概要
オールイングリッシュ!講義も解説もしない、英語で思考を深める授業でアクティブ・ラーナーが育っています
取材当日の授業テーマは「嘘」。 嘘には8つの種類があるそうです。
自分を守る嘘、友人をかばう?、子どもを叱るための嘘(早く寝ないとオバケが出るよ…)。
授業では、良い嘘、悪い嘘についていくつかの問いについてディスカッションし、 ニューヨークタイムスの嘘についてのコラムを読み、 嘘に関するスキットの台本を書き、演じます。
問いの中には、相手が信じれば、それは嘘じゃないのか?という哲学的な問いも。
生徒たちは悩みながら考えを深めていきます。
そして、授業中は先生も生徒もオールイングリッシュ!
英語を話すことに抵抗はなく、まさに英語をツールとして使う姿がそこにありました。
そんな生徒たちも、入学時にはまるで全身ギブスをつけているように、自由に動けないことが多かったそうです。
自分がわからなくても人に聞けない。
わかっていても教えたくない。
人に教えて、相手の成績が伸びたら嫌だから…なんていう生徒も中にはいたようです。
そこから、少しずつ人間関係作りをし、ディスカッションの最低限のスキルを培っていったという江藤先生。
どのようにして、生徒たちのギブスを外し、ここまで解き放たれたのでしょうか?
ぜひ、総合学習(キャリア教育)の授業の映像と合わせてご覧ください。
https://find-activelearning.com/set/1446/con/1441
Q.英語を学ぶ必要と身につけてほしい能力とは?
江藤 由布先生(以下、江藤) 「グローバルを内側から」という言葉があるのですが、これはうちの生徒が考えた言葉です。最近ではグローバルと言うと、「英会話ができたらいい」とか、「海外で働く」と言われます。ただ、そうではなくて「英語を通して異文化を知ることで自分を知る。自分と他との違いを知る」ということで、英語は、自分を知るための語学です。
もう1つは、例えばインターネット上にある情報のうち、大半が英語です。例えば、かつて豚インフルエンザが流行った時に、日本にはまったく情報がないけど、英語で探したらいくらでもあるという状況がありました。やはり、この情報化社会の中で、リサーチが英語でできるほうが圧倒的に有利です。
Q.今日の授業で最も生徒たちに、学び取って欲しかったことは何でしょうか?
江藤 今日のテーマは「嘘」、「Lies」です。嘘には種類がたくさんあって、カテゴリーとしては8つあると、今までに学んできています。
例えば、親が子どもに、「もっと頑張って欲しい」とつく嘘とか、同僚のミスをカバーする嘘とか、明らかに自分を大げさに見せたい嘘とか、嘘にも種類が色々あります。でもその線引きは、実は非常に曖昧なもので、捉え方によってまったく変わってくるところが面白くて、そこを掘り下げることで、コミュニケーションの面白さを知って欲しいと思ってやりました。
徐々に問いが難しく複雑になった中で、「相手が信じれば、じゃあそれは嘘じゃないのか」とか、若干哲学的なところまで深めたいというのがあります。単純に英会話として英語をやるというよりは、それを通して、思考を深めるということをやっています。
Q.生徒たちを学びに惹きつけるために、特に創意工夫されたことは何でしょうか?
江藤 そうですね。何の授業でも言えると思いますが、その時に何をするかメリハリをつけるということです。
中学校やほとんどの高校では、メリハリをつけるだけでいいと思いますが、私はあえて曖昧に、分かりにくくする時もあります。だから、その定義づけを彼らがその場で考えないといけないこともあります。
というのは、私はオーガニックラーニングをやっているわけですが、教科書や副教材は、分かりやす過ぎます。分かりやす過ぎることを、工場生産みたいにサクサクやっていっても、あまり役に立たないと思っています。
「ダンベルの運動をしている人と、草野球をやっている人と、どっちが使える?」というような話です。もちろんメリハリをつけることも大事ですが、時にはちょっと分かりにくいことをわざわざ発して、その場で生徒が考えていくことも大切です。
英語の授業だけではありませんが、入学した時の生徒は、全身ギブスみたいな状態で、すごく難しいです。分からなくても人に聞けないし、分かっていても教えたくないし、教えることで周りの成績が上がったら嫌というところまで病んでいることもあります。
ほとんどの子がその場で考えることに慣れていないので、時間を掛けて、人間関係や、ディスカッションができるような最低限のスキルを作っていきます。英語によらないと思いますが、英語で培ったスキルが社会とか国語とか、他のところにも何か良い影響を与えている気がします。
基本的に、決まったことを定型的に覚えてから積み重ねるということはやりません。どちらかというと、「後学的」と言うらしいです。「江藤は後学的」と言われて気づいたのですが。
例えば去年、文法の授業をやった時も、例えば仮定法では普通、先に「こんな文法構造ですよ」と説明しますが、最後に持っていきます。生徒が、「その単元に関する素朴な疑問はなんだろう」というところから入って、今度はチームで「なぜ完了形でhaveを使うのか?」と掘り下げていきます。
生徒はインターネット上の文章とか、ちょっとした論文も読んできて、今度は理解したものをアウトプットしながらkeynoteで説明する。そうしたら、現在完了なら現在完了の単元をこちらが説明しなくても、根本的なところや根源的なところを、共有できます。
それを集合知化していくというプロセスで、ちょっとした間違いはありますが、ざっくり全体像を捉える。全体像を捉えたら、今度はそのコアのところに問題などの問題を後から乗せていくと、効率が良いです。
説明をして、生徒がちんぷんかんぷんのまま問題を解いていくよりも、根幹のWhyのところを理解した上で、最後に生徒だけで問題集を解いていくと定着が早いです。だから、板書して「これはこう」と説明することは、ほとんどしないです。連鎖的に学ぶことは面倒くさいですが、時間をかけて学んでいきます。
Q.授業の中で教師による講義の割合は?
江藤 講義とか解説をした覚えがあまりなく、今日も何も解説をしていません。1割というところでしょうか。
Q.今日の授業に至るまでの試行錯誤はありましたか?
江藤 私は、組織論が面白くて好きですが、ここ12年くらいで、推移してきています。もともと私は和製バイリンガルなので、英語も日本語も不自由なく使えますが、最初は、「女王の教室」の時代がありました。産業革命の頃の学級形態というか、私がいて、生徒という下々の者がいるような構図で、その時は服従と強制で、「とにかく量をやれ」と言っていました。「もうとにかく、質はどうでもいいから、問題を解く」という時期がありました。
その次に、綺麗なヒエラルキーを作りました。まだ1950年代ぐらいの経営主体、説得と納得のような時代は成績上位と下位みたいなペアを作り、生徒同士が教え合い、お互いに他己採点する形態を取っていました。
その時は、英語も構造しか教えないし、英文解釈として文法、文法、文法、構文、構文、単語、単語、単語と教え、今とはまるで違うことをやっていました。そのクラスは、国公立型だったので、国公立二次にも対応できましたが、「面白くないな」と思っていました。
次に持ったクラスは、win-winなクラスを作ろうと思い、もう少しフラットにしようと思いました。その時は7つの習慣を取り入れていました。生徒が、シスターフェアとかブラザーフェアのようにフラットな形で接し、今の取り組みがスタートしたのもちょうどその頃です。
元々、和製バイリンガルですが、オールイングリッシュの授業をできると思っていませんでした。しかし、ある学校に行ったら、先生が英語で授業をやっていて、「あの人ができるのだったら私もできるかもしれない」と思ってやってみたら、英語で授業をやるといちいち日本語を言いなおすよりも効率が良かったのです。
面白かったというのもあり、そうやって育てた生徒たちがとても成長しました。その頃から、板書して教えるというよりは、だいたい100万語を目指してどんどん英語の本を読んでいく授業や、今みたいにディスカッションが入る授業をやり出しました。そうしたら、生徒のほうが授業をデザインするようになっていきました。
例えば、「Coursera(コーセラ)」というスタンフォード大学の動画教材コンテンツを自分たちで勉強し、動画をアウトプットして、それをフェア評価するということをやり出しました。
そうしたら、学校の入学時はそんなに偏差値が高くなかった子たちが、前回の国公立型の子たちの偏差値を超えだしました。「ええ~?こっちのほうが効率いいやん」ということで、今はさらに推し進めて、もう少しフラットなファミリー型の組織を作り、その中で学びを共有しています。ヒエラルキーや点数もあまり気にせずに、「みんなで学んでいこうよ」という授業をやり始めました。
結果的にそこから色々なことを学んでいるので、失敗はありません。気づいたらそうなっていたので、人類の進化と同じだと思いますが、石器時代から始まって、今やっと2000年前後です。だから、今、「Holacracy(ホラクラシー)」とか「Teal(ティール)」とか「グーグル」のような、最新鋭の組織になることは、まだ無理です。ビジョンだけを共有して、みんなが走っていくような授業が理想ですが、たぶん無理です。
Q.教材は生徒たちが選んでくるのですか?
江藤 こちら側で提示する場合もあります。元々、去年くらいまでリーフモデルと自分で言っていたのですが、Live Materials(ライブマテリアルズ)、生教材、アクティブ・ラーニング、オールイングリッシュ、Flipped Learning(フリップト・ラーニング)で、反転授業をやっていました。
基本的に生教材をとても大事にするので、生徒たちがその単元に合ったものを自分で選んで読んでくるというパターンもあります。うちのクラスは、ニューヨークタイムズを定期購読しているので、ざっくりその中からという選び方をする時もあるし、調べ学習的なことであれば、何を使ってもOKです。
本校の場合はアプリのダウンロードも自由で何を入れてもいいので、そういう意味では、あまり固定せずに、「自分が学びやすい方法を取りなさい」と指導します。ノートも取りたかったら取ったらいいし、取らなくてもいいし、ホワイトボードでもいいし、写真を撮ってもいいし、打ち込んでいる子もいます。
Q.和製バイリンガルとは?
江藤 英語が何不自由なく使えます。よく、「江藤先生は帰国子女ですか?」と聞かれますが、帰国子女ではないです。物心がつく前に、半年ぐらいアメリカに行って、高校時代も半年ぐらい留学したことはありますが、基本的には、うちの母が死にものぐるいで英語を身につけて、家で私に英語を叩き込みました。和製バイリンガルというのは、帰国子女とか長期留学とかをせずに完全なバイリンガルを身につけたということです。
その中で、母がやってくれた「たくさん本を読む」とか、「英語のテレビとかラジオとかメディアに触れる」とか、「歌をたくさん使う」という学び方は、確実に授業の中に取り入れられていると思います。
Q.より良い授業の実現に向けて普段からどのような努力をされていますか?
江藤 最近気づいたことが1つあって、語弊があるかもしれませんが、たぶん私はグレーゾーンの人間です。能力が非常に偏っているというか、元々、問題集を覚えるとか、漢字ドリルをやるという学びができません。
だから、自分のやりたかった学びが、そのまま授業に入っていて、趣味と実益を兼ねています。例えば、私は小学校の時、6年間宿題をまったくやりませんでした。何をやっていたかというと、自由研究と読書しかしなかったのですが、読書と言っても、1日に7冊ぐらい読むので結果的に学力がつきます。
自由研究では、例えば、顕微鏡観察を夏中やっていました。そのほうがはるかに色々な生きた力がつきますが、つい4、5年くらい前まで、それをやる勇気がなかったのだと思います。
でも実際、自分がやりたいようにやってみると、ちょうど時代にマッチし、文科省が言うことともマッチしました。私はいつも思うのですが、ノウハウも大事です。「こういう形の導入の仕方をやる」とか、「こういうピアラーニングをやる」というのも大事ですが、その人自身のあり方がなかったら、残念なことだと思います。
多くの先生は、学校が従来型のやり方をしていた時に、それに一番マッチしていた人たちです。自分の学びの根源がないのです。学びの根源は、後付けでもいいから外に出掛けていく必要があります。時には、学校の先生向けの研修でなくて、企業向けの研修だったりとか、英語の集まりだったりとか、スピリチュアルでもなんでもいいです。
そういう輪に出掛けていって、学んだり、人と出会って対話したりすれば、自ずとその人のあり方みたいなものが出てくると思うので、努力というよりは、そういうことを好きでやっている感じです。
Q.先生にとっての学びの根源、教育の核とは?
江藤 私の場合、キャリア教育と英語の教育が一致しています。結局、「個を尊重する優しい循環型の社会にしたい」というビジョンと「そのために自分の人生の手綱を握って進める人生の経営者を育てる」というミッションがあります。英語の授業も日本語の授業も
総合学習も、全てがそのフレームというか、そのビジョン、ミッションに則って行われています。
Q.AL型授業に取り組むようになってから生徒たちの変化と手応えについて
江藤 アクティブ・ラーニング型の授業を、大々的に始めたのがおそらく4年前ですが、その頃から生徒の主体性はとても上がり、主体的な生徒が増えたと思います。
当時、その主体性は、高校で言う主体性や、社会一般の主体性と違い、学校における主体性でした。言われなくてもその場でやるべきことを自分で見つけてやっていくとか、人に言われなくても率先してやるということから始まっています。
その辺りで一番大きな変化が始まり、自分で考えるだけでなく、目的を意識した行動がありました。あとはアクティブ・ラーニングが第2クールに入って、前回と決定的に違うのは、外に飛び出す生徒が増えました。
うちのクラスは留学制度が充実しているので、今までも留学する生徒はいましたが、びっくりしたのは、去年「出前授業をやりたいです」と、突然言い出した生徒がいました。
「何を教えに行くねん」と思ったのですが、「いや、やりたいです」、「自分たちは授業の楽しさとか、英語の楽しさが分かるから、それを伝えたい」と言い出しました。私は、「ああ、そうですか、そうですか」と言って放っておきました。
結果、ツイッターで集客して15人ぐらい人を集めて、アクティブ・ラーニング形式でオールイングリッシュの、ちゃんとした授業をやっていました。
私はミカンを差し入れて、あとはクレーム対応をしただけです。中学校の公立中学の保護者から、「お宅の生徒さんがツイッターで集客しているけど、学校は把握しているのか?」と来て、「まあ、分かっていますけど、分かっているような分かってないような話です」、「まあ、でも良いお兄さんお姉さんなので、是非来て頂いたら、楽しいと思いますよ」と対応しました。
あとは留学制度を利用せず、「夏休みにガールスカウトでフィンランドに行きました」という生徒もいました。その子は、フィンランドに本気で移住したいと思っていて、この間もその子を中心にしたオンラインセミナーをやりました。
あとは、4日くらい自主休校して、持続性の高い、サスティナビリティのワークショップに合宿参加する生徒もいました。その前のクールは授業をデザインしてくれる程度でしたが、今は外に飛び出して、学びを持ち帰る生徒が出てきたことが、大きな変化かなと思います。
Q.AL型授業を通じて、生徒たちに教えられたことは何でしょうか?
江藤 基本的にうちのクラスは、「失敗のない君の人生、それ失敗」と高1の時によく言っていました。「安心して失敗できる場を作ろうね」という考え方はいいのですが、主体的になりすぎて、たまに色々なことが動かなくなる時があります。
この間は、私が外の活動に忙しくて、しばらくほったらかしにしていたら「掃除をしない人がいる」と問題になっていました。分からないでもないですが、「じゃあ、どうしよう」と考えて、「どうしたら機能するシステムが作れるかなぁ」とみんなで話しました。だから、教えられるうんぬんというよりは、対話がなかったら、何も進まないと思います。
前、「女王の教室」をやっていた時代は、私が右と言ったら、右を向いてくれていましたが、今はそういう生徒たちではないので何事も話し合いながら進みます。話し合ってシステムを決めても、大体一回は失敗します。「みんな言うこと聞かない」と言って「どうしたらいかな」ともう一回話し合います。
結果的には、曜日によって、好きな人が好きなように掃除するとことになり、今はうまく回っています。
Q.挑戦していきたいことは?
江藤 去年、Apple Distinguished Educatorに選ばれてシンガポールに行ってきました。アジア、オセアニアから200人くらいの先生が来ていましたが、その時に、「日本の教育は、どうなのかな」と再認識しました。例えば、さっき言ったリーフモデル。よく「リーフモデルで英語教育を変える江藤です」と言っていたのですが、日本以外の国では副教材が発達していないので、生教材が当たり前です。
オールイングリッシュも、英語を英語でやらないほうがおかしいし、アクティブ・ラーニングもけっこう浸透していて当たり前だし、韓国では反転授業のテレビ番組があり、日本より遙かに進んでいます。
日本では、けっこう持て囃されていたのですが、「世界では通用しないな」と分かりました。「何が大事かな」と考えた時に、同じ授業をしてもクラスによって違うのは実はマインドセット、その授業や学びに向かう生徒の姿勢が違うのではないかなと思いました。
今、オーガニックラーニングをやって、学びの姿勢とか、学びの根っこの部分を大事にしています。
去年、気づきがあって社団を立ち上げて、今はその社団の中で、仙台や東京で社会人向けのワークショップをしたり、オンラインでセミナーをしたりしています。ちょっと大きなイベントなど、やりたかったことはわりとやっています。
私としても挑戦したいことを考え中ですが、やはりもっと幸せな人に増えて欲しいし、「自分が想像した未来にしか未来は動かない」ということを、もっとたくさんの生徒に広げたいと思っています。学校だけでは限界があるので、学校と学校外の活動を、自分の命が続く限りやってみようかなと考えているところです。
Q.全国の先生に向けて
江藤 まずは、授業を見に行って、その場を感じ取ってもらうことが大切です。楽しそうな場の空気を吸って、楽しくワクワクするような授業のイメージになれば第一歩だと思うので、それをまずやってみること。
出掛けてみて、ワクワクするような学びを体験すること。その次は、ちょっとずつスモールステップで始めてみること。説明していた内容を、生徒に投げて、少し話す隙間を作るとか。
しかし、やはり一番大事なのは、少し時間が取れたら、今度は学校外の学びを体験すること。学校と社会が繋がっているような授業ができたら面白いかなと思います。まずは、出掛けていくことですかね。外の空気を吸ってください。...
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