概要
2種類のグループ学習で国家試験合格率がアップ!
日本医学柔整鍼灸専門学校柔道整復学科 2年生の授業です。
ただ国家試験に合格するだけでなく、様々な患者さんに選ばれる人になってほしい。
こんな思いから、住吉泰之先生はグループ学習を中心に授業を展開しています。
入学してくる学生の7割が、社会人経験者という当校。
学生の多くは、「国家資格の取得」を目標にしています。
試験の合格を目指していると、
「これさえ覚えれば合格できる」という
最小限の知識を効率よく学習したいという
思いにとらわれがちです。
しかし、実際の医療の現場で大切になってくるのは、試験に合格する力だけでなく、患者さんの話を聞く力や、試験に出ないような広い知識。
住吉先生は、「選択発表型グループ学習」と「問題抽出型グループ学習」の2種類のグループ学習を通じて、「聞く力」と「広い知識」を養い、10年後、20年後も活躍できる医療人を育てています。
Q.アクティブ・ラーニング型授業を実践し始めた経緯を聞かせてください
住吉 泰之先生(以下、住吉) 僕は本校の卒業生です。卒業した直後に、当時担任だった先生からチューターとして後輩たちの面倒を見てくれないかとお願いされました。
僕で良ければ、授業をするというよりは学力のサポートという形で国家試験の勉強のコツなどを教えられたらと思っていたので、お引き受けしました。その時の経験がアクティブ・ラーニング型授業を実践していく上での、最初の大きなヒントになりました。
チューターとして教えていた時も、6人から8人くらいのグループを、1クラス2つか3つくらい作るグループ学習を行っていました。問題を解いて読み合わせていくという形から始めたのですが、その時は、黒板をあまり使わなかったので、学生が内容を理解できていない様子でした。
そこで、あまりにも理解できていない様子が見えた時に、学生に板書してみるよう声をかけたり、僕がある程度まで板書をしたりということをやっていました。
そこから、国家試験に出題されるような選択問題に取りかかる時に、1人で取り組むよりは、皆で取り組んだほうがいろいろな理解の仕方を共有できて、かつ、授業も盛り上がるので、苦労しないでできるのではないかと感じたのです。
Q.先生の在学中はどのような様子でしたか?
住吉 年々、国家試験のレベルは徐々に上がっています。学生の中には、国家試験の過去問を解いているだけでいいのだろうかという不安があります。
僕も受験生だった時は、同じような不安を抱いていながら、一方で、出来ない部分をおろそかにしがちでした。出来ないのはしょうがないと、半ば諦めていました。
でも、誰かがやっている勉強法や覚え方のコツが、「こうすれば出来るんだ」というように、グループ学習をきっかけにして広がることがありました。
特に、受験生である3年生になると、例えば、誰かが語呂合わせを考え出して、それがいつの間にかクラス中に共有されるということもあったのです。語呂合わせを考えるきっかけも、やはりグループ学習でした。でも僕は一人で勉強していたので、共有されていた勉強のコツを教えてくれる人がいません。そうすると、分からないことは分からないままになって諦めるという状態になってしまうのです。
アクティブ・ラーニングの大きな力として、「人に教えることで覚えられる」ということもありますが、逆に教わった時の体感がきっかけで、覚える力が増すこともあります。
受験生の時の僕みたいに諦めが積み重なっていけば、試験で取れる点数がそれだけ減ることになります。すると、その分がもったいないですよね。学生が互いに教え合うことによって、諦めてしまう部分が少しずつ減っていって、その分だけ出来るようになっていくという形が年々見えてきました。
卒業生として教え始めた最初の1年間は、僕も本当にどうしたらいいのかなと思っていたのですが、2年目、3年目と経つうちに、段々とこう教えればいいという考えがふくらんできました。あとは、こういう資料を作るきっかけも設けられたことで、今みたいな授業の形が、ようやく形になってきたという状況です。
Q.今の形になるまでどの位時間が掛かりましたか?
住吉 受験で柔道整復師や鍼灸師の国家資格を取って、その後、教員になるためには3年間は認証された診療所などでちゃんと働いてから教員免許の講習を受けます。僕は働きながら、学校でもそういう授業のサポートをしていく中で、その最後の3年目くらいに形になってきたと思います。
教員になろうと思う少し前の時期に、「ああ、こういう授業が出来たらいいな」と思って、その勢いで、自分の教員講習も頑張れました。
Q.実践し始めて躓いた事はありますか?
住吉 クラスによって学生の色が違うので、例えば勉強がとてもよく出来るグループが出来ると、そこに他のグループが答えを聞きに行ってしまうというのが、良くない傾向だと思っています。
最初はすぐ聞きに行くのではなくて、頑張って考えても分からないから聞きに行くという様子でした。でも、徐々に、みんなやっているふりをして、実は出来る人たちを待ってから「そろそろ答えが出たんじゃない?」などと言って、答えを聞きに行くようになりました。これはまずいと思って、そのような状況になったら、今はグループを変えるようにしています。
そうやってグループを変えることが最初は出来なかったです。せっかく学生たちが盛り上がっているのにグループをバラバラにさせるのは、気まずいと思っていました。そこが最初のころ、失敗した点です。
Q.あえて介入して解決しましたか?
住吉 逆に、勉強できるグループは、他のグループを待つことになるので、ここも一緒に解体して組み合わせを変えてあげないといけなかったです。出来る人たちをどこかのグループに派遣することと、また、よそのグループに答えを聞きに行ってしまうメンバーを一緒にさせないことも必要でした。
去年は、毎回最初に作ったグループで確定させていましたが、今年になってからは、そういうグループ分けの工夫も出来るようになりました。
Q.学生のモチベーションを上げるために、どのような工夫をしていますか?
住吉 使う教材によって変わってくると思うのですが、僕は授業で出す課題の中に、必ず比較的レベルの高いものを入れています。そうしないと、モチベーションが高まっていきません。
たまに、全部レベルが高い時もあるのですが、必ず何か一つは、「なんだこれ?」と、学生が首をかしげるような課題を入れてあげたほうが絶対いいです。
例えば学生が「先生、言葉がまちがっているんじゃない?」と尋ねてきた時に「いや、こういう言葉があるよ」と答えてあげて、その言葉を探させても、ぱっと見つからないというのを必ず与える。
最初の頃は、問題に即答できるようにするやり方をメインにしていたのですが、それだと展開が早すぎて、逆に面白みがない場合がありました。
だから、実際に柔道整復師の国家試験で出なくても、例えば、医師国家試験から借りてきたような難しい問題を「ちょっとやってみようか」と言ってやると、面白がって取り組みます。
そうやって、教材の中に、必ず少し難しいレベルの内容をスパイスとして入れてあげることが、モチベーションを上げる工夫として大事だと思います。
Q.アクティブ・ラーニング型授業を通して、学生にどうあって欲しいですか?
住吉 今は、医療従事者の側も患者さん側も本当に多種多様ですし、それぞれの人生がありますので、いろいろな個性をお持ちですよね。
患者さんのほうが深い知識を持って、それで受診される人もいらっしゃいますし、逆にこちらの話をたくさん聞きたい人もいらっしゃる。その多様性に応えられて、いろいろな患者さんに好かれるような、そういう治療者になってほしいと僕は思います。
そのためには、学生のうちから、教科書通りの知識だけではなくて、人間性を知っていきながら知識を得る。これが大事だと思います。
学生の中には、2年生のうちから、それが出来ている者もいますが、みんなが順調に出来るようにしていきたい。患者さんに中途半端な知識を教えたり、「これは知らないからその専門のお医者さんに行ってください」と冷たく言ったりするのではなく、しっかりした知識を教えて与えられるようになってほしいです。そのためには、まず「聞くこと」が大事だと思っています。
アクティブ・ラーニング型授業で大事なことは、聞くことです。学生の中の勉強が出来る人は、「これはこうだね、ああだね」と説明しながら問題を解いているのですが、大事なのは、その説明を聞いている側だと僕は思います。
僕が学生のグループの中に入って一緒にやることは、説明を聞いている側の出来るだけ近くに行って、一緒に聞くことです。そして、「答え出た?」とか、「問題分かった?」と尋ねてみます。そうやって相手の話を聞くことが、将来、患者さんの話を聞くことに繋がってほしいと思います。
Q.実際に入学してくる学生はどんな考えですか?
住吉 広い知識を覚えなければというよりは、これさえ覚えれば国家試験に合格できるという最小限の知識を欲しがっている感じが、今の学生には多い気がします。それだと、やはり視野が狭くなってしまいます。
それは、覚えた知識の範囲に収まる患者さんしか診たくないと言っているようなものです。だから、それでは、やっぱり、社会に出て治療家以外のいろいろな人たちに会った時に、適応できないのではないかと僕は思います。
彼らの多くは、入学してから国家試験合格というゴールに到達するまでに、いろいろな知識のうちのここさえ知っていればうまくいくという狭い道があるとイメージしているようです。
そして、その狭い道を欲しがっているような様子が見受けられます。
でも、僕としては、知識の幅を広げて合格してほしいです。勉強が始まるとすぐ分かるのですが、一つの治療をするためだけにいろいろな知識を知っていないとだめなのです。だから、結局は大きな知識が必要です。それを知るための足掛かりとしてグループワークやアクティブ・ラーニングを導入すべきだと僕は思います。
国家試験に合格するための狭い道を選ぶ学生は、必要な知識を覚えた、出来たということで、学習のふり返りをしないことが度々あります。すると下手をすれば、今まで習った授業の内容が途絶えていく場合があります。新しい知識を覚えることばかりして、前に学んだことがどんどん消えてしまうのです。
でも、アクティブ・ラーニングをやれば、前に学んだことも振り返りながら学習を進めていきますから、知識はそれだけ広がると思います。
Q.将来のビジョンに対して、今の2年生は、どの段階にあると思いますか?
住吉 今の2年生は、そういう狭い道よりは、比較的広い知識を掴んできている。中には、もうかなり幅広いところまで視野を広げている者もいると思います。完全に掴むのはたぶん3年生になって受験する時に、これまでを振り返った時でしょう。
その時に、「ああ、いろいろな知識を持っているんだ」と分かると思いますが、今自分がどのくらいの知識を掴んでいるかは、彼らも分かっていないです。だから正直なところ、僕もそれをうまく感じ取れていません。
ただ、狭い道よりは、何がしかのたくさんの知識を持ったまま学習を進めていって、もう少し経ってから「あ、これは前に勉強したんだった」と気付くという感じでしょうか。
学習の先には、受験勉強をして、国家試験を受けて、国家資格を手に入れるという目標がありますが、実は、とりあえずなんとか進級しようということが目標になって、そこまで見えていない学生も中にはいます。
2年生から3年生にならないと受験生になれないので、しかたのないことではありますが。
それで実は、1年生で習ったことを出来るだけ忘れないようにさせている時期なのです。多くは、2年生の勉強を始めると、2年生の勉強だけでいっぱいになって、1年生で習ったことを忘れてしまいます。そこを踏ん張って忘れないようにさせています。
そうすれば、2年生で習ったことも、1年生で習ったことも、両方とも残っているので、3年生になって受験勉強をして、国家試験を受ける時に、少しでも有利になると思います。
人は必ず忘れてしまいますが、忘れないように知識を保つ努力をしてきたということを、3年生になったら思い出してほしいですね。
Q.授業準備はどのぐらいされていますか?
住吉 問題抽出型の授業の時は、ほとんど用意はしていません。授業の冒頭でリクエストシートというものを配布して、そこに学生が記入してきたことを授業時間の中で整理して、エクセルの表に打ちこんでいくだけです。リクエストシートに、学生が覚えたいことや復習したいことを書いてきますので、そこから授業の材料をもらいます。
だから、授業当日にならないと問題の抽出が出来ないので、授業準備という形では、そのリクエストシートを作るということくらいです。
ただ、シートには、「覚えたいことや復習したいことは何か」という質問に加えて、一つなんでもない話を訊いておこうと思っています。例えば、「好きな生き物を教えてください」とか「お薦めの映画を教えてください」とか「お家のドアはどんな形でどんな色ですか」というようなものです。
これを考えるのは苦労しますが、そういう全然関係のない質問を入れておくと、そのノリで他の質問にも答えてくれます。準備というとそれくらいで、あとはリクエストシートをもとに問題を抽出した用紙を当日作るだけです。
もう1個、選択発表型のほうは、僕が作っていきます。20問、半分以上オリジナルで問題を作るとしたら、だいたい3時間くらいかかります。問題を考えるのに1時間、実際に、打ち込んでいって、整えていくのに1時間。そして、最後に少し工夫を凝らしたり、難しい問題を作ろうかと考えたりして1時間という感じです。
Q.授業の中で、学生が主体的になって考えている時間は何%くらいですか?
住吉 主体的になって考えているのは、半分ぐらいですか。50%くらいは彼らの力でやってくれていると、僕は思います。答え合わせは僕のほうでやるので、そこは僕が使う時間ですが、それまでの、考えて問題を抽出するところは彼らの時間です。
「何が抜けているかな」とか、「どういったことを復習しようかな」と考えるのは、最初からずっと彼らが使う時間です。また、問題抽出型授業で、僕が問題を作るために教室を外している時間があります。その間には、彼らに「ここをやってね」という指示を与えます。
実際その通りやったかやっていないかは、僕は外しているので分からないのですが、その間も彼らの時間だと僕は思っています。
授業の最初は静かにシーンとしているのですが、その後、グループになった時に盛り上がっていく。彼らが問題に挑む短い時間の中で、一気に盛り上がっていくのを見るのが実は楽しみで。授業の中でいちばん濃いのがあの時間かなと思っています。
問題を考えたら、学生が黒板に答えを書きに出てくるのですが、「あれ?これ違う」などと言って、もう1回考え直すというのも、グループ学習独特の雰囲気だと思っています。その様子を、僕は「よしよし」と思って見ています。
一つの授業の流れとしては、前半は問題抽出型をやって、後半のほうは選択発表型をやることもあれば、翌週は二つを入れ替えることもあります。また、全く同じことをやる場合もあります。
特別な日、例えば、注意事項や大きなイベント等がある時は、そこに時間を費やしてホームルームのようになってしまう時もあります。でも、それ以外は、ほとんど毎回この形式を継続していって、復習、おさらい、あとは予習等にあてています。特に期末になればなるほど、復習については中身が濃くなりますね。
Q.教科書進行型について教えてください
住吉 通常の座学の授業は、教科書を開いて、教員が板書をして、それを学生がノートに取ったり、あとは教科書に書き込んだりするものだと思います。
でも、僕が行っている教科書進行型というのは、いきなりグループになってもらって、そのグループで教科書を読みながら、学生に大事なところを探してもらうというものです。
ですので、教科書の何ページから何ページと範囲を示して、「その中で、とても大事な単語があるので、これを説明できるようにしてください」という指示を与えたプリントだけを用意します。
そこで学生たちは、「どういうふうに説明しようか」と話し合いながら、教科書を読んで考えをまとめます。そしてプリントの表に、課題となった言葉に対してどういう治療か、どういう病気か、どういう症例かといった説明を書いていきます。
今、夜間部の1年生の学生が、教科書進行型をずっとやっているのですが、後期からは、学生にその説明や特に大事なところを黒板に書かせて、その上で、僕が補足的に、重要なポイントに色を付けていくようにしようと考えています。
教科書進行型の授業の前半はそのような作業をして、後半はプリントの裏に用意している選択問題に取り組みます。中身は、今まで読み解いてきた教科書の内容をかいつまんだものです。実は国家試験問題も入れているのですが。復習を兼ねながらそれを解くことによって、もう1回教科書を読み直すことになります。
夜間部の1年生には、それを毎週やらせています。
Q.学生の学習意欲・学習態度にはどういった影響がありましたか?
住吉 学習意欲が高まる学生もいますが、人に教えてもらいたいという気持ちが強い学生は、そこまで高まらないようです。
人に教えてもらって、あとは自分だけで勉強しておきたいという学生は、なかなか意欲が高まっていかないようです。一方、自分で考えなければいけないと気付いた学生の意欲はどんどん高まっていきます。そういう個人差があるので、学習意欲という面での効果は、なんとも言えないところです。
ただ、学生が起きている時間は、増えてはいると思います。単に黙って座って、教科書を見て、ノートを取るよりは、話し合っているほうがずっと起きていますから。グループの中で寝る者がいたら困るので、寝ても誰かが起こしますし、それに、覚えなければいけないことも増えますので。だから、学生が起きて集中する時間は増加しているはずです。
その点が、座学の授業での大きな変化だと思います。
昼間部は、僕が卒業した直後から見たら、だいぶ起きている学生が増えたと思います。他の授業でも、そういう傾向が見えたらいいですね。
Q.今まで寝ていた学生は居ましたか?
住吉 分からないです。でも、僕が学生の頃は、どうしても、ちょっとウトウトしてしまうことがありました。中には働きっぱなしで来ている学生もいるから、なんとなく疲れもあって、起きてはいるけれどもあまり集中できずに、とりあえず授業だけ受けたとなる場合もあります。すると、授業内容を全然覚えていないことになります。
そうすると、結局は自分でその部分を復習しないといけなくなってしまいます。そういう中途半端な集中で授業を受けるような状態が減ればいいと思っています。だから、僕がアクティブ・ラーニング型授業を行う一番の目的は、記憶に残るように勉強し合う方法を確立することですね。
Q.学力の変化はどの程度出てきていますか?
住吉 直接的には国家試験の合格率という点だと思うのですが、僕だけではなく他の先生の頑張りもあって、昼間部は、年々成績が上がってきています。
卒業式に出ますと、ありがたいことに、学生から「授業よかった」と言われることが多くなりました。だから、僕だけではなく、他のいろいろな先生たちのいろいろな努力が、今、昼間部の学生が伸びてきている結果として表れていると思います。
授業外でも本当に大事なところを学生同士で教え合うというのを、早い段階からやれば、それだけ合格率が高まると思います。だから、それが、例えば2年生のうちから始められたら、とてもいいなと僕は思っています。でも、彼らも彼らの時間があるので、なかなかそうはうまくいかないですが、3年生になったら、学生が自主的にグループで教え合うというのは増えたと思います。
国家試験の合格率への影響で言うと、毎回同じレベルだったらいいのですが、年によって難易度が少し上下してしまいます。合格率が非常にいい年は、やはりそれだけ問題傾向が易しいです。
すると、次の年は合格者を絞るために難易度が上がります。だから、そういう傾向によって、全国的にも校内でも、どうしても合格率の増減には響いてきます。
同じレベルの国家試験がずっと続けば、とても助かるのですが、本当に難しい時はがくんと難しくなるので、その対策は難しいです。ただ、年々、増減の振り幅を減らしながらも、少しずつですけれども、上方推移している形ですね。
でも難易度が高い時に、「グループ学習しておいたあの時のあの問題だね」と思い出せたら、最高ですね。「あの時話し合って、こんなの出ないだろうと思っていたような問題が出ちゃった」となれば、めっけもんだと思います。
以前、「みんなで出し合った問題が出たよ」と学生に言われた時があって、その時は、本当にとても嬉しかったのを覚えています。
Q.どういった点を取り入れると効果的ですか?
住吉 学力がそれなりにつき始めて、かつ、何か一つ成功させたい目標があるのだけど、夢中になるものが他にもあって、身につけた知識がバラバラになり始めている時期があると思います。
僕らの学校で言えば、3学年のうち2学年が、特にそういう時期です。アルバイトや仕事が始まりますし、社会的な興味も増えますから。そういった時に覚えていることと覚えていないことの区別が分からなくなってくるので、そこを統一する時に使って欲しいと思います。
「ここは忘れていた」「それはここに出てくるよ。覚えている?」「いや、忘れていた。教えて」というような学生同士のやり取りを通して、何を覚えているか、何を忘れているかを把握したり、お互い覚えていることは納得したりできます。「あれ?私だけ知らなかった」とならないようにするために、使ってほしいと思います。
だから僕は、問題抽出型授業で使うリクエストシートはとても大事だと思っています。しばらくは保管して、どこかでもう1回問題を作り直して、彼らの中で、もう1回役立ててもらっています。
このシートを作るきっかけになったのは、ラーメン屋さんの券売機を見た時です。
今のラーメン屋さんには、まず基本のラーメンの種類を選んだり、トッピングをいくつも選んだり、いろいろなオーダーのしかたがありますよね。
それを見て、「これは悩むな」と思った時に、たぶん学生も勉強の中身を同じように悩んでいるのではないかと思いました。何を食べたことがあるのかないのかを忘れるようなものです。
覚えていることといないことを、一斉に統一することはできないと思うのですが、「ああ、そういう内容だった」というのをまとめたい時に使ってもらえればよいと思います。
ゴール地点は、それぞれの先生方が設けられているポイントがあると思うのですが、やり方はいろいろあっても、結局そこにたどり着けばいいと思います。そのためには、これはダメ、あれはダメとするのではなく、いろいろな意見を聞きながら誘導するやり方として、僕には、アクティブ・ラーニング型授業は使いやすいです。
国家試験では、この点数じゃないと合格できないという基準があるので、学生が忘れようとしていることを拾って、その点数に達するようにしてあげる。だから、いろいろなことを手に付け始めた時にこそやってほしい。そういう勉強法だと思います。
Q.これからアクティブ・ラーニング型授業を取り入れる先生方にアドバイスをお願いします
住吉 学習方法には、多種多様、いろいろなやり方がありますし、先生たちのそれぞれのやり方があると思うのですが、まず、先生自身がおっしゃりたいことを置いておいて、学生の話を聞く方法をたくさん持ちたいと思った時に使って欲しいと思います。
どうしてもここを教えたいと思った時は、一辺倒に教えたがるのですが、実はその前に、学生に聞いたほうが、彼らのやる気を引き出しやすいです。
こちらから「これ知らないよね?」と問いかけて関心を持たせた上で、「これはここに書いてあるんだよ」などと教えてあげるとスムーズです。
それがなくて、「この言葉はこういうものですよ」と一方的に与えてあげると、今の子たちは、それに対して、「ふ~ん」と、ちょっと冷めた反応になることがあります。
なぜそういうことがあるかというと、彼らは、聞いたことがない状態で教えてしまうと、思考が止まってしまうからではないでしょうか。まず、彼らの分からないこと、分かっていることを聞く。そして教えるという順番だと僕は思います。
一方的に教えるのではなく、興味を持ってもらって、それに対して返すというのが一番のポイントだと思います。学生から聞くことのコツは、スタミナ勝負で大変だと思うのですが、動き回ることです。
それぞれのグループでいろいろなことをしゃべっているのですが、何か言い始めたなと聞こえてきたら、すぐに動いて、「何?どうした?」と尋ねてみます。すると学生が「これは、こうじゃないですか?」と言ってくるので、それを聞いて「もうちょっと、こっちに考えてみたらどう?」と投げかけてみる。
あるいは、「何が分からない?」と分からないことも聞いて、「全然分からない」と答えたら、「じゃあ分からない時は、どうやって答えを出す?」と声をかけてあげてみる。
分からないなら分からないなりの答えを教えてあげないと、彼らは分からない状態のままで終わってしまう。そうならないようにすることも、コツだと思います。だから、フットワークはとても大事だと思います。...
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