概要
机の並べ方で授業の質が変わる?空間の使い方、生徒の動かし方、時間の使い方など、授業のヒントが満載!
この日の授業テーマは、「自分の意見を言う」こと。
日本人は他者の意見に対して異論を言うことが苦手、とよく言われますが、生徒たちはしっかりと自分の意見を表明し、時には先生に対しても「僕は違うと思う」と言います。
授業構成は3つのパートに分かれ、テンポよく、議論を深められるよう工夫されています。
教室の空間の使い方、生徒の動かし方、時間の使い方など、英語以外の教科でも役立つポイントが盛りだくさんです!
Q.今日の授業の1番の目的は何ですか?
ジェームズ・ニコル先生(以下、ニコル) 今日の授業の目的は、自分の意見を発言することでした。生徒は教材を読んで、他の生徒の意見を聞き、自分の意見を言います。そして、他の生徒の意見に対して異論を言える、それが当たり前と思うようになることが目的です。
Q.どのようにして生徒を引きつけているのでしょうか?
ニコル このクラスの生徒は、4月から6月まで模擬国連の授業をしていました。そのため、生徒は世界のニュースに高い関心を持っており、私の授業で扱っている「国際政治」や「国際問題」に対して、生徒は興味を持って参加しています。
Q.模擬国連についてもう少し教えてもらえますか?
ニコル 模擬国連は、生徒がアメリカやコロンビアなどといった特定の国の大使として会議に参加します。そして、実際の国連と同じように特定の国際問題について議論して、問題の解決をはかります。
例えば、子どもの権利についてがそうですし、今年は難民問題もありました。毎年議題は変わりますし、これらの国際問題について解決策を議論するためには、毎日のニュースに関心を持たなければなりません。特に今年は、難民の問題が毎日ニュースになっていましたし。
Q.授業に向けてどのような準備をしましたか?
ニコル 今日の授業は、生徒が司会者になって授業を進める形を取りました。それぞれのグループで、2名が司会者として他の生徒から意見を引き出します。それまでに、議論の始め方や展開の仕方をインプットします。例えば、誰も話さないときは質問を変えたり、自分の意見を言ったりするといった司会進行の練習がそれにあたります。
Q.失敗談があれば教えてください。
ニコル 日本の生徒にとって、皆の意見に異論を唱えることは難しいようです。ですから、最初の生徒が「~だと思います」と言うと、多くの生徒が「同意見です」と言います。彼らは仲間外れになりたくないため、異論を唱えたり、同意できない理由を述べたりすることを難しく考えています。
もちろん、特定の議題への理解が乏しかったり、関心が低かったりする時も意見は出てきません。
Q.より良いアクティブ・ラーニングに向けてどのような努力をしていますか?
ニコル ちょうどその机に置いてありますが、アクティブ・ラーニングの教室の配置やアイデアが紹介されている書籍をよく読んでいます。
また、私自身の高校や大学時代の体験が基になったアイデアもあります。私の母校には多くのアクティブ・ラーニングルームがありました。それは一般的な(机と椅子が順番にならんでいて教師が前に立って授業を行う)教室ではなく、アクティブ・ラーニングに適した環境の中で学ぶことができる場所です。私の学習経験の多くはそういった環境から得られたものですので、私も学生としてアクティブ・ラーニングをしていた経験を今に活かしています。
Q.日本の生徒に向けてアレンジした点はありますか?
ニコル 特に英語やペアでグループを作る時、お互いに助け合えるよう、英語が上手い生徒とあまり上手くない生徒のバランスを取る必要があります。今日も大きなグループを作りましたが、彼らの英語レベルは様々でしたので、両グループでレベルを調整してバランスを取りました。グループやペアを作る際は、これが最も大きな課題だと思います。
Q.生徒との関係づくりで努力していることは?
ニコル 私は授業以外の時間でも、なるべく生徒全員とコミュニケーションを取るようにしています。例え担任ではなくても、会議室のような1対1で話せる場所で、時間をつくって生徒の個人的な話を聞いています。
また授業後に、授業の感想や理解できなかった部分を聞くようにしています。生徒のことを理解するために、授業中だけでなく授業以外の時間でもコミュニケーションを取っています。
Q.生徒とプライベートなことについても話しますか?
ニコル 3年生にはよく志望校や将来の夢について聞きますね。そして、私の大学時代の経験を話したりもします。英語科の生徒は海外に留学するので、「私も日本に住んで同じことを経験しているんだよ」という話をします。私達は同じ経験や気持ちを共有しているのですから。
Q.アクティブ・ラーニングをするにあたり、欠かせないことは何ですか?
ニコル 私にとってアクティブというのは、アクティベートと同じことです。走る前にはストレッチをするように、授業のテーマが始まる前に少しウォームアップをして、生徒をその日のトピックに慣れさせます。
討論形式の授業の場合、今日は早口言葉をさせたように、授業の冒頭で準備運動や彼らの興味のある話題について簡単な質疑応答をさせたりもします。ウォームアップによって生徒にスイッチが入るので、準備運動はとても大切です。
Q.授業の成功に不可欠なことは何ですか?
ニコル 授業を成功に導くためには、流れ・構成を考えておくことが大切だと思います。最初のパートには数分をかけて、中盤に重要な部分を置いて、最後にしっかりまとめる。そのタイミングがとても重要だと思います。
1つの活動が長すぎると生徒は飽きてしまうので、事前に時間配分を考え、時間を意識して授業を進めていくことが重要ですね。
Q.アクティブ・ラーニングの授業を導入した前と後では、生徒にどのような変化が見られましたか?
ニコル アクティブ・ラーニングによって、生徒は授業に主体的に臨むようになりました。例えば、今日のように生徒が司会者になって討論を進める場合、彼らが主体的に意見をまとめなければいけません。私が助言することもありますが、彼らが授業の主導権を握らなければならないのです。
アクティブ・ラーニングでは、テストのためだけの知識を学ぶのではなく、実際に使える知識やスキルを得られるのです。これがアクティブ・ラーニングをする一番の魅力です。
Q.生徒がお互いに学び合うことはありますか?
ニコル アクティブ・ラーニングの授業ではよくあります。例えば模擬国連では、教師から教わるのではなく、それぞれの生徒がトピックや代表する国についてリサーチをして、他の生徒や教師に発表します。
もちろん私も答えを知っていますが、それぞれの生徒が自分の意見を発表します。今日も生徒が司会者になって討論を進めましたが、私の意見でなく、まず生徒がお互いの意見を聞き合うのです。
Q.教師のキャリアを通じて生徒から学んだことは?
ニコル この学校の生徒は英語で話したがっています。彼らは、自分の意見に自信を持って国際問題について話したいと思っていますが、日本人特有の完璧主義からか、正しいことを言わなければいけないと思っています。ただ、間違えてもいいのです。
私が日本の学生について覚えておくべき点は、彼らはこういった議論をしたがっているということです。英語だけではなく、日本語でもいい。彼らは様々な問題について自分の意見を言う機会を求めている、ということを私は生徒から学びました。
Q.生徒が英語の授業を学ぶ意味は?
ニコル 私にとって英語はコミュニケーションのツールであり、テストのための教科ではありません。英語は言語です。言語はコミュニケーションのためのものです。私の希望は、より多くの生徒にこの感覚を持ってもらうことです。
日本には、英語をテストの教科として見ている生徒もいます。他の国では、英語はあくまで旅行や出張の時に使うコミュニケーションツールとして捉えられており、こちらの感覚の方が重要だと思います。
Q.アクティブ・ラーニングの授業を行う上で何かコツはありますか?
ニコル まずコツは、とにかくやってみることです。おそらく最初は上手くいかないでしょうが、やってみるしかありません。もし英語で授業を行いたいと考えているなら、まずは日本語でやってみることをオススメします。日本語の授業を通して、生徒もどのように会話のキャッチボールをすればよいのかわかっていきます。
また、授業の前にクラスの配置を行う必要があります。2つのエリアを作っておくのです。1つのエリアでアクティビティが行われ、もう1つのエリアでまたアクティビティが行われているという状況を作り出すことで、クラスにアクティブな雰囲気を生み出すことができるのです。
今日の授業は、英語でも日本語でも上手くいきましたが、私が思う授業のコツは、とにかくチャレンジしてみることです。そうすればきっと、生徒も楽しんで授業に臨むでしょう。
Q.今後挑戦してみたいことは?
ニコル 実は今日の授業をディベートにつなげようと思っています。司会者によって進行される討論を、模擬国連の授業に取り入れたいのです。いろんなシチュエーションで生徒が自分の意見を言えるように、次回はディベートを行う予定です。
Q.アクティブ・ラーニングをしようとしている先生たちにメッセージをお願いします。
ニコル アクティブ・ラーニングは、これまでの一般的な授業スタイルとはかなり異なるため、1回目や2回目で上手くいかなくても大丈夫です。というのも、生徒はアクティブ・ラーニングの授業に参加したがっているからです。
そして、私達が日本でよく使う授業のスタイルが、生徒全員に効果的なわけではありません。異なるタイプの生徒に様々な学習方法を提供することは良いことですので、とにかくトライしてみてください。...
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