概要
生徒が地理用語になる!?
対話的で深い学びを10年以上追求し、たどり着いたゲーム型授業とは?
「地元で幸せに生きる」「幸せを探求していく」そして、「より良く生きる」。
そのための力をつける授業をしたいと鈴木先生は言います。
もともとは20年ほどキャリア教育に携わっていて、生徒がよりよく生きるために授業で何ができるかを考えて試行錯誤した結果、今のような授業にたどり着いたそう。
取材当日、鈴木先生の第一声は「さあ、皆さん、今日もジオ神様がきました!」
さあ、いったい何が始まるのでしょうか。
ゲームのように展開していく授業のポイントをお聞きください。
※鈴木先生の地理の授業は、学校導入版で視聴できます
学校導入版の詳細はこちらをご覧ください
Q.どのような試行錯誤をしてきたか
鈴木 映司先生(以下、鈴木) 日々失敗もありますが、うまくいった面もあり、フィードバックを持ちながらやっています。こういう授業を始めたのが10年くらい前なので、例えば初期の段階では、思ったように生徒が動いてくれなかったり、やはり授業の中で対話していいのかという戸惑いもあったりしました。
それから、ICTなどの機材を使うので、それでトラブルがあったりします。今日も、iPadでWi-Fiを受信できなかったりして、そういうことにも対応するのですが、機材の関係や、教授法に慣れないということもあったりします。
それから同僚の方々から「こういう授業をやっていって大丈夫か?」という声などもあったのですが、そのあたりは今はクリアはしています。
Q.教える上で大事にしている事は?
鈴木 私は、ビックリマークとクエスチョンマークとハートマークなどのトレードマークを色々なところに表示しているのですが、まず、「あ、これなんだ?」と気がつくということです。何にもないと思えば何もありません。
そのままスルーしてしまうこともありますが、このビックリマークで「あ!」と気がつきます。それをいっぱい持つことです。好奇心を持つことと、物事に関して「なんだろう?」と疑問を持つということです。
そして、そういうハートマークを、良いなと思うことです。「ああ、何かあるんじゃないか」と探して、「これ、なんだろう?」と考えて、そして、「ああ、こういうのって良いな」と思うことのサイクルを常に回しているということです。
Q.地理を学ぶ必要性
鈴木 大きい話をすると、やはり持続可能な世界を維持していくことです。一番根っこにあるのは、地元で幸せに生きることで、あちらの黒板にも書いてありますが、自分たちがいる足下の地域をしっかり学んで、そこの地域で育まれた、「自分がいったい何者か」ということ、それを持って世界に出ていくことです。
そういう視点を持ってもらいたいと思います。地元には良い点もあるし、悪い点もあるかもしれません。それをしっかり分かった上で、他の地域に出て活躍したり、帰ってきたりするような、そういう力を生徒たちにつけてあげたいです。
Q.地理を学ぶ面白さ
鈴木 地理の場合は、実際にその場所に行けるということです。歴史と違って、例えば地図帳に載っているその場所に行って、色々な実体験が可能だということです。
あとは、未来を予測するということをやります。やはり、そこがこれから生きていく生徒たちが未来を考える材料になるという点に、魅力があります。
Q.生徒たちに学び取ってほしかった事
鈴木 食の安心安全は、自分たちにもとても関係があって、他人事ではないということを学び取って欲しいと思います。なので、今日は最後に、短い文ですが、自分の言葉で一言述べよという風に、学んだことを自分のことに置き換えることをしました。
Q.生徒の変化について
鈴木 今の段階ではけっこう書かせます。テキストで書かせるということをやっているので、まず書くことに抵抗がなくなり、それから表現することや、対話することに垣根が下がって、授業中に対話して、答えがない問いにトライしていきます。そういう気持ちは生まれています。
Q.要領が良くない生徒は学びが深まらないのでは?
鈴木 グループワークなどで一番喋っている子が一番深まっているかというと、そういうことではないです。色々書いたものとか、私の場合はリアルにICTで送ってもらうのですが、周りで黙っている子がよく考えていたりします。
そういった時間も大事にしてあげないといけなくて、細かくやっていくのであれば、その全部、ログを録っていきます。会話の質というような発話分析などをすることも必要です。黙っていても、やはり考えている子はいます。
(それはロイロノートなどを見ていて感じる?)
鈴木 そこに書かれて表現されるものはテキストの場合もあるし、動画の場合も、音声の場合もあります。その中で、通り一辺倒にさっとまとめて出す子もいるのですが、「いや、この子すごく深く考えているな」というものは、表現されてくるので、それをキャッチするということです。
Q.基礎学力が高くないとAL授業はできない?
鈴木 先ほど話したように、「あ、これはなんだ?」とか、「どうなっているんだろう?」とか、そういう疑問を持たせることがうまくできれば、子どもたちというのは、自分の中に学ぶ力を持っていると思います。なので、こちら側が設定した問いが適切であれば、AL授業は出来るのではないかと思います。
「ゴールを何にするか」、ということですが、大学入試をゴールにすれば、それは基礎学力で、「基礎学力ってなに?」という点もあり、そういう尺度で見たら難しいかもしれません。しかし、そうではなくて、新しい時代、答えがないものに答えを出すことを目指していくのであれば、どんな生徒でも出来るのではないかと思います。
Q.AL授業を通して、生徒から教わったこと
鈴木 毎日教わっています。授業の成否というのは、生ものでありライブなので、一瞬一瞬の空気の中でも、その反応や、目線、呼吸などで分かります。日々教わることはたくさんありますし、生徒に何か表現してもらい、それをキャッチすると、「あ、こういう感性なのか」とか、「ここに関心があるんだ」と気付かされます。
やはり教師目線ではない発言、それから生徒同士の対話から色々なものが生まれるので、これは、私から一方通行では出来ないことです。対話の中で、深い学びをするというところは、やはり大事な部分だと思います。
Q.1年間でAL型と講義型の割合は?
鈴木 半分より少ないかもしれません。けっこう普通の授業でも、インプットすると言っても一方通行ではなく、ペアワークを入れたりします。それから、問題を解くのも、協働でグループ作ってするなど、周りの協力を得ていいという形にしてます。
そういうのも入れると、ほとんどのものが、アクティブ・ラーニングに似たものになっていると思います。
Q.生徒に関心を持たせる創意工夫
鈴木 まず自分が色々なところの体験へと足を運び、実体験をベースたくさん作ることと、あとは、テキスト、文字だけではなく、映像や、地図など色々なものを提供していく授業を心掛けています。まずは見て分かるというものを多く提供していく、ということです。
Q.良いAL授業にするため努力している事
鈴木 教授法は色々なものがあり、それは研修会に行ったり、本を読んだり、学ぶ場はたくさんあるので、それは勉強しています。また一番大事なのが、やはり教科の中身です。
教科の中身で問いの立て方や、評価の仕方、あとは、他の教科との関連など、結局、その教科の学びの中身が深まらないと、やはり良い授業は出来ないと思います。その部分は、専門の本を読んだり、あとは学会に出たり、私の場合は実体験することが出来るので、なるべくフィールドに出て、見てくる、聞いてくる、体験してくるということをしています。
(ちなみに、フィールドというのはどういう事をされている?)
鈴木 例えば、国内外です。ちょっとした時間があれば、私はテーマに、地元という近いところを入れているので、地元でまだ行ったことがなかったり、史跡とか自然の色々な名所であるとか、それはもちろん、農地を見たり、街を歩いたり、そういうこともあり得ます。
海外は、南極以外の全部の大陸に行った経験はあります。最近では、今年はデンマークに行ったのですが、50歳になった時に、今まで行ったことなかった南米にも行きました。そういったところも足を踏み込んでみたりして、行ってみて体験して話すと、実体験を元に話すので、やはり生徒への伝わり方が違います。そういうことは続けていきたいと思っています。
Q.AL授業をやる余裕が無いという声に対して
鈴木 教科書の内容を全部教えていかなければいけない、まずその点を考えたいです。教科書が何を教えているのかということで、それが一個一個の用語だとか、そういった知識なのか、それとも知識の活用なのかということです。
きっとこれから活用が大事だと思います。用語の部分というのは、ある程度、自学自習できてしまいます。うちの生徒の場合、教科書を読めるレベルだったら、それはいいとしてその先をやろうという形です。
それが難しいのであれば、例えば、やはり教科書をみんなで手分けして読むとか、今日であれば、見てもらっているものも、実はそのような精読をするものなのです。ですが、そういうアクティブ・ラーニングもあってもいいと思うので、知識の部分はけっこう個人でやらなければいけないところがどうしても出てきてしまいます。
出来ないかというと、そこを協働でやるような仕組みを考えられないのかなと思います。そこがやっぱり力量の見せ場ではないかと思っています。
Q.AL型授業は入試に対応できるのか?
鈴木 やはり進学校なのでそこの部分は外せませんし、今の学力に合った、その入試に合った進路保障、これは当然前提です。そのために、AL型授業は対策として入試にも合っていて、新しい時代に必要な力も両方つけることができていると思います。
なので、今はハイブリッドの形でやっています。しかし、結論から言うと、やはり新しい時代に必要な力をつけていけば、今の入試というのは活用レベルまで求めないので、知識の定着レベルでOKなのです。
これから活用、さらに探究ですので、上のことをやっているので、下のところは段々力がついてきて対応できると思います。
Q.ALに挑戦する先生へエールを
鈴木 少し勇気を出して、ペアワークでもいいし、グループワークでもいいし、始めてみるということが第一歩です。あとは生徒からフィードバックを取るというのが良いのではないかと思います。ハードルをすごく上げなくてもいいです。
有名な方法でやらなければならないとか、そういうことはないのです。全国津々浦々で、自分の教室、自分の生徒の時間に、生徒が深い学びをしてくれればいいわけであって、答えはないです。自分で考えるしかないのです。これは、生徒も教師も同じです。
なので、誰が上で誰が下という考えは、僕は持っていません。その瞬間、良い時間、良い授業が出来れば、それはパッと消えてしまうものなのですが、それでいいのだろうと思います。
生徒が深い学びをして、学んだものをずっと持ち歩き、色々な時にそれを思い出してくれて、新しい答えを常に書き換えていくことができればと思います。更新していくような力がつけば、それで授業は良かったのではないかなと思っています。
※鈴木先生の地理の授業は、学校導入版で視聴できます
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プロフィール
鈴木 映司 先生
静岡県立韮山高校 教諭 地歴公民(地理) 三年担任
教員歴30年。「総合学科の立ち上げ」「普通科・進学校におけるキャリア教育の推進」に携わる。全国高等学校進路指導協会教材作成委員、日本キャリア教育学会会員、日本協同教育学会員、全国キャリア教育・進路指導担当者等研究協議会パネラー(国立教育政策研究所)。公立の進学校で「合格」ではなく「その先で何をするか?」を目標とした、キャリア教育とアクティブラーニングを推進している。
出版等
・「アクティブラーニング実践」産業能率大学出版部 共著
・「高等学校におけるアクティブラーニング:事例編」 東進堂 溝上慎一編
・iTeachers TV にてICT活用例公開
・リクルートキャリアガイダンス Vol.404 2014.10
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