授業の流れ:
授業を行う上での注意点や事前準備
この動画から学べること
概要
授業のテーマは、「女性と現代社会」。
仮想の会社を作って、働きやすい職場づくりを考えていきます。
今、どんなに知識を与えたとしても、20年後にそのまま使える知識はほとんどない。
だから、加藤先生の授業では、知識をインプットするだけではなく、知識を使う方法を学びます。
プレゼンテーションは、あえて模造紙を使います!
Active Learning Online (ALO) について
Active Learning Onlineは、文部科学省の大学教育再生加速プログラムテーマI「アクティブ・ラーニング」に採択された全国の9つの大学が、連携して情報や成果の発信を行うポータルサイトです。
採択校である本校の授業動画については、以下からご覧いただけます。
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Q.授業のテーマについて教えてください
加藤 千恵先生(以下、加藤) この授業は「女性と現代社会」というタイトルがついていまして、女性が現代社会でどういう位置づけになっているかということを理解する内容です。これから働き続けたいという意欲を持つ女性は確実に増えていくでしょうし、実際20代後半、30代の女性の労働力率は上がっています。
そのように社会が変化するなかで、企業のほうも女性を活用しよう、働き続けてもらおうというように、徐々に変わりつつあります。
ただ、まだやはり働きにくい状況がありますし、男性のような長時間労働がいま問題になっているように、様々な課題があります。
そういう中で、自分が働き始めたときに、「ああこの会社、長時間で嫌だな。ダメ」などではなくて、「どうやって改善していったらいいのかな」という力をつけるのは、やはり大学の役割ではないかと思っています。
今回この授業を通して、男女共同参画センターに見学に行って、センターの職員の方のお話を聞くというワークを入れました。それから、統計資料を見ながら、どういう現状にあるのかということを、自分たちで数字を導き出すというワークもしましたし、女性活躍推進法をはじめとする、女性に関連する法律を独自でネットなどを使って、調べてまとめるという作業もしました。
そして最終的に今回のプレゼンテーションは、自分たちで仮想の会社を作って、その会社の社長から、「働きやすい職場づくりを考えてください」という指示を受けたとき、自分たちチームで、どういうことを改善したらいいかという課題や問題点を見つけて、どう変えたらいいかという目標設定をして、その改善策を色んな会社の事例を見ながら探していくというワークをしました。
仕事の実体験がない経験は少ないですが、すでにある会社の様々な事例をみながら、会社の方々がやっているような非常に難しいことに取り組んでもらい、「ああ、そうか。こういう会社ってこういうことをやっているのか」「こういうやり方もあるのか」ということに少しでも触れてほしいという思いで、この15回の授業を組み立てています。
Q.今日の授業はどうでしたか?
加藤 今日は前回に続いてプレゼンテーションということで、5チーム発表してもらいました。前回のグループの発表を見ていますので、少し慣れてきたと思うのですが、1年生ですから、やはりもっとこういう機会を増やして、慣れさせていきたいと思います。
あとは、やはりもう少し上手にプレゼンするためのアドバイスをする時間をもっと持てばよかったなと思っています。
Q.プレゼンはどうでしたか?
加藤 1年生にしては、よくできていたほうだと思いますが、どうしても原稿をずっと見てしまう学生や、質問したときにうまく答えられるところまで準備していない学生がいました。
プレゼン準備時間をもっと確保したほうがよかったし、確保すべきことだと思いまました。
もう少しこうすれば上手になるのに、というところはあるのですが、私が学生時代のことを考えれば、そんなに上手にできるものではないですから、本当に慣れだと思います。1つ1つのプレゼンを通して、少しずつ慣れてくれればいいなと思います。
Q.プレゼンに模造紙を使うのはなぜですか?
加藤 やはりパワーポイントを使ってプレゼンをすれば、アニメーションが動きますので見た目は綺麗ですが、どうしても得意な学生や一部の学生にパワーポイントのスライドづくりが偏ってしまいます。
チームみんなで作るということが大事だと私は思いますので、それはやはりよくないなと思います。
マジックは手書きですから、パワーポイントのような素晴らしく立派なというようにはいきませんが、実際に模造紙づくりを見ていますと、何もしないってことはできませんので、必ず全員がマジック持って書きます。
それから、プレゼン資料に文字だけ書いても、やはり作っているほうも見ているほうも楽しくないですから、コラージュのようにするために、ハサミで週刊誌や雑誌を切り取って入れます。
そうすると、マジックで書いたり、切り貼りしたりする学生も出てきますので、結果何もしないで見ているということはあり得ません。そのため、模造紙でプレゼン資料をつくるということをやっています。
Q.AL型授業を初めて体験した学生たちの反応はどうでしたか?
加藤 この授業は後期ですから、半年経っています。前期の授業の時には、友達がまだ少ないという状況もあると思いますが、やはりほとんど発言がなく、促しても出てこないという状況が続きました。
前期の授業の中では、私の授業以外でもかなりアクティブ・ラーニングを取り入れていて、グループになってこの大学の職員の方々に、どんなキャリアを歩んできたかというのを聞きに行って、まとめて発表したり、女性のキャリアについて書かれた資料を読んでまとめたりと、かなりチームで行う色々なワークを取り入れていました。
そういう1つ1つの積み重ねの中で、グループの中で役割を分担したり、まとめて発表用の資料を作ったりということに少しずつ慣れてきていると思います。これがもし前期の授業であればかなり苦労すると思います。
ただ、4か月ぐらい他の授業などでもグループワークを体験していますので、たぶん彼女たちは気づいていないと思いますが、基礎的なグループワークの力というのはついていると感じています。
Q.主体的な学びとしているという意識はまだないということですか?
加藤 あまり気づいてないかもしれません。とにかく課題が出て、調べなければいけない、どこか行かなければいけないとなると、「面倒くさいな」と思うと思います。ただ、行ってみると、「こんなところに、男女共同参画センターがあったのか」「ああ、職員の方々はこう仕事しているのか」というのが、レポートに表れてきます。
インターンシップもそうだと思いますが、行くまではすごく億劫でも、行ってみると「職場を見ることができた」「このように社会人の人と話をすることができた」というように、すごく前向きに、ポジティブな評価に変わっていくことが多いです。最初に「あそこに見学に行く」「こういうことをまとめる」というと、やはり楽しいというよりは、「ええ~」という反応はあるのですが、そういうことを続けながらでも、確実に力はついていると思います。
彼女たち自身が気づくのはもう少し先になるかもしれませんが、チームをまとめたり、チームで働いたり、一緒に作業をしたりという成果は、きっと感じるときがいつか来ると思います。
Q.学生のモチベーションを上げるために工夫していることは?
加藤 この授業だけでなく全てに言えることだと思いますが、何か課題が出て、「面倒くさい」「気重だ」と思ったときに、それをすることで絶対に力がつくという前向きなサジェスチョンがすごく大事だと思っています。
自分は授業の欠席が多くて、2つも課題をやらなければいけないと仮に学生が思ったときに、2つも課題をやったら1個課題をやる学生よりも、2倍力がつくではないかというような捉え方ですね。
「セミナーに来なさい」と言うと、学生は「面倒くさい」と言うので、「セミナーに行けば、普通だったら会えないような企業の管理職の人の話を聞けるから、とりあえず行ってごらん」と言って、義務でもなんでも来てもらいます。
そうすると、「あ、来てよかったです」となるので、きっと体験をするっていうことが、大学の時に十分時間を取ってできる大事なことかなと思います。
私自身、もう卒業して何十年も経ちますが、大学時代の記憶で何が残っているかと考えると、やはり通常の授業に、会社の管理職や社長さんが来て話をしてくださったことです。
内容はよく覚えていませんが、偉い人が来て話聞けた、どこかに行って何か見てきたというように、通常の授業プラス何か出来事が起こったことは記憶に残ります。
その中身が残っていれば一番いいのですが、こんな体験をしたということだけでも残っていれば、後々の人生の中で少しずつちりばめられていると思うので、学生たちにはそういう機会を1つでも2つでも多く持ってほしいなと思います。
教室でたくさん教えることで知識は確かに増えるかもしれませんがそれを学生たちが活かす時代というのはおそらく10年20年30年先です。
私たちが伝えられる知識というのは、おそらく20年後30年後には塗り替えられて、更新されて、新しくなっていくものなので、その先で使える知識を私たち教員は教えてあげられないと思います。
例えば、今回の女性活躍推進の課題で言えば、今でこそ保育園の問題などが具体的にありますが、10年20年経ったら、また別の問題に変わっていきます。
私たちが学生に伝えたいのは、問題が変わったとき、学生たちに必要になる「新しく変わった課題を今度見つけて、それをどう解決したらいいのだろう」と考える力です。
今でこそ、「ネットを見たら分かるよ」「厚生労働省のホームページにこういうのが載っているから」「内閣府のホームページを見てこういうのを調べなさい」と教えていますが、10年後20年後は、もしかしたらそういう形で情報検索をしないかもしれません。
そのときにどういう情報検索の仕方をしたらいいかは、予測不可能ですから、私はとても教えられません。それは彼女たちが見つけていくしかないので、課題が出て、グループワークをやって、情報を探したという経験だけでも残ってくれれば、それを違う形に変えて、ぶつかった課題を解決するための方法を探してくれるのではないかと思っています。
それが、次の時代を担っていく学生たちに必要なものなのではないかと感じています。
Q.現状の学生たちの『考える力』はどの程度なのでしょうか?
加藤 おそらくあまり考えるということをする機会がなかったかもしれません。学生と話をしていると、考えるのが面倒くさくなってしまうという子がいます。考えるのが好きな学生もいるのですが、どちらかというと、考えるよりは答えがほしいと言われることがあります。
世の中のいろんな問題というのは、答えがないことのほうが多いので、そのときに考えて答えを探していくことを、やはり大学時代に身につけてほしいと思います。
それが、仕事をしていく中で活きてくるのではないかと思うので、「考える力」というのはやはり大学があげられる最大のプレゼントかなと思います。
Q.AL型授業を行う際の工夫を教えてください
加藤 アクティブ・ラーニングするときに、私はグループワークを使うのですが、グループで作業をするときにやはり難しいのは人間関係ですね。
職場で仕事をするときに、当然重要になってくるのを同じように、やはりクラスでのグループの人間関係は大事です。ですから、友達同士でグループを作るってことはまずしないようにします。
苗字の50音順で並べると、たいてい学籍番号順で同じメンバーになりますから、例えば下の名前で50音順に並べてグループを作ってみます。そうすると、アがつく学生や同じような名前の学生が集まるので、それはそれできっと面白いだろうなと思います。
まずは、そういう分け方をしたりして、グループ作ります。それから、今日はあまり入れていませんでしたが、本当はもっとアイスブレークの時間が取れるように心がけています。
例えば最初の頃グループになったメンバーで、好きな食べものや動物をそれぞれ言い合って、お互いが打ち解けあえるようにしています。
それから、今回はディスカッション2回、模造紙のプレゼン資料作成に2回、実際のプレゼンに2回の合計6回でしたが、グループワークのときは、それぞれ1回にしていません。
そうすると、どうしても途中で欠席する学生が出てきて、特に計画を作っているときに欠席してしまうと、次出てきたときにはもう出来上がっています。
そういうときに、欠席した学生に情報が行かないというのは良くないことですので、欠席した学生にも同じ情報をしっかり伝えて、同じワークシートと資料を作るようにしています。
欠席した学生も、出来上がったものについて理解できるように、しっかり教えてもらうなど、情報阻害が起こらないようなチームを作っていくというように気を付けています。
Q.授業を行う上で努力していることはありますか?
加藤 はい。私が扱っているテーマは働きやすい職場づくりや今回の女性活躍推進などですが当然ワークライフバランスや育休を取りたいという男性がこれから増えてくるでしょうから、企業がどういう取り組み方をしているか、世の中がどのようになっているかという情報収集は欠かしません。
それから、関連する法律というのはかなり頻繁に変わりますので、どこのサイトから取ったらいいか、どういうところに最新情報がアップされているのかということも、やはり絶えずチェックして、新しいものを学生に教えるように努力しています。
今回は1年生ですから、例えば施行がいつで何回改正されたなど、そういう詳しいことまでは求めませんでしたので、育児介護休業法はこういうもの、女性活躍推進法はこういうもの、男女雇用機会均等法はこういうもの、というように大雑把な括りで調べさせて、まとめさせるようにしました。
学年がもう少し上に上がりますと、施行がいつで、何回改正されて、どういう点が改正されているのかというところまで、もう少しレベルの高い課題を出したりします。
今回の、企業を作って発表し改善策を考えるということについても、学年がもう少し上になれば、もう少し複雑な企業組織を特徴として提示して、難しいものにしていくということは可能です。
その場合は、受講生の習熟度や理解度に合わせて、提供する資料の内容を変えていくことが必要だと思います。
Q.AL型授業を始めた経緯を教えてください
加藤 こういうグループワークするようになったのは、この10年くらいですね。別の大学で教えていたときに、少人数の授業形態が多かったのですね。
ここも今日は30人台で、100人200人の大教室の授業に比べればはるかに少人数ですが、せっかく少人数なら、大きな教室では得られないような効果をやはり得たいと思いました。
特にアクティブ・ラーニングやプロジェクト・ベースド・ラーニングなどという言葉を意識しなくても、一方的に私が講義をして、それをノートに取ってという授業ではないものにしようと決めました。
それをするにはどうしたらいいかを考えたら、やはり外に連れていくか、グループワークという形に行き着いたということです。
Q.最初からうまくいきましたか?
加藤 最初は私の資料の作り方が悪かったり、授業の組み方がうまくいかなかったりしたので、やはり満足なものは出てきませんでした。
Q.資料の作り方が悪かったというのはどういうことでしょうか?
加藤 やはり教員は色んなものを教えたいと思ってしまうので、詳しくし過ぎてしまいました。例えば、男女雇用機会均等法であれば、最初の法律はこう、第一次改正はこう、第二次改正はこうというように、資料をたくさん作ってしまいました。
そうすると、たくさんの資料の中からエッセンスをまとめる、抽出するというスキルはつくかもしれませんが、自分たちの力でその情報を得るという力はつきません。
私がこういうグループワークを始めた頃は、今のようにこんなにネットで簡単に色んなものが手に入らなかったので、やはり私は相当資料を用意しました。
色んな本からコピーしたり、新聞記事を切り抜いてコピーしたり、表を作ってみたりと、かなり色んな資料を準備して、資料作成にものすごく時間がかかっていたのですが、今は学生の検索能力が上がっていますので、その点は楽になりました。
ただ、誤情報や古い情報を取ってきてしまう危険性が出てくるので、そこのところは気を付けてアドバイスしていかないといけないと思います。
Q.AL型授業によって学生たちは変わりましたか?
加藤 学生が変わるというよりも、私が学生のことを知ることができるようになりました。つまり、私が一方的に話をして、レポートを読んでいるだけでは分からないことが見えるようになりました。その意味では、私が色んなことを学生から教えてもらえますね。
「こんなふうに受け止めるのか」「こんなふうに考えているのか」というのは、やはり双方向の授業をしてこそ分かることですね。
私はどちらかというと仕事が好きなほうで、大学から早く就職して仕事をしたい、働きたいと思っていたので、みんなそうだろうとなんとなく思っていました。でも双方向で授業してみると、そういう学生もいますが、そうじゃない学生もいるということに気づきました。
それから、非常に合理的な考え方を持っている学生もいます。確かに会社というのは色んな考え方の人がいて、口には出さなくても社長の方針に内心では違うように思っていたり、一応そういうふうに仕事はしているけれど違うことを考えていたり、ということは現実にあります。
双方向の授業をすることによって、それぞれの学生が、仕事に対して、人生に対して、キャリアに対して、このような考え方をしているのかということを、私が受け止めることができますし、学生はもしかすると、自分の考えていること、思っていることを出していい、出すぞというように思ってくれているのかもしれません。
それがやはり、一方通行の授業とは違う醍醐味かなと思います。
Q.実際に今日の授業で学んだことはありますか?
加藤 色んな学生がいて、私の質問や投げかけに対して、「はい」と言って答えてくれる学生もいれば、「出来ません」という反応を示す学生もいます。それは、それぞれの個性なのでどちらも否定しませんが、色んな学生が集まっている場で、1つの教室を、1つの授業を作っていくことについて、やはり日々すごく努力しなければいけません。
Q.今後挑戦してみたいことを教えてください
加藤 私はこのテーマでの授業を2つやったことがあるのですが、2つとも女子大なので、男子学生にやってみたいですね。
そのときは、女子活躍推進ということよりも、男子学生が働きたい職場や、男子学生だから働き続けるという意識はあると思いますが、どんな会社で仕事したいか、育休取りにくい場合はどうしたら取れるようになれると思うか、長期間労働のない会社にするためにはどうしたらいいかなどというテーマで、男子学生に一緒に考えてほしいなという気持ちはあります。
Q.AL型授業を取り入れたいと思っている先生たちへ
加藤 私はこの女性活躍推進という分野にとても関心を持っているので、いかに若い世代の人たちに大事なのかということを伝えて、具体的にこんな方法があるのかというのを知ってほしいという気持ちでやっておりますが、おそらく先生によって関心は本当に多様だと思います。
やはり一番受講生にとって面白くなるのは、その先生が一番関心・興味を持っている分野で、課題やテーマを設定することだと思います。
一番先生方が楽しんで取り組めば、「今度、こういうテーマにしてみよう」「こういう資料をあげてみよう」「こういうテーマで検索をさせてみよう」「こういうところに行ってもらおう」「こういう人の話を聞かせたい」というように、面白いテーマの組み方やアドバイスの仕方ができると思います。
アクティブ・ラーニングはやはり手段だと思いますので、その手段を使って何を伝えるかといったときに、やはり一番メインの題材となるのは、その先生が一番面白いと思っていること、楽しいと思っていること、興味が湧くものなのではないかと思っています。
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