概要
自分の意見を持ち、それを相手に伝える力がついた!論理的思考力を高める、ICTと付箋を活用した世界史授業
「知識の基盤は必要だけれど、それだけではグーグルで検索するのと変わらない。教師の仕事は、知識をどうコーディネートし、組み合わせるのかだと思うんです」
吉川先生の授業では、生徒たちは常に「何が大事なのか?」「これをどう人に伝えるか?」ということを考えながら学びを進めていきます。
その仕掛けの一つが、付箋の使い方。
授業中に大事だと思ったことを付箋にメモし、授業の最後にその付箋を使って、隣同士で説明をしあいます。
また、授業後半では、班の代表の生徒がモニターを使いこなして授業も実施します!
ぜひ実際の授業の様子をご覧ください。
Q.世界史を学ぶ意義
吉川 牧人先生(以下、吉川) EUのイギリスの問題についても、アメリカの大統領選挙についても、大人が先を見通せない時代になってきていると思います。そういった大人ですら一歩先が分からない時代の中で、生徒たちがこれからを切り開いていくための指針として、「過去からの経験の積み重ねの歴史」というものを自分のものにできるか、できないかというのは、かなり大きな資質の違いになってくるのではないかと思います。
その中で、なるべく受け身の授業ではなく、生徒たちが主体的に「自分がこれを学ぶんだ」というものをぜひ掴み取ってもらいたいと思いながら、授業をしています。
Q.世界史を学ぶ醍醐味は?
吉川 世界史は、現代の社会を見る上で、非常に重要な1つの鏡だと思います。例えば、この世の中の貧困であったり、格差であったり、争いであったり、色々なものが歴史の中に出てきて、小さな積み重ねのもとに、今大きな形として出来上がっているのだということを伝えていきたいです。
それを色々な見方のある中で、その多様な価値観の中の自分の歴史観というものを作っていってもらいたいと思います。
それを出来ることが、生徒に伝え、考えさせることが一番の醍醐味であり、その中で未来を切り拓く人物が現れてくれれば、それは教えた成果なのかなと思います。
Q.今回の授業で生徒に学びとって欲しかったことは?
吉川 1つは、山田長政という人物をクローズアップしたことで、一見教科書に載っているただの人物から、漢字の数文字の存在ではなく、彼が実際に我々と同じような土地から、遠い国へ行って活躍した身近な人物であり、生きていたというその肌感覚、そのフレッシュさを感じてもらいたかったです。
あとは、教科で言えば日本史の内容なので、世界史の主なテーマではないのですが、今後の歴史総合の流れなど、そういう教科の再編等を踏まえて、やっぱり日本史と世界史を合わせた立体的な授業が出来たらいいなと思い、今回の授業で少し扱ってみました。
またそれに加えて、生徒が授業でやっていましたが、地理的な概念や気候的な概念など、そういう部分も積み重ねて、より多面的なものになったらいいなというのが今回のテーマです。
生徒がこれから生きていく上で、世界史の教科書だけの内容だけではなく、どんな世界史を学んだことで成長していくのか、というところが大きく問われている時代だと思います。
例えば、山田長政のような日本史の中の内容とリンクしたり、地理とか気候とか、もしくは外国語とか、色々な面でリンクしたりしながら、そうした中で本当に立体的に、生徒の中に積み上げていくような授業が出来たらいいというのは、非常に強く思っています。
なので、その1つの土台がやはりICTとアクティブ・ラーニングだと感じています。
Q.生徒を惹きつける方法は?
吉川 歴史というのは過去の出来事なので、一見すると自分と関係ない情報になりがちなのですが、それにいかに生徒側に惹きつけて、寄り添わせるのかというところです。例えば、動画を使ったり、画像を使ったり、もしくは地元のものを扱ったりしています。
今回は中学校の教科書も使って、中学校・高校の連携の中で、実は「学んだことが今の知識に反映されているんだよ」というところなども、工夫してやっていきたいなと思っています。
Q.アクティブ・ラーニングと講義形式の授業との割合は?
吉川 本校は進学校なので、大学受験を意識した上でどうしても知識は必要になります。その基盤となる知識に8割を注いでいく中でも、必ずその授業の過程の中で、2割くらいはアクティブ・ラーニングを使いながら、受け身ではない主体的な姿勢を作りたいと考えています。
そのため、やはり知識の構成が中心なのですが、その方法として、アクティブ・ラーニングがあって、その時間を生み出すためにICTがあると理解してやっています。
文化史だとどうしても、なかなかアクティブ・ラーニングの形でやるのが難しい場合もあるのですが、普通の授業ではほとんどあの形で毎回やっています。
Q.試行錯誤した点は?
吉川 色々なことを取り扱っていますが、ほとんど、言い方を変えれば真似になります。色々な学校の先生たちや、色々な人たちの真似をしながらやってますが、それを自分のものに出来るのか出来ないのかというすり合わせを、今まで相当行ってきました。
その中で、「感じる側の生徒がどうなのか」というところが一番問題だと思います。例えば、アクティブ・ラーニングとICTが目的にならないように、生徒にアンケートを常に取ったり、扱うものに関して、その都度、生徒に感想を聞いたりしながら、生徒と一緒に作り上げている今の段階の形が、あの形なのかなと思っています。
Q.今の形に至るまでの失敗談
吉川 アクティブ・ラーニングについては、色々な大学の先生が講義に来たり、勉強会に行ったりしていたのですが、大きな取り組みとして「アクティブ・ラーニングをやらないと」と思うと、なかなかうまくいかないことが多かったです。
例えば、今日の付箋のものなども、他の先生がやっていたのを真似したものですが、主体的にやるために、授業の中で大事なものを付箋に書き出す、ということです。
最後に付箋に書き出したものを隣同士で説明することによって、自分がきちんとそれを、重要で論理的に繋いで説明していくということをやっていきます。あれも十分アクティブ・ラーニングだと思うので、ああいった形で、簡単なことなのですが、より生徒にとって役に立つというか、すぐに取り扱いやすい内容のものをやるようになっていったという変遷があります。
Q.授業前の準備は?
吉川 アクティブ・ラーニングに限らず、授業の題材を探していくのはなかなか大変な作業だと思います。例えば、地元の静岡大学では、高大連携で歴史教育を一緒に考えていこうという研究会などがあるので、そのような会に出て勉強したりします。
あとは、東京で学会などがあれば参加したり、県内の仲間と成果を確認しあったり、色々な場で、他の人たちと今の流れはどうなっているのかということに、なるべくアンテナを広く立てていきたいと思っています。
また、大学など学問のレベルの中で、歴史学という方向性が今どこに向かっているのかなど、そのようなところを積極的に勉強して、高校の教育にも反映できたらいいと思います。
教科書も会社によって色々な見方があり、一般社会でも歴史観が多様になっているので、そのようなところにも生徒が対応できる、多面的な知識を持つ生徒を作りたいなと思っています。
アクティブ・ラーニングをやっていく上で、生徒に何かをさせるためには、やはり自分がこのテーマについて、「非常に心動かされた」というものがないと、生徒にもそれが伝わらないと思います。
例えば、今回のテーマはタイのアユタヤでしたが、実際に夏休みにタイに行ってみて、アユタヤの町を回ってみたりしました。また山田長政がどんな活動をしていたのかということを実際辿ってみたりする中で、「地元の中からはるか昔に世界へ飛び立ち、活躍した人がいるのだな」という感動がまず自分にないと、今日の授業はなかなか成り立たないのかなと思います。
そこがきちんと出来ていれば、おそらく生徒に考えさせる中でも、生徒の中から主体的に色々なものが生まれていくのではないのかと考えます。
Q.自分が行って映像まで撮ってみてという情熱が素晴らしいなと思うのですが、そのモチベーションはどこから来るのですか?
吉川 自分が知りたいというところが大きくあります。実際に教科書の中の書いてあることや、果たしてその人物がどんなことを思っていたのかなどです。今日もグーグルアースで、日本人町を探した時に、「こんなにアユタヤの町から離れているんだ」という声がありましたが、その感覚というのが重要だったりすると思うのです。
そういう感覚を生徒にぜひ味わわせたいなということと、そのためには自分の準備が必要だなと思うので、なるべくその準備を惜しまず、自分の感動をたくさん作りたいなと思います。
Q.生徒の変化した点
吉川 例えば、講演を自分が受けている時でも、意外と集中して聞いてない時が多いと思う時があり、講師が話している内容以外のところをペラペラ見ていたり、違うことを考えていたり、「必要な部分だけ抜き出せばいいや」と思ってしまう部分があります。
おそらく、生徒も授業の時、同じように感じているのではと思うところがありまして、なるべく生徒自身が「これが大事だな」、「これを人に伝える時には、どう伝えるんだろう」と考えてもらいながら、授業を受けてもらいたいと考えています。
付箋を使ったところも、そこがポイントです。やはり人に伝えるためにはどこがポイントなのかを考え、それを付箋に書き出して、常に授業の中で、大事なところを自分が探していく必要があり、そのような形をとっています。
ひょっとしたら、付箋の中に書いてあることは大事じゃないこともあるかもしれないですが、その過程で何が大事なのかを自分で考えて、授業を受けているというところが、非常に重要なのだと思います。
アクティブ・ラーニングのピラミッドの三角形で、伝えるという部分が大切だということはよく言われるので、そこをなるべくうまく、生徒側の自主的な気持ちでやらせていきたいなと思っています。
Q.生徒から教えてもらったことは?
吉川 本校に来てまだ3年目ですが、前任校の時は完全に講義型で、ひたすら講義をするという形を十何年も、それに疑問も感じない中でやってきました。そしてこの本校に来て、アクティブ・ラーニングに触れ、生徒はどのような学びの中で成長していくのか、それを恐る恐る試してみる中で、自分が思っている以上に、生徒は色々なものを感じ、成長するのだなということを非常に強く感じました。
変わることは怖いですが、講義型から変えたら、例えば、点数を取れなくなったらどうしようとか、進度が進まなかったらどうしようとか考えるのですが、やはり生徒はその予想を裏切る成長をこちらに見せてくれるので、本当に気付かされることが多いです。
Q.基礎学力が高くないとアクティブ・ラーニングができないのでは?
吉川 知識の基盤は必ず必要だと思うのですが、我々の一番の重要な仕事というのは、その知識をどうコーディネートしていくのか、組み合わせるのかというところだと、非常に強く感じています。
例えば、講義で知識を伝えるだけでは、おそらくこれからの授業、教育というのは、グーグルなどの検索に負けてしまって、意味がなくなっていくと思うのです。その部分で、生徒の力というのは知識の組み合わせ方次第で、大きく変わっていくと思います。
Q.アクティブ・ラーニングで教科書を最後までこなせるのか?
吉川 本校も受験校なので、当然進度があり、最終的に終わる時期なども当然厳しい状況があるのですが、うまく時間を生み出すためにICTを利用して、ICTで作り出した時間で、よりアクティブ・ラーニングで主体的な学びをしていく、共同学習をしていく、という形にシフトしていこうと考えています。
なので、進度的には、講義型だけでやっている時よりもむしろ早く進んでいるというのが現状です。うまくそのICTとの絡みが出来てくると、進度の面でも心配がなくなるのではないのかと考えます。
Q.発言力がある生徒だけが発言して他の生徒の学びが進まないのでは?
吉川 色々な生徒がいると思うので、誰もがエースピッチャーにならなくてもいいと思います。積極的に前で発言するのが得意な子だったら、その子が活躍すればいいし、逆に下調べが得意な子は下調べを、しっかりとその土台を支えるという部分もあっていいと思うのです。
グループの中で、誰もがそれに関わるという状況をきちんと作ってあげれば、最終的には色々な力が伸びてくるのではないのかと思っています。
今日の授業中、1人の生徒が発表しましたが、あれは、彼が発表する内容の下準備をみんなでして、そのグループの中での代表を、今回彼がしたということです。彼の発表以外の部分で支えている生徒がいて、もしくは次の機会で、他の生徒が発表する機会も出てきます。グループの中で、自分がどんな役割を果たすのかというところがきちんと出来ていれば、それも大きなアクティブ・ラーニングなのかと思います。
Q.アクティブ・ラーニングで入試に対応できるのか?
吉川 私が一番アクティブ・ラーニングに期待しているのは、論理的な思考をいかに生徒が作っていって、それを発信していくのかというところにあります。
なので、人に伝えるとか、文章で表すとか、そういったものは必ず入試の面でも役に立っていくのではないかと思います。
例えば、論述問題に対しても、いかに的確に自分の意見を伝えていくか、もしくはどのようにして論理的にものごとを組み立てていくか、というところが、アクティブ・ラーニングで身につけた力には、大きな影響があるのではないかと思います。
Q.今後の目標は?
吉川 最近、教育SNS「Edmodo」というものを提供し始めているのですが、授業の中での完結型ではなくて、授業の前に資料などを渡し、こういったアプローチがあったり、授業の後に小テストをやり、こういうカバーがあるなど、またはそういう何かのコミュニケーションが生まれ、大きな知識が作られていく、というようなことがあればいいなと思っています。
そういった教育SNSがこれからどのように発展していくのかは、こだわって見ていきたいと思います。
Q.今後アクティブ・ラーニングを行う先生方に一言
吉川 講義からアクティブ・ラーニングに変えるというのは、非常に勇気の要ることで、怖い作業だと思うのですが、いざ踏み出してみれば、生徒はアクティブ・ラーニングをやりたいやりたくないなんて考えないし、とにかく自分の今の状況の中でベストなパフォーマンスをあげようとしてくれます。なので、意外とやってみたら、こちら側の恐怖だけだったのだなという体験が非常に多いように思います。是非とも、変わる勇気をお互いに持ちながら、常に変化していきたいなと思います。
...
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プロフィール
吉川 牧人 先生
静岡県立掛川西高等学校
世界史教諭 研修課長 ICT推進委員長
GEG(Google 教育者グループ) FUJI共同代表 Google認定教育者LV.1 LV.2 ADE(Apple Distinguished Educator) MIEE(マイクロソフト認定教育イノベーター 2020-2021) 地方公務員アワード2020受賞
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