだろうと見ていたら、絵を描いたり、必死に手を動かしたり、近くのものを使っていたりしました。
こういう時は、教えたいというよりも、とにかく自分の思いを相手に伝えたい、という気持ちが現れている時なのです。これは一斉授業では出来ないと思います。
授業を工夫したから、アクティブ・ラーニングだから得られたものといえるかどうかはちょっと分からないです。ですが、新しい子どもの姿を見ることが出来たと感じるのは、こういう活動のおかげだと、やって良かったなと思います。
Q.アクティブ・ラーニング型授業を始めてみたい先生へのメッセージ
藤澤 自分もまだまだ勉強中なのでなんとも言えないのですが、「まずはやってみてください」としか言えません。始めは、本当にこれがアクティブ・ラーニングなのかと疑問を抱きながらやっていくかもしれません。ですが、それが大事だと思うのです。
何にでも言えることですが、結局は「これで良いのかな?」と思いながら、手探りで作っていくものという感じです。
Q.どうしたら最初の一歩を踏み出せる?
藤澤 この学校だったからなのかもしれないのですが、みんなやってみようかなというチャレンジ精神のようなものが、ここの学校の人たちには特に多かったです。だから、踏み出せたのかもしれません。
というのも、去年はまだ6年生がいなかったなど、この学校自体がまだ育っている最中だったので、先生方も色々なことをやろうという気持ちがありましたし、それに対して、悪く言われることもありませんでした。
そういうのがなかったっていうのも1つの理由だと思います。例えば、これから何かやってみようと言っている先生は、学校の中で色々なタイプの先生がいて、ぶつかりあうこともあります。もちろん、これまでの形式を破って新しいことをするのは不安なことでもあります。
中には、そういったことがあるから最初の一歩を踏み出せないという人もいるのかもしれません。ですが、周りを巻き込む必要はないと思うのです。まず、目の前にいる人とか、「まずこの1時間で進めてみよう」くらいの気持ちでいいと思っています。
毎日やってみたいと思うことだけをやるのは厳しいことだと思います。ですので、何かをやってみたいと思っている人は、まず1つだけ、1時間だけ、と少しずつやってみようというところからなら踏み出せるでしょう。別にそれを誰かに公開するわけでもないし、それだけだったら出来るような気がします。
※藤澤先生の寺子屋タイムは、学校導入版で視聴できます
学校導入版の詳細はこちらをご覧ください...
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