概要
ウェブで大人たちにインタビュー。
「人生って自分の選択次第で変えられるんだ!」
生徒の可能性を広げる授業
「先生、私たち、出前授業をしたい!英語を学ぶ楽しさを伝えたい!」と、Twitterで集客をしてオールイングリッシュの出前授業を開催したり、学外で開催される4日間のサスティナビリティのワークショップを見つけてきて参加したり。
江藤先生の教え子たちは、まさに主体的に学ぶアクティブ・ラーナーです。
彼らは、総合学習の時間で『自分にも世界が変えられる』ということを学んでいます。
この日のワークは、『リアル人生すごろく』。
自分の未来は自分で創る!をテーマに、AさんとBさんの2人の人生を描きます。
前日までに各自で実施したインターネット通話を使った社会人へのインタビューの報告から授業はスタート。
例えば、ニューヨークに住む大学教授の森田さんにとっての幸せは、自分の好きなことを自分の好きな人たちと好きなペースで物事を進めていくこと。 例えば、自分の本を自分で一からすべて作っている山崎さんは、やりたいことをするために、やりたくないことをするのをやめた人。
様々な大人たちの価値観に触れ、生徒たちの人生観が広がっていきます。
「人生を一本道だと思っていると、うまくいかなくなった時に他の道に行くこともできずに動けなくなってしまいます。ステレオタイプの正解の道を歩むだけが人生じゃない。未来は自分の望むように変えられる。このことを生徒たちに気づいてほしい」
江藤先生の願いは、授業を通じて生徒たちにどう伝わったのでしょうか?
動画の最後で生徒たちが語った人生観の変化とは?
ぜひ最後までご覧ください。
Q.前回までの授業の流れを教えてください
江藤 由布先生(以下、江藤) この授業は4回連続の授業の最後になります。高校生の頃は、「自分が世界にできることなんかない」という感じかと思います。「自分には世界を変えられない」をビフォーとして、「自分も世界が変えられるのではないか」というアフターにすることが1つのミッションでした。
いくつかステップがありますが、最初のステップとして、人生ストーリーを書いてもらいました。感情の軸と、時間軸があり、まず、過去をプロットしていきます。
そして、「過去にこんな嬉しいことがあって」とか、「この時期は辛かったな」とか、17歳までプロットして、一番印象に残っていることを3つ書いたと思います。
桑原 恭祐氏(以下、桑原) はい。
江藤 ワークシートは、共同代表の桑原さんが作っていますが、未来をプロットすることは、社会人には難しいです。我々がやろうと思うと、2035年はプロットしにくいのです。
私が桑原さんに「生徒はたぶん一瞬で簡単にできるよ」と言ったら、桑原さんは先生ではないので、「そんなの、嘘や」と言いました。実際にやってみたら、生徒は3分くらいで書きました。さっき言ったように、全員が同じ未来だったのです。
生徒の中で色々な気づきが生まれつつあったのですが、そのまま放っておくと、一本道で終わってしまうので、2回目の授業は少し視点を変えました。アメリカ大統領選の週だったので、今度は「アメリカ大統領選を俯瞰してみよう」というテーマでやりました。
ニューヨークタイムズを定期購読しているので、「ニューヨークタイムズでは大統領選をどう扱っているの?」と見ると、全部が全部否定的です。
当然、アメリカのメディアはほとんどが否定的でしたが、「もし彼が大統領になったことで、良い兆しがあるとしたら、それは何なの?」と考えました。「じゃあ、自分が滅亡した国の宇宙人だとして、そういう自分の経験を生かして、トランプさんに何か言いたいことはある?」いう感じで、大きく俯瞰してみようという授業を2回目にやりました。
3回目は、これも桑原さんの資料からですが、2035年の生き方や、「社会はこうなっているのではないか」という経産省が出しているシナリオを読み、まとめ作業をして、自分の人生と照らし合わせてアウトプットしました。
そして、4回目との間に何をしたかというと、昼休みに、班ごとにZoomというアプリを使って、外部の人へインタビューをしています。インタビューの中では、「自分の幸せな未来を考えた時に、どんな問いが生まれるだろう」という質問をいくつか作り、それを使っています。
だから、普通のインタビューとちょっと違うのは、「あなたは今、何が幸せで生きていますか?」とか、視点が「幸せ」にシフトしているところです。「どういうこと、どういう過去に躓いて今に至りますか?」とか、「どんなきっかけで今の仕事を始めましたか?」とか、色々な質問があります。
インタビュアーは今回、私が選んでいます。インタビューした内容を、生徒が全部書き起こし、アウトプットするというのが、今日の授業の前段階にありました。アウトプットの時には、Medium(ミディアム)という世界中で使われているブログのアプリを使います。面白いのは、クラスごとにブログを一つにまとめられところです。
アウトプットしたものを使い、今日の授業の中では、「正解と言われる幸せ」と、「インタビューで聞いた話から総合すると、こういう生の解答があるのではないか」という回答と2通り考えています。
Q.インタビューのテーマを「幸せ」にした意図は?
江藤 必ずしも幸せがテーマということではありません。インタビューの中で、ひたすら躓きについて聞くとか、苦しみについて聞いているチームも…。
桑原 ありましたね。
江藤 はい。自分で本の製本をするアーティストがいて、その人には、何故かそのチームは躓きや苦しみについてばかり聞いていました。
それを聞くことで、「人生が深まって、色々気づきがありました」と、アーティストの方から感謝されたのですが、幸せがテーマではないです。
桑原 真ん中にあるテーマが、「未来の働き方を知ろう」。これが元々のお題目でした。たぶん、生徒たちのインタビューが幸せとか、人生に派生しているのも、働き方と幸せと人生が、密接に関わっているからだと思います。
色々な起業家や、製本アーティストなど面白い人もインタビューしましたが、仕事のことから派生して、挫折から味わったこととか、今幸せに感じていることなどが出てきたのではないかと思います。
Q.キャリア教育を始めた経緯について
江藤 日本のキャリア教育の中で、一番「頭が痛いな」と思っているのが、先生が想像する未来にしか当てはめられないということです。その中には起業家や農家は入っていません。
起業家とか農家が将来生まれなかったら、たぶん日本はこのまま沈没します。先生の見識の狭さが1つあり、もう1つは、もし外の世界と生徒を繋ぐとしたら、NPOなど、どこかの業者に丸投げするパターンが多いことです。
でもそれなら、本当の学びには繋がらないと思っています。むしろ学校の学びと社会の学びがイコールになってないと、生徒にとっては非常に不幸なことです。
きっかけは去年の7月の夏期補習です。普通はドリルをやるのですが、ドリルをやっても何の役にも立たないので、「じゃあ、うちのクラスは4日間どこかに連れ出そうよ」と提案しました。
去年までクラスにいた、太郎という卒業生が、授業を一緒にデザインしてくれました。彼は、私の影響をいい方向に受けすぎて、日本の大学にどこでも行けるけど、今はモデルをしていてイタリアにいます。
彼と4日間、何をやろうと考えた時に、兵庫県の佐用町でお母さんがボランティアをされていました。「じゃあ生徒を連れ出して、移住者の人や地域の人と語る場を設けて、向こうに対しても何か提言するようなことができたらいいよね」と話をしました。
その時に、たまたま顔見知りだった桑原さんが頭に浮かび、太郎と私でも授業は作れるけど、第三者がもう1人入ったら面白いということで桑原さんが入りました。それがきっかけで、キャリア教育にシフトしていきました。
むしろキャリア教育というよりは、さっき言ったように、「学校の教育と社会の教育がイコールになるべきだよね」という考え方がベースです。
Q.桑原さんは普段は何をされていますか?
桑原 江藤さんが去年の10月に立ち上げたオーガニックラーニングという社団法人があります。江藤さんが代表で、自分が理事というか、副代表で、共同代表のような形で入っています。
普段は自分自身も色々、他の大学とか専門学校の授業を全国でやりながら、たまにこうして江藤さんと組んでいます。主には、教育とか、経営とか、あとはオンラインでそれを広げていくとか、色々なことに関心があるので、学びながら実践して、実践しながら学ぶということを繰り返しながら生きている感じです。
Q.授業に協力することになって
桑原 元々京都で塾をやっていて、そこでも、みんな好きにしていると言いますか。カリキュラムもないし、何をやるかも、ある意味では決まってない中で、「自分たちの活動は、こういうことをしたい」と手を挙げてもらって、企画書を作ります。例えば、営業がしたいなら、アタックする先を探します。
実践型のことをしたいというか、それしかできない感じです。求められる先も少ないですが、たまたま「既存の学校の枠組みではできないことを外と橋渡しをしながら、生徒のために歓迎したい」というお気持ちのある方と活動させていただくことがありました。
決まりごとが何もないところから、太郎ちゃんと3人で一緒にこういった場を4日間で組み立てていきます。何もないところに作っていくことが楽しいですし、そこから得られるものは、自分たちにとっても生徒にとっても大きいと思っています。
Q.授業のデザインについて
桑原 一緒に考えることが多いですよね。
江藤 私はリソースが圧倒的に不足しています。例えば、2035年の経産省のデータとか、そういうものは桑原さんが持っています。社会人向けのワークショップやブランディングなど、色々なものをとても貪欲に学んでいる人なので、そういったノウハウは桑原さんがたくさん整理して持っています。
だから、授業のデザインそのものとか、「こういう思いがあって、こういうものを実現したい」と生徒を動かすのは私ですが、そこに至るまでのノウハウや「What」は、ほとんど桑原さんから出てきています。
桑原 基本的なパターンだと、江藤さんにビジョンがあったり、もしくは学校の現状の課題を、社団の活動をしている時に聞いたりします。
自分も、毎回、毎日毎月というよりも、だいたい春夏秋冬に1回ずつ、集中して4日間参加することがあります。その時は、江藤さんや周りの人の方向性に対して、自分やチームで関わっている人のリソースの中でできることを順番に組み立てていく形です。
何か決まったカリキュラムを一緒に作っているというよりも、その時その時に、生徒に必要だと共通で思っていることを場として提供しているような形です。
江藤 常に、私の中で、もどかしさみたいなものが強くあります。生徒たちは本当に良い子たちで、どれだけ無茶ぶりしてもついてくるし、何でもその場に求められたことをやりますがそれだけでは足りず、どうしても2~3時間すると、発想が世間一般のところに戻っていきます。
「やっと良いところに思考がいっているなぁ」と思ったら、やはり学校は軍国主義的な感じなので、7時間目あたりになると、元に戻ってしまいます。それが積み重なって、何ヶ月かすると、「ああ、もうちょっと、さすがにこの辺でもう一回カンフル剤入れとこうか」となることもあります。
あと、授業にゆとりがあるところが年に3回くらい出てくるので、そこについて集中的に考えます。でも、どこかの企業に電話して、「じゃあ、これやりましょう」という感じではありません。昨日も、スカイプで夜中まで話して決めています。
Q.どのような思いからキャリア授業を立ち上げましたか?
江藤 これが、4年ほど前まで、驚くほど何もなかったのです。生徒に平気で、「君らの力で世界は変わらないから」と言っていました。生徒が、例えば小論文の最後に、「一人ひとりの一歩で変わると思います」と言ったとき「アホか」と、一蹴していました。
アクティブ・ラーニングを始めた時期でもありますが、ちょうど学校にiPadが入った4年前に、フェイスブックやブログで発信し始めると、世の中の人が「面白い、面白い」とたくさん言ってくれるようになりました。
その中でも、特に大きな、4000人くらいのグループの人が、「江藤、良いね」と言って、インタビューなどをネット上で受けるようになり、あれよこれよという間に、ネット上の人が会いに来るようになりました。
今度、桑原さんと出会った時、私は子どもが小さいから、それまではあまり外にも出なかったのですが、「リアルの場に行ってみようかな。仙台に行こうかな」と言ったら、「行ったらいいじゃないですか」と、桑原さんが背中を押すようになりました。
もう1人のメンターがマレーシアにいますが、背中を押してもらって外に出ると、「あれ?自分が想像した通りの未来が勝手にやってくる」と気づいたのです。これがそのまま授業に反映しているので、さっきの組織論も同じですが、自分の変化が授業に反映されています。
Q.外部から関わってみて感じる生徒や自分自身の変化
桑原 自分も絶えず新しいことを学び続けていて、例えば、新しく学んだことが江藤さんの課題意識や、今求められていることにフィットすることがあります。
自分も江藤さんも変化していて、教室も変わっていきます。一番面白いのが、先ほど発表のような形で言語化してくれた、生徒の応答とか気づきの深さです。
僕は、春、夏、秋に参加するので間は空きますが、その分、生徒の変化や、「この子、もっと深まっているな」と感じられるシーンが多くあると、「一緒に成長できているなぁ」という感じがします。
Q.新しい授業を作り出す発想方法は?
江藤 江藤家の家訓は、「なければ作る」です。江藤家は本当に多彩で、この間、父が大きな国際学会を主催したのですが、そうすると、妹がウェブページや、パンフレット作りをやります。母が、奥様方のワークショップをやります。私は、超スローモーションのショーの大きなコンテストでプレゼンターをやり、色々な人にインタビューに行きますと、家内制手工業みたいに、みんな何か力を持っています。
そういうベースで生きているせいか、何かを押しつけられ、管理されることがものすごく嫌です。だから、「このカリキュラムに沿ってこうしないと、ステップを踏まないといけない」というのは、どちらかというと非常に苦手です。
その分、生徒を見た時や、話した時に「こういう問題があって、ここちょっと解決していったほうがいいよね」と見つけて、それを授業にしていきます。もう1つはセレンディピティみたいな感じで、自分がフェイスブックとかツイッターとか、本の中で読んでひらめいたことを、その場で授業にしていきます。
去年だと、生徒はビジネスモデルキャンバスを3週ほど英語でやりましたが、「先生これ、めっちゃ詳しいですね」と言われました。「いや、3日間かけて本読んで勉強したんだよ、絶対面白いと思ったから」と答えました。世の中の先生は、束縛があると思いますが、授業の中で1分でもいいから、自分が本当に興味のあることをやったほうがいいと思います。
Q.授業を通して生徒にどうなってほしいですか?
江藤 未来は自分が望んだようにしかならないということです。自分が望まなければ未来はやってこないというか、お仕事をするとご縁が色々とあると思いますが、その大切さを、学校では習わないじゃないですか。
一本道だと思っていると、ご縁が来ても気づかずスルーしてしまうので、「ご縁ってあるんだよ」、「思っていたら勝手に向こうから来る時もあるんだよ」と知ってもらい、ご縁が繋がっていくような経験をしてもらいたいです。
例えば、去年の8月にやった107人ほど集まったワークショップ「ラーニングスプラッシュ」は、生徒が運営で入っていました。本当に色々な人が来て、どんどん繋がってまた別の動きができてきたりするので、それを間近に見て実感して欲しいです。
自殺する子がなぜ生まれるのかというと、一本道だと思い込んでいるからだと思い、心を痛めています。だから、一本道から逃れられなくなるのですが、生徒にも「正味、結婚したら子どもができて、と思っているかもしれないけど、10人に1人は不妊だからね」という話をよくします。
実際「これしかない」と思うと、すごく苦しくなるから、そうはなって欲しくありません。
桑原 僕も似ていますが、「1つの道が全てじゃない」と頭に入れておいてほしいと思い、そのために、たまにですが、こうやって場を作りに来ています。
自分自身も大卒からずっと独立してやっていますが、なんとなく行ったカフェで出会った縁が、とても広がっています。単線でモノレールみたいになっているというよりも、自分の、人の繋がりマップを描くと、蜘蛛の巣のようになります。
だから、自分自身がそもそも出会った人とか、ご縁で出来ているなという実感があって、それを江藤さんと共有しながら、学校で場を作っています。
自分が「これ全てや」と思っていることが、今日のワークの一番シリーズの最初に出てきて、「もう大体、こういう人生になることが決まっているらしい」と思ったら、それにしか進めません。
ちょっと変な人もいるというのを自分だけでなく、周りにいる人からも知るのと、全く知らずして進んでいくのでは、人生の開き方が違ってくるなと思っています。
好きにやれと言っているわけではないですが、普通に歩むこともできるし、独特の歩みをしている人もいます。新たな道を自分で作り上げ、発信して、共感してくれる人がいたら、形になっていくと思います。そういった感覚を体験として共有したいと思って、共に生きているのだと、今ふと感じました。...
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