概要
小学2年生、初めての『学び合い』で子どもたちの信用を得るには?『学び合い』授業開きについて解説いただきました。周りにアクティブ・ラーニングの授業を実践する先生がいない中で『学び合い』を始めたい先生は必見です。
昨年度、宗岡第二小学校の1年生の『学び合い』授業を取材させていただいた鈴木智久先生の、転任先、唐沢小学校での『学び合い』授業開きを取材させていただきました。
授業中は先生のお話を静かに聞き、言いたいことがあるときには、手を挙げて指名されたら発言できる。小学1年生でそんな“普通”の授業をしてきた子どもたちが、2年生になり、初めて『学び合い』に出会います。
はじめは一人黙々と問題を解いていた子どもたちが、少しずつ、動き出し学び合い始めました!
周りの先生方から授業について質問を受けたとき、どのように対応していくのか鈴木先生にお話をお伺いしていますので、周りにアクティブ・ラーニングを実践している先生がいない中で一歩踏み出したいと考えている先生はぜひご覧ください。
Q.今日の授業はどうでしたか?
鈴木 智久先生(以下、鈴木) 今日、本当は全員達成を目標にしていたのですが、全員達成はできませんでした。しかし、45分間の中で子どもたちはずっと学び続けて、分からない子には教え、困っていたら周りの子に聞くことができていました。
今までは私が説明して、子どもたちが問題を解くやり方だったのですが、このような子どもたちの姿を見たのは、今年初めてだったのでとても納得しています。
Q.4月からの一斉講義型の授業はどのように進めてきましたか?
鈴木 1年生の時は『学び合い』の「ま」の字なんて全く出ていませんから、今まで1年生でやってきたものをあまり崩さず、ギャップを生まないような形で授業をしてきました。
1年生は、担任の先生からずっと学んできたので、いきなり2年生になって、私の授業で『学び合い』をしますとなると、動揺する子は多いと思ったので、この1ヶ月でそのギャップを小さくしていく作業をしていきました。
例えば、いきなり「先生は教えません」「自分たちで問題を解きなさい」と言うと、「え?今まで先生、1年生の時、教えてくれてたのに、2年生になったら先生は教えてくれないの?」と動揺するかもしれません。あまりにもギャップがあって、「この先生、大丈夫かな?ぜんぜん勉強教えてくれないよ」となると、先生を信用しませんよね。
ですから、まず先生はしっかり1から10まで懇切丁寧に教えるという作業をして、そこからどんどん私の説明する機会を減らしていき、子どもたちに任せられる時間を増やしていったという経緯があります。今日が初めてだったのですが、少しずつ、子どもと私の信頼関係をこの1ヶ月で築いてきた中で、今回45分間すべてを子どもたちに任せました。
Q.AL型授業の意義を低学年の児童に伝えるための工夫は?
鈴木 まだ1回目なので、ここから何回も何回も子どもたちに語って、染み込ませることが、これからの私の仕事だと思っていますが、今日の語りでは、「なんで学校に来るの?」「立派な大人ってなに?」という分かりやすいところから入っていきました。
全員が納得して、「ああ、そうか」と感じる子はいないと思いますが、教室の中の2~3割が理解してくれて、一生懸命学び合う姿があったのかなと思います。
それがまた明日、明後日、1週間後、1カ月後、そして3学期の最後になった時に、「ああ、『学び合い』やって良かったな」「大人になって大切なのは、こういうことなんだな」と感じてもらえることが一番良いと思っています。
Q.今日の授業のための特別な準備や心構えの違いはありましたか?
鈴木 今日のために準備したことはありません。「今日この算数の時間に、筆算の仕方、教科書27ページだな。じゃあ、そこを『学び合い』アクティブ・ラーニングでやろう。」というように、特別この時間、この単元、この授業でないとアクティブ・ラーニングができないというわけではなくて、普段の授業で『学び合い』アクティブ・ラーニングをしようと思っていますので、この時間だけ特別に何かをしたということはありません。
今までの1ヶ月間、子どもたちと接してきて、「ああ、子どもたちの集団っていうのはとても有能だな」と感じていました。ですから、「私がいなくても、この子たちはたぶんできるな」と思っていたので、特に心配はしていなかったですし、いつも通りやってくれれば、全員課題達成できると思っていました。ですが、やはり緊張して高揚してしまったのか、全員達成はできませんでした。
Q.今後は算数以外の他の教科でも『学び合い』を取り入れますか?
鈴木 算数や生活指導や国語など、全ての教科でできると思っていますので、少しずつですが、広げていきたいと思っています。
Q.『学び合い』の導入を算数から始めるのには意図がありますか?
鈴木 算数での『学び合い』は難しいと思うのですが、答えが1つなので、正誤が分かりやすいですよね。もっと深いところまで学ぼうとすると『学び合い』が難しくなってくると思いますが、算数は答えがはっきりしているので、始めやすいと思います。
Q.AL型授業は算数から始めるとやりやすいですか?
鈴木 そうですね。始めるには、算数が一番やりやすいのではないでしょうか。
Q.初めての1時間すべて『学び合い』児童の行動に不安はありましたか?
鈴木 もちろんありました。この授業で、全員達成できれば一番良いのですが、その過程で遊んでしまったり、答えを丸写ししてしまったり、フラフラしてしまう子どもがいるのではないかということは、もちろん頭の中にあります。ですが最初の『学び合い』でしたので、それはそれで良しとも思っていました。
私は、この1時間で100点の授業をするとは思っていません。これから先の3学期と1年後、そして5年後、10年後と大人になった時に、子どもたちが学び続けられること、分からない人がいたら一生懸命教えてあげられることを思っていますので、特に心配はしていません。これからだと思っています。
実際に今日、遊んでいる子やふざけている子もいませんでしたし、少し元気な子はいましたが、それは全て課題に繋がっている行動でした。ですから、今日ふざけている子は1人もいなかったと私は見ています。
Q.積極的に動けない児童にはどういった声かけをしていきますか?
鈴木 おそらく、まだすぐには立ち歩いて聞けないのではないかと思います。また、明日になってできるかと言えば、すぐには難しいのではないでしょうか。分からない時にスッと立って人に聞きに行くというのは、何度も何度も私が語っていき、ゆっくり解きほぐしていく必要があるのかなと思っています。
なかなか自分から聞きに行けないのは、恥ずかしさがあったり、聞きに行く行為がダメと思っていたり、席を離れてまた自分の席に戻ってくるのが嫌だなど、色々な悪いイメージがあるからだと思います。
それを一つひとつ解きほぐした時に、やっと立って人に聞けると思うので、今日聞けなかったことはそれでいいと思っています。
今日立てなかった子が、分からない時にスッと立って人に聞けるようにさせるのが、私の仕事だと思っていますので、すぐには変わらないですね。
Q.授業をうまく進めるための具体的な方法は何かありますか?
鈴木 子どもたちと同意を作るということです。大きく言うと「『学び合い』をやります」と私が子どもたちに言っても、『学び合い』自体、子どもたちが本当にやりたいかどうかは分かりませんよね。
ですから、子どもたちと「『学び合い』どうかな?これからも『学び合い』やっていってもいいかな?」というように、まずは同意を作らないといけないですね。
もしそこで、「やっぱり先生が教えたほうがいいよ」となれば私が教えますし、そこでまた子どもたちに聞いて、『学び合い』のほうがいいとなれば『学び合い』をします。そこは、子どもと先生の信頼関係がないと授業は成り立っていかないので、一つひとつ子どもと同意を作っていく作業がこれからも必要になってきます。
Q.児童は挙手して発言していましたが、何か指導されているのでしょうか?
鈴木 学校の指導で、しっかり手を挙げて「はい」と言って立つというものが決まりにあるので、やはりそこはしっかり大切にしないといけないところでもあります。1年生の頃から他の授業でも、「何々さん」と指名して、しっかり「はい」と言ってきちっと立って「何々です」と発言できるような指導をしています。
今回もしっかり手を挙げて、聞きたい時は先生に質問するという姿が見られましたが、私は1時間目からそういう姿もあるだろうと想像していましたので、その時はスッと手を上げた子どもたちのところに行って、教えてあげました。
Q.質問する相手が先生から友だちに変わっていくのを見てどうでしたか?
鈴木 最初は、私に質問してくるだろうとイメージしていました。なぜなら、今まで「分からなかったら先生に聞きなさい」と教えられていましたし、この1ヶ月間、隣同士で質問したり、友だちと話すということはなかったので、いきなり2年生になって大きく変えるということもしていなかったからです。
おそらくこれから『学び合い』をしていくにつれて、どんどん先生に質問する回数は減ってくるのかなと思っています。それはみんなが手を挙げて、そこにずっと先生がいるとなると、他に聞きたい子どものところには先生がすぐ来ないわけなので、友だちに聞いたほうが早いとなります。そうやって先生への質問がなくなってくるのかなと思っていますが、今の段階では質問してくれていいと思っています。
Q.目指すは先生への質問0ですか?
鈴木 そうですね。それができたら最高ですが、やはり寂しいところもありますよね。
Q.時計の図を置いたりして、時間を意識させる意図を教えてください
鈴木 『学び合い』でなくても、他の授業でも時間は意識しています。授業が始まる3分前には、前に立って授業を始める用意をしています。
やはりまず先生が示さないと、子どもたちも真似しないでしょうし、社会に出た時に1分1秒の遅れで受け取ってもらえないことや、信用をなくすということはありますので、時間を守ることに関しては意識をしています。
Q.課題の時間設定を児童との同意で決めるのは2年生では難しいですか?
鈴木 本来ならば、前の時間に予習をしてくる子もいると思います。「先生、私はここまでやってきました」と聞けば、「このぐらいでできそうだな」とイメージがつくと思いますが、今回は初めてでしたので、子どもたちもそういったイメージが湧かなかったと思います。
ですから、今回は同意による時間設定はせずに、45分間フルで子どもたちの学びとしました。これからどんどん学びが進むにつれて、「何分でできるかな?」と聞くようにしていこうとは思っています。
Q.『学び合い』を実践するのに必要な考え方やアドバイスはありますか?
鈴木 1人では勉強できないのではないかと思っている子がいたとしても、今日のように25人が力を合わせれば問題は解けます。
問題を解けた子がどんどん人に説明していくと、みんなが分かるようになって繋がっていくので、先生が1人で縦横無尽に行ったり来たりして説明するのではなく、子どもたちと先生が一緒にチームになって目標に向かっていけば、達成できると思います。
それには、子どもたちを信じて任せるということが一番大切ですから、まずはやってみて、困ったときはアクティブ・ラーニングでの『学び合い』を実践している先生に相談すると良いと思います。
子どもたちも『学び合い』で分からないことがあれば聞きに行くわけですから、やはり先生もアクティブ・ラーナーにならないと生き残っていけないと思います。まずは先生自身が学び続ける姿を子どもたちに見せることが必要なのではないでしょうか。
Q.この学校でAL型授業を行っている先生は他にいらっしゃいますか?
鈴木 この学校では、今のところ私だけです。ただ、『学び合い』を知っているという方がいます。まだ実践はしていないのですが、今日も来ていただいた方が「これ、どうやってこうなるのですか?」などと、色々質問してきました。
私からは、「学校ってどういうところなの?」「立派な大人になるってどういうことなの?」ということについて語り、課題を提示して、それだけだとお伝えすると、「ああ、そうなんですか」とおっしゃっていたので、もし同僚からそういった質問があれば、同じように説明しようと思います。
Q.AL型授業を行うと言った時に周りの先生方の反応は?
鈴木 アクティブ・ラーニングのことは、ほとんどの先生が知っていますが、やはり手が出せない方や、中には「今まで通りでいいんでしょ」と思っている先生方がほとんどです。しかし、私がアクティブ・ラーニングと言うと、「え?鈴木先生の授業って、どういう感じでやってるの?」と興味を持たれる方はたくさんいました。
Q.先生の授業を起点にしてAL型授業が学校内に馴染んでいきそうですか?
鈴木 そうですね、今回見に来られた先生方もたくさんいましたが、やはり中には懐疑的に捉えている先生もいるとは思います。もちろん1時間の授業を見ると課題も多かったかと思いますが、1時間ではなく長い目で見た時に「アクティブ・ラーニングでの『学び合い』って良いもんだな」と感じてもらえればいいですね。
ですから、私は今回の授業だけではなく、2~3学期の授業もお見せしたいと思っています。おそらく、現段階では色々質問があると思います。
Q.どんな質問がありそうですか?
鈴木 「答えを丸写ししている子もいるんじゃないの?」や、「フラフラ、フラフラ立ち歩いている子もいるよね」や、「課題ができなかった子はどうするの?」など、色々な課題があると思います。
Q.「答えを丸写ししているんじゃないか」という質問にはどう答えますか?
鈴木 普通の授業でも分からない子は先生の黒板を写しますが、真似ることも学ぶことなので答えを写しても構わないと思います。しかし、答えを写しただけでは理解ができないので、その後にしっかり評価してあげることが大切です。
「答えを写しただけじゃ勉強にならないよね。じゃあどうしていく?」と、しっかり自分で解いてから答えを見て、納得するまで頑張ってみる、といった過程が必要だと思います。いきなり「次から絶対答え見ません」という子はなかなかいないので、段階を踏んで気づいていくのではないでしょうか。
Q.「フラフラ立ち歩いている子もいる」という意見にはどう答えますか?
鈴木 こちらも、「フラフラしていることは、全員達成に結びつく行動なのかな?」「隣の子ってどういう気持ちかな?」「フラフラしている時間があったら、全員達成するために何ができるかな?」などと、子どもと一緒に同意を踏んでいきます。
決して先生が「ああしなさい、こうしなさい」と言うのではなく、「全員達成するためにはどうしたらいい?」と聞くことで、子どもたちからアイディアが出てきて、それを実践してうまくいかなかった時はまた違うアイディアを出して、というように、トライアンドエラーを繰り返しながらやっていきます。
Q.「課題ができなかったらどうするの」という質問にはどう答えますか?
鈴木 今のところは、私が懇切丁寧に教えてもいいなと思っています。最終的には、単元を任せるという過程も含めると、1時間1時間だけではなくて、前回できなかったことを今日の時間に振り返ってまたやってみるなどのやり方もあると思います。
前の学校で実践した時は、休み時間に「分からないから教えて」と聞きに来て解決した子もいれば、休み時間に『学び合い』をやっている子もいて、色々な時間で工夫して課題を達成していましたね。
Q.前回、取材を受けてみて、先生の中で変化はありましたか?
鈴木 あまり職場にアクティブ・ラーニングや『学び合い』を実践している方は多くいません。そのため、他の先生との対話や振り返りはできていないです。
ですが、今回アクティブ・ラーニングの取材をすることになり、私は『学び合い』について、こういったあり方・考え方があったのだと振り返ることができましたし、改めて『学び合い』の深さなどを考える機会になりました。このインタビューを受けながら学びを語っているようで、とても楽しい時間です。
Q.取材を受けることで周りの先生に変化などは感じますか?
鈴木 正直なところ、唐沢小学校に来て1年目はひっそりと静かに過ごそうという考えもありました。周りの先生に色々貢献し、学校のために何かができてから少しずつ自分の色を出して、学校全体を良くしていきたいなという考えもありました。
ですが、今回アクティブ・ラーニングの取材を受けて、この機会にアクティブ・ラーニングの授業を公開して、1つの提案として見てもらうのもありなのではないかなと思いました。
先生からどう思われているかは分かりませんが、何かアクティブ・ラーニングや『学び合い』、あるいは今回の授業のことについてご質問などあれば、お答えしていこうと思っています。
※鈴木先生の算数の授業は、学校導入版で視聴できます
学校導入版での詳細はこちらをご覧ください...
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