概要
留学経験もないのに、どうしてこんなに話せるの?教師も生徒も英語だけ!チームで課題を分析し、解決策を考え提示する活動を通して、英語での課題解決力とコミュニケーション力を伸ばす都立両国高校のすごい英語授業
英語ができないから、世界に飛び立てない。
英語ができないから、チャンスをつかめない。
「そんな人を、一人でも減らしたい。というのが、初任の頃から抱いている私の想いです。そして、『英語が使えたからチャンスを掴めた』という人を一人でも多く育てていくことが、私の野望です」
こう話すのは、先週末に開催された「第6回アクティブ・ラーニングフォーラム」にも登壇された都立両国高校の布村奈緒子先生(現・ドルトン東京学園 中等部・高等部 主事)。
講演を聞かれた公立高校の数学の先生が「お話し頂いた授業手法は数学でも活かせると感じました」と思わずうなるほど全国から授業見学希望が殺到する、今、大注目の先生です。
注目されるその授業は、世界の英語教育で主流となってきている「コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(CLT)」という手法を軸に展開されます。
CLTで目指すのは、「英語で話す」ことではなく、「英語でコミュニケーションする」こと。
今回取材させていただいた高3クラスの授業テーマは、「GRIT(やり抜く力)のない人にアドバイスしてあげてください」というものでした。
「両国高校にいきたいけどやる気が出ない」という14歳のリョウタ君という架空の人物について、課題を分析し、チームメイトと意見を交わしていきます。
先生も生徒も、授業の始まりから終わりまで話をするときは基本的にすべて英語。
そしてただ英語を話すだけではなく、インプット→課題分析→解決策の立案と、チームで一つの結論を出すプロセスを通じて、課題解決力とコミュニケーション力を伸ばします。
Q.英語を学ぶ意味?
布村 奈緒子先生(以下、布村) はい。英語という教科はどんな生徒もずっと学び続けなければならない科目だと私は思っています。特にこれからグローバル化と言われる時代、日本にいても外国人の方がたくさん入ってくる時代、どこか英語を仲介する言葉として使っていかなければいけない時代において、誰もがある程度は使えるようにならなければなりません。
少なくとも高校までに、英語という言葉を通じて自分が言いたいことや伝えたいことをなんとか伝えられるようになってもらいたい、という思いでずっと授業をやってきています。
Q.英語に興味のない生徒への工夫
布村 そうですね。この学校は特に、英語が好きな生徒ばかりではありません。普通高校ですので、国際校や国際学科ではありませんし、英語をやりたくて来ているというわけではないとは思います。
ただ、英語はいずれきっと使わないといけない時代になるなということは、そう言われてきていることもあって、生徒自身もみな分かっています。
ですから、できるようになりたいなという気持ちは、どこか潜在的にずっとみんな持っているはずです。ですが、性格的に人と話すのが苦手だったり、慣れていないから恥ずかしいなと思ったり、周りが上手だと自分はあまり上手ではないから、話さないでおこうかなと思ったりしてしまいます。そういう別のフィルターで見てしまうので、話したくないと思ってしまうだけだと思うのですね。
ですから、どんな人も潜在的に別の言語や英語で話してみたいという思いはどこかしら、必ずあると思っています。私の中では、授業の中で日々話すことが当たり前になっていれば、話さないことよりも話してしまったほうが楽になるのではないかと思います。
言うことを諦めて沈黙が続く時間よりは、間違ってもいいから話してしまって沈黙にならない時間のほうが面白いと思えるようになってきます。それが、例えば1学期に1回だけ話すなど、たまに話す機会を持たせる授業だと、生徒としては話さないでその時間を過ごしてしまったほうが得になります。
しかし、毎時間、必ず一定の時間や割合で、隣同士やグループで話さなければいけないという場面があって、話さないと授業が終わらないという状況になると、話してしまったほうが得だなと思うようになっていくので、段々慣れていきます。
そして、自分の言いたいことは誰もがみんな持っているものなので、それを言えたほうが楽ですし、嬉しいから言ってみようというチャレンジを日々続けていくのだと思っています。
そういう日々を続けていけば、生徒はどんどん話していきます。間違うことを恐れるよりも、違う表現で自分の言いたいことを伝えられたほうが達成感はあるし、それができた時にはたぶん生徒達も嬉しいですよね。私も3年かけて徐々に、色々な表現で自分が言いたいことを伝えられる授業になってきたと感じています。
Q.生徒のリスニング力が進歩する瞬間は?
布村 なんだったのでしょうね。でも、第一言語を学ぶ赤ちゃんと似たところがある気がします。第二言語と第一言語で習得の仕方は異なる部分もあるのですが、共通する部分もあるのです。
ずっと英語のシャワーを浴びていて、「おそらくこういう話をしているだろうなと推測はできていたが、言葉がなかなか入ってこなかった。でも一生懸命聞き続けていた」という状況にある時、段々、同じフレーズを使っていることに気づき始めたり、この場面だからこういうことを言っているだろうと推測が確信に変わっていったりします。
徐々にそう分かっていく部分はあると思っていて、それが全部一気に歯車が噛み合ったのがその夏という瞬間だったのだろうなと思います。
ですから、やはり日々ALTの先生や私の英語を聞いていて、同じ場面で同じような事を言っているのをずっと聞いていたから、どこかで「ああ、この瞬間に分かった」と思う瞬間があったのかなと思います。
あとは、おそらく最初は「こんなに英語ばかりで私は分からない」という感情のフィルターが掛かっていたのだと思います。実は分かっていたのかもしれませんが、そのフィルターによって「分からない、分からない」と思い込んでいたのかもしれません。
それが、「毎日こうだし。まあ、いっか」と思った瞬間、そのフィルターが上がっていったような瞬間があったのかなと思いますね。
Q.継続できない生徒に継続させるためのポイントは?
布村 嫌となっている子は、最初は何人か出てきています。ですが、嫌と言いながらも、嫌の裏には「このディスカッションに入ってみたい」という思いもあると思います。嫌で投げて投げられるものではないですが、やはり本当はしゃべってみたいという天邪鬼なところが生徒達にはあると思うのです。
ですから結局は、「投げずに最後までやれた」「自分が本当はやってみたい」という思いがどこかあるのだろうなとは思います。最後に実はもう一人と言っていた子は、1年生の最初の時に、私とずっと日本語でしゃべり続けていた子なのです。
授業の中で、「English」「いや、無理です、無理です」「English」「いえ」と言ってずっとやり続けた子で、でも本当はしゃべってみたいという思いがあるので、「じゃあ、少しずつ練習しようね」と言って、授業の中でずっと練習していました。今日のようにまだすごく上手なわけではないのですが、やはり少しずつしゃべれるようになりました。
ですから、投げなくてもやっていけるかな?と思えるレベルのタスクをあげる必要があります。全員が投げてしまったり、投げる子がたくさん出てきてしまったりするようなタスクだとしたら、それは私の責任です。
私が生徒に提示したタスクのレベルが高すぎるのか、もしくは色々なスキャフォールディングではないですが、その支援が足りないのか、どちらかだと思うのでそれは私の責任になります。
投げさせないような工夫や色々な支援をしながら、なんとか自力でもやれるタスクを選んで授業の中に入れていくことが、教師の役割なのかなと思っています。
Q.今回の授業で生徒達に一番学びとって欲しかったことは?
布村 はい。「グリット」という題材の回ではあったのですが、彼らは高校3年生です。今これから夏を迎える時期で、正直、受験勉強を始めた子もいます。始めたけれども、もうすでに、それこそ投げたくなってしまっている子もちらほら実は出てきてしまっています。夏を迎える前なのに、出てきてしまっているという現状があるのです。
その中で、どうしたら自分が頑張り続けられるのか。今回のレッスンを通じて、自分の人生をもう一回考え直すきっかけにしてほしかったのです。
また、授業内で登場したリョウタ君という全然知らない架空の人物(他者)を支援するという話がずっと続いているのですが、最終的には「じゃあ自分がどうしていけばいいのか」「自分の人生をどうしていけばいいか」を考えて、それを言葉にします。そういうきっかけにしてほしいと思って、今日の授業を組み立てました。
Q.生徒の環境状況に応じた興味づけの工夫
布村 必ず生徒達自身にするフィードバックが、自分達の人生などに結びつくようなタスクにできるよう心がけています。
Q.今年、1学期、他に出したテーマは何ですか?
布村 そうですね。他に1学期は何を出したかな?前回は「パーム油」だったので、パームオイルというものを出した時に、自分の実生活でパーム油はどれくらい使われているのか。自分が使っている製品を授業の中に持ってきてもらいました。
それでパーム油がどれくらいあるのかをまず見てもらうところから始めて、「パーム油はこれだけ使われているけれども、実はボルネオでは森林破壊に繋がっている」という話をしました。
では、私達がパーム油を使うことを一切禁止にするべきなのかどうか。禁止にしたら、私達の生活はどうなっていくのか。禁止にしたらどうするか。そういったことを考えていきました。禁止すべきか否かというテーマを与えて、自分達の生活がどうなっていくかを考え理由にし、オピニオンを言うという題材でした。
題材自体は教科書に沿っているので、自分が選ぶことはあまりないのですが、教科書に出てきたテーマを自分の生活に結びつけることは可能です。
それは、必ずどんなテーマだったとしても、日常や今起きていることと結びつけることはできます。「教科書ではこう言っているけれど、昨日のニュースではこう言っていたよ」などと、必ず今起きていることと結びつけられるので、その教科書の題材を考えるように、少し考えるきっかけを授業の中であげてあげることはしています。
英語は色々な題材が教科書に載っていて、理系の分野のiPS細胞から環境問題、今回のような心理学的な問題まで、色々な題材があります。
でも、それらは全て、「自分に関わってきていることだよ」と伝えてあげられるのも、英語を通じてという部分はあるし、世界のことを考えるのもこのほうがやりやすかったりすることもあります。
英語という言葉自体が、意見を言うことに適している言葉だと思っていて、日本語は行間を読むという言語ですが、英語はきちっと理由を言わないと相手に伝わらない言葉です。ですから、英語だからこそ言いやすいという部分もあったりします。
英語が通じると、人格を変えられる部分もあるのです。違う人物になれたりするので、生徒達も英語の授業では、アウトゴーイングでしゃべることができます。そして演じられたりする部分もあるので、英語という言葉を借りて色々な事を考えてもらうきっかけにしてほしいと思い、英語の授業を組み立てています。
Q.英語で自分の意見を言う時、男女で向き不向きがありますか?
布村 女子と言いたいところなのですが、今日、見ていただいても分かったように、男子も意外にしゃべるのです。
男子のほうが、「それはおかしいだろ」という意見をスパッと言えるところがあります。女子のほうが傷つけてしまうのではないかなど、色々気にして言えないところがあったりするので、色々回りくどく言って、英語になると何を言っているのか分からないことも多いですね。
男子のほうがスパッと自分のことをはっきり言えますし、それに理由をつけて説明することが意外に得意なこともありますね。
Q.今回の授業形式での評価方法
布村 英語ですと4技能をどう評価するかがあると思いますが、必ずスピーキングもパフォーマンステストも行なっています。今、インタラクションの部分はまだ評価には入れていないのですが、スピーチやオーラルプレゼンテーションは必ず全員がレッスンを終えるごとにするので、そこでスピーキングの評価をします。
ですから、全員2分間、レッスンが終わるごとに自分の意見としてスピーチをします。だいたい40人を2クラスに分けて、1クラスはALTがジャッジをして、もう1クラスは私がジャッジをします。
だいたい1学期に2課進むと仮定すると、2課目は逆にして評価者を変え、20人ずつジャッジをします。全員2回ずつ違う評価者に評価をしてもらって、スピーチを行います。そのスピーチのテストと、あとはライティングですね。
ライティングはパラグラフ・ライティングです。去年は4パラグラフで自分の意見を書くというエッセイライティングをやったのですが、そこにもルーブリック、色々な評価・観点があります。グラマーやパンクチュエーションも見ますが、ロジックやオーガナイゼーションも評価対象になっています。
全部ルーブリックな形になっていて、それを読んでその子のルーブリックに評価をしていき返却します。それは、ALTの先生に評価をしてもらっているので、ネイティブの視点で見た時に分かりやすくきちっと書いてあるかというところで、いい評価をしてもらっています。
今3年生はスピーキングとライティングをパフォーマンス・アウトプットの評価として、評価点を出します。その他、定期考査ではリーディングとリスニング、さらに文法的な知識理解や語彙の問題を出して評価をしています。両方合わせて、1学期は400点ずつの800点満点で私は評価をしました。
事前に最初の4月の段階で示しているので、プレゼンテーションも本当にすごく高い割合で評価されていることが分かっています。必死に暗記などをして、プレゼンテーションの準備を自分達でしています。
Q.今の授業形式に至った経緯
布村 英語での授業やグループワークに関しては、初任の頃からやっていますので、15年前からになります。当時は前任校で特に国際高校におりましたので、SELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール英: Super English Language High School)の指定を当時受けていて、ディベート的な要素を授業の中に取り入れていました。
検定教科書を使いながらでしたが、「教科書にはこう書いてあるけれど、他の意見もあるかどうか少し調べ学習しましょう」「他の人はこう言っているけれども、あなたはどう思うか?」などと意見を聞くことは、当時から授業の中で取り入れてやっていました。
ただ、10年前に両国高校に来たのですが、両国高校は古い学校でディスカッションやディベートを当時は特にやっていませんでした。そこでいきなりディスカッションやディベートに入るのではなく、まずはペアワークから入ったり、手を挙げて答えて座らせたりしていました。
英語で授業をやることから、徐々に受け入れてもらいやすい形を少しずつ増やしていき、今のグループワークの形になりました。前の学年を卒業させた8年前から少しずつグループワークも入れはじめ、今教えている学年からかなりグループワークが多く入ってきました。完全に今の形で行うようになったのは3年前からになります。
ちょうど平成20年だったので、今の現行の学習指導要領が出るという告示の時だったと思います。その時に、「英語は英語で教えることを基本とする」という文言が出て、当時マスコミにすごく騒がれた年でした。
その時、学校内では「いったい文科省は何を考えているのか」「大学入試ではまだ和訳がたくさん出ている状態なのに、そんなことをして分かっているのか」という意見の教員が大半でした。
私はその時に赴任して、その言葉を後ろ盾に「英語で私、授業をやってみたいんですが、いいですか?」とベテランの教員にお伺いを立てたところ「では、できる人からやっていく形で進めていきましょうか」と理解していただけました。そこから、徐々に私が授業を英語で始めたというのがきっかけです。
ただ私も当時10年前なので、おそらく結果が見られるのは分かっていました。定期考査や模試の点数などが少しでも下がったら、おそらくやめるように言われたと思いますし、自分でも変えなければいけないのかなと思ったと思います。
ただ、幸いにも一応生徒の英語力はついていたと思いますが、そういう数字面でも落ちることはなかったので、特に批判されることもなくそのまま続けてこられました。結果的に、自分が卒業させた学年が大学入試で結果を出したことで、私の授業に対して何かものを言う教員もいなくなっていきました。
英語科内よりも、他教科のほうが実は怖いところがあって、特に英語は文理関係なく、必ず入試で必要になる科目なので、風当たりが一番強い科目だと思います。
例えば、理科が好きな子は理科がすごくできますよね。でも英語は「できなかったから落ちたじゃないか」と言われることはすごくあるので、誰しもが英語はある程度取れるところまで持っていかないと、やはりどうしても風当たりが強くなってしまいます。ですから、そこは必死でしたね。私の授業スタイルで絶対英語の力をつけさせる、という信念で授業をやっていました。
Q.今の授業形式に至るまでの失敗談は?
布村 授業は生のものなので、日々それはありますよね。「ああ、ここ、こうしとけばよかったな」「次、こうしたほうがいいんだな」「こっちのほうが回るな」「ああ、このタスクはやっぱりとっつきにくかったかな」などと思うことは、毎日あります。
それを引きずることはないですが、常に授業のことや質問の出し方は考えていますので、「やっぱりこうしよう。ああしよう」ということは思考し続けています。それを続けないといけないのが教員なのかなと思っています。
Q.授業前にする準備は?
布村 そうですね。比較したり、因果関係を考えたり、自分のことに結びつけたりといった視点でタスクを考えるのですが、その上でネットサーフィンなどでの調べ学習は相当します。
今日の授業の最初に4コーナーズで読ませる場面も、本当はグリットの原文をそのまま使いたかったのです。ただ、アイディアが出てこなかった生徒がいる時に、少しのヒントになる情報をインプットすることが目標だったので、そうなるとやはり原文は重すぎと感じました。
でも、私がリライトしたものではなく、オーセンティックで本物のネイティブの人が書いたものを読ませないといけないと考えました。そこで、グリットのあの本のサマリーを書いたネイティブの人達がいたので、そこから抜粋しました。
それを探すのにどれぐらい時間がかかるかと言われると、もう本当に3時間4時間5時間、または何日もかけてなので、全て合わせると何時間かかったかは分かりません。1つのビデオクリップを持ってくるにしても、もう何十個も見て、適切で嫌にならない長さで、すぐにメッセージが分かるものを選んでいくと、かなりの時間は使います。そういうところで時間は使って工夫をしているかなと思います。
Q.今の授業形態にして感じる生徒の変化は?
布村 元来、両国の生徒はそんなに外交的ではないのです。どちらかというとおとなしくて、外でスポーツするなら家でゲームしていたいタイプの生徒が多いのです。人と話さないで済むなら話さないほうが楽だと感じる生徒のほうが多い学校だと思います。
その生徒達がここまで話せるようになったのは、私の中でも一定の達成感があり、先ほど言ったように英語で自分を変えることができたのだろうと思っています。人と話したことで人から得たものや情報が自分に役に立った、面白かったという経験を積めば積むほど、人と話すことに対して抵抗感がなくなっていくのだと思うのです。
おそらく、私が講義式の授業を1回でも入れたら、おそらくそっちのほうがすぐ楽になってしまうと思います。
Q.楽というのは、どちらのことですか?
布村 話さないほうが楽だと思います。戻ってしまうことは簡単です。講義式をやってしまったら、おそらくこの子達は元々内向的なので、もう話さないでいこうと決めたらずっと話さないと思うのです。
話さないのが当たり前になってしまっている時に、「では、話しましょう」と言っても、もう絶対そこでは話さなくなってしまうことはあります。やはり話すことや共同学習をすることが自分のためになる、という経験を常にさせておいてあげないと、1人になってしまう傾向がある子達だと思いました。
逆に、社会に出た時には1人ではやっていけないので、「共同でやったほうが面白いよ」「色んな学びがあるよ」ということを経験させておいてあげないと、その時にもっとハードルが高くなってしまうと思っています。
だからこそ、学校現場は仮の世界かもしれませんが、色々な生徒と関わり合って、話を聞いたほうが面白いという経験をさせてあげたいなという思いがあって、こういった授業をずっとやっているのです。それができるようになってきたので、両国でできたことは1つの達成感があると思っています。
Q.講義形式を基本にしている先生へのアドバイス
布村 そうですね。知識を教えることが得意な先生もいると思います。教えたくなってしまうという気持ちもあります。ただ、色々なことを知っていて、「ここがポイントだ」と知っている先生のほうが、アクティブ・ラーニングをさせた時に活きると思うのです。
なぜならば、生徒が躓いているところを見た時に、「ああ、そこがポイントだよ」「いいところに気づいたね」というフィードバックができるのは、知識を持っている先生だと思うのです。
知識を持っているから全てその場で言わなければならないのではなくて、生徒が気づいた時に適切なすごく良いフィードバックをしてあげるために、自分の知識を持っていただければなと思います。
おそらく、まだ経験が浅い先生にとって、何が生徒の躓きポイントなのかが分からない先生は、うまくフィードバックができないところがあると思うのですね。
ですから、講義式でずっと授業をなさっている先生こそ、アクティブ・ラーニングに挑戦してもらいたいなと思います。必ずそういう生徒の躓きに気づけて、良いフィードバックができる素地を持っていらっしゃると思うので、ぜひチャレンジしていただきたいなというのはあります。
Q.生徒達から教えてもらったことは?
布村 日々あって、生徒に感謝しかないです。本当に、授業で話をして生徒からの発言を聞くと、「ああ、なるほどな。そういう思いがあったか」と思うことがあります。結局、生徒が動いてくれないと授業は成り立たないので、生徒が私を信じて授業で生き生きと参加してくれるのは、本当に教師冥利に尽きるなと思って、生徒には感謝しかないです。
生徒から「色々な人の話を聞いたほうが面白いじゃん」という言葉が出てくると、「ああ、やっぱりそうなんだな」と思います。結局、経験はゼロではないですが、私が生徒になって、私の授業を客観的に見ることはできないですよね。
そういう意味で、生徒が色々な子の話を聞いて「誰々の言った意見は面白かった」「お前の意見は良いと思った」という話を休み時間にしているのを聞くと、「ああ、本当にこの子達は学び合っているんだな」「人から学んでいるんだな。良かったな」と思います。そんな感じですかね。
インタビュアー 先ほど生徒にインタビューして、そう言っていました。
布村 あ、本当ですか。
インタビュアー はい。先生の授業は一味違うと言っていました。やはり自分が得るものが大きいし、それが他教科や友達関係、家庭など、色々なところに広がって影響していて、とても良いということを言っていました。
布村 ああ、本当ですか。良かったです。
Q.今後の展望は?
布村 「日本人、英語できるな」と思われるところまで持っていきたいです。英語はあくまでも手段ですが、英語ができないことで、色々な世界に飛び立てないという人を1人でも減らしたいです。
おそらく海外に行くきっかけや、英語を仲介語として使わなければならないきっかけが、誰しも人生の中で出てくると思うのです。でも、英語ができないという思いがあるから、そのチャンスを掴めなかったり、やはりやめておこうと諦めてしまったり、という人が出ないでほしいと思います。それが、初任の時からずっと抱いている私の願いです。
英語を使えたからチャンスを掴めた、という人を1人でも多く育てていくことが野望ですね。過去から今まで、そしてこれからもずっとその思いは変わらず続けていくのだろうなと思います。
Q.今の先生のお考えは、よく生徒に対しても言っていますか?
布村 そうですね。「ここで終わりじゃないし、私は学校現場にしかいられないけれども、みんなは色々な世界に飛び立っていく。そこで、色々な世界はこんなところだったよ、と後で教えてね」と言っています。
その時に、「『英語があったから、こういう世界まで行けたよ』と言ってもらえると、私はうれしいな」と言っています。いま現実に何人も卒業生を出して、そういうフィードバックをしてくれる卒業生がどんどん増えてきて、自分の自信や糧になっています。やっていたことは間違ってなかったということを自分の自信にして、今の生徒達にもっと還元していこうと思っています。
「卒業生ありがとね。じゃあそれも今の生徒に言っていいかな」なんて言いながら、生徒達に「こんな世界があったみたいだよ。だから英語をやって、みんなも世界広げていこうね」という話をしています。
インタビュアー 生徒達から、同じようなコトバが出てきました。
布村 ああ、そうですか。
インタビュアー それが、先生の言葉をトレースしているだけではなくて、きちんと自分のコトバになってみんな喋っていました。恐らく先生が普段から言って、彼らも理解してだんだん腑に落ちていったのだろうと感じます。(先生に)フィードバックするとそんなインタビューでした。
布村 ああ、そうですか。そういう意味で生徒達は内向的なので、いちいち私には言ってこないのですが、そうだったのかと思います。
※布村先生の英語の授業は、学校導入版で視聴できます
学校導入版での詳細はこちらをご覧ください...
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