授業を行う上での注意点や事前準備
この動画から学べること
概要
患者さんに信頼してもらいながら、的確に症状を聞き取っていくためのコミュニケーションを練習します。
Active Learning Online (ALO) について
Active Learning Onlineは、文部科学省の大学教育再生加速プログラムテーマI「アクティブ・ラーニング」に採択された全国の9つの大学が、連携して情報や成果の発信を行うポータルサイトです。
採択校である本校の授業動画については、以下からご覧いただけます。
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Q.授業内容を教えてください
長宗 雅美先生(以下、長宗) 対象は医学科の4年生です。4年生は5年生に上がる時、共用試験OSCEと言う全国統一で行われる試験を合格し、臨床の実習に出て、実際の患者さんと出会う一つの大きな関門があります。彼らはその関門を控え、「医療コミュニケーション」と言って、患者さんと初診の面接をし、失礼なく共感しながら必要な情報を集める、というすごく初歩的なことを学びます。
すでに学生は医療面接の授業を受け、学生同士でロールプレイすることはもう積み重ねていますが、事前に模擬の患者さんに接してみるという段階を踏んでいます。そういう学生を対象にした授業です。
Q.学生に身につけてほしい力とは?
長宗 医療におけるコミュニケーションというのは、患者さんから必要な情報を得るだけではなく、医療の安全のために一つの会話を色んな方向から考えられる力が必要ですので、そういった力を身につけてほしいと思っています。
Q.授業を行うにあたっての創意工夫について
長宗 実習では、一般市民のボランティアの模擬患者さん、学生、教員と、そこに参加する人の色々な思いが結集しているので、ある程度、順番にこう話したらいいだろうという流れに関することは以前から決まっていました。
しかし、ただ順番に話して終わり、ということが長いこと続いてしまい、学生はそのために何を話すべきか、模擬患者さんはそれにどう上手く答えるべきか、というように、自分の言うことだけに固執し双方向の意見交換がなされていないということが起こっていました。
コミュニケーションの実習なのに、何故双方向でないのかと大変疑問に感じていましたので、2年ぐらい前から、模擬患者さんには思ったことだけを言ってくれればいいとしました。
それを教員が拾いながら、学生と共に双方向の話し合いをして欲しいという視点に、今は少しずつ変わっています。
そうすることによって、学生もよくしゃべるようになり、先生もどうにか学生と一緒に考えようとしてくれているような様子が見受けられ、模擬患者さんのストレスもとても減っていると思います。
上手な言葉で言うのではなく、思ったことだけボソッと言ってくれればいいというスタイルなので、今まで進歩してきた中でこの方法が最も良いと、頑張って進めています。
Q.授業の準備について教えてください
長宗 模擬患者さんについていくつかの準備があります。全国的な傾向ですが、50代後半から60代の女性が多いのが特徴で、参加していただくにあたっては、一般ボランティアの方々なので、私が面接をし、いくつかプログラムを受けていただくといった選考をさせていただいています。
ただし、あまりあからさまにお断りすることは、ボランティアでお手伝いいただいているので余程の理由がなければできません。また、本当に様々な思いや価値観を持った方たちが集まりますので、みんなを一つの方向に向けるというのは非常に難しいですね。
しかし、私がコーディネートする過程で大学の教育方針、つまりどんな教育をしようとしているのかをしっかりと理解していただくことで、その人に合った患者さんになっていただくことができます。
皆さんお役に立ちたいと思い集まってくださっているので、とても辛そうな患者を演じるのが上手な方もいらっしゃれば、すごく訴えたい患者を演じるのが上手な方もいらっしゃいます。それを理解して患者さんに合うようにコーディネートしていくのが大事ですね。
Q.模擬患者の具体的な準備方法について
長宗 今日のような実習ですと、みんな違う患者さんになりますので、その一人一人と私のやりとりになります。
患者さんが苦痛なこともあるので、模擬患者さんに「こういう患者を演じることは苦痛でないかどうか」を確認します。具体的には、患者さんにストレスがないかということから始まって、演じることが出来るかを聞き、ちょっと無理と言われれば、また違った患者さんを準備するというようになります。
また、シナリオを覚えてきてくださるまで何回か通っていただくことになります。集中力などの問題で1回あたり1時間ですが、事前に何度も大学に足を運んでいただき、そして実習に来ていただきます。
また、年が変わっても同じような授業が1年に1回あるので、お忘れになることもあるだろうし、こちらの求めているものも少しずつ変わってくるかもしれませんので、その際はもう1回確認していただいています。今回も出るにあたっては、3回ぐらい大学に足を運んでシナリオを学んでいただきました。
それから、みんなで集まっていただいた時に、
①どういう目的で、
②どういうことを望んでいて、
③どういう習熟度の学生が来るから、
④皆さんはどういうところを見て欲しい
ということも伝えないといけません。
大変ご苦労をおかけしていますが、皆さん一生懸命来てくださるのでやりがいがあります。
人数も本当はたくさん欲しくて、事務作業も増えて大変ですが、やったなりの価値があると思っています。
それに模擬患者さんの必要性がなくなることはおそらくこれからの社会ではないと思いますね。今、医学科では初診の面接をこの実習では行っていますが、例えば栄養学科であれば、栄養士さんの説明の力に応用できます。
薬剤師さんであれば服薬の説明をする力が必要です。さらにはもう全ての医療に携わる職種で、コミュニケーションということが重要視されていますので、大学など各教育現場でも取り組んでいくのだろうと思います。
Q.コミュニケーションの授業で苦労したことはありますか?
長宗 コミュニケーションは、例えば同じ言葉を発してもその人の持っている雰囲気やその場のムードで、全然相手に伝わるものが違うものだと思っています。
ただ、コミュニケーションの実習をすると、今日もその後に試験があるのですが、「このときはこう言う」というフレーズで教えると、学生はフレーズだけ覚えます。また、「オウム返しをすると聞いたことになる」と伝えると、学生はオウム返しを一生懸命してしまうようになり、これでは本質が隠れてしまいます。
コミュニケーションを教える際には、試験のためのフレーズではなく、もっと根底の部分を考えさせたいし、考えてほしいと思います。へたくそでもすごく相手に真心が伝わる場合もありますし、逆に饒舌にしゃべっても、冷たく感じることがありますよね。その要因がどういうところからくるのかを考えてほしいと思います。
それから今、異世代とのコミュニケーションはやはりずっと減ってきています。
例えば、模擬患者さんは高齢な方が多いですが、おそらく学生には昭和の時代を想像することができない部分もあります。でもそうした時に、その患者さんの育った背景や生活を少し想像するという想像力が必要です。
たとえ知らなくても、そういった点を考えながらしゃべるのでは全然違ってくると思いますし、決まったフレーズやオウム返しという手法だけを覚えることだけは避けたいと思っています
ただ、そういうふうに話し合いを持っていける先生もおられれば、やはり試験は通さなければならないという先生もおられる。それはどちらも間違いではありませんが、そういう評価しがたい部分が存在するので、なかなか難しいと思っています。
でも学生には、コミュニケーションのカードをいっぱい教えてあげたい、考えさせたいと思います。試験に通るだけでなく、将来、実際に患者さんの前に出た時に何か使えるものやネタになるものを、一つでも二つでも得てもらおうと実践しています。
ただ、どのくらい覚えているかは分かりませんので、私が授業や説明をする時は、私が人と接するときに大事だなと思うことを少しずつ入れ込みます。
例えば、学生に名前を聞いて、その授業中は絶対名前で呼ぶとかですね。あとは、髪型がちょっと異様だと思ったら、すぐその場で言ってしまうなど注意するタイミングなどもそうです。その方が一番すんなり学生に入るし、後味悪くないということを私は10年くらいの間で学びました。
最初は、この学生の茶髪をどう伝えようかというのを授業の後に考えていましたが、間があくとあいた分だけ、どんどんおかしくなるということが分かりました。ですので、もう私が嫌だなとか思った時には、「ちょっとおかしくない?」っていうのをさらりと言うようにしています。
あるいは、あまり嫌みにならない技術を自分で身につけたいと思って言っているところもあります。同じことを注意しても、気になる人と気にならない人がいますし、それをさらりと言えたらいいなと思い、わりとその場で注意するようにしています。
それに加えて、「私はそれが嫌なんだけど、みんなはどう思う?」といった感じで、大人が注意出来ていないという現状もあると思います。だから、学生とは「パッとスーッと」という関係を結べたらいいかなと思っています。
Q.今後の目標を教えてください
長宗 医療におけるコミュニケーションの最終目的は、医療安全だと思います。患者さんと仲良くなるためとか、患者さんと治療を共にしていくためにというのもあるのですが、結局は安心で安全な医療が行われるために、医療におけるコミュニケーションは存在すると思います。そんな医療安全に繋がるような授業が出来たらいいと思っています。
また、今日の実習は本当にスタートなので、もう少しその奥を考えるような授業もあったらいいと思います。
例えば、「共感が大事だよ」ということをこの段階で学んでいるので、学生は患者さんの大変なことにフォーカスして共感しようとします。模擬患者さんが「とっても眠れないんです」と言うと、「ああ、眠れないんですね」と。ただ共感するのですがそれで終わりです。
つまり、「不安ですよね」と言っても、その後すぐ「では次は?」と言ってしまう。共感の中身についてもっと色々考えられたら、実際に医療の現場で出くわすトラブルや、コミュニケーションが原因となるような事故がおそらくなくなって、よりスムーズに行くのではないかと思います。
それと同時に、様々なことが高度になっているので、より一層共感から一歩踏み込んだ力がすごく大事だと思っています。
ですので、もう少し先の医療安全を見越してコミュニケーション出来たらいいですね。医療におけるコミュニケーションは、絶対、接遇です。
なかなか共感からその奥に行くのは難しいし、時間や教員の手間もすごくかかるのですが、やはりチャンスがあれば、学生にそういったことを教えていきたいと思います。
Q.最後に
長宗 コミュニケーションはなにかと面倒くさくて大変ですが、楽しいものだという感覚を持って欲しいと思います。相手のことを考え想像して、喜ぶことは何か、こんなことをしたら嬉しいのではないかと機転を利かせることは、たしかに面倒です。
しかし、そこまで入り込み「ああなんか、良かったなぁ」と思える感覚を味わえたら、みんな上手になると思っています。そのためには、学生と接する私の態度が大きく影響すると思うので、自分も成長しなければなりません。...
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